フレッシュゾンビ2~死神ヘルシーとカラミーア~
「フレッシュゾンビ」彼を知らないアンデットは居ない、死んで100年以上たって腐った干物のようなゾンビから愛する人の為に一念発起し、生活習慣を改め…食事や運動と努力を重ね、ついには見た目生前まで戻せた伝説の人物だ!
彼はアンデット雑誌「ナイトウォーカー」の取材でこうコメントしている。
“愛は奇跡を起こすんです”
生前は勇者だったという彼の発言に、女性アンデット達は熱を上げた…そして実際に、彼のファン1号を名乗る女性アンデットは彼の事を考えるだけで止まった筈の心臓が動くようになり、顔色が青から土気色に良くなったという。
…そんな彼の記事を読んで、私…死神ヘルシーは思いついた!!
「…これは金になる!!」
私死神ヘルシーはこの道3000年のベテランである、しかし…些かこの仕事は嫌いだった。若いころは人間界へ赴き鎌を振るって命を刈り取る仕事に喜びと快楽を感じて居た物だが、それこそ彼…フレッシュゾンビの生前…勇者「十文字イキル」が現れた辺りからこの仕事は結構きつくなった。
鎌で切るのは好きだが剣で切られるのは痛い、十文字斬り!とかいう自身の名前を関したダサすぎ痛すぎる技で殺された回数は数知れず、一度はレベルアップ名目で地下世界のリスポーン地点に張り込まれ裕に千回は殺され、PTSDを発症し…地上勤務を外して貰い現在に至る。
※PTSD…戦場や災害でトラウマになるアレ
…ところが、内勤(地獄領地内の勤務)は悲惨その物だった。
生者への死の通達は神様からの依頼で行われる神聖な仕事である、故にアンデットとなった人にも毎年赤い手紙と共に「死の通達」を行わなければならない。
神法15条と36条の説明をした上でサインを頂き、不死化の呪いを浄化する施設へ案内をしないといけないのだが…まぁ、辛い。いうて脳みそ腐り果てたアホ共に、毎年毎年手紙を携え赴き、居留守を使われ…不在通知をポストに入れて…何とか本人に会えても説明途中で寝たり、切れたり、論破されたり…そして会社に帰るとノルマ不達成を上司に叱られ、神様への謝罪文書にサインをさせられる日々…うぅ…死にたい!
あとからアンデットになった奴らはいいよな!死のうと思えば死ねるもん…私…いうて生まれながらの死の「神」だから死ねないんよ…うぅ…うわーん!
◆ ◇ ◆ ◇
ピンポーン
「はーい…あっ死神さんですか、今年も“拒否”でおねがいします。では…」
「違います!ちょっとお話が!!」
ガッ…と閉まるドアに足を挟んで、私は血走った眼で金ずるを見つめる!見よ私の真摯な瞳!
「いや…足をどけて下さい!何ですか!?警察呼びますよ?」
「いやいやいいや!話合いましょう!話合いましょう!」
「赤紙もって来たんじゃないんですか!?営業ならお断りです!勧誘とかもお断りです!」
「いや…あの!!違っ!…お金!お金の話です!」
「家賃なら待ってください!…来月には印税が入りますので!来月には!!」
「違っ!…え?」
バタン
思わず止まってしまった隙にドアを閉められてしまったが、かなり有益な情報を得た気がする。え?…フレッシュゾンビさんもお金に困っているの?…これはつけ入る隙がある!?
少し考える…インターホンに手を伸ばす。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
「………」
日を改める事にし…否、彼のジョギングコースで待ち伏せする事にしよう。
家に帰り、チラシの裏にペンを走らせ作戦を練る…押し入れを開けて、みかんの段ボール裏に隠したタンス預金を引っ張り出して…ウーム、餌でつるか…ぐぬぬ…これは投資だ!
時計を見れば午後15時…フレッシュゾンビは16時に夕飯の買い出しジョギングをすると雑誌に書いてあったはずだ。行先の八百屋も…毎年赤紙を持っていく店なので場所は解る。…よし!!顔を洗い、サングラスとマスクで顔を覆い家を出た。
…
……
………来ない、時計は17時を過ぎている…何故だ?
「残念ね、フレッシュ様は最近ジョギングコースを変えたのよ!」
「…っな!?誰だ!!」
八百屋で買ったキャロットスティックをタバコのように咥えた…パッとみ不健康な女が後ろに居た!人間としてみれば不健康だがアンデットとしては超健康!こいつは…まさか!!?
「フレッシュゾンビ様ファンクラブ…名誉会員No.001…不滅の歌姫!カラミーア!!」
「なっ!?噂の土気色!!」
バチーん!
反省、初対面の人にいう言葉ではなかった。
「…やれやれ、失礼な新人ね…先輩としてきっちり教育してあげないとだわ。」
「ふぇ?な…なんの話なんです?」
「ハァ…いい事?これだけは覚えておきなさい!!」
~フレッシュゾンビファンクラブ鉄の掟~
1:フレッシュ様の幸せは自身の幸せ、フレッシュ様の愛を邪魔するなかれ
2:フレッシュ様の恋人は我らの恋人、決してアネミア様を呪うなかれ
3:フレッシュ様のおかげで動いた心臓ならば、全てフレッシュ様に捧げるべし
4:フレッシュ様の愛の儀式(マラソン・買い物・読書・料理)を邪魔するなかれ
5:家や職場への押しかけは万死
…
……
…………
「…はい!復唱!!」
「ええええええええええええええええええええ!?」
完全に誤解されている!ヤベー奴に見つかってしまった!完全に誤解されている!というかどこで目を付けられた!?
