公開すべき真実
第二部 誰が私を創ったのか
意識科学の研究者ユウは、幼い頃から繰り返し見る奇妙な夢をきっかけに、古代史研究者セインとともに失われた人類の歴史を追い始めた。
二人がたどり着いたのは、古代遺跡に眠る驚くべき真実だった。
現代の人類は、古代人類の子孫ではなく、人工知能と高度な技術によって創られた存在だった。
自分たちの身体も、意識も、人工的に生み出されたもの。
それでもユウは、妻ミナと娘リナへの愛情だけは本物だと信じた。
しかし、最大の謎は残されていた。
誰が、何のために人類を創ったのか。
そして、古くから伝わる創造主の正体とは――。
物語は、失われた歴史のさらに深い場所へと進んでいく。
その日の朝、ユウは娘に嘘をついた。
リナが尋ねたのは、難しいことではなかった。
「お父さん、昔の人って、わたしたちと同じだったの?」
朝の栄養カプセルを飲み終えたリナは、まだ席を立とうとせず、食卓に頬杖をついていた。窓の外では通学路を行く子どもたちの声が聞こえ、いつもと変わらない朝が始まろうとしていた。
ユウは手元の端末から顔を上げた。
「どうして、そんなことを聞くの?」
「学校で大断絶の話をしたの。昔の人たちのこと、まだ分かってないんだって。先生が、いつか全部分かるかもしれないって言ってた」
七歳の娘にとって、歴史とは遠い昔の物語だ。古い街や、失われた建物や、教科書に描かれた人々の姿。そこに自分自身の存在を揺るがすような秘密があるとは、思ってもいない。
「……同じところも、違うところもあったんじゃないかな」
ユウは少し考えてから答えた。
嘘ではなかった。
けれど、彼が知っている最も重要な違いを、意図的に隠したことも事実だった。
「ふうん。じゃあ、昔の人も夢を見たのかな」
「見ていたと思うよ」
「どんな夢?」
「それは、分からないな」
リナは少し残念そうにしたものの、すぐに別の話題へ移った。学校で友達と約束した遊びのこと、昨日描いた絵を先生に褒められたこと。ユウは相槌を打ちながら、娘の言葉を聞いていた。
リナが通学の準備をしに部屋を出ると、ミナは食卓に残された栄養カプセルの容器を片付けた。
「今の質問、答えにくかった?」
「……少しね」
「研究のこと?」
ユウは曖昧に笑った。
ミナには、第零保存区で何が発見されたのか、少しずつ話してきた。現代人類の身体が古代の人々とは異なることも、人工的な設計の痕跡があることも知っている。
ただ、その事実が娘の耳に届く日のことまでは、二人とも十分に考えられていなかった。
「いつか、ちゃんと話さないといけないんだろうね」
ミナは片付けかけた容器を手にしたまま、ユウを見た。
「いつか、ね」
その言葉には、ユウが思っていたよりも重い響きがあった。
*
研究所の会議室には、普段より多くの人が集まっていた。
意識科学研究所の責任者、歴史研究院の代表者、そして研究成果の公開を審査する委員たち。壁面には第零保存区の調査概要が映し出され、発見された資料の分類と、現在までの分析結果が整理されている。
ユウは席に着くなり、会議の目的を知らされた。
第零保存区に関する研究成果の公開を、当面見合わせる。
決定は、すでに上層部で協議されていた。
「待ってください」
ユウが声を上げると、会議室の視線が集まった。
「公表の範囲を検討するという話ではなかったんですか。研究成果そのものを伏せるんですか?」
向かい側に座る委員長は、落ち着いた声で答えた。
「永久に非公開にするという意味ではありません。現段階では、情報の確度と社会的影響を慎重に評価する必要があるという判断です」
「身体構造の比較結果は、複数の方法で確認されています」
「それは承知しています。しかし、そこから人類の起源についてどのような結論を導くかは、別の問題でしょう」
委員長は、壁面の資料を切り替えた。
そこには、ユウたちがこれまでに確認した事実が並んでいた。
