1−2 失踪
「行ってきまーす」
「気をつけて!暗くなる前には帰るんだよ!」
元気な息子の声に被せるように、津山梓は声を張り上げた。
息子の陸は、今年小学校三年生になった。本当に子供の成長というのは早い。
前まで、どこに行くにも「ママ、ママ」と付いてきていたのだが、三年生になってからは、友達と遊んでばかりだ。
梓は、ちょっとした寂しさを覚えながら洗濯物を取り込んでいた。
梓たちが、このC県に引っ越してきてから、十年近くなる。当初は都内のアパートに住んでいたのだが、妊娠がわかってから、『子供は一軒家で育てたい』という夫の希望もあって、当時の新興住宅地での建売を買ったのだった。
少々交通の不便さはあるが、郊外の自然もあるし、地域の繋がりも付かず離れずちょうど良かった。夫は通勤時間が長くなってしまったけど、近くに広い公園もあり、小高い山もあるので、自然の中で子育てするには打ってつけだった。
夕飯は何にしよう? 鶏肉があったから唐揚げにしようか。唐揚げだったら陸も夫も喜んで食べてくれる。
育ち盛りだから、食べる量がものすごい。男の子ってこんなにも食べるのかと驚く。
外から『夕焼けこやけ』が鳴り響いていた。この町内会は、午後四時半になると『夕焼けこやけ』が流れてくる。
もうこんな時間か。陸はまだ向こうのお宅にお邪魔しているのだろうか。
最近は個人情報の観点から、学校の生徒の名簿が配布されなくなった。だから陸の友人宅の電話番号も知らない。
最近はしょっちゅうお邪魔しているみたいだし、今日はお礼を言いがてら迎えにでも行こうか。
出かける準備をしていると、テレビから夕方のニュースが流れてきた。
『……先月行方不明になった河田みゆき(かわた・みゆき)さんの行方は、未だわかっておらず……』
先月、隣町の小学生が行方不明になったニュースだった。気の毒に。親御さんの気持ちを思うとやりきれない。もし、自分だったら……もし