永遠の夏休み
真夏の太陽が照りつける校庭に、小学5年生の健太の姿があった。他の子供たちが楽しそうに遊ぶ中、健太はひとり、校舎の影で立ち尽くしていた。
「明日から夏休みだ」
健太は呟いた。普通なら心躍る言葉のはずだった。でも、健太の顔には笑顔がなかった。
その夜、健太は両親の会話を立ち聞きしていた。
「もう限界よ。離婚しましょう」
母の声は冷たかった。
「わかった。健太のことは...」
父の声は疲れていた。
健太は息を殺して聞いていた。両親の言葉の意味はよくわからなかったが、なにか悪いことが起きようとしているのはわかった。
翌朝、健太が目を覚ますと、不思議なことに、また前日に戻っていた。カレンダーの日付も、前の日に戻っている。
「おかしいな」
健太は首をかしげたが、すぐに両親の喧嘩のことを思い出した。もしかしたら、これは夢なのかもしれない。そう考えた健太は、両親に優しくしようと決心した。
その日、健太は両親に甘えた。久しぶりに家族で過ごす時間は楽しかった。夜になっても、両親の喧嘩は起こらなかった。
健太は安心して眠りについた。
しかし、翌朝目覚めると、またしても前日に戻っていた。
「え?また?」
健太は混乱した。でも、またチャンスがあると思った。今日も家族で楽しく過ごそう。そう決意した。
その日も、家族で楽しい時間を過ごした。健太は幸せだった。
しかし、翌朝、また同じ日に戻っていた。
そして、その次の日も、その次の日も...。
健太はやがて気づいた。自分は同じ一日を何度も繰り返しているのだと。
最初のうちは、健太は毎日を楽しんだ。両親と仲良く過ごし、友達と遊び、好きなことをして過ごした。
でも、やがて退屈になってきた。同じ一日を何度も繰り返すのは、最初は楽しかったが、だんだんつまらなくなってきた。
健太は両親に話してみた。でも、両親は健太の言うことを信じなかった。むしろ、心配そうな顔をした。
友達に話しても、みんな笑うだけだった。
健太は孤独を感じ始めた。
ある日、健太は思いついた。もしかしたら、自分が悪いことをしたから、こんなことになっているのかもしれない。そう考えた健太は、できるだけ良い子になろうと決心した。
その日から、健太は両親の言うことをよく聞き、勉強も頑張り、友達にも優しくした。でも、翌朝になっても、また同じ日に戻ってしまう。
健太は諦めかけた。でも、諦めきれなかった。
ある日、健太は考えた。もしかしたら、自分だけじゃなく、誰かを助けなきゃいけないのかもしれない。
その日から、健太は周りの人たちをよく観察するようになった。
クラスメイトの由美が、いつもひとりぼっちでいることに気づいた。健太は由美に話しかけた。由美は最初は驚いたが、やがて健太と仲良くなった。
公園で遊んでいた時、小さな男の子が転んで泣いているのを見つけた。健太はその子を助け起こし、一緒に遊んだ。
近所のおばあさんが重い荷物を持っているのを見かけた。健太はその荷物を持つのを手伝った。
毎日、健太は誰かのために何かをした。小さなことでも、誰かの役に立つことをした。
でも、翌朝になると、また同じ日に戻ってしまう。
健太は悲しくなった。でも、諦めなかった。
ある日、健太は公園で不思議な老人に出会った。その老人は、健太の話を真剣に聞いてくれた。
「君は素晴らしいことをしているね」老人は言った。「でも、君は自分自身のことを忘れていないかい?」
健太は考え込んだ。確かに、みんなのために一生懸命になりすぎて、自分のことを考える時間がなくなっていた。
「君の幸せは、君自身にしか見つけられないんだよ」老人はそう言って、どこかへ消えてしまった。
健太はその言葉の意味を考えた。
翌日、健太は両親に向かって言った。
「お父さん、お母さん。僕、毎日同じ日を繰り返しているんです」
両親は驚いた顔をした。でも、今回は健太の話を最後まで聞いてくれた。
「信じられないかもしれないけど、本当なんです。だから...だから、僕に教えてください。お父さんとお母さんは、離婚するつもりなんですか?」
両親は驚いた顔をした。そして、しばらく沈黙が続いた。
やがて、父が口を開いた。
「健太、ごめんな。確かに、お父さんとお母さんは最近うまくいってなかったんだ。でも、それは大人の問題で、健太には関係ないんだよ」
母も続けた。「私たちは健太のことを一番に考えているの。だから、心配しないで」
健太は泣きそうになった。でも、がんばって言葉を続けた。
「でも、僕には関係あるよ。お父さんとお母さんが喧嘩してるの、ずっと気づいてた。でも、何も言えなかった。怖かったから」
両親は健太を抱きしめた。
「ごめんね、健太」父が言った。「私たちが悪かった」
「これからは、もっと健太の気持ちを考えるわ」母が言った。
その夜、家族3人でじっくり話し合った。健太は自分の気持ちを全部話した。両親も本音を話した。
翌朝、健太が目を覚ますと...カレンダーの日付が変わっていた。
健太は飛び起きた。窓の外を見ると、夏休みの朝の光が差し込んでいた。
健太は階段を駆け下りた。リビングには両親がいた。
「おはよう、健太」
両親が笑顔で言った。
健太は両親に飛びついた。
「やった!やった!」
健太は叫んだ。
両親は不思議そうな顔をしたが、健太を抱きしめ返した。
その日から、健太の夏休みが始まった。両親との関係も良くなり、家族で過ごす時間も増えた。
でも、健太の心の中には、あの不思議な体験の記憶が残っていた。同じ一日を何度も繰り返した記憶。みんなのために頑張った日々の記憶。そして、自分の気持ちに正直になることの大切さを学んだ記憶。
健太は決心した。これからは、毎日を大切に生きよう。誰かのために何かをするのも大切だけど、自分の気持ちも大切にしよう。
そして、健太の本当の夏休みが始まった。