威嚇頭
【妖怪図鑑】
『威嚇頭』
見た目は、青年風。
長いリーゼント。
厳つい顔。でも、怒っているわけではない。
鬼のような牙を持つ。
体の一部を動かす能力も持ち合わせている。
新宿伊勢丹前──
男が睨みつけた。空気が張った。辺りにいた人間が、目を逸らし、離れた。
上下、紫色のスーツ。長めのリーゼント。
彼の名は、妖怪・『威嚇頭』
怒ってはいない。不安な顔だ。
歩いていると『妖怪ハローワーク』を見つけた。
「助かるぜ……」
彼は、中へと入っていった。
◆
15時17分、3番窓口──
担当者は、妖怪・『逆に』という女性。
威嚇頭は、パイプ椅子の背もたれに身を任せた。脚を大きく開いて座る。
「どういった仕事を探されていますか?」
ガンを飛ばす。
「建築業……」
「ひっ」
「悪りぃ姉ちゃん……俺、こういう顔なんだわ」
「逆に、そうなんですね」
「はぁ?」
「す、すみません」
「で、仕事ありそう?」
シートの職歴欄とPC内の案件を、逆にが交互に見る。
「色々やられてますね。割とすぐ……」
「何だよ」
「逆に、失礼しました。でも、前職は数年続けられていましたね」
「そうなんだよ……良い会社だったのによ……」
求めていた建築業の仕事も断られた。
彼は、妖怪ハローワークを出た。
◆
花園神社の拝殿──
夕陽が、境内を照らす。
石段の下段には、威嚇頭。
ひとり、1杯やっていた。
脇に置かれたコンビニ袋。ビールとチーズ。
威嚇頭を見て、参拝せずに帰る客たち。
「俺の顔って、そんなに怖いか?」
笑顔を作ってみた。
八重歯じゃない、鬼の牙が見える。見た人が逃げた。
また、ひと口飲んだ。苦みと炭酸が染み渡る。
「せっかく、一生懸命頑張ってたのによぉ……」
彼は、建築現場で働いていた。すぐクビになった接客業とは違う。長続きした。
年上の職人さんたちが、認めてくれたからだ。態度が悪いし、顔も怖い。でも、仕事は出来る。評価されていた。
けど、若い奴は違った。少し注意しただけ。なのに訴えられた。
「残念だけど、訴訟を起こされた奴を置いてはおけない」
社長にクビを言い渡された。
(賠償金は、貯金で何とかなりそうだ。問題は、仕事だよな……)
チュン、チュン、チュン──
「何だ?」
頭上に重みを感じた。
音のする方に、両目玉を飛ばす。目が空洞になった。そばを歩いていた媼が、腰を抜かした。
両目が飛行し、確認する。
「おい、てめえら何してんだ!」
鳥が数羽、頭上に乗っかっていた。
「俺の頭は、巣じゃねえぞ!」
鳥はお構いなしに、パーチク歌う。
その場で、羽ばたいている鳥たちもいる。
「何だよ、お前らも乗りてぇのか?……しゃーねぇな」
リーゼントを伸ばした。そこに鳥たちが留まる。
「ったくよ……」
言いながら、目玉を両目に戻した。
鳥の休憩所にされたまま、彼はチーズを噛み、ビールを流しこむ。
気づくと、野良猫もいる。足下で寝だした。威嚇頭は、野良猫の背を撫でた。
「すぐ帰るつもりだったんぞ──動けねぇじゃねえかよ」
「あなた、素晴らしいです」
「え?」
女性が声をかけてきた。三十代ほど。地味で、眼鏡をしている。
「わたし、こういう者です」
女性が名刺を、渡してきた。
「保護猫カフェ・にゃんごろ代表・鈴木里佳──てか、何ですか?」
鈴木の表情が、パァっと明るくなった。
「こんなに動物に好かれている方は、なかなか見ないので」
「ああ……たまたまですよ」
鈴木が首を横に振る。
「違いますよ。あなたが優しいからですよ」
威嚇頭は、キョトンとした。
「俺が、優しい……?」
涙が出た。睨みながら、泣く。
「ひっ!」
「すんません。俺、元からこんな顔なんですよ」
「そうなんですか……」
(そんな事を、今まで言われたことがなかった)
涙が止まらない。怖い顔のまま、泣いた。鈴木が話を聞いてくれた。全部気持ちを話した。
鳥も野良猫も、心配して顔を覗き込む。
それを見た鈴木が、ニコッと笑った。
「威嚇頭さん、もし良かったらですが、うちで働きませんか?」
「え……でも、カフェなんだろ? 俺は、接客は……」
「主に、猫ちゃんたちのお世話をしてもらいます。接客は、わたしたちがやりますから」
「って、言われてもなぁ……」
威嚇頭は、しばらく黙って考えた。鳥たちも、野良猫も、鈴木も邪魔せずに待っていた。
◆
保護猫カフェ『にゃんごろ』──
威嚇頭の周囲には、猫たちが集まっていた。
「怖い顔をした威嚇ニキ。猫に大人気!」
にゃんごろのアカウント。このタイトルの動画が、見事にバズっていた。
終
次の妖怪ハローワーク発生まで、お待ち下さい。




