番外編 テオドアの学園生活
テオドアのリクエストをいただき、学園編を書いてみました。
宰相補佐官となった大人のテオドアも考えたのですが、学生で小生意気なテオドアも可愛いです。
途中編入の新入生。
貧乏貴族のくせに容姿は際立っている。
始まったばかりのテオドアの学園生活が、目立たないはずがない。
ダン!
引っ掛けようとした足を踏みつけて、テオドアは進んだ。
「わああ!」
踏まれた足の方は大騒ぎをしている。
「おまえ!」
立ち上がったのは大柄なのだろう、テオドアより頭一つ大きい。
先生が二人を止めに入る。
「フェルシモ君、足を踏んだのだ。謝りなさい」
「先生、彼は足を引っかける為に通路に足を出していたのですよ。それを謝れと?」
ああ、この先生はダメだな、と判断しながらテオドアは教室の中を注視する。
心配そうにテオドアを見ている視線がいくつかある。
バカばかりじゃないんだな、これなら何とかなるか。
「おやじはユーデッド侯爵だ。踏まれた足が折れたかもしれん」
ニヤニヤしながら、テオドアの顔を見ている。
「気持ち悪いな、学生は勉強で勝負だろ? バカじゃね?」
そのまま進もうとしたテオドアの肩が掴まれた。
「離してくれない?ユーデッド侯爵子息さん」
テオドアの物言いに、教室の空気が凍った。
父親の威で教室のボスだったのだろう。
「貧乏貴族は這いつくばっていればいいんだよ」
自分の優位を誇張するかのように言い放つ侯爵子息の視線は、テオドアの顔に固定されていて、編入初日から感じている粘着質な視線の一つだ。
テオドアは侯爵子息を無視して、教師に振り向いた。
「先生、こいつに謝らすべきなのではないですか?
学生としても人間としてもクズですよ」
「フェルシモ君!」
教室の何人かが、テオドアに駆け寄ってきた。
「この先生の時は挑発しちゃダメだよ。父親がすぐにでてくるから」
小さな声で助言してくれるが、テオドアは威を借るのを躊躇しない。
それどころか、相手に最大のダメージを与えるタイミングはいつだ、と考えている。
「なるほど、この教室では侯爵が一番上ですか。
父親が侯爵でも息子に爵位があるわけでもなし、ただのクズでしょ」
なにぃ、と侯爵子息が拳を振り上げるのを視界にいれながら、テオドアは避けずに、わざと殴られた。
ガン!
テオドアがよろめいて机に倒れこんだ。頬を殴られたのだ。
テオドアを助けようと差し出された手に、テオドアは掴まり立ち上がる。
「君、たしかローディ君だっけ、ありがとう」
殴られた頬を押さえながら、もう一度教師を見る。
「暴行ですよ、今までもこんなことがあったんですね?」
教師が無表情なのをみて、肯定ととった。
どうせ侯爵に金でも貰って便宜を図り、生徒には成績を落とすとでも言って黙らせてきたのだろう。
「ほら坊ちゃん、父親呼んで来いよ」
テオドアは腫れた頬と、切れた口の中に手を当てて確認している。
「なんだと!」
もう一度殴ろうとする侯爵子息を、クラスメイト達が押さえてくれた。
「誰か学園長を呼んで、王宮に使者を立ててくれないかな」
テオドアをささえているローディが、どういうこと、と驚く。
「僕の保護者に連絡しないとね、これだけのケガをさせられたんだから。
無抵抗の僕を殴ったよね。
姉の婚約者のパーシバル公爵とバーナード王子殿下が僕の保護者だ」
ガタン、と大きな音を立てたのは教師だ。
つぅ、結構ダメージを受けたな、とテオドアが判断したころ、大きな足音で学園長が走って来た。
知らなかったら監督不行き届き、知っていたら癒着、どのみち殿下の怒りにはふれるだろう。
その日は寮に戻らず、デラハウスで医師の治療を受けた。
翌日は、教師と学園長に話があるというバーナードと一緒に馬車で登校することになった。
昨日の件は、学園の不正ということで王家の逆鱗に触れたらしい。
「一晩ではひくはずもないな」
ガーゼを貼った頬にバーナードが手を伸ばす。
「あまり相手を煽るなよ。
君の顔は気に入っているんだ、ケガするな」
「じゃあ、学園で僕を守ってくれそうなお兄様を見繕うかな」
ニコリとテオドアが笑顔を見せれば、バーナードが忌々し気にテオドアの髪に指を入れる。
「今、煽るな、と言ったばかりだぞ」
嬉しそうにテオドアが笑って、バーナードの手に頭を預けてきた。
「まだ痛いみたい。甘えさせて」
お読みいただき、ありがとうございました。
姉の世話係から離れたテオドアは、いかがでしたでしょうか?