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サラバ。

「……刺客の事はわかりませんが、赤湖で働いているさそり族の人たちは一生懸命でした。レイザさんというブラックサソリさんが窓口で取引されているようです。個人で取引するより国でまとめて購入した方が安く手に入るかと思ったんですけど。余計なお世話ですよね」 


 アンドリュー王子は、静かに目を閉じた。


「モモ殿」


 モンテカルロ王子がやってきた。


「楽隊の者に聞いたが、ショーで使われた曲はモモ殿の案だと?」


「あ、はい。知っている曲を歌って演奏してもらいました。彼らは街の有志だと聞いてますが優秀ですね」


「そうだな。……私はあの曲をミドリの家で聞いたような気がするんだが」


「私の故郷では有名な曲なんです」


「やっぱり!モモ殿はミドリを知っているのか?」


「ミドリさんと言う方は私の知り合いにいませんが、電車やエアコンは私の故郷にあるものです。同じ国の人だと思います」


 そうか、と感慨深げに王子は頷いた。


「転移魔法が作動し始めた時、私はミドリの側にいた。一緒に戻ろうと手を取ったのに、転移出来たのは私だけだった」


 モンテカルロ王子が、握った拳の手を開いて見つめている。

 転移については、私には全くわからない。

 気づいたら連れてこられた口だもの。

 でも、二人を転移させるには力が足りなかったんだろうなと思った。

 

 

「ミドリを連れて来たかった。でも、向こうにいた方が幸せなのかもしれないな」


「……」


 モンテカルロ王子もアンドリュー王子も、寂しそうな横顔だ。

 美しいから余計にぐっとくる。


「……考えてみよう」


「はい?」


「赤湖の事だ、ホホロ国にとって何が一番良いことか考えてみよう」


「はい!」


 アンドリュー王子の言葉に嬉しくなった。

 前を向いて行こうって事だよね。

 王子と見つめあって、笑った。

 それからオヤジ天国たちも加わり、シルク布の今後を話し合った。

 私はなるだけ口を挟まないようにみんなの話を聞いていたが、赤湖へは鷹男さん率いる武力派一行が商談に行くという事で話がまとまりかけた。

 誇り高い鷹男さんたち一行だけより、オヤジ天国グループの誰かが加わった方が良い気がする。

 サソリ族の人たちは武装交渉よりも、柔らかなメンタルを望んでいる気がした。

 王子たちは私の意見にも耳を傾けてくれた。

 レイザさんたちの今の仕事を尊重した上での交渉でないと上手くいかない気がした。

 逆にそこさえ間違わなければ、レイザさんたちは何でも受け入れてくれそうな懐の広さを感じる。


「モモ殿にも参加してもらうわけには行かないか?」

 

 オヤジ天国の一人が頼んできた。

 王子たちも、期待の目で見ている。

 吸い込まれそうなくらい綺麗な瞳だ。

 思わず、ハイと、引き受けてしまいそうになる。

 でも、そろそろ私たちは……。


「ごめんなさい。用を済ませて食料の補給をしたら、旅に出ようと思っています」


「……残念だ。次はどこへ向かうのだ?」


「妖精の森を目指しているので、アステリア国に向かいます」


 アステリアを通らないと妖精の森には行けない。

 アステリア国の名前が出て、オヤジ天国たちが、ざわついている。

 

「……大丈夫だ。アステリア王も死んだ。以前より良い国になっているだろう」


 アンドリュー王子が静かな声でアステリアの現状を教えてくれる。


「どなたが国を治めているのですか?」


「アステリア王子はまだ幼い。実質治めているのは魔術師イグノミアラス殿と聞いている」  


「え?幼い王子一人だけなんですか?」


「主要な軍師は戦で命を散らしている。残されたのは公爵や伯爵と名ばかりの者たちで、国務を任せられる者は少ない。村の長たちが、それぞれの村の復興に尽力し、ホホロ国もここまで持ち直せた。アステリア国も同じであろう」


 ふむ。でも、アステリア国は攻めてきた側なのに王族みんな亡くなられたの?

 疑問は残るが、ホホロ国の人たちと仲良くなった今は、私の中ではアステリア国は好戦的なイメージだ。

 おっかない国は足早に通り過ぎよう。

 それぞれの国の話を聞いて、また豪華な馬車に揺られて宿まで送ってもらった。

 ミーナちゃんとジュウに、旅立つ事とお墓参りに行くことを告げる。

 ミーナちゃん遅くなってごめんね。

 


 翌日、ホホロ都南側の丘にある、ミーナちゃんのママのお墓参りに行った。

 セダレさんとアリスさんテリィさんも一緒だ。

 白とピンクの鈴蘭のような花をたむける。

 ミーナちゃんママが好きだったお花だ。

 お墓は幾つかの小山で出来ている。

 戦時中に亡くなった人たちを合同で埋葬しているそうだ。

 風の通る景色の良い場所だった。

 私たちは黙祷をする。

 ミーナちゃんは、長い間お母さんに話しかけていた。

 お母さん、ミーナちゃんは本当に良い子に育っていますよ。




 数日後、私たちは出発を決めた。

 宿の前でみんなとは、別れる事にした。

 心から惜しまれ、どこまでも見送りに来てくれそうだったから。


「モモさんにも目指す道があるだろう。だが、いつでもホホロ国に帰ってきて欲しい。私たちは待っているよ」


 セダレさんたちと、何度目かのハグをする。

 ホホロ国を離れるのは名残惜しい。

 でも、まだ旅は終わらない。

 私たちは、お別れをした。

 気丈なアリスさんが赤い目で唇を噛み締め、ただひたすら手を振っている。

 みなさん、お世話になりました。

 次はアジ婆さんたちと一緒にホホロ国に来たいな。

 仕入れたずっしりと重い食料を担いでくれているポニーちゃんの手綱を引きながら、税門を目指す。

 入ってきた時とは反対側に作られている国境門だ。

 地理的にはこっちの門のが重要だよね。

 警備兵の数も多い気がする。

 監視台も作られている。

 その税門にはシガ隊長が待ち受けていた。


「シガ隊長、今日はこちら側の警備なんですか?」


「モモ殿たちを待っていた。王子たちから渡すようにと頼まれたものだ。」

 

 シガ隊長から、布の包みを渡される。

 何だろう?

 餞別かな。


「ホホロ国民一同感謝している。シルク布の事も石垣の事も。必ずまたホホロ国に立ち寄るようにとの御言葉だ。私もまた、モモ殿たちにお会いしたい」


「わかりました。わざわざありがとうございます」


「さらばだ、モモ殿」


「さ、さらばです」


 警備兵一同整列して見送られる。

 ちょっと大袈裟じゃない?

 そうして、数多の視線を背中に感じながら税門を後にした。

 ありがとうホホロ国。

 サラバです。

 




 

  




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