13
「清子さん、ここで何を?」
「母様!父様!」
母は清子と正志を見つけて驚いた。
母の後には父もいた。
父は舞子の姿を見て、驚いていた。
「一体どういうことなのですか?」
正志は舞子の母に近づいて問い詰めた。
「…正志さん、あなたにはお話しておきます」
母は舞子を見た。
「舞子さんは天女なのです」
母は静かに説明をし始めた。
この家の存在。
女の当主の務め。
離れの天人の存在を。
「姉様が天女!」
清子が信じられない!と声を上げた。
「じゃあ、透子は…?」
「透子さんに会ったのですか?」
「はい、この前。離れの前で」
「透子さんも天女です」
正志は信じられなかった。
舞子が天女?
じゃあ、舞子が愛する男は?
「天人。二人でこの地上に落ちてきたのよ」
舞子がささやいた。
この地上に二人だけの幸せを求めて。
「だから、私が愛するのはトオイだけなの。
私が求めるのはトオイなの」
舞子は膝を抱えて、顔をうずめた。
「舞子さん、彼はもう選んだのです」
「信じないわ。
そんなこと、信じない!」
舞子は耳をふさいだ。
母はそんな舞子を見てため息をついた。
「こうするしかなかったのです。
そうしなければ、舞子さんは逃げてしまう」
だから閉じ込めたのだ、と。
そんな母を父は優しく抱きしめた。
舞子に何も出来ない。
望んでいることも叶えてあげられない。
父は母の思いを分かっていた。
だから、責めることはしなかった。
離れに向かった頼子は扉を開けて叫んだ。
「トオイ、姉様を助けて!」
出て来た美しい男に頼子は驚いたが、舞子を助けるために焦っていた。
「…なぜだ?」
「分からないよ。
姉様があなたを呼んでいるの!」
「行ってあげれば?」
奥から透子が出てきた。
頼子は驚いた。
「姉様?どうしてここに?」
「私はアツキ。この離れに住む天女よ。
あなたの姉様ではないわ」
透子は微笑んで言った。
「もうすぐ舞子は結婚するわ。
だから行って分からせてあげればいいわ。
トオイ、あなたが選んだのが私だと」
透子はトオイに寄り添って言った。
「…そうだな」
トオイは透子の手を取った。
「一緒に行こう」
そうして三人は座敷牢に向かった。
座敷牢に着いたトオイは、胸が痛くなった。
昔、アツキとここで再会した。
その時もこうしてアツキは閉じ込められていた。
「姉様、連れて来たよ!」
戻ってきた頼子は母と父の姿を見つけて驚いた。
「母様、父様いつからここに?」
「ついさっきですよ」
母と父と清子と頼子は後ろに下がった。
舞子はトオイを見つけて格子にしがみついた。
「トオイ、助けて!お願い、ここから出して」
トオイは目を背けることしか出来なかった。
「すまない、それは出来ない」
「どうして!」
舞子は叫んだ。
「トオイは私を選んだからよ」
舞子は声のした方を見た。
「あなたが私の…半身?」
舞子は自分にそっくりの透子を見た。
「そうよ、あなたが忘れた存在よ」
透子は冷たく言った。
「そして、トオイが選んだのが私」
そう言うと透子はトオイに触れた。
「やめて!触らないで!」
「どうして?彼は私のものだわ。
そうでしょう、トオイ?」
「ああ、そうだ」
トオイは透子を抱きしめた。
愛おしそうに。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
舞子は目を覆った。
そんなこと、ありえない。
だって、私はここにいる。
私がアツキなのに!
「どうして?アツキは私よ?」
どうして?
どうして?
どうして?
舞子はこれ以上耐えることが出来なかった。
「舞子!忘れてしまえばいい。
僕が舞子を愛するから、忘れてしまえばいい!」
正志は叫んだ。
昔、そう言って透子の存在を忘れさせたように。
「僕が全て受け止める。
舞子、だから忘れてしまえ!」
正志の言葉を聴いて、舞子は思った。
そうだ、辛いなら忘れてしまえばいい。
一緒になれないのならば、忘れてしまえばいい。
そうして舞子は気を失った。