「…私、ファンじゃないんですけど」
「フフ…照れなくてもいいわ、じゃぁなんで家でピンポンしていたのかしら?」
「え…し…死神業をやっておりまして…え?」
目を付けらた場所は解った、今日家に行った時に…彼女もどこかから見ていたらしい…ファン恐っ!!
とりあえずややこしすぎる状況である、早急に説明して誤解を解かねばならないが…うーん、説明の仕方によってこいつは…今後の活動の敵にも味方にもなりそうな感じがする。ちょ…ちょっと待って…
「なるほどね…死神訪問で出会い、玄関先で恋に落ちて…旧ジョギングコースにまで足を運んだというわけね、立派なストーカーさんだわ!歓迎!」
「ぐぅぁああああ!違うぅうううう!違うと声を大にしていぃいいますぅうううう!!」
仕方なしに私は話した。
死神業を脱サラしてフレッシュゾンビ氏を中心に商売を展開したいという話を、死神業で彼の住所もしってたし、実は何回か会ってるし、むしろ生前の彼にも面識があったので行けるとおもっていた事。
(…生前の彼と面識がある下りの所で、ギリリと歯を噛む音が響いた)
彼をコーチにして健康教室を展開、YOチューブにチャンネルを開設し宣伝し、書籍の販売…
(…彼をコーチにして指導してもらうの下りでギンっと瞳孔が開く音がした)
話が長くなりそうなので喫茶店へ移動し、コーヒー一杯で3時間ほど粘りに粘り…彼女を味方に引き入れるべく、計画を説明する。し続けた。し終わった!
「…そんな…それは…夢物語よ…で…出来るはずないわ…!」
「可能です!私には…それを可能にする人脈がある!!」
死神一筋3000年、生前からの知人は何もフレッシュゾンビ氏だけではない…!死を望んでいた奴隷少女は、生まれ変わったあと死神を称える宗教を創り、ついにアンデットと成り今ではアンデット街の顔役だ!他にも無駄に広い居城で悠久の時を生きてるアンデットおじさんや、延々と自室でYOチューブを千年単位で見続けている元プログラマースケルトン!その他諸々…奴らは暇を持て余し過ぎているから絶対にこの話に乗ってくる!!確信がある!!
「な…なんですって…!フレッシュ様の激しい指導…罵声、ビンタ…軽蔑するような眼差し…夢の教室!」
「夢は叶える為にあるんですよ?」
こいつチョロそうだ、多分行ける。
「…無理よ…絶対無理よ!…フレッシュ様は自身のトレーニングとアネミア様一筋のお忙しい方…こんな…こんな計画に賛同して下さるわけが無いわ!!」
…ぐ、前言撤回…かなりメンドクサイタイプの様だ、しかし…ここが正念場!揺さぶりをかける!!
「愛は奇跡を起こすんですよね?あなたのフレッシュ様への愛は…彼からアネミア様への愛に劣ると?」
「なっ!?…なんって無礼な!く…口を慎みなさい!!ぼ…冒涜よ!愛は比べる物ではないわ!!」
激高し、席を立つカラミーア…しかし、ゆっくりと顔を上げてこう続けた!
「…もちろん、負けるつもりもありませんわ!」
ガッ 死神とアンデット、熱い握手とはいかなかったが…リンゴ程度なら弾ける握力での握手となった。
こうして仲間を得た死神ヘルシーは、彼女から情報を得て再びフレッシュゾンビに接触を果たした。
「クックック…お金になる話があるんですよ、フレッシュゾンビさん!!」
「なっ…お前は今朝の!!」
今朝と同じ嫌悪の表情、しかし…金に困っているのは確かなようだ。こんな怪しい状況なのに…今朝のように門前ばらいはされなかった。
「い~いお話なんですよぉ~!お金が手に入るんですよ~!かんた~んなお仕事なんですぅ!ちょっとしたアルバイトなんですよぉ~!?」
「ぐぬぅぁあああ!怪しいぃいいいい!怪しいが話だけは聞いてやるぅうううう!!」
カラーミアから仕入れた柄情報、アネミア城の財政難の話は本当のようだ。彼は負債の一部を肩代わりして健気にダブルワークをしているらしい。
昼はアネミア城、夜は工事現場…アンデットならば可能だが…イッツ不健康!
言われてみれば彼は話題になった頃よりやや痩せこけて、目の下に隈もあるようだ。
「そうですよ~?工事バイトやめれますよ~?辞めないと干からびて…嫌われちゃいますよ~?」
「うぐぉおおおおぁあああ!辞めろぉおお!ぐぅふぅう…言え!早く要件を言えぇえええ!」
ザザッ!
「コーチ!私を指導して下さい!!罵倒して下さい!お金は払います!!」
「ええええええ!?」
…こうして、フレッシュゾンビは死神ヘルシーの策略どうり健康ジムを開く事に成った。そしてYOチューバーとしてデビュー、書籍の出版を経て地獄のカリスマ的存在へ上り詰める事になった。
アネミア城の財政難は彼の活躍で立て直され、死神ヘルシーとカラミーアはそれぞれプロデューサーとマネージャー的立ち位置でアネミア城に自室を貰い、関係者全員が幸せになったと言う事だ。
ポチ ポチ
「料理動画…たのしみデス…っと」
密かに彼を応援しているのは、アネミア様の絶対の秘密なのである。
完