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妖怪ハローワーク  作者: 詣り猫


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2/2

威嚇頭

【妖怪図鑑】


『威嚇頭』


 見た目は、青年風。


 長いリーゼント。

 

 厳つい顔。でも、怒っているわけではない。


 鬼のような牙を持つ。


 体の一部を動かす能力も持ち合わせている。



 新宿伊勢丹前──


 男が睨みつけた。空気が張った。辺りにいた人間が、目を逸らし、離れた。


 上下、紫色のスーツ。長めのリーゼント。


 彼の名は、妖怪・『威嚇頭《いかくがしら》』


 怒ってはいない。不安な顔だ。


 歩いていると『妖怪ハローワーク』を見つけた。


「助かるぜ……」


 彼は、中へと入っていった。


◆


 15時17分、3番窓口──


 担当者は、妖怪・『逆に』という女性。


 威嚇頭は、パイプ椅子の背もたれに身を任せた。脚を大きく開いて座る。


「どういった仕事を探されていますか?」


 ガンを飛ばす。


「建築業……」


「ひっ」


「悪りぃ姉ちゃん……俺、こういう顔なんだわ」


「逆に、そうなんですね」


「はぁ?」


「す、すみません」


「で、仕事ありそう?」


 シートの職歴欄とPC内の案件を、逆にが交互に見る。


「色々やられてますね。割とすぐ……」


「何だよ」


「逆に、失礼しました。でも、前職は数年続けられていましたね」


「そうなんだよ……良い会社だったのによ……」


 求めていた建築業の仕事も断られた。


 彼は、妖怪ハローワークを出た。


◆

 

 花園神社の拝殿──


 夕陽が、境内を照らす。



 石段の下段には、威嚇頭。


 ひとり、1杯やっていた。


 脇に置かれたコンビニ袋。ビールとチーズ。


 威嚇頭を見て、参拝せずに帰る客たち。


「俺の顔って、そんなに怖いか?」


 笑顔を作ってみた。


 八重歯じゃない、鬼の牙が見える。見た人が逃げた。



 また、ひと口飲んだ。苦みと炭酸が染み渡る。


「せっかく、一生懸命頑張ってたのによぉ……」


 彼は、建築現場で働いていた。すぐクビになった接客業とは違う。長続きした。


 年上の職人さんたちが、認めてくれたからだ。態度が悪いし、顔も怖い。でも、仕事は出来る。評価されていた。


 けど、若い奴は違った。少し注意しただけ。なのに訴えられた。


「残念だけど、訴訟を起こされた奴を置いてはおけない」


 社長にクビを言い渡された。


(賠償金は、貯金で何とかなりそうだ。問題は、仕事だよな……)




 チュン、チュン、チュン──


「何だ?」


 頭上に重みを感じた。


 音のする方に、両目玉を飛ばす。目が空洞になった。そばを歩いていた媼《おうな》が、腰を抜かした。


 両目が飛行し、確認する。


「おい、てめえら何してんだ!」


 鳥が数羽、頭上に乗っかっていた。


「俺の頭は、巣じゃねえぞ!」


 鳥はお構いなしに、パーチク歌う。


 その場で、羽ばたいている鳥たちもいる。


「何だよ、お前らも乗りてぇのか?……しゃーねぇな」


 リーゼントを伸ばした。そこに鳥たちが留まる。


「ったくよ……」


 言いながら、目玉を両目に戻した。



 鳥の休憩所にされたまま、彼はチーズを噛み、ビールを流しこむ。


 気づくと、野良猫もいる。足下で寝だした。威嚇頭は、野良猫の背を撫でた。


「すぐ帰るつもりだったんぞ──動けねぇじゃねえかよ」



「あなた、素晴らしいです」


「え?」


 女性が声をかけてきた。三十代ほど。地味で、眼鏡をしている。


「わたし、こういう者です」


 女性が名刺を、渡してきた。



「保護猫カフェ・にゃんごろ代表・鈴木里佳《すすぎりか》──てか、何ですか?」


 鈴木の表情が、パァっと明るくなった。


「こんなに動物に好かれている方は、なかなか見ないので」


「ああ……たまたまですよ」


 鈴木が首を横に振る。


「違いますよ。あなたが優しいからですよ」


 威嚇頭は、キョトンとした。


「俺が、優しい……?」


 涙が出た。睨みながら、泣く。


「ひっ!」


「すんません。俺、元からこんな顔なんですよ」


「そうなんですか……」


(そんな事を、今まで言われたことがなかった)


 涙が止まらない。怖い顔のまま、泣いた。鈴木が話を聞いてくれた。全部気持ちを話した。


 鳥も野良猫も、心配して顔を覗き込む。


 それを見た鈴木が、ニコッと笑った。




「威嚇頭さん、もし良かったらですが、うちで働きませんか?」


「え……でも、カフェなんだろ? 俺は、接客は……」


「主に、猫ちゃんたちのお世話をしてもらいます。接客は、わたしたちがやりますから」


「って、言われてもなぁ……」


 威嚇頭は、しばらく黙って考えた。鳥たちも、野良猫も、鈴木も邪魔せずに待っていた。


◆


 保護猫カフェ『にゃんごろ』──


 威嚇頭の周囲には、猫たちが集まっていた。


 「怖い顔をした威嚇ニキ。猫に大人気!」


 にゃんごろのアカウント。このタイトルの動画が、見事にバズっていた。



終

次の妖怪ハローワーク発生まで、お待ち下さい。

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