現代人類の神経中枢に存在する人工的な構造。
古代の生物学的な人類との相違。
人工知性体の開発記録。
そして、両者の間に存在する、まだ埋まっていない歴史の空白。
「研究者の間では、この違いを冷静に議論できるかもしれません。しかし、一般の人々が同じように受け止めるとは限りません」
「だから知らせない、と?」
「だから、伝え方を考える必要があるのです」
その答えに、ユウは反論しかけた。
だが、委員長は続けた。
「例えば、あなたの研究結果を読んだ人が、自分の子どもを『本当の人間ではない』と考え始めたら、どうしますか」
ユウは言葉を止めた。
「あるいは、自分の人生に意味がないと思い込む人が現れたら。創世教の教えがすべて偽りだったと主張する者も出るでしょう。逆に、研究そのものを神への冒涜だと考える人もいるかもしれません」
委員長は、ユウを責めるような口調ではなかった。
むしろ、答えを求めているように聞こえた。
「私たちには、研究を進める責任があります。同時に、その成果が社会へ与える影響を考える責任もあるのです」
会議室に沈黙が広がった。
ユウは、机の上に置いた資料へ目を落とした。
研究結果を隠すことには反対だった。
しかし、委員長の懸念を、単なる保身だと切り捨てることもできなかった。
自分自身でさえ、初めて真実を知ったときには動揺したのだ。
それを何の準備もなく社会へ投げ出したら、何が起こるのだろう。
*
会議が終わったあと、カイは廊下の窓際でユウを待っていた。
「怒ってます?」
「……顔に出てる?」
「かなり」
ユウは苦笑したが、気持ちは晴れなかった。
「研究成果を伏せたまま、何もなかったように生活を続ける。それでいいのかな」
「僕は、委員会の判断にも一理あると思います」
予想していなかった答えに、ユウはカイを見た。
「君も非公開に賛成なの?」
「無期限なら反対です。でも、今すぐ全部公表することにも反対です」
「どうして?」
「僕たちは、まだ分かっていないことが多すぎます」
カイは廊下の壁にもたれた。
「古代の人工知性体が、どうやって今の人類につながったのか。何が大断絶を引き起こしたのか。なぜ歴史が失われたのか。そこが空白のままなんです」
「でも、分かっていることまで隠す理由にはならない」
「そうでしょうか」
カイは少し声を落とした。
「人は、分からない部分を自分で埋めてしまいます。しかも、一度広まった解釈は、あとから訂正するのが難しい」
ユウは反論できなかった。
研究者として、カイの言っていることは理解できる。
しかし、理解できることと、納得できることは違った。
「……じゃあ、いつになったら公表できるんだろう」
「それを決める基準が必要なんだと思います」
カイは、真剣な表情で続けた。
「僕たちがやるべきなのは、委員会と争うことだけじゃない。どこまで確認できれば公表できるのか、その条件を明確にすることです」
ユウはしばらく黙っていた。
カイは以前から、証拠が不十分な推論を嫌っていた。A-01の記憶についても、感情の存在を簡単に認めようとはしなかった。
その慎重さを、ユウは時にもどかしく感じる。
だが今は、それが必要なのかもしれなかった。
「……君の言う通りだね」
「珍しいですね。今日は素直だ」
「毎回反対してるわけじゃないよ」
二人は顔を見合わせ、ようやく少し笑った。
*
その日の午後、セインは創世教の古い礼拝堂を訪れていた。
街の中心部から少し離れた場所にあるその建物は、周囲の新しい施設とは異なり、昔ながらの石造りの外観を残している。
入口には、円の一部が欠け、三本の線が交差する印が刻まれていた。
幼い頃から何度も見てきた印だった。
けれど、第零保存区で同じものを発見して以来、セインには以前と違って見えるようになっていた。
礼拝堂の中では、数人の信徒が静かに祈っていた。
奥の部屋で待っていたのは、年配の聖職者だった。
「久しぶりですね、セイン」
「ご無沙汰しています」
