第一部完結 第35話:真に受けますよ……っ!?(後書きに三人の画像)
マルセルは突然、腹から込み上げる豪快な笑い声をあげた。
「参ったな……崩れない前衛か。そんな過去の呪縛からの不安が消えたら……もう言い訳が何も残らんじゃないか!」
マルセルは口元に力強い笑みを浮かべると、陸の前に一歩踏み出し、ガシッと大きな手を差し出してきた。
「陸、ルナ……俺を仲間に加えてくれ! 実を言うとな、俺は根っからの冒険好きなんだ! この腕と治癒魔法、二人のために全力で振るわせてくれ!」
「マルセルさん……! はい、よろしくお願いします!」
「ふふ、ようこそマルセル! 頼りにしているわ!」
三人はしっかりと握手を交わした。抑えていた冒険者としての情熱を再燃させた熟練治癒師マルセルが加わり、攻守ともに隙のない三人パーティが結成されたのだ。
手を離すと、マルセルがどこか興味深そうに陸を見た。
「ところで陸、お前……いくらなんでも力が強すぎる。秘密はなんだ? ……いや、言いたくなければ言わなくてもいいぞ。誰にだって話したくない過去はあるからな」
隣のルナも優しく微笑み、言葉を添えた。
「そうよ、無理して話さなくていいわ。あなたが私たちの信頼する大切な仲間であることに変わりはないんだから」
二人の優しさに頷き、陸はそういえばといったように顔を上げた。
「ありがとうございます。でも、隠すつもりなんてないですし、むしろお二人にはちゃんと言っておきたかったんです」
陸は二人を見つめ、言葉を続けた。
「実は僕、この世界とは違う『地球』と言う異世界から来たんです」
「……地球?」
マルセルが片眉を上げ、ルナも目を微かに見開いた。
「はい。僕のいた世界はこのフェルナンディア大陸よりも『重力』……地面に引き寄せる力がずっと強くて、身体にかかる負担が違うんです。その体質のままここに来たので、こんな力が出るし、頑丈なんです。」
力が強い理由を伝えると、陸はさらに言葉を重ねた。
「それと、もう一つ。僕の故郷にあった道具がこの世界で変化したらしく、他の人には見えないんですが、色んな知識が調べられる『地球の百科事典』みたいなものも使えるようになりました」
陸の説明に、二人は顔を見合わせて首をひねった。
「ヒャッカジテン? 色んな知識を調べられる……? 正直、何のことかさっぱり分からんが……」
マルセルはぽんと自分の額を叩き、豪快に笑った。
「要するに、『いろいろ調べられる便利なスキル』を持ってるってことだな!」
「ふふっ、本当に不思議な力ね。でも、陸くんが出汁スープや薬の知識に詳しかった理由がよく分かったわ」
ルナも納得したように頷いた。
「驚いたけれど……陸くんが異世界から来たとしても、私たちの仲間の陸くんであることに変わりはないわ」
「ああ、そうだ。どこから来ただのどんなスキルをもっていようが関係ない。俺たちの大切な仲間、『渡辺陸』であることは事実だ」
マルセルが力強く陸の肩を叩いた。二人が異世界人である陸を仲間として受け入れてくれたことに、陸は二人をみつめ、はにかむように口元をほころばせるのだった。
◇
三人パーティを結成した翌朝。 陸、ルナ、マルセルの三人は、朝の爽やかな光が差し込む旧市街を抜け、陸にとって思い出深い宿屋『若葉の旅籠亭』の扉を押した。
中に入ると、磨き上げられた木床と、ほのかに漂う香ばしい出汁の匂いが鼻腔をくすぐる。
「いらっしゃいませ。あら、陸さん!」
カウンターの奥から顔を出したのは、艶やかな栗色の髪を後ろで束ねた女将のマルタだった。最初はマルタの美貌に緊張していた陸だったが、何度か顔を合わせるうちにすっかり打ち解け、もう上がることもなく、気さくに言葉を返した。
「マルタさん、おはようございます! 今日は僕のパーティメンバーと一緒に朝食を食べに来ました」
「まあ、パーティの仲間の方々ですか! ようこそお越しくださいました」
マルタは口元を穏やかに緩めると、三人をつややかな木製のテーブル席へと手際よく案内してくれた。
「陸さん、例の『煮干し』のお出汁スープ、今朝も大評判ですのよ。すぐにお持ちしますね」
「ありがとうございます! そう言ってもらえると僕も本当に嬉しいです」
親しげに笑みを交わし合い、マルタが品良く会釈をして厨房へ戻っていく。 その後ろ姿を目で追っていたマルセルが、口元にニヤニヤとした笑みを浮かべながら陸の顔を覗き込んできた。
「へえ……陸、お前は年上にもてるんだな」
「えっ……!? ちょ、ちょっとやめてくださいよマルセルさん! もてるなんて、そんなわけないじゃないですか!」
