第7話 神殿に刻まれるスキルの真実
街の喧騒を抜け、今、俺は白い尖塔の前に立っている。
近くで見ると、それは神殿の一部で、荘厳な雰囲気を放っていた。
セリナから聞いた話だと、ここではスキルや身分の鑑定ができるらしい。
本来は冒険者や市民が訪れる場所で、奴隷剣闘士が来るのは珍しいという。
(……タフネス以外にも、何かあるはずだ)
首輪には《タフネス》としか表示されていない。
だが、あの時の赤黒い剣――あれがただの耐久力で説明できるわけがない。
確かめる必要がある。
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中に入ると、広間には静謐な空気が漂っていた。
壁には古代文字が刻まれ、中央には水晶のように輝く石柱が立っている。
神官らしき人物が一礼し、俺の首輪を一目見て眉をひそめた。
「……剣闘士の首輪か。鑑定を希望するのか?」
「はい」
短く答えると、神官は頷き、石柱へと促した。
セリナも興味津々で後ろから覗き込んでいる。
「この石に手を置け。お前のスキルとその格が映し出される」
息を呑み、俺は手をかざした。
淡い光が走り、首輪に刻まれた文字が浮かび上がる。
《スキル:ガマン+》
(……ガマン? 聞いたこともない……)
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神官が思わず目を細める。
「ふむ……説明が表示されたな。──『あらゆる耐久性を上昇させる。肉体的、精神的、外的要因への抵抗力を持続的に高めるスキル。長期間にわたり過度な負荷に耐え続けた結果、進化したと推測される』……」
「え、それってつまり……」
セリナがぱちぱち瞬きをして、無邪気に笑った。
「ガマンしすぎてスキルが進化しちゃったってことですか?!」
「……可能性は高いな」
神官は冷静に言い切った。
俺は絶句した。そんなスキルが存在するなんて聞いたことがない。
いや、そもそも「ガマン」というスキルそのものが、常識の中には存在しないらしい。
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「……他には何もないのか」
神官は石柱を確認し、首をかしげた。
「お前のスキルは《ガマン+》ただ一つだ。通常なら誰でも二つか三つは持って生まれる。戦闘系でなくとも、生活や生産を補助するスキルを一つは持っているものだが……これは、かなり不遇だな」
言葉には憐れみと、少しの侮蔑が混じっていた。
セリナの笑顔も一瞬だけ曇る。
(スキルが一つしかない……? じゃあ、あの赤黒い剣は……なんだったんだ?)
脳裏に焼き付いた、血を吸って肥大化した刃の感触。
どう考えても力の一部だ。
だが、この場には表示されない。
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「ランクは?」
俺が問うと、神官は石柱をじっと見てから答えた。
「通常のスキルはFからA、さらにその上へ分類される。だがこのスキルは……測定不能だ。分類上はユニークスキルとされるだろうが……有用性は低い。少なくとも、強者と呼ばれるには程遠い」
「ユニークスキル……」
言葉の響きは立派だが、神官の口ぶりは完全に「外れを珍品扱いしている」にすぎない。
セリナが横から覗き込み、「じゃあ、不死身さんはレアってことですよね!」と嬉しそうに笑った。
その無邪気さが逆に痛い。
(結局、外れってことか……。でも、俺には……タフネス以外の“何か”があるはずだ)
俺は拳を握りしめ、神殿の冷たい空気を深く吸い込んだ。
いつか必ず、真実を突き止めてやる。
ご覧いただきありがとうございます!
今回はドーレイが神殿でスキル鑑定を受ける回でした。
ただの「タフネス」だと思われていた彼に浮かび上がったのは――まさかの《ガマン+》。
しかも「存在しないはずのスキル」+「一つしかない」という不遇ぶり……。
セリナの天然リアクションで少し笑いを挟みつつ、
一方で「あの赤黒い剣はなんだったのか?」という伏線も残しました。
まだストックがあるので、本日まだ更新します!
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