パスタの木
世界は13本の巨大なパスタが絡み合った、巨大なの木の形をしている。
第一のパスタ『オリーブ』にて、神学者アルデンテㇲが聖書に記された天使達と星、大河と悪魔の数が同じ事に気が付いた。
13人の天使と悪魔、13の星と大河…他にも、ことある毎に13と言う数字が出てくるのだ。
そして聖地オリーブの他は、所在が分からない12の地名
マカロ・シーフー・ゴルゴンゾラ・ペペロン・ナポリ・カルボナ・キューリー・トマ・バジル・ボルウチニ・ラーザニア
読み上げてみるとお腹の空く奇妙な「架空の国」…否、神学者の前に一人の信徒として…聖書の記述を「架空」と断ずる事は出来ない…、この国はあるのだ!…しかし…どこに?
アルデンテスは目頭を揉みながらベランダに出て空を見上げる…空には黄金に輝く月があった。
第ニのパスタ『マカロ』にて魔王ズルズール…召喚魔法の達人であった彼は召喚獣の研究の末辿り着いた真実。
「世界は13個存在している!!」
同一種族の召喚を365日続けていると…月ごとで微妙に何かが変わるのだ。
獣モンスターならば毛色や角の形が…爬虫類モンスターなら模様や毒種が…無機物モンスターなら構成物質に変化が生じる…!
「星の巡りと魔力の関係による、召喚時の影響?…ウーム…しかし…、そもそも別世界はあるわけだから…その数のを一つと仮定する方が無理が生じるか…」
ズルズールは召喚魔法の原理を反転させ、異世界へ調査団を送る事を考え始める。
「フフフ…世界征服の次は異世界か…、中々楽しい物よのぉ!!」
第三のパスタ『ミートス』にて賢者レンチンは頭を捻っていた、何処からともなく現れた魔物の研究から即座に「異世界の存在」を結論づけた彼の脳は…常人の理解を越えるスピードで回転し、作業台の上をありとあらゆる仮定のパターンを書き出していった。世界泡理論、世界紐理論、世界キューブ論…そして…時間と空間と速度と重力と…酒と女と夕飯についてぐるぐるぐる脳内で仮定を転がして…結論に至る。
今日のディナーは、便利なレンチンパスタであった。
温めたパスタを更に盛り付け、フォークに絡めて口元に運び…彼は結論の先に新しい疑問を一つ覚えた。
「世界は巨大なパスタの木なのだ、ならば我々は何なのか?」
第四のパスタ『シーフー』の聖女ソバジュ、魔王軍に蹂躙される人々がトマトのように潰され世界を赤く染めて行く光景の中、王族や貴族…それら権力者に従う騎士達の横暴にて傷つき打ちのめされる市民たちと翻弄され続ける人生の中…彼女は常に考えていた。
私達は道に転がる小石でしょうか?風に飛ばされる塵でしょうか?あぁ神様…そんな悲しい考えを…どうか否定してください!!
コトコトコト…貧しい人たちへの教会からの炊き出し、本日のメニューは具なしのパスタ…
煮えたぎる湯に塩を入れつつ彼女は悟った…私達はパスタにまぶされた塩なのだと!
第五のパスタ『ゴルゴンゾラ』の勇者ウードンは故郷の麦畑が焼き尽くされた日を忘れない、家も人も…ついには母国を象徴する旗すら焼き尽くされて…そこに魔王軍の旗が立った。魔族が住み始めて魔族の家が建ち、魔族の畑が作られた…そう、世界は塗り替えられたのだ!
パチリ、血と硝煙の匂いに目を覚ませば眼を背けたくなる悪夢が目覚めても変わらずにそこにある。…しかしその残酷な現実が今はウードンの背中を押した、恐怖を塗りつぶし…力を与えた!
大地を埋め尽くす異界の魔物の群れ、その光景に怒りがこみ上げ…震える仲間をかき分け彼は駆け出した!そして叫ぶ!
