表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

第9話 次なる試練と、七星の影

翌朝、牢から呼び出され、鎖を引かれることもなく、俺はガルマの執務室へ通された。

重厚な机に腰かけ、葉巻をくゆらせる大男。

その片目がぎらりと光り、俺を射抜いた。


「お前の次の相手が決まった」

低い声が響く。


胸がざわつく。

俺はまだアイアン、最底辺。試合相手を選ぶ権利なんてない。

すべては興行主の意志次第。


「今度の相手はブロンズランクの剣闘士だ」

ガルマの口元がわずかに歪む。

「シルバーだったラガンは特例だ。奴がお前を指名したからな。だが、今回は正規の流れだ」


「……で、試合はいつなんだ?」

思わず問い返すと、ガルマは薄く笑った。


「いつだと? 今からだ」

「は? 準備とか……」

「奴隷に準備が要るか。闘技場に立つ、それだけで十分だ」


言い放たれた言葉に、胸の奥で乾いた笑いがこみ上げる。

(……結局ここでもか。社畜の時と同じだ。心構えも休みもなく、ただ“今やれ”って押し出されるだけかよ)



控室に戻ると、セリナが待っていた。

「お疲れさまです。次の試合、決まったんですね」


俺は頷き、彼女に視線を向ける。

「……どうやらブロンズらしい」


「そうですか」セリナは小さく息を吐く。

「ブロンズに昇格すれば、多少は試合の指名ができるようになりますよ。ただし……」


「ただし?」


「自分のランクから二つ上、二つ下までです。それが闘技場の規定です」


つまり、今の俺には自由はない。

まだ駒。使い捨ての見世物。

だが――少なくとも、先は見えた。


「七星って……どのくらいの強さなんだ?」

昨日の酒場で見た女の姿が脳裏をよぎる。漆黒の髪に双剣を揺らした剣士。


セリナは真剣な顔で頷いた。

「七星は全員ダイヤモンドランクの剣闘士です。ランキングでは二位から八位に位置しています。そして一位は現役チャンピオン。つまり、七星はチャンピオンに最も近い存在と言われています」


俺は息を呑んだ。

ダイヤモンド――頂点に君臨する百人にしか許されない称号。

剣闘士は一万人以上いるというのに、そこに辿り着くのはほんの一握り。

しかも、七星はその中でも上位に連なる。


セリナは続けた。

「……ただし、七星と他のランカーとの間にも大きな壁があるとされています。七星は同じダイヤモンドであっても、格が違うんです」


七星と、俺。

天と地ほどの差。いや、それ以上だろう。


「……なら、やるしかないか」


拳を握りしめる。

まだ“アイアン”という烙印は外れていない。

でも、社畜から奴隷、そして不死身のドーレイへ。

一歩ずつでも、駒から王へと変わってやる。



その時、闘技場の扉が開かれた。

兵士が差し出してきたのは一本の鉄剣。

刃は波打つように歪み、柄はぐらついている。


「……またこれかよ」

武器ですらない代物を握りしめ、苦笑するしかなかった。


眩しい光と轟音のような歓声が押し寄せる。


「次の試合だ。不死身のドーレイ、入場!」


俺は深く息を吸い込み、砂の舞台へと踏み出した。


2025/9/30 闘技場への入場の際に武器を手渡されるシーンを追加

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