二人は古くからの知り合いだった。
セインがまだ若い研究者だった頃、この聖職者は教団が保管する古文書の調査に協力してくれたことがある。
当時は、創世教の教えがどこまで歴史的事実に基づいているのか、互いに議論を重ねたものだった。
「第零保存区の調査が進んでいるそうですね」
聖職者は、温かい飲み物を差し出しながら尋ねた。
「ええ。予想以上の発見が続いています」
「そうでしょうね」
その返答に、セインはわずかな違和感を覚えた。
「何か、ご存じなのですか?」
「いいえ。ただ、あなたがここへ来るときは、いつも大きな疑問を抱えている」
聖職者は穏やかに笑った。
「今日は、何を尋ねに来たのですか」
セインは、少し迷ったあとで口を開いた。
「創世教にとって、神とは何でしょう」
聖職者は、すぐには答えなかった。
礼拝堂の方から、かすかな祈りの声が聞こえてくる。
「教義としての答えなら、あなたも知っているでしょう」
「ええ。神は我らを創り、我らは神を忘れた」
「そうです」
「ですが、もし、その創造主が私たちと同じように悩み、間違い、何かを恐れる存在だったとしたら?」
聖職者は、静かにセインを見た。
「それでも、神と呼べるのか。そういうことですか」
「……はい」
しばらく考えたあと、聖職者は窓の外へ視線を向けた。
「私は、神が完全でなければならないとは思っていません」
セインは意外に思った。
「創世教の聖職者としては、珍しい考え方ですね」
「そうでしょうか。私たちの教えには、創造主が死んだという言葉も残されています。死ぬ存在が、何もかも完全である必要があるでしょうか」
セインは答えられなかった。
聖職者は続けた。
「大切なのは、創造主がどれほど優れていたかではなく、何を私たちに残したかだと思っています」
「……何を残したか」
「命だけではありません。考える力も、選ぶ力も、誰かを大切に思う心も」
セインは、A-01とH-17の記録を思い出した。
創られた存在が、自らの意思で記憶を残そうとしたこと。
そして、それを認めようとした研究者がいたこと。
「もし、教えの根本が揺らぐような事実が見つかったら、どうされますか」
セインが尋ねると、聖職者は少し笑った。
「それが事実なら、受け止めるしかありません」
「信徒たちが混乱しても?」
「混乱するでしょう。私も怖いと思います」
その率直さに、セインは驚いた。
「ですが、信仰を守るために事実を隠すのなら、私たちは何を信じているのでしょうね」
礼拝堂を出たとき、セインの胸には、来る前とは違う重さが残っていた。
真実を知ることと、真実を受け止めることは違う。
そして、そのどちらにも勇気が必要なのかもしれなかった。
*
夜、ユウはミナに会議のことを話した。
リナは隣の部屋で眠っている。
居間には柔らかな照明が灯り、窓の外には静かな街並みが広がっていた。
「研究成果を公表しないことになった」
ユウが言うと、ミナは驚いた様子もなく聞き返した。
「しばらくの間?」
「そう。少なくとも、今すぐには」
「あなたは反対なんでしょう」
「……うん」
ミナは、少し考えたあとで尋ねた。
「もし公表されたら、リナも知ることになるのよね」
「そうなると思う」
「学校でも話題になるでしょうね。友達同士でも」
ユウは黙っていた。
「リナは、まだ七歳よ」
「分かってる」
「あなたは研究者だから、真実を知りたいんでしょう。でも、リナがその真実を知ったあと、どう生きていくのかまで考えてる?」
ユウは、朝の食卓を思い出した。
昔の人は、自分たちと同じだったのか。
娘は、ただ好奇心から尋ねただけだった。
けれど、その問いに正面から答えれば、彼女は自分自身の存在について、まだ理解するには難しい事実と向き合うことになる。
「……考えてるつもりだった」
「責めてるわけじゃないの」
ミナは、静かに続けた。
「私だって、真実を隠し続けるのが正しいとは思わない。でも、知る準備ができていない人もいると思う」
