表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やっぱり熊が好き  作者: 雨後乃筍
エピローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/25

……隆

 隆の退院は結局年明けとなった。その後も定期的に通院を続けている。一人では生活も難しいので、退院後は実家に戻っていた。結局左手は麻痺が残り、まともに動かすことはできない。


 医者は「リハビリ次第」とは言っていたが。右手は、手首を粉砕骨折していた。日常生活に支障はないが、可動域が著しく狭まっていた。その後、徹のことは不明のままだ。やはりあそこで焼死したのか。


(レストランは予約したし、その、ホテルも)


(いや、気になるな。もしかしたら行方不明の老人かもしれない)


 徹は底抜けのお人好しだった。自分が遅刻しそうな時でも、道に迷っている人に声を掛けるような……。


 あの時、自分が止めていれば。この後悔を何度繰り返しただろうか。

(行方不明の老人かもしれない)

 徹が言った言葉が、いつまでも耳に残っていた。


 あの時、自分たちで行動せずに警察を呼べばよかった。

 無理矢理にでも、その場を離れればよかった。

 殴ってでも、止めればよかった。

 答えの出ない後悔が、頭に浮かんでは消えていく。


 歩行者用の青信号が点滅していた。


 止まっていた車が一斉に動き出す。その車列の中に、見覚えのある一台が紛れていた。


「徹!?」


 思わず声に出ていた。青いシビックが目の前を通り過ぎていく。隣のカップルが不思議そうにこちらを見てきた。あれ以来、青いシビックを目にするたびに、徹が乗っているかもしれないと錯覚してしまう。


 信号が再び青に変わる。待っていた歩行者が、一斉に歩き出していた。スマホを取り出して、GoogleMapを開く。目的の家まで、もう直ぐだった。


 ◇◇◇◇◇


 目の前にあるのはごく普通の一軒家だった。だが、薄曇りの天候と相まって寒々しい雰囲気がある。今日は、徹の彼女の家を訪ねてきていた。あの時、後部座席にあったプレゼント。あれを徹の代わりに渡そうと思っていた。


 ドアのチャイムが鳴り響き、顔を覗かせた彼女はひどく驚いていた。


 ずっと、どう話しかけたものか考えていたが、ストレートに言うことにした。自分には徹のまねはできない。


「これ、徹があなたのために買ったものです……あいつ、クリスマス楽しみにしていたから……」


 そう言ってアクセサリーショップの袋を彼女に渡すと、寂しそうな顔をしてそれを両手で受け取っていた。


「……まだ、実感がないんです。彼がいなくなったことに……」


 それは自分だって同じだった。実感などない。車が止まる音がすると、徹がいつものように青いシビックで来ている。そんな妄想にかられて、毎回窓から道路を見てしまっていた。


「……俺もです」


 しばらく二人で何も言わずに立ち尽くしていた。その沈黙に耐えきれず、口を開いた。


「……じゃ、これで」


 そういうと、彼女は何かを思い出したような顔をした。


「あの……、ちょっと待ってください。聞いて欲しいものがあるんです」


 そういうと、家の中に消え、自分のスマホを持って再び現れた。


「……これ、留守番電話が入っているんですけど、一緒に聞いていただけますか?」


 彼女がスマホの画面をタップすると、僅かなノイズが数十秒程度再生された。


「……これが、何か? 雑音しか入っていないようですけど?」


「……もう少しボリュームを上げます……」


 ボリュームをあげると、雑音にまじって僅かに聞こえた、聞き覚えのある声。


「………たすけ……」


 <やっぱり熊が好き 完>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