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残念!それは肉ジュバンだ!

「た‥ただいま‥」バタン

 水平線から沸き立つ雲が朝日を遮り、一命を取留めた吸血鬼が倒れ込むように根城へと帰った。

「あなた!良かった!」

 涙ながらに駆け寄るゾンビ妻、後ろの骨騎士はカタカタと無様な主を笑い震えている‥

 愛すべき家族と再開できた事を神に感謝しながら、戦利品一つなく帰った情けなさを家族に謝罪するしかない、悔しい‥悔しくて泣けてくる‥

「畜生!肉ジュバンめ!」

 スースーする歯ぐき、不死の力で傷は塞がったが‥なかなか‥牙は戻らない、戻らなかったのだ。“吸血鬼は歯が命”師匠の言葉が頭をよぎる‥


「肉‥ジュバン‥?」

 妻がキョトンと首をかしげた、確かに気になるワードだろう‥仕方ない、語るしか無い、語りたい‥あぁ!憎き肉ジュバン!


 ◆  ◇  ◆  ◇


 三日前、私は城を抜けて一昼夜北に飛び続け狩り場についたところであった。近所で人をさらえばあっという間に家が襲われてしまうため、私はいつも80キロ以上は離れた場所を狩り場にしている。しかもだ、人間には超えられない山や谷を超え、あわよくば国境を超えて仕事を熟す念の入れよう!

 力を過信し人に葬られた同胞達の噂は耐えないし、尊敬していた師匠も遠い昔に退治された。何より‥愛する人との出会いが私を酷く臆病にした、私の失敗は妻の死につながる私は決して失敗するわけには行かないのだ!


 バチコーン!


『クッ貴様‥何者だ!?』

 迂闊だった、夜の山を歩く赤い頭巾の女の子など居るはずが無かったのだ‥そう、普段は不衛生な乞食とか、酒臭い中年冒険者しか獲物に出来なかった為に‥女の子がいる!ラッキー!ぐらいな感じで近づいたら罠だったのだ!

 ヤブから出てきた屈曲な男に阻まれて、夜空へ殴り飛ばされてしまった。


『フフフ、国境沿いで被害が多いと聞いて張っていたのよ、お馬鹿な吸血鬼さんね』

『姫様、お下がりになって‥後はあっしが‥』


 どうやら罠にかかってしまったらしい、安全面を考えに考えて狩り場を選び続けた為に‥無意識に規則性が生まれていたと言うことだろう‥ぐ、しかし反省し次に活かす。安全第一逃げるが吉!


『‥あら逃げるの?賢明な事‥もしかして、アンデス国の海辺までかしら?』

 ピタッ

 背を向けかけたところ、小娘の言葉が胸を刺した。図星だ‥しかし‥何故?


『そのマフラーお似合いね、素敵な奥様でもいるのかしら?』

‥ッ!


 バチコーン!

 頭の奥が沸騰仕掛けた瞬間、ムキムキ男の拳が吸血鬼のドタマを狙った!人外のスピードで軽く躱し‥吸血鬼は頭に登った血を鎮める。

 逃げるべきである!‥その理由は小娘の危険性、根城に帰りスピード引っ越しを行うべきだから

 戦うべきである!‥その理由は小娘の危険性、僅かな邂逅にてここまで見抜いてくるハンターがいるならば、何処へ逃げてもいずれ見つかる!‥そして!


 バチコーン

 バチコーン

 バチコーン


 鍛え抜かれた肉体、洗練された技の数々‥しかし、所詮は人の域‥逃げる?そんな事は必要か?戦って勝てば済む話!


「計画変更なぞ不要だ!今夜の獲物は小娘お前だ!」

 霧のように男の前から姿を消して、瞬時に小娘の影から現れる!刹那!


『ニンニクシールド!』

 ザバァアァぁ!

「ぎゃあああ!」


 ニンニクの煮込み汁をぶちまけて、年頃の娘がニンニク臭臭にその身を汚し、吸血鬼はあわよくば死にかけた!ヤバい!この娘‥やはり危険だ!


「うぉおぉお!」

 娘から離れた所へ突っ込んでくる筋肉!

「煩い!まずは貴様だ!」


 ガブゥ!!


「‥!?」


 流れる様に拳を躱し、背後から羽交い締めにしつつクビ筋に噛み付いた‥しかし、おかしい‥肉を裂き、溢れる血で満たされる筈の口内は、血の味どころか男の汗の味すらしない!


「残念!それは肉ジュバンだ!」

バキィッ!

「ハヴァ!」

筋肉男が身をひねると自慢の牙がへし折れた。

ニンニク臭を身にまとう、赤い頭巾の少女が口を抑える吸血鬼を見下す。


「楔帷子入りの‥ね!」


  ◆  ◇  ◆  ◇


「うわーん!」

「よしよし、よく無事に帰って来れたわね、偉い!」

「カタカタカタ」


 話しひとしきり泣いてから、皆で新しい住処を探すことにした。

 そして、こうか不幸か牙を失った私は見た目完全な人間なので、夜間警備の仕事に付くことが出来‥あれ以来ハンターと戦う事はなくなったのだ。


 完



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