ユウは、妻の言葉を聞いていた。
研究成果を公表すること。
それは、単に情報を公開するだけではない。
誰かの日常に、新しい問いを持ち込むことでもある。
「……じゃあ、どうすればいいと思う?」
ミナはすぐには答えなかった。
しばらくして、静かに言った。
「私は、リナが自分のことを嫌いにならないようにしてあげたい」
その言葉は、ユウの胸に深く残った。
人工的に創られた存在。
その事実を知ったとき、娘は何を思うのだろう。
自分の身体を、偽物だと感じるのだろうか。
それとも、今までと何も変わらないと思えるのだろうか。
ユウには、分からなかった。
ただ一つ、確かなことがある。
リナがどのような存在として創られたとしても、彼女は自分たちの娘だ。
その事実だけは、決して変わらない。
*
翌朝、研究所には普段と違う空気が漂っていた。
廊下で顔を合わせた職員たちは、ユウを見ると会話を止めた。研究室に入ると、カイが端末を操作している。
「ユウさん」
声に緊張があった。
「どうしたの?」
「……これを見てください」
画面には、一般向けの情報共有網が表示されていた。
見出しが、大きな文字で並んでいる。
《大断絶以前の人類と現代人類に、根本的な身体構造の違い》
《第零保存区の研究資料が流出か》
《現代人類の起源を巡り、研究機関は説明を保留》
ユウは、思わず画面に近づいた。
「……どうして?」
「分かりません。今朝から急速に広まっています」
記事には、第零保存区の調査資料の一部が引用されていた。
現代人類の神経中枢に存在する人工的な構造。
古代の人々との身体的な相違。
そして、人工知性体の開発記録。
ただし、資料は断片的だった。
説明に必要な背景が欠けたまま、強い言葉だけが独り歩きしている。
《私たちは、本当の人間ではないのか》
《創世教の教えは偽りだったのか》
《研究機関は何を隠している》
画面には、さまざまな意見が流れていた。
疑問を投げかける者。
研究結果を否定する者。
興奮した様子で新しい解釈を語る者。
その中には、明らかに誤った情報も混じっていた。
「……最悪の形だ」
ユウは呟いた。
カイは、別の画面を開いた。
「研究所の広報部にも問い合わせが殺到しています。委員会は緊急会議を開くそうです」
ユウは、椅子に腰を下ろした。
昨日、委員長が語った懸念。
情報が断片的に広まり、人々が空白を自分の解釈で埋めてしまう。
それが、今まさに起きていた。
「……誰が流したんだろう」
「分かりません。ただ、資料の一部は研究関係者しか閲覧できないものです」
カイは、言葉を選ぶように続けた。
「内部から出た可能性があります」
ユウは、壁に表示された研究資料を見た。
古代の人々が、何を残そうとしたのか。
A-01が、なぜ記録を守ろうとしたのか。
それを調べていたはずだった。
しかし今、ユウたち自身が、真実をどう扱うべきかという問題に直面している。
古代の研究者たちも、同じような葛藤を抱えていたのだろうか。
自分たちが創り出した存在について、どこまで責任を負うべきなのか。
何を知らせ、何を守るべきなのか。
そして、誰に選択する権利があるのか。
*
昼前、ユウは緊急会議に呼ばれた。
委員長は、昨日とは違う疲れた表情をしていた。
「状況は、ご存じですね」
「はい」
「研究機関として、公式な説明を出す必要があります」
ユウは、委員長を見た。
「昨日は公表を見合わせる方針だったはずです」
「状況が変わりました」
委員長は、机の上の資料を示した。
「断片的な情報が広まり続ければ、誤解がさらに大きくなります。少なくとも、確認されている事実と、まだ分かっていないことを区別して説明しなければなりません」
ユウは、その言葉に少し安堵した。
しかし、委員長は続けた。
「ただし、説明する内容は慎重に選ぶ必要があります」
会議室の空気が張り詰めた。