突然の不意打ちに、陸は思わず素頓狂な声を上げて大慌てで両手を振った。女性経験ゼロの自分にとって、「もてる」などという言葉はあまりにも刺激が強すぎる。顔を真っ赤にして慌てる陸を見て、マルセルは楽しそうに肩を揺らした。
「ハハ、何を照れているんだ。あんな美人の女将さんと親しそうに話しておいてさ」
「なっ、なにを言っているんですか!マルタさんはこの宿の女将さんで、僕が宿泊するときや煮干しでお世話になっているだけです! それに、腕のいい大工のご主人がいる、れっきとした既婚者ですよ!」
「何を言っている。ルナは独身じゃないか」
「えええっ……!?」
マルセルの追撃に、陸は椅子から跳び上がりそうなほど大きく身体を跳ねさせた。
「い、いやいやいや!それこそ、 な、何を言っているんですかマルセルさんっ!? 僕なんてただのしがない大学生ですよ!? ルナさんは凄腕のAランク冒険者で……王女様で、僕なんかじゃ到底釣り合わないですって!!」
パニックになりかけて真っ赤になり、必死に首を振る陸。自分の立場とルナの家柄を比べ、恐れ多さに冷や汗を流す陸だったが——。
その隣で、深緑色のフードをそっと後ろへずらしたルナが、純金のように輝く金髪をのぞかせながら、サファイア色の瞳を悪戯っぽく輝かせた。
「あら、私を対象から外すなんて、陸くん冷たいじゃない」
「え……っ!?」
ルナは両手を顎の下でちょこんと合わせると、可憐な唇の端をキュッと上げて、思わせぶりに陸をじっと見つめた。
「私は陸くんのこと、とっても頼もしくて素敵だと思っているけれど……駄目かしら?」
「ひ、ひえぇぇぇっ……! そ、そんなこと言われたら、真に受けますよ……っ!?」
「あら、真剣に受けてくれないの?」
ルナの可憐な微笑みと思わせぶりな言葉に、陸の脳内は完全にキャパオーバーを起こした。顔をリンゴのように真っ赤にし、ガクッと背もたれに体重を預けて宙を仰ぐ。
「ハハハハっ! いやあ、若いってのは実にいいもんだな!」
真っ赤になって固まる陸と、楽しそうに微笑むルナを見て、熟練のマルセルは腹を抱えて豪快に笑い声をあげた。
そこへ、マルタが熱々の湯気を立てる木鉢と焼きたてのパンを運んできた。
「お待たせいたしました。陸様特製の煮干し出汁スープの朝食でございます」
運ばれてきたスープには色とりどりの野菜が浮かび、湯気とともに小魚の香ばしさと海塩の優しい香りが立ち上っている。
「おお……これが陸の言っていた小魚のスープか」
マルセルが木匙で一口啜ると、目を丸くして感嘆の息を漏らした。
「うむっ……美味い! 味が体に染み渡るようだ。一気に目が覚めるな!」
「ふふっ、本当に陸くんのスープは最高ね」
ルナも嬉しそうに出汁の深い旨味に目を緩め、パンとともにスープを味わう。 ようやく思考を取り戻した陸も、さっきのダメージから抜け切れないまま、なんとか顔の熱を引かせて朝食を食べ進めたのだった。
朝食を終え、お腹も心も満たされた三人。 いよいよ、ギルドでの登録や三人パーティとしての最初のクエストへ向けて、爽やかな一歩を踏み出すのだった。
◇
朝食を終えると、陸、ルナ、マルセルの三人は、パーティの正式登録を行うため、冒険者ギルド・ロクス支部の重厚な二重扉をくぐった。
まずは一階の受付カウンターでパーティの結成手続きを進めた陸たちだったが、提出された書類に目を通していた受付職員は、そこに書かれた名前にふとはっと目を見開いた。
ご覧いただきありがとうございます!
マルセルの加入で一気ににぎやかになりました。女性に免疫のない陸にとって、マルセルとルナのダブルスは刺激が強すぎたようです(笑)。真っ赤になる陸と、からかうルナのやり取りは書いていてとても楽しかったです。
そして、ここで皆様に大切なお知らせがあります。
3人パーティが揃ったこの第35話をもちまして、一度『第1部完結』とさせていただきます。ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました!
実は、いよいよ本格的な冒険が始まる第2部のプロットは、すでにバッチリ完成しています!
続きを早くお届けできるかどうかは、皆様からのブックマークや評価といった「応援のエネルギー」次第で決まります……!
もし「早く続きが見たい!」と思ってくださる方がいらっしゃいましたら、ぜひブックマーク登録やポイントで背中を押していただけると非常に励みになります。
それでは、また次の冒険でお会いしましょう!これまでのご愛読、本当にありがとうございました!




