吸血鬼マーゾと御主人様2~砂漠のミイラ編~
「デザート・マミーって知ってるかい?」
白いフードから覗くのはここら辺では珍しい黄金の髪だ、黒いサングラスで目元を隠してはいるが…その瞳は空のように青いという。
「砂漠ミイラは知らないが、あんたの事は知ってるよ。デッドオアシスの隊長さんだろ?情報が欲しいんなら何か商品を…」
「馬鹿やめろ!あんた姫様の事しらないのか!?取引なんて辞めて質問に答えとけ!」
質問を返さない露天商を、隣の店主が即座に諫めた。太陽の化身のような黄金の髪、天空の瞳を夜色の眼鏡で隠した冒険者チーム「デッドオアシス」はこの砂漠の国の有名人だ。見た目が珍しい事、女だけの編成である事…キャラが濃すぎて色々な情報が出回っているが…一番知らなければいけないのはリーダー「スーエ・ド・エース」の鞭の速さだ。短気な彼女を怒らせて鞭打ちを喰らった者達の姿…彼女の鞭には肉を裂き、骨を砕く鉄の棘が付いているのだ。
「…まぁいいさ、ちょうど喉が渇いていた。店主、その果実を買おう…樽ごとだ。」
「へへへ!マイド!ではあっしも情報を!あっしの息子が巡砂衛兵やっておりましてね!!」
「ほぉ!それは期待が出来そうだな」
灼熱の砂漠の国「アチチア」に日が沈む。ラクダ達が歩を止めて座り込み、長い首を互いの体に寄せ合えば冷たい冷たい夜の風が吹き始めるのだ。
「まったく!あの行商人…ロウソクで炙ってやりたかったわ!」
「何故だいキャンドール?結構いい情報だったとおもうけどねぇ」
「違うわ姫様!あのジジイじゃなくて隣のツボ売り男よ!」
「…うん、私もおもた。」
眠るラクダに背を預けるスーエの左手に絡まるのは、キャンドールと呼ばれたプリプリ少女だ。彼女は得意の火魔法で焚火の火加減を調整しながら尊敬するリーダーに精一杯甘える。スーエの右手を握るのは言葉の拙い女の子。彼女キャンディもキャンドールの意見には賛成だった。
パチパチパチ…砂漠では木材が乏しいのだ。キャンドールの魔力で維持された焚火は彼女の心とシンクロして、怒ったような音を出した。
「みんな姫様を誤解してるわ!姫様が怒るのは悪い奴らにだけなんだから!!」
◆ ◇ ◆ ◇
砂漠ミイラ=デザート・マミーは最近話題の新モンスターだ。砂漠を渡る行商人や兵隊達がここ半年ほど前から目撃情報を上げている。
ミイラの例に漏れず白い布で全身を覆っており、額に眼のような宝石をつけ…何故か棺を引きずりながら昼の砂漠を彷徨っているのだ。人を襲ったという記録は無いが、砂漠クジラを一撃で葬り砂漠に血の雨を降らせたという情報から強さはSSクラスと認定された。
一般人はおろか、並の傭兵では発見時即時避難な認定である。ここまでは誰も悪くない…至極当然の判断と認定であった…が
「また出ました!デザートマミーです!今日で3度目!」
「街道閉鎖!街道閉鎖!西ルート上にデザートマミーが現れました!」
「緊急退避!緊急退避!南の商店街にマミー出現!!」
このSSモンスター、やたらと人里近くに出現するのだ。しかもワープでもしているかのようなランダム性で現れる為…なかなか討伐部隊がぶつけられない!そして発見時即時避難・即時街道閉鎖な認定の為…国の輸送網になかなか深刻な被害が出ている。
この事態に王はモンスターの階級決定と対策法を練り直すべく、冒険者ギルドの責任者を王宮に呼び出した。
「強さがSSなのはわかったが、現状人的被害が無いのならば対応を5類…Cモンスター(野犬単体)相当に下げても良いのではないか?」
「いやいや…何分未知のモンスターですので、安易に5類引き下げは…」
