第64話 娯楽施設の拡充
魔王アスタロトが自ら乗り込んでくるという、想定される「親子喧嘩」という名の歴史的決戦に備えて、テオたちは急ピッチで「究極のおもてなし」の準備を開始した。
ただ美味しい料理並べるだけでは不十分だ。リルの言っていた「ここでの自由な楽しさ」を、偏屈で親バカな魔王にも身をもって体験させ、心の底から納得させる必要がある。そのためには、農場をただの生産拠点から、地上と魔界の誰もが羨む圧倒的な「エンターテインメント・リゾート」へと進化させる必要があった。
「よし、娯楽施設を大幅に増やそう。温泉は最高だけど、ずっとお湯に浸かっているだけじゃ、のぼせちゃうからね。日本には『湯上がりの楽しみ』という文化があるんだ」
テオがリビングの机を叩いて提案すると、仲間たちの目が一斉に輝いた。
「賛成です! 湯上がりといえば、やはり卓球でしょう! 白熱したラリーで一汗かいた後に、冷たい飲み物を流し込む……これぞ様式美です!」
エリナがどこから取り出したのか、巨大なしゃもじをラケット代わりに見事に素振りをしながら身を乗り出した。彼女の瞳には、かつての聖女としての面影は微塵もなく、スポーツの秋に燃える熱血少女の光が宿っている。
「我はマッサージチェアが欲しいぞ。それも最新式の電動のやつじゃ」
ティアがゴロゴロとソファでくつろぎながら無茶を言う。「最近、魔法の使いすぎで翼の付け根が凝ってかなわん。……テオ、ロボの振動機能を応用して作れぬか?」
「肯定。マスターノ修理・改造機能ヲ使用スレバ、人道的範囲内デノ『究極ノ揉ミ解シ』ヲ実装可能デス」
ロボがバイブレーション機能をブーンと唸らせて名乗りを上げた。
「わしはカラオケじゃ! ドワーフの心、魂の演歌を世界に響かせる場が必要なんじゃ!」
ガントンが愛用の金槌をマイクのように握りしめ、即興で見事な低音のビブラートを響かせた。
次々と出る自由すぎるアイデアを、テオはこれまでに収集した魔石や素材、そして自分の【建築・クラフト】スキルを駆使して次々と形にしていった。
広い宴会場(ヒカリゴケの照明でムーディに演出された)の一角には、ガントンが魂を込めて磨き上げた特製木製卓球台を設置。ラケットは魔力を通しやすいマジックウッド製で、スマッシュを打つと心地よい衝撃波が放たれる特別仕様だ。
さらに、リラックスルームには、ロボの精密なピストン運動とティアの低周波魔法を組み合わせた『全自動・魔導マッサージチェア』を配備。一度座れば、あまりの気持ちよさに前世の記憶まで呼び覚まされるという噂だ。
そして極めつけは、タコちゃんの触手を活用した『吸盤デトックス・マッサージコーナー』。タコちゃんの八本の足を自在に操る指圧は、人間のマッサージ師では絶対に届かない深層筋まで優しく、かつ力強く解きほぐしていく。あまりの吸い付きの良さに、体験したオークの兵士たちは全員「天国が見えた……」と言って帰ってこなくなったほどだ。
カラオケルームは、音響効果が極めて高い天然の洞窟を利用し、エコー魔法を壁面に常駐させた『エターナル・ステージ』として完成した。ここで歌えば、どんな音痴でも喉の奥から魔力のこもった美声が出せるようになる。
「完璧だ……。これなら魔王も、娘のわがままを叱りに来たことを忘れて、会員カードを作ってくれと言うに違いない」
テオたちは完成した施設を眺め、確かな手応えを感じていた。「温泉」を軸としたこの多機能リゾート地は、もはや一つの独立した経済圏と言っても過言ではない。
「スーパー銭湯・ダンジョン深層店」の様相を呈したこの場所で、彼らはさらなる高みを目指していた。リルの将来、そして自分たちのプライベートな欲望を満たすために、地底湖の底までも開発し尽くす勢いで、彼らの情熱的な「娯楽革命」は加速していくのだった。




