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ラッパ吹きの人魚

 ♪

 プープカプップー 音が響けば

 プープカプップー 嵐が来るヨ

 プープカプップー 一つ目人魚

 プープカプップー 嵐を呼んだ


 遥か南の島国に伝わる人魚の話だ。小さな島で女達は木と鳥を育て、男達は海へと漁にでて暮らして居るその島では人魚を<嵐>セドナと呼び恐れていた。

 人魚伝説は世界中に数あれど、セドナほど恐ろしい人魚は居ない。水死体のようにぶよぶよの肌は青い色で、瞳はたった一つだけ。満月のような大きなその眼が顔の半分をしめている…、口は無い…、口の他にも鼻も耳も無い悍ましい怪物だ…隠れ場の無い海の上では絶対に人魚から逃げられはしない。だから島の人々は海の上で夜を明かす事はしないし、外国の船にもそう勧める…この海域では夜の海はタブーなのだ。

 人魚の恐ろしさは見た目だけでは無いという、<嵐>セドナと呼ばれる由来の魔力で人魚は嵐を呼ぶという。

 プープカプップー…ラッパの様な音が聞こえたら、男達は島へと逃げる。女達は木に網をかけ、鳥達の小屋を板で覆う。

 プープカプップー…逃げ遅れた男達が海に沈み、木はへし折られて鳥達もどこかへ攫われた。そんな悲劇が繰り返された。


 ある熱い年、余りに続く嵐によって…いよいよ困り果てた島の人々は、人魚に生贄を捧げる事にした。

 人魚は歌が好きなので、歌が得意な女の子が沖の岩島に置き去りにされた。

 満潮になれば沈むその島で女の子はめそめそと歌を歌う。めそめそめそめそと歌声は震え…そしてついにはただただ鳴き声に変わってしまった。


 プープカプップー

 そんな時に、昼間だと言うのに音が響いた。

 プープカプップー

 女の子の顔は白くなる。

 プープカプップー

 気付けば潮が満ち初めて…

 プープカプップー

 座った足先を波が撫でた。


 チャプン

 …女の子の後ろで音がした、きっと魚でもはねたのだろう。そんな現実逃避はもう出来ない、波がくるぶしを冷たく撫ぜて…どのみちもうすぐ死ぬわけだから。


「は…はじめましてセドナ様、私は島一番の歌い手です。」

 長に言われた通りの台詞を、せめて最後に口にする…振り返れば聞いた通りの、一つ目人魚がすぐそばにいた。

「ど…どうか嵐をお治めください…どうか…どうか今年の夏の間は…」


……

…………どうして?


 ゾクリとしたものが背筋を走る、口の無い筈の人魚の声が…今確かに頭に響いた。

「どうして?」とは何をさすのだろう?生贄が足りないというのならば…私は何のために死ぬのだろうか?

まだ沈んでいないのに、まだ確かに生きているのに…恐怖と虚しさで真っ白になった女の子は死人のように凍えていった。


……どうして逃げないの?嵐がくるのに…、せっかく教えてあげていたのに…


「え?」


 ズグリュっと変な音がして、人魚の胸から銛が飛び出た。青い血を流して倒れた人魚の後ろには女の子のお父さんが立っていた。

 村の反対を押し切って、船も無く娘を助けに来た男は泣きながら娘を抱きしめた。


 これは「ラッパ吹きの人魚」の伝説だ。遥か南の島国に伝わる人魚の話だ。

 怪物を倒した男は英雄として島へ帰ったが、果たして嵐はそれからも続いた…

 人魚の父とされる海の神様が怒ったとか、色々な話が出た訳だが…結局真相は分からない。

 ものの10日で父娘は再び生贄にされ、その後にも多くの捧げものも差し出されたが…結局嵐は変わらずに起きた。


 プープカプップー 人魚のラッパの音が無くなり

 プープカプップー 多くの人が逃げ遅れた

 プープカプップー 人魚は怪物なんかじゃなくて

 プープカプップー 優しい娘のなれはてだった


 今の時代、島々の南端に出来た灯台。そこにはラッパが置かれている。

 灯台守が空を見て、雨風をラッパで知らせるのだ。


 END

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