第61幕・地獄へようこそ
「来るぞ…構えろ!ヨシヒコ君!」
すぐ傍でアレフさんが叫んだ。
「――うぐっ!?」
直後、アレフさんは呻き声を上げ、後方へと弾き飛ばされる。
アレフさんは背中から地面に倒れ込み、そのまま動かなくなってしまった。
「アレフさ――」
僕が彼に目線を向けたその時――
後方から…刺すような殺気が押し寄せてきた。
…どうして。
どうして、こんな事に……!
・ ・ ・
【30分前】
「…これから行うのは、実戦訓練だ。」
地面に並べられた3本の木刀を指差し、マワリさんは言った。
「実戦訓練…って、もうですか!?こういうのって、もっと段階を踏んでから行うものなんじゃ…」
僕は戸惑いを抱えつつ、マワリさんに問いかける。
「時間は限られている。それに…アレフは現職警察官、君は偽の魔王を討伐した勇者だ。その点を見込んで、初歩的な訓練は省略させて貰う。」
「マワリさん…もしかして、カップ麺の件を根に持ってるんですか…?」
アレフさんが恐る恐る尋ねる。
「お前は…俺をどれだけ大人気無い人間だと思ってるんだ…?」
マワリさんは腕を組みながら、呆れたような口調でそう返した。
「…50過ぎにもなって特撮に影響されてる人に、大人気も何も無いと思うんですけど…。」
そう呟いたアレフさんの頭を、マワリさんは拾い上げた木刀で静かに小突いた。
「痛ッ!?…ほら!やっぱり大人気無いじゃないですか!というか、普段は耳遠い癖になんで悪口には敏感なんですか!!!」
何というか…
初めて会った時には気づかなかったけど、アレフさんって思ったより毒舌だな…。
「悪いなアレフ、もう1回言ってくれ。耳が遠いものでな…」
…この人も大概だな。
2人とも僕より年上なのに、まるで子供の喧嘩を見ているかのようだ…。
「…お喋りはもう十分だろう。木刀を持て。始めるぞ。」
…僕は屈み込んで、足元の木刀を握った。
想像以上の重さに、つい手を離しそうになる。
ふと横目でアレフさんを見ると、何故かその表情は絶望に染まり切っていた。
まるでスマホを排水溝に落とした人のような…
「今日は初日だ。俺に一発でも当てられたら、その時点で今日の特訓は終わりにする。」
マワリさんは木刀を握り締めたまま、僕達との距離を広げていく。
「一発だけ?良いんですか?」
「良くない良くない良くない!何も良くない!!!」
…何故かアレフさんが、首を激しく横に振っている。
「…なんでアレフさんが答えるんですか?」
「知らないのかヨシヒコ君!?マワリさんは――」
To Be Continued




