第65幕・終わりなき決着
「ああ…月が…月が綺麗だあ…。」
僕は夜空を見上げ、呟いた。
「それはプロポーズかい?ヨシヒコ君…。」
「もしかして頭も叩かれました?」
…どうやらアレフさんは、かなり錯乱しているようだ。
「今のは良い動きだった。アレフは俺の攻撃を、一発だけとはいえ見切ってみせた。そしてヨシヒコ少年――」
マワリさんは、僕達の傍に歩み寄る。
「――俺が君を認識してから、君の攻撃が俺に当たるまでの猶予は1秒も無かった。もう一歩だったな。」
再び大地に仰向けになる、僕達の傍に…
「僕の方が、早く攻撃に転じていたハズなのに…。」
「知識を得ても、それがすぐに身に付くとは限らない。お前達の場合、知識を生かすだけの実力が足りていなかったようだ。」
僕達に目線を近づけるためか、マワリさんはその場でしゃがみ込んだ。
「…でもマワリさん、力の差を覆す術がどうこう言ってましたよね…。」
「勘違いするな、アレフ。力の差は、埋まっているに越したことは無いんだ。先程の話は、あくまで0%を0.1%にする手段に過ぎん。」
「ハァ…やっぱり、実力不足って結論になるのか…。」
「さっきの動きは悪くなかった。お前達ならば、知識を生かすのに十分な実力を得る事が出来るハズだ。だから…そう悲観するな。」
…マワリさんはアレフさんを諭すなり、立ち上がってテントの方へと歩き出した。
「――今日はこれで終わりだ。夕飯にするぞ。」
「えっ…良いんですか!?でも僕達、一発も当ててなムググ――」
「そこは素直に"ありがとうございます"で良いんじゃないかなヨシヒコ君!?余計な事は言わずにさあ!?」
…起き上がった僕の口を、アレフさんが背後から塞ぐ。
「丸一日も若者2人の相手をして、流石に疲れた。…これを一発分という事にしてやる。」
「はっ…はいあほうほらいあふ…。」
「ありがとうございます!」
・ ・ ・
【サーバリアン王国湾岸都市 デキ市】
「――周辺のモンスターは片付いた!この付近はもう安全だ!」
リカブは大剣を振り下ろし、叫んだ。
刃を伝う血液が、地面に弧を描く。
「つ…強え…!」
「流石は戦士様だ…助かった…!」
住宅の裏、生垣の中…身を潜めていた市民達が、次々と姿を表し感嘆した。
「戦士様。我々自警団へ助力頂いた事、感謝致します。」
髭の濃い中年の男が、リカブに深々と頭を下げた。
「自警団…警察などは居ないのか?」
リカブが尋ねると、男は気まずそうに目を逸らした。
「先の襲撃で、殆ど壊滅状態に陥ってしまい…今やデキ市民達は、市内を徘徊するモンスターに見つからぬよう、息を潜めて暮らすのでやっとです…。」
「…そうか。何処へ行っても、状況が深刻なのは変わらないな…。」
「モンスターの数は日に日に増え、デキ市の防衛線は後退する一方…。遂にはこの区域も奪われようという時に、貴方は助けて下さったのです。どうかお礼をさせて頂きたい。」
「通り道にモンスターが居たから応戦しただけだ。大した事はしていない。」
リカブはそう告げ、男の横を通り過ぎていく。
しかし男は、立ち去ろうとしたリカブの腕を掴んだ。
「――何でも構いません!どうかお礼を…お礼をさせて下さい!命の恩人に何も返さないなど、私の矜恃が許さないのです!」
「そうだよ!戦士様が来てなかったら俺達、今頃モンスターの餌になってたかもしれないんだし…。」
「言葉じゃ感謝しきれないですよ!」
自警団の男に続くように、市民達は次々とリカブに賛辞を送る。
「港が奪われる前、グラス王国から取り寄せたワインです!どうぞ!」
…中には既に、感謝の品を持ち込んでいる者も居る始末だ。
「いや、しかし――」
「お花、あげる。」
人々を宥めようとするリカブの足元で、小さな女の子が花を握っていた。
「お庭に咲いてた、綺麗なお花…あげる。」
「ああ、ありがとう。嬉しいよ。」
リカブは微笑んだまま、女の子の頭をそっと撫でると、小さな白い花を受け取った。
「見たか!?花を受け取ったぞ!」
「よし皆!戦士様にありったけの花を持ってこい!」
「待て待て違う!持って来なくていい!」
「花じゃない…となると子供の方か!?」
「よし皆!戦士様に小さな子供を――」
「もっと違う!!!早まるな!」
今にも走り出さんとする市民を、リカブは慌てて静止した。
「…ゴホン、欲しい物は無いが…頼みたい事ならある。構わないか?」
「ええ!何なりと!」
市民達は目を輝かせ、リカブの次の発言を待っている。
「交通手段が欲しい。行きたい場所があるんだ。」
「交通手段、ですか…。お尋ねしますが、何処に向かうおつもりで?」
男は首を傾げながら、問いかける。
リカブは真剣な表情を男に向けた。
「国外――ウェザー帝国だ。」
To Be Continued