「ならば4類…いや3類…A(暴れ象)相当でもよいのではないか?そうすれば避難範囲も半分で済むし、閉鎖後の解放判断調査も現地職員で行えて簡易で済む」
「いやいやいやいやいや…王様!冒険者ギルドとしては安易な事は出来ません…何より情報!その為の調査を行っている段階でして…」
「いやいやいやいや…もう三カ月だぞ?ちょっとした災害でも街道の一本も復旧できそうな日数で国中あちこちで交通網が麻痺しているのだぞ?」
「えー…SS級モンスターの調査ですので、仕事を出せる冒険者も同じくS級やA級と決まっておりまして…人員が…」
「そこも含めて特例措置せにゃあかんじゃろ!5類=C(野犬)相当ならC級冒険者でも動かせるじゃん!!」
「いやいやいや…万が一の時の責任が…」
会議は三日三晩続き、落としどころとしては王令として人的被害が出なければ来月から現SSをA(暴れ象)に格下げ、その後一月毎にランクを下げてB(ヌーの群れ)→C(野犬単体)→D(浮浪者)→E
とし、最終的に半年間に人的被害が無ければ気象現象の一つとする事になった。…そしてデザートマミーの調査に関しては冒険者のランク制限を無しとした上で、正式に王からギルドへ破格の依頼金を乗せた調査・討伐の依頼を出したのだ。
「デザートマミーを見つけるには情報が何より大事だからね、雲の流れでさえ方向が決まっているように…雨や風にすら法則はある。出現ポイントと日時を合わせれば…何かしらが見えてくるはずさ」
「さすが姫様!」
「…私もおもた。」
果たして、彼女達はデザートマミーと遭遇する事が出来るのか!?デザートマミーの正体は如何に!?
◆ ◇ ◆ ◇
吸血鬼が最も恐れる物は太陽である。日陰の一つも無い灼熱の砂漠…まさか、こんな所を旅する事になろうとは…吸血鬼マーゾは包帯で紫外線防御した顔の下、汗だくでにやりと微笑んだ。
おろかな事だ、思いもよらなかった行動である。悠久の時を生きる吸血鬼達の中でも…こんな事を経験した者は居ないだろう。
崇高な経験は自信につながる…この苦行を成しえた時、きっと私は自己肯定感の炎に包まれた超ナルシストとして生まれ変わり、自身を森のカブトムシだと錯覚していた悲しき過去を消し去れるのだ…あぁ、なんという幸せ!明るい未来!
「ハァハァ…ご樹人様!ありがとうございます!!」
デザートマミーは立ち止まり、おもむろに引きずっている棺に感謝を述べた。
この棺の中にいるご主人、スーエ・プレット様に出会い恋したお陰で…こんなに人生が変化したのだ。
「…キモイ」
「ありがとうございます!」
「………アツイ」
主人が何といおうと構わない、あふれ出る心と言葉に嘘は無いのだ。
ザヴァァアア
砂をかき分けて現れる砂漠のモンスター、デザートワーム。デザートワーム。デザートビートル。
「おぉ…かつての同胞よ!良いところへ現れた!」
マーゾは100年間森で樹液を啜って暮らしていた頃を思い出す、あの時はカブトムシや芋虫たちと日々を過ごしたものだった。懐かしい…しかし!
【ブラッドソード・バーニングスラッシュ!!】
ジュバァアン!白い包帯から染み出た血が剣と成り…かつての同胞に似たモンスター達を切り刻む…そして
【ブラッドプラント・アグリーデザート】
ポッケから出した植物の種子をモンスターの亡骸にポイと投げれば、彼らの血を吸って砂漠の真ん中に涼し気な林がポンと生まれる。
血ではなく、樹液を吸い続けたマーゾは植物との親和適性を獲得していたのだ。
未だかつて、砂漠にオアシスを誕生させた吸血鬼がいただろうか?…否!絶対に居ない!!
「御主人様、オアシスを創りました。木陰で夜まで休みましょう!」
「……Zzz」