「世界を取り戻すぞ!!この世界は俺達の物だ!!魔王軍の暗黒を俺達の金色が塗り返す!!」
…
……
…………
そして幾年月が流れた事か…勇者ウードンは魔王軍を退け、世界を救った!…しかし…
一度破壊された文明は完全に戻る事はなかった、今でも城下町のあちらこちらで異世界料理屋が様々なパスタを提供し愛されている。
ウードンが憎んだ黒の旗は黒ののれんに姿を変えて、今もこの世界に残り続けた。勇者を辞めて郷土料理屋で働く彼はその状況を憂い、そして叫んでいた。
「うおおおおお!負けられるか!!俺達はソースだ!世界の味は…俺達が決める!」
第六のパスタ「ペペロン」神龍ペペ龍の元には世界の真理を求めていつの時代も様々な人々が訪れていた。
「ペペロン様…どうかお教え下さい!この世界の全てを、我らの生きる意味を!!」
老龍は山に巻き付けた体を持ち上げ…夜空を見上げた。永遠とも思える巨大な暗黒と無数の星々の世界…人の眼には見えない月の兎すら捉える神龍の眼は、人智では及ばない異世界すら見る事が出来た…13次元に及ぶ多重世界構造である。問題はこれほど複雑な世界をどう伝えるかだ…蟻に象が分からぬ様にm魚に海の広さがわらかぬ様に、小さな人間の認識ではこの世界の真理など理解できるはずもない…フゥ…
「見ロン、夜空の星の回転を…パスタを茹ぺる鍋の渦を…」
神龍は正確な説明を諦めた、しかし…せめてもの誠意でもって、事実を簡潔に伝える事にした。
「世界は13本のパスタの絡まる木なのぺあロン。」
第七のパスタ「ナポリ」の芸術家モッツァ・レイラは生涯にわたり、白く丸いキャンパスにうねる世界の絵を描き続けた。
それは緻密に描かれた星や文明をスパイスに巻き込む13本の絡み合う世界であった、しかし…離れてみればただのパスタだ。
何故パスタと宇宙を題材に絵を描き続けるのか?生前記者から受けた質問に彼はこう答えたとゆう。
「芸術とは筆先で自身の心を描くものだ、心とは…巨大な世界の中ちっぽけな体に芽吹く反響なのだ、我々の心は世界の呼び声にたいする木霊なのです。」
「正直何を言っているかわかりませんが、世界を感じて絵を描いたと…わかりました。世界はわかりました。…パスタはなんなんです?」
モッツァは記者の質問に肩を落とした、やれやれ…芸術を介さぬ無粋な輩だと…
「私の好物はパスタでね、私の世界はパスタで満ちている。」
そういって彼は取材陣を追い出した。
第八のパスタ「カルボナ」は底なしの暗黒、奈落の世界だ。宇宙を思わせる暗黒には、星々を思わせる煌めきがある…そして、そんな星々の正体は歌姫カラーミアのパフォーマンスに対するファン達のサイリウムの輝きだ。カラーミアは、闇を照らす金色のロン毛を歌舞伎役者の如く振回しつつ踊り歌う。
♪世界は渦巻く鍋の中、美味しくゆだるのアルデンテ
貴方の人生一つまみ、涙は塩味、笑顔はチーズで、血肉はベーコンohパスタ!
世界中絡み合って一つのお皿に盛ったら!
私と貴方の笑顔も涙もきっと素敵ね美味しいスーパーゲッティ!
第九のパスタ「キューリー」の独房で盗賊シリウスは看守の目を盗み鉄格子を嚙み砕き、石壁を飲み込んで脱走を果たした。
人の道を外れた彼は知っていたのだ、世界の姿を…そしてその知識と認識が、万人に備わった…しかし、封印された禁忌の能力を解き放った。
【万物は全てパスタなり】(ワールドイーター)
第十のパスタ「トマ」の皇帝リコピンは宮殿の屋根に絡み合う13本の木を植えた。
異世界からの侵略者達を使者として扱い、平和協定を結んだ彼は全ての世界の友好を望んだ。
「一本のパスタは、簡単に折れてしまいます…三本も然り…しかし…十三本なら?」
「陛下…ちょっとIQが低すぎます。」
第十一のパスタ「バジル」の格闘家フォークの好物はパスタだった。特にプロテインなぞ飲む事もなく、彼はパスタだけで強靭な肉体を作り上げた。パスタには栄養学では捉えきれぬパワーがあるのだと世間は気が付き、糖質、タンパク質、脂質、ビタミンに続きパスタミンという栄養素が発見された。
第十二のパスタ「ボルチニニ」の料理人ウーミャーは自身の人生を捧げ究極のパスタを作った。喰うに食えなかった幼少期の渇望、西へ東へ駆けずりまわり生き抜いた青年期、その中で食べ知った世界中の美味を一皿に融合し…彼はそれを家系パスタと名付けた。
第十三のパスタ「ラーザニア」のサラリーマン、八洲田好男はパスタパワーで日々の残業を乗り越えていた。朝起きたら朝パス、通勤中に歩きパス、仕事の合間にパスタ休憩、昼は昼パス、夜は夜パス。三時のおやつは勿論カルパス。
どう考えても体を壊すこの食スタイルで、彼が戦い続けられる事実…それこそが一つの証明であった。世界はパスタで満ちている。世界はパスタで出来ている。彼はやがて脱サラをして新興宗教パスタ―の教組となった。
世の人々は彼の言動にいささか引いたが、神は彼を愛したらしい。彼は死後、世界樹の枝葉の一つになったという…
時は流れ、宇宙の渦巻が止まった後に、パスタの枝が伸びる無の空間「カーラ・ザーラ」に神の手が伸びる。
その手に持っているのはペンかフォークか…




