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百物語  作者: 冷やし中華はじめました


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「時を紡ぐダイヤル」

第1章:不思議なラジオとの出会い


東京の下町、古びた建物が立ち並ぶ通りの一角に、ひっそりとたたずむアンティークショップがあった。看板も出ていない、まるで秘密の洞窟のような店内には、様々な時代の品々が雑然と並べられている。


その日、QとRは偶然この店を訪れていた。二人は大学時代からの親友で、休日にはよく連れ立って街を歩き回るのが習慣だった。


「ねえQ、こんな店見つけたよ」とRが言った。「面白そうだから、ちょっと覗いてみない?」


Qは少し躊躇したが、結局Rについて店内に入った。埃っぽい空気が鼻をくすぐる。薄暗い店内で、二人は興味深そうに古い品々を眺めていた。


その時、Qの目に奇妙なラジオが飛び込んできた。1950年代のアメリカ製のように見えるその機械は、艶やかな木目調の筐体に、大きなダイヤルと真鍮のスピーカーグリルが特徴的だった。


「へえ、こんなの見たことないな」とQが呟いた。


Rも興味を示し、「本当だ。まだ動くのかな?」


二人がラジオを眺めていると、店主らしき老人が近づいてきた。白髪交じりの髭を蓄えた老人は、優しげな目で二人を見つめていた。


「それは素晴らしい品ですよ」と老人が言った。「特別な力を持っているんです」


QとRは顔を見合わせた。老人の言葉に、二人とも興味をそそられた。


「特別な力って?」とQが尋ねた。


老人は神秘的な笑みを浮かべ、「それは、使ってみれば分かります。ただし、その力を使う時は気をつけないといけません。その力は諸刃の剣になり得るのですから」


その言葉に、二人はますます好奇心をそそられた。値段を聞くと、意外にも安かった。二人は相談し、共同で購入することにした。


老人は慎重にラジオを箱に詰めながら、「どうか賢明にお使いください」と念を押した。


その日の夕方、QとRはQのアパートでラジオを開封した。予想以上に重く、慎重に扱わなければならなかった。


「さあ、電源を入れてみようか」とRが提案した。


Qがコンセントにプラグを差し込み、おもむろにスイッチを入れた。最初は何も起こらなかったが、しばらくすると、スピーカーからノイズが聞こえ始めた。


ダイヤルを回すと、突然クリアな音声が流れ出した。


「2024年8月15日、午後7時のニュースをお伝えします」


QとRは驚いて顔を見合わせた。今日の日付は2024年5月3日。3ヶ月以上先の放送が聞こえているのだ。


「これって...未来のニュース?」とQが呟いた。


Rは興奮気味に言った。「すごい!あの店主の言っていた特別な力って、これのことだったんだ!」


二人は夢中でラジオに耳を傾けた。株価の予想、気象情報、さらには まだ起こっていない事件のニュースまで、様々な情報が次々と流れてきた。


「これを使えば、俺たち大金持ちになれるんじゃないか?」とRが目を輝かせて言った。


Qは少し慎重だった。「でも、未来を知ることのリスクもあるかもしれないよ。あの店主も気をつけろって言ってたし」


しかし、Rの熱意に押され、Qも次第に未来を知ることの魅力に取り憑かれていった。


その夜遅く、二人は興奮冷めやらぬまま別れた。しかし、これが彼らの人生を大きく変える出来事の始まりだとは、まだ気づいていなかった。


第2章:未来を知る喜びと不安


それから数週間、QとRは放課後になるとQのアパートに集まり、熱心にラジオの放送を聞いた。最初は半信半疑だったが、予言された出来事が次々と現実となり、二人は次第にラジオの力を信じるようになっていった。


ある日、ラジオは大手IT企業の株価が急騰すると予測した。二人は勇気を出して貯金を投資し、予想通り大きな利益を得た。これをきっかけに、二人は本格的に株式投資を始めた。


