8-話「終焉」
本当の敵は…
「玲…!」
玲は俺がそう言うとニヤリと笑みをこぼしまるで嘲笑うような軽蔑したような目で俺たちを見た。
「なんでこんなことをするんだい?俺や琴音さん、涼夜君にも家族や友人がいるように君にもいるはずだろう?」
宮田さんは平静を装い、ゆっくりと玲に問いかけた。
その問いに反応した玲は宮田さんを、いや、俺たち全員を睨みつけ殺気を醸し出している。
「あなた達はそうなのでしょうね。ここから帰ることができたら家族や友人、恋人にも合うことができるものね。それは一刻も早く帰りたいわよね」
玲の目つきは鋭くなるばかりで一向に説得しようと試みようとしてもきっと俺たちの言葉は届かないだろう。
「それは、私には当てはまらないわ。家族、友人、恋人…。そんなものとうの昔に消えたも同然よ。ちゃんと言うなら信用に値しない。私の過去話でもしてあげましょうかね、冥土の土産話にでもするといいわ」
そう言い玲は近くの木にもたれかかり淡々と自らの過去を話す。
「私が小学生の頃かしら、昔のことはあまり記憶がないけれど教師、家族、友達から裏切られたのはハッキリと覚えているわ。友達からは些細なことでイジメを受け、教師に言ってもただのじゃれあいだのコミュニケーションだのを理由として解決しようとしない。親に言っても自分が弱いからだのそんなことより勉強しろだの言われ誰も救ってくれない。それどころかあの人達は私を見捨てたのよ。私をね」
玲はゆっくりと過去を話した。
目を細め、人を憎んでいることが読み取れる。
「だから、私は人間は嫌いになった。復讐しようと決意した、全員を連れてくるのは大変だったわ。銀行からお金を取り出し、男達を雇った。それで今に至るのよ。私の復讐に付き合ってもらってるってわけ」
玲の覚悟は並みのものじゃないことはわかった。だが…
「だが、それでこんなことやってもいいとは言えないだろ。復讐しても何も生まない、もうやめろ」
「やめろ、ねぇ。ここまできてもう後戻りなんてできるわけないわよ。私も貴方も…」
「…」
玲は無邪気な笑顔をこちらに向けて言った。
後戻りなんてできない。だからこのまま続けるってのもおかしいだろ。
「後戻りはできない、でもそのまま続ける方が今より悪い状況になることに気づけよ」
俺は拳に力を込め言った。
「玲さん、どんなことがあってもこんな事今すぐやめるべきだよ。この先にはきっと後悔しか残らない」
「そうそう、おっちゃんの言う通り。こんな事はやめなよ、誰も望んじゃいないさ。そうだろう?玲」
宮田さんに琴音…。
「そうだ、玲。俺はお前を殺すわけにはいかない、守と決めたんだ。だから、さ。もうやめよう」
俺は玲の目を見据えながら言った。説得して解決するように
「守る、ねぇ。そんなのただの口約束にしか過ぎない、いつもそうだったわ。教師が相談してくださいとか言っておきながらいざすると何にもしてくれない。してくれるどころか私を見捨てたのよ。貴方を信じれるわけないでしょう?」
玲はどこか悲しげな表情で俺に言う。
「信じれないかもしれない。けど、信じなきゃ何にも始まらないだろ。俺はお前を殺したくない、殺さない」
俺は玲を真っ直ぐ見つめ言葉を紡ぐ。
「…どうせそれも嘘。私を陥れるための嘘なんでしょう?」
「違う!」
俺は反射的に玲の言葉と重なるように言い放った。玲は目を少し開き驚いている様子だ。
「落ち着きなよ。取り乱したって仕方がない、僕はこいつのことなんてどうでもいい。けれど一応仲間として、そのリーダー的存在として従うまでさ。私はただこの戦場から出られればいいだけさ」
琴音がゆっくりとした口調で俺を落ち着かせるように言うが、その目は玲への同情の眼差しとも捉えられるだろう。
「あぁ、すまない。俺は大丈夫だ、そんなことより玲。お前がこんなことをしたってどうにもならないことは事実だ。こんな馬鹿げたことはやめて、一緒にいこう?」
俺は自分の右手を玲に差し出し、ニコッと優しい笑みで言った。
「…ッ!バカじゃないの?あなた達、私は大勢の人を巻き込んで戻れるわけないじゃない。そんな優しくしたって、悪は悪。変われはしないのよ!」
玲の目からは涙が少しずつ頰を伝い地面へと落ちていく。
「変われるさ。人間は学習する生き物だから同じ過ちは繰り返さないように修正していくんだよ」
俺は、一歩踏み出し玲に近づく。
「悪は悪、変われはしない。なんて事はないんだよ。自分が努力すればいつしかそれは身を結び大きなものへとなる。俺はそう思ってるよ」
「…もっと早く、君に逢いたかったよ。そう…ね。変われるのかもしれなかったわね」
玲は涙を流しながらニッコリと微笑む。
「涼夜君、またどこかで会えたらいいね。今度はちゃんとした出会い方で」
そう言うと玲は歩き出す。歩く方向を見るとそこは海と面する崖だった。
俺は嫌な予感がし、急いで駆け出そうとした。
しかし
「来ないで!」
玲のその言葉により俺の足はピタリと止まった。
俺は口を半開きにし目は瞬きするのさえ忘れていた。
「これでいいの、また会おうね。涼夜君…最後に言わせて」
そう言いながら俺たちに向き直り一言『ありがとう』そう言い玲はその場から元々いなかったかのように消えた。
消えたと同時に波の音が俺の耳に響き渡る。
「玲…?」
俺は急いで駆け出し、崖の下を見る。
そこには荒い波が行ったり来たりしているばかりで玲の姿はなかった。
俺はその場で泣き崩れた。
ずっと、ずっと泣いた。守ると言ったはずなのに守れなかった。
そんな自分に憎悪の感情が心の奥底で湧き上がるのを感じた。
・・・・・
それからどれほど経ったのだろうか。
自分の意識がハッキリしてきた頃には久しぶりの自室だった。
ベッドがあり机があり、その上には俺の愛用していたパソコンがあり勉強道具もある。
いつもの日常に戻っていた。
記憶を遡らせると、どうやら宮田さんが船を動かしてくれたようだ。
親も俺のことを心配していたらしく、帰ってきた瞬間泣きながら抱きしめてくれた。
俺はこの出来事を忘れないように、近くのコンビニでノートを書い今までの事を嘘偽りの無い全て真実を書き留めた。これからずっと、忘れないであろうこの出来事を…
ここまで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございました。
この物語は、私の思いつきで書き始めたのですが最後までなかなか集中力が続かないものです^^;
楽しんでくれれば何よりです。
それではまた、別のお話で会いましょう