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大団円~ ありがとうめたぞん


「先生、落ち着いて、大丈夫です、すべてを受けなくてもいいんですから。出来る範囲でいいんですよ。ほーら高級オイルをどうぞ」


 先輩に接待をされ、徐々に落ち着くめたぞん先生。


「……さすがに、87万件は無理だけども、出来る限りやってみましょう……」


 そう言うと、先生は踵をかえし、デスクのほうへ向かっていった。


 PCを起動し、イラストソフトを立ち上げる。Cの形をしたシンプルな手で、ペンタブレットを握った。


 そして――



 ガガガガガガガッ!――!


 は――早いっ!

 ものすごい速さでその手が動き、あっという間に美少女が描かれていく。モニターに線が奔り、ペンタブが板を擦る。目にも留まらぬ超高速で、めたぞん先生は一枚絵を描き上げた!


「はい一件できた!」


 保存ボタンをクリックしながら、めたぞん先生。先輩は歓声を上げた。


「ありがとうございますッ! さすがです先生ッ!!」


「次はだれのですか!?」


「稀代の学生作家、坂気張紋章さかきばりもんしょうセンセイのキャラ絵です!」


「紋章くん? それならもう山ほど送ったような気がしますけど」


「新作なんです、こちらイラストレーターさんに渡すようにと彼が描いたイメージラフ」


「へえ、今度の作品は妖怪モノか。これはヌリカベかな」


「いえ、学園ラブコメです。そちらは幼馴染のヒロインです」 


「わかった、なんとかしよう。でも紋章くんに、今度からキャラプロフィールは文章で頼むと伝えてくだサイ」


「そうします」


「ではさっそくかかりまショウ。おおおおおおおおおおおおおおおおお」


 ガリガリガリガリガリガリッ――


 またもペンタブは光の速度で疾走し、モニターにはどんどん線と色が乗っていく。

 僕は身を乗り出して、彼の作品を覗いてみた。


 セーラー服姿で穏やかにほほ笑む美少女、初めはただの線だったのに、しだいに命を吹き込まれていく。本当に、まるで生きているようだった。


 ――可愛い。


 チラと視界に入った『原画』のヌリカベ……その原型はまったくない。しかし、伝わる。

 作者が脳裏に描いていただろう、その造形が再現されていく。


 僕は呆然と、その魔法のような技にみとれていた。



 早い。上手い。

 だが、めたぞん先生のすごさは、そういう器用さだけじゃない。


「できた! ――次!」


 どんどん出来ていく、可愛い絵。しかしそれは、先ほどのキャラとはまったく違う、原作の個性が見て取れる。


「次!」


 こんなに早いのに、手抜きが無い。

 こんなに量産しているのに、どれもこれも生きている。


「次! うおおおおおおっ」


 依頼者の求めるもの、作家の気持ち、自作への愛。「うちの子の魅力」を、めたぞん先生は完璧に読み取っていた。そしてそれを筆に乗せ、ひとつひとつデザインをやっている。


 ――すごい。


 小説家、兼、神絵師。それはただの二足のわらじではない。

 字書きの気持ちを知ってるからこそ、大切にそのキャラを描く。

 絵心があってこそ、その小説のキャラは生き生きとし、僕たちに情景を見せてくれるのだ。


 この人はきっと――ものすごく、人間のことが好きで、物語が好きで――


 すばらしい、『作家つくるひと』なんだ。


 僕はすっかり感動して、めたぞん先生の後姿を見つめていた。赤サビの浮いたメタルな後頭部が、後光が差しているようにも見えた。


 無意識に、手を合わせて拝んでしまう。


 ありがたい。ありがたや。ありがとうめたるぞんび先生。本当に、ありがとう――


 と――


「……ん?」

「なんか、コゲくさい……」


「ああっ!」


 僕と先輩は同時に大きな声を上げた。

 めたぞん先生が、その手元が、燃えている!


「か、火事だ! 火が上がってる!」


「な、なんで!? どこから!?」


「摩擦熱だ! めたぞん先生の手が早すぎて、ペンタブの摩擦で火が出たんだ!」


「んなアホなああああああっ」


「ヤナセ君! 叫んでるヒマがあったら消火しろ! 水を持ってこい! めたぞん先生! めたぞん先生ぇぇぇぇっ!」


 僕は大慌てで立ち上がり、キッチンに飛びつき、鍋いっぱいに水をくむ。そして小説家に向けてぶっかけた。

 ジュウと音がして湯気が上がり、先生の右手が鎮火する。

 PCのほうにも多少はハネたが、故障するほどの飛沫じゃないだろう。


「あ、ありがとうヤナセ君。う、うう……」


「先生! 大丈夫ですか!? 右手が炎上してましたよね! すぐに病院に――」

 

「だ、だいじょうぶ、びっくりしただけですから……」


 そう言って、先生は黒くすすけた右手を振った。赤サビの浮いた全身を、ストレッチするみたいにウネウネさせる。


 そしてボトリと右手を落とす。


「い!?」


 とつぜん落下した右手にのけぞる僕。


 小説家はこともなげに、残った左手で引き出しを開ける。そこにはやはりCの形の物体。

 カチリと小さな音がして、彼の右手はスペアに代わった。


 そして――彼は、続きを描き始めた。



「って、やっぱりロボットじゃねえか!!」


 バコン! グワン。グルグルグル。


「わわっ! めたぞん先生、やばい、錆が! 接続部が! 首が取れたあああっ!」


「ワ、ワタシ、は、大丈夫で――あ、でも、ちょっと人をよんでクダサイ。そこの、電話帳に……マツムラ電機の出張修理サービス案内が」


「だからやっぱりロボットじゃねーか!!」


「やめなさいヤナセ君。ほーらこれを見て、揺れてるねー揺れてるよ~じーっと見ていて~ほーら気持ち良くなってきたー」


「………………」


「めたるぞんび先生は人間である」


「めたるぞんびせんせいはにんげんである」


「ボクはこれからも何の疑問ももたず、めたぞん先生の担当編集として頑張ります……」


「がんばります……」



★☆★☆★☆★☆


 僕の名はヤナセ。

 新卒でMZ文庫に入社して、売れっ子作家、めたるぞんび先生の担当編集になり早一年。



 時々おとずれる頭痛に負けず、今日も元気にがんばります!



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