「やっぱりこのラジオ、本物だよ」とRが喜びを爆発させた。「これからどんどん儲けられるぞ!」


Qも興奮していたが、どこか心の片隅で不安を感じていた。「でも、あまり目立つような儲け方はまずいんじゃないかな。誰かに怪しまれたら大変だし」


Rは肩をすくめた。「大丈夫だよ。誰も信じないさ、未来が聞こえるラジオなんて」


二人の生活は徐々に変わっていった。高級レストランで食事をしたり、新しい洋服を買ったり。以前なら躊躇したことも、今では簡単にできるようになった。


しかし、ある日、奇妙なことが起こった。ラジオが予測した天気が、実際の天気と全く異なったのだ。


「おかしいな」とQが首をかしげた。「今まで外れたことなんてなかったのに」


Rは気にした様子もなく言った。「たまにはあるだろ。機械だって完璧じゃないさ」


しかし、それ以降、ラジオの予測が外れることが増えていった。特に、QとRの行動に関係する予測が狂うことが多くなった。


ある日、ラジオは「明日、渋谷のカフェで知人と偶然出会う」と予測した。二人は試しにそのカフェに行ってみたが、知人どころか、カフェ自体が工事中で閉まっていた。


「おかしいぞ、これ」とQが不安そうに言った。「俺たちの行動が、未来を変えてるんじゃないか?」


Rも少し困惑した様子だった。「確かに…でも、それって良いことじゃないか?未来を自分たちの思い通りに変えられるんだから」


しかし、その考えは楽観的すぎた。次第に、ラジオの予測と現実の乖離は大きくなっていった。株の予想も外れ始め、二人の投資は失敗続きとなった。


「もうダメだ」とQがため息をついた。「このラジオ、当てにならなくなってきた」


Rも肩を落とした。「なんでだろう。最初はこんなことなかったのに」


二人は悩んだ末、しばらくラジオの使用を控えることにした。しかし、未来を知る力を手に入れた彼らには、もはや普通の生活に戻ることは難しかった。


常に先のことを考え、不安に怯える日々。QとRの友情にも亀裂が入り始めていた。


第3章:歪んだ未来の予測


それから1ヶ月後、QとRは再びラジオのスイッチを入れた。久しぶりに聞く未来の声に、二人は緊張していた。


最初のうちは、以前のように正確な予測が続いた。二人は安堵し、再び未来の情報を頼りに行動し始めた。


しかし、ある日の夜、ラジオから不気味な放送が流れてきた。


「明日午後3時、渋谷駅前で大規模な交通事故が発生。死傷者多数の見込み。事故に巻き込まれる人物の中に、QとRの名前あり」


二人は凍りついた。


「冗談だろ…」とRが震える声で言った。


Qは必死に冷静を装った。「落ち着こう。これまでの経験から、俺たちの行動で未来は変えられるはずだ。明日は絶対に渋谷に近づかなければいい」


二人は一晩中眠れなかった。翌日、二人はQのアパートに籠もり、外出を控えた。時計の針が3時を指すのを、固唾を呑んで見守った。


3時を過ぎても、特に何も起こる気配はなかった。二人はほっと胸をなで下ろした。


「よかった。何もなかったみたいだ」とQが安堵の表情を浮かべた。


しかし、その瞬間、ラジオから緊急ニュースが流れ始めた。


「速報です。先ほど午後3時15分頃、渋谷駅前で大規模な交通事故が発生しました。トラックが暴走し、歩行者多数を巻き込む惨事となっています。現在判明している犠牲者の中に、QとRという人物の名前があがっています」


二人は言葉を失った。目の前で起きている現実と、ラジオの放送内容が全く食い違っている。


「どういうことだ…」とRが呟いた。「俺たち、ここにいるのに…」


Qは冷や汗を流しながら言った。「まるで…平行世界の出来事みたいだ」


その日以降、ラジオの予測はますます現実離れしたものになっていった。時には悲惨な事件や災害の予告もあり、その度にQとRは恐怖に怯えた。


「もう限界だ」とQが叫んだ。「このラジオ、俺たちの人生めちゃくちゃにしてる!」


Rも同意した。「でも、どうすればいいんだ?壊すのか?」


「いや、それじゃダメだ」とQが答えた。「あの店主が言ってただろ。この力は慎重に扱わなきゃいけないって」


二人は長い議論の末、ラジオを元の店に返すことを決意した。しかし、その決断を下すまでに、二人の間には深い溝ができていた。


第4章:ラジオの封印と新たな決意


雨の降る日、QとRは重いラジオを抱えて、あのアンティークショップを訪れた。店内に入ると、以前と変わらない雰囲気が二人を包み込んだ。


老店主は、まるで二人の来訪を予期していたかのように、静かに現れた。


「お帰りなさい」と老人が穏やかに言った。「どうやら、あなた方は大切な教訓を学んだようですね」


QとRは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。


「はい」とQが答えた。「未来を知ることの責任の重さを、身をもって体験しました」


Rも続けた。「最初は楽しかったんです。でも、次第に未来の重圧に押しつぶされそうになって…」


老人は深く頷いた。「そうですね。未来を知ることは、両刃の剣。使い方を誤れば、自分自身を傷つけることにもなる」


Qが尋ねた。「あの…このラジオ、どうすればいいんでしょうか?」


老人は優しく微笑んだ。「それはあなた方が決めることです。ただし、覚えておいてください。このラジオの力は、決して消え去ることはありません」


RがQの顔を見た。二人は無言のうちに意見を交わし、決断を下した。


「このラジオを、ここに置いていきます」とRが言った。「きっと、次にこのラジオを必要とする人が現れるはずです」


老人は満足げに頷いた。「賢明な選択です。さて、これからどうするおつもりですか?」


Qが答えた。「未来のことは考えすぎないようにします。一日一日を大切に生きていきたいと思います」


Rも同意した。「そうですね。自分たちの力で未来を作っていく。それが一番大切なことだと気づきました」


老人は二人の肩に手を置いた。「素晴らしい。あなた方は本当に大切なことを学んだのですね」


QとRはラジオを店の奥に置き、深々と一礼をして店を後にした。外に出ると、雨は上がり、まぶしい陽光が二人を包み込んだ。QとRは深呼吸をし、清々しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

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