↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/100

第8話 酒場の喧騒と、七星“血の歌姫”

市場の散策を終え、セリナに連れられてさらに足を運んだのは、街の酒場だった。

「オアシス都市ゼルハラの賑わいを知るには、ここも外せませんよ」

そう彼女は言ったが、俺にとっては異国の習慣も文化もまだ分からない。

どんな場所であれ、ただ従うしかなかった。


昼間だというのに酒の匂いが充満し、笑い声と喧騒が渦巻いている。

木製のテーブルに腰を下ろすと、周囲の視線がこちらに集まるのが分かった。


「……あれ、剣闘士だぞ」

「しかもアイアンランクじゃねぇか。最底辺のくせに、酒なんざ飲んでんじゃねぇよ」


囁きと嘲笑が飛んでくる。

セリナが慌てて間に入った。

「気にしないでください。ここは庶民の酒場ですから」


だが、数人の男たちが立ち上がり、俺のテーブルを囲んできた。

「奴隷剣闘士が人間扱いされると思うなよ」

「闘技場の見世物が酒なんざ飲むな」


拳を握りしめる。

胸の奥に、社畜時代に浴びせられた罵声が重なった。

(……またかよ。ここでも、下に見られるのか)


立ち上がろうとした瞬間、セリナが袖を引いた。

「ダメです! ここで手を出したら、あなたが処罰されます。剣闘士は闘技場の中だけで戦うものなんです」


……悔しい。だが、確かにその通りだ。

ここで暴れれば自由は遠のく。


⸻


その時、酒場の扉が開いた。


ひとりの剣闘士が入ってくる。

漆黒の髪、深紅の瞳。舞台衣装のような軽装に、腰には細身の双剣。

ただ歩いてきただけで、酒場の空気が一変した。


笑い声が止まり、杯が空中で凍り付く。

演奏をしていた吟遊詩人まで音を途切れさせた。

店内すべての視線が、その女へと吸い寄せられる。


「……セレナード」

誰かが小声で名前を呼ぶと、絡んできた男たちが一斉に黙り込んだ。

さっきまでの威勢は霧のように消え、椅子を引いて道を空ける。


セリナが小さく息を呑む。

「“血の歌姫”セレナード……。アレナ・マグナの七星の一人です」


「七星……?」

思わず聞き返すと、セリナは真剣な表情で説明した。

「チャンピオンに最も近いとされる七人の剣闘士。実力だけでなく、観客の人気や熱狂も含めて選ばれる、闘技場の象徴のような存在ですよ」


セレナードは群衆の視線を気にも留めず、奥の席に腰を下ろした。

二本の剣が腰でわずかに揺れ、まるで舞台の幕が上がる前の楽器の調律のように、空気を張り詰めさせている。


その所作ひとつすら舞踏の一幕のようで、周囲は息を呑むばかりだった。


(……あれが、俺の行く手を阻む存在……?)


社畜時代、上司が現れるだけで空気が凍り付いたあの感覚。

でも違う。今は恐怖だけじゃなく、憧れにも似た熱が胸を満たしていた。


自由を掴むためには、いずれああいう化け物をも倒さなければならない。

その現実に、背筋がぞわりと震えた。


ここまで読んでくださりありがとうございます!


今回は酒場で“七星”のひとり、血の歌姫セレナードが登場しました。

最底辺のアイアンランクであるドーレイと、チャンピオン候補と目される七星。

その圧倒的な格差をどう感じていただけたでしょうか。


もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら――

★評価やブックマークを入れていただけると励みになります!


物語を広げていく力になりますので、ぜひ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。