表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天の花  作者: 東亭和子
13/15

13

「清子さん、ここで何を?」

「母様!父様!」

 母は清子と正志を見つけて驚いた。

 母の後には父もいた。

 父は舞子の姿を見て、驚いていた。

「一体どういうことなのですか?」

 正志は舞子の母に近づいて問い詰めた。

「…正志さん、あなたにはお話しておきます」

 母は舞子を見た。

「舞子さんは天女なのです」

 母は静かに説明をし始めた。

 この家の存在。

 女の当主の務め。

 離れの天人の存在を。


「姉様が天女!」

 清子が信じられない!と声を上げた。

「じゃあ、透子は…?」

「透子さんに会ったのですか?」

「はい、この前。離れの前で」

「透子さんも天女です」

 正志は信じられなかった。

 舞子が天女?

 じゃあ、舞子が愛する男は?

「天人。二人でこの地上に落ちてきたのよ」

 舞子がささやいた。

 この地上に二人だけの幸せを求めて。

「だから、私が愛するのはトオイだけなの。

 私が求めるのはトオイなの」

 舞子は膝を抱えて、顔をうずめた。

「舞子さん、彼はもう選んだのです」

「信じないわ。

 そんなこと、信じない!」

 舞子は耳をふさいだ。

 母はそんな舞子を見てため息をついた。

「こうするしかなかったのです。

 そうしなければ、舞子さんは逃げてしまう」

 だから閉じ込めたのだ、と。

 そんな母を父は優しく抱きしめた。

 舞子に何も出来ない。

 望んでいることも叶えてあげられない。

 父は母の思いを分かっていた。

 だから、責めることはしなかった。


 離れに向かった頼子は扉を開けて叫んだ。

「トオイ、姉様を助けて!」

 出て来た美しい男に頼子は驚いたが、舞子を助けるために焦っていた。

「…なぜだ?」

「分からないよ。

 姉様があなたを呼んでいるの!」

「行ってあげれば?」

 奥から透子が出てきた。

 頼子は驚いた。

「姉様?どうしてここに?」

「私はアツキ。この離れに住む天女よ。

 あなたの姉様ではないわ」

 透子は微笑んで言った。

「もうすぐ舞子は結婚するわ。

 だから行って分からせてあげればいいわ。

 トオイ、あなたが選んだのが私だと」

 透子はトオイに寄り添って言った。

「…そうだな」

 トオイは透子の手を取った。

「一緒に行こう」

 そうして三人は座敷牢に向かった。


 座敷牢に着いたトオイは、胸が痛くなった。

 昔、アツキとここで再会した。

 その時もこうしてアツキは閉じ込められていた。

「姉様、連れて来たよ!」

 戻ってきた頼子は母と父の姿を見つけて驚いた。

「母様、父様いつからここに?」

「ついさっきですよ」

 母と父と清子と頼子は後ろに下がった。

 舞子はトオイを見つけて格子にしがみついた。

「トオイ、助けて!お願い、ここから出して」

 トオイは目を背けることしか出来なかった。

「すまない、それは出来ない」

「どうして!」

 舞子は叫んだ。

「トオイは私を選んだからよ」

 舞子は声のした方を見た。


「あなたが私の…半身?」

 舞子は自分にそっくりの透子を見た。

「そうよ、あなたが忘れた存在よ」

 透子は冷たく言った。

「そして、トオイが選んだのが私」

 そう言うと透子はトオイに触れた。

「やめて!触らないで!」

「どうして?彼は私のものだわ。

 そうでしょう、トオイ?」

「ああ、そうだ」

 トオイは透子を抱きしめた。

 愛おしそうに。

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 舞子は目を覆った。

 そんなこと、ありえない。

 だって、私はここにいる。

 私がアツキなのに!

「どうして?アツキは私よ?」

 どうして?

 どうして?

 どうして?

 舞子はこれ以上耐えることが出来なかった。


「舞子!忘れてしまえばいい。

 僕が舞子を愛するから、忘れてしまえばいい!」

 正志は叫んだ。

 昔、そう言って透子の存在を忘れさせたように。

「僕が全て受け止める。

 舞子、だから忘れてしまえ!」

 正志の言葉を聴いて、舞子は思った。

 そうだ、辛いなら忘れてしまえばいい。

 一緒になれないのならば、忘れてしまえばいい。

 そうして舞子は気を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