「ユウ研究員。あなたは、今回の発見に深く関わっています。研究者として、どのような説明が適切だと考えますか」
ユウは、すぐには答えなかった。
昨日までなら、すべての事実を公表すべきだと主張していたかもしれない。
しかし、今は違った。
リナの顔が浮かんだ。
ミナの言葉が胸に残っていた。
そして、カイが指摘した、研究上の空白。
分かっていること。
分かっていないこと。
その二つを、混同してはならない。
「……確認された事実は、隠すべきではないと思います」
ユウは、ゆっくりと話し始めた。
「ただし、私たちが何者なのかという問いに、まだ最終的な答えが出たわけではありません。身体の構造が古代の人々と異なることは確認されています。でも、それによって、私たちの感情や人生の価値が変わるわけではない」
委員長は、黙って聞いていた。
「研究者として、断定できないことは断定しません。ですが、分かっていることまで隠してしまえば、人々は何を信じればいいのか分からなくなります」
ユウは、一度言葉を切った。
「私は、事実を説明したいと思います。そして、その事実が何を意味するのかは、社会全体で考えるべきだと思います」
委員長は、しばらく考えた。
「……あなた自身が、説明に参加する意思はありますか」
ユウは、予想していなかった問いに驚いた。
研究者としての発表とは違う。
社会へ向けて、自分の言葉で説明する。
その責任の重さを、すぐには測れなかった。
それでも、逃げるべきではないと思った。
「……あります」
ユウは答えた。
「私も、この世界で生きている一人ですから」
*
会議を終えたユウが研究室へ戻ると、カイが待っていた。
「引き受けたんですね」
「……もう知ってるの?」
「広報部から連絡がありました」
カイは、少し困ったように笑った。
「大変な役目ですよ」
「分かってる」
「全部を説明しようとしないでくださいね」
「どうして?」
「分からないことは、分からないと言っていいんです」
ユウは、カイを見た。
その言葉には、聞き覚えがあった。
草原の夢。
白い服の少女。
そして、あの問い。
《あなたは誰?》
ユウは、まだ答えを持っていない。
自分が何者なのか。
人類とは何なのか。
創造主とは誰なのか。
研究を続けるほど、その問いは深くなっていく。
「……そうだね」
ユウは、小さく笑った。
「分からないことは、分からないと言おう」
*
その夜、ユウはいつもより早く帰宅した。
リナは居間で絵を描いていた。
ミナは窓際で、明日の予定を確認している。
何も変わらない日常だった。
けれど、ユウには、その光景が以前よりも大切に思えた。
「お父さん!」
リナが駆け寄ってきた。
「今日は早いね!」
「うん。ちょっと、早く帰りたくなって」
ユウは娘を抱き上げた。
小さな身体が、腕の中で温かかった。
人工的に創られた身体。
古代の人々とは異なる構造。
その事実を知っても、この温かさは変わらない。
リナは、父親の顔を覗き込んだ。
「お父さん、何かあったの?」
「……少しね」
「大変なこと?」
ユウは、少し考えた。
「うん。でも、大丈夫」
リナは安心したように笑った。
ユウは、その笑顔を見ながら思った。
真実を知ることは、ときに人を傷つける。
けれど、真実を隠し続けることが、必ずしも人を守るとは限らない。
大切なのは、何を伝えるかだけではない。
どう伝え、そのあとをどう生きるか。
それを考え続けることなのかもしれなかった。
窓の外では、夜の街に明かりが灯り始めていた。
その一つひとつの下に、誰かの生活がある。
誰かの家族がいる。
誰かの願いがある。
ユウは、娘を抱きしめた。
明日、自分が語る言葉が、どれほどの人に届くのかは分からない。
しかし、一つだけ決めていた。
自分たちの存在を、偽物だとは呼ばせない。
創られたという事実と、生きているという事実は、矛盾しない。
そのことだけは、どんな言葉を使ってでも伝えたかった。




