1 天授の儀
「グランディス・サンフォード。――この者には天より《雷の適性》を授けられた」
厳かな雰囲気の中、司祭の威厳ある声が響く。
それを教会の内陣にひざまずいている俺は、雷の魔法適性と聞いて思わずガッツポーズをして、
「よし!」
とつぶやいた。
歓喜に浸りつつ、立ち上がり両親が待っているであろう身廊へ振り向くと、自分の予想とは裏腹に、二人ともこの世の終わりのような表情をしている。
おや?と思い周囲の貴族を見回すとこちらも皆気まずそうな顔をしている。
本来、伯爵家の子女が適性を授かったあとは大きな拍手が数分間鳴り響くのが慣例であるが、そういえばほとんど鳴っていなかったような......。
「たはは......」
教会の気まずい雰囲気に俺はどんな表情をすればよいかわからず、思わず乾いた笑いでごまかそうとした。
これはもしかしてとんでもないハズレ魔法適性を引いてしまったのかもしれない。
◇
「まさかよりにもよってグランが雷の魔法適性を授かるとはな」
魔法適性を授かる《天授の儀》からの帰り道、俺は馬車の中で父であるブランディス・サンフォードから雷魔法についての説明を受けていた。
「教会での反応を鑑みるに、雷はハズレの適性ということでしょうか?」
「うむ...。貴族の、伯爵家の三男としてはハズレの適性と言えるだろうな」
俺の質問に親父はどう答えれば良いのか困った様子であった。
どうも単純にハズレ適性というわけでは無さそうだが、どういうことだろう?
「あなた。ここは私から説明した方がいいのでは?」
凛とした声で会話に入ってきたのは母であるアレクサンドラである。
これでも4児の母であり今年で39歳となったはずだが、どう見ても20代前半にしか見えない若々しい容姿をしている。
「まず、前提としてサンフォート家のような伯爵家は長男が家督を継ぎます。ここまではわかりますよね」
「はい。もちろんですお母さん」
「次男は家督を継ぐことは基本的にありませんが、長男に何か不測の事態が生じたとき家督を継ぐために上級魔法学校に通います。
貴族家の当主となるためには、上級魔法学校を卒業するのが慣例だからです。」
なるほど。つまり三男である自分を上級魔法学校に通わせる必要がサンフォード家に無いということか。
「三男以降は中級魔法学校まで通わせ、卒業後は本人の適性に合わせて職場を斡旋するのが習わしとなっています。
例外が従軍魔法師になる場合で、その場合は上級軍学校に進学します」
「本人の適性とはつまり魔法適性のことですよね?」
「ええ、もちろんです。例えば地の魔法適性をもっていれば土木関係の職が斡旋されることが多いです。火の適性であれば焼却施設や鍛冶場での採用もありますね。
あとは、水の魔法適性の持っていれば職に就かずとも水を生成して売るだけで生計を立てられます」
「水を売るだけで生計を立てられる!?そんなに簡単な商売があるのですか?」
「ええ、魔法を使うと不純物の混じっていない『純粋な水』を生成できるのよ。
それが非常に単価が高く売れるから、水の魔法使いというのは一番楽に稼げる魔法使いとして有名ね」
『純粋な水』というのは精製水みたいなのだろうか?それとも安全な飲み水ということだろうか?
どちらにせよ、この世界では魔法が貴族と一部の平民によって独占されているようなので、魔法によって生成されたものの価値が高いのかもしれない。
......ん?まてよ、雷の魔法って何かお金になる使い道はあるのだろうか?
「あの、雷の魔法ってどんな職業に就くことが多いのですか?」
「......軍の魔法団ね」
「それ以外は?」
「......。」
つまり、基本的に軍に入る以外、就職の選択肢が無いということか。
「残念ながら雷の魔法適性を持つ魔法使いはほぼ全員軍に入隊しているわね......。特に強制されているわけでは無いのだけれど、他に稼ぐ方法が無いから......」
「隠していたわけでは無いが、実はアレクサンドラも平民出身の雷魔法使いで元軍人だ」
「母さんが平民出身の元軍人!?」
言われてみれば母さんは性格も言動も所作もあまり貴族の令嬢っぽくない。平民出身で軍の魔法団で成り上がって玉の輿に乗ったと言われると納得感がある。
「グランが従軍魔法師どう想像しているかは分からないけれど、軍の魔法師団は悪い就職先じゃないと思うわ。私が居たのは10年以上前になるけど、軍の中でもかなりの高給取りだし、宮廷魔法使いや官僚よりも給金が高いわ。
その分、平時の訓練は大変だし、戦となったらまず前線に行くことになるけどね。」
「アレクサンドラの言う通りだ。雷適性以外の魔法使いでも給金目当てに若いうちは軍に入隊する者も多い。そもそも前線に出て闘う一般の兵士と違って魔法使いは基本的に後方からの火力支援が主な仕事だからな。危険も一般兵に比べたら低い。」
「なるほど...。」
確かに、後方から魔法を打つことが役割であれば、そこまで危険性は高くないかもしれない。でも、正直なところ軍に入るということは軍という組織のルールに縛られるということ。
折角前世に無かった魔法を使える世界に転生したのだから、世界を観て回って冒険したり、自由に人生を謳歌したい。そもそも元日本人の感覚として戦争で人を殺す、ということに抵抗がある。
「最終的な進路というのは中級魔法学校卒業時に決めることになるのですよね?
それまでに軍に入るかどうかを決めるということですか?」
「正確には卒業する半年前までに進路を決定するわ。上級魔法学校や上級軍学校の入学試験もその時期に実施されるはずよ。」
「わかりました。ではその時までに自分の将来を考えます。」
とはいえ、実質的に上級軍学校に入学する以外の選択肢はなさそうだが...。
「まあ、三男が上級軍学校に進学するケースは少ないが、稀に優秀な生徒を中級魔法学校が上級魔法学校に推薦するケースがある。
これは貴族・平民に関係なく推薦され、当然グランにもチャンスはある。
上級魔法学校を卒業すると、軍に入る以外にも宮廷魔法使いや官僚、魔法学校の教師などの職に就くことができるようになる。絶対ではないがな」
事実上従軍魔法師しか選択肢が無いと知り、あからさまに落ち込んでいた俺に対し、親父が露骨にフォローを入れてくる。
「まずは領地に帰って雷魔法の練習をしましょう!将来どうなるかの前に、雷魔法を高いレベルで習得しないと話にならないわ。
私が昔師匠から教わった方法でみっちり鍛えてあげるから覚悟しなさいよグラン!」
母さんも気落ちする自分に気遣ってか明るい口調で今後について語ってくれている。
いつまでも自分が落ち込んでいればこの場の空気も悪くなるし、まずは自分のモチベーションアップのためデカい目標を二人に共有しておこう。
「将来のことはわからないけど......、俺、まずは世界一の雷魔法使いになるよ!」
馬車の中、勢いよく立ち上がりながら拳を天井目がけて突き上げ高らかに宣言した。
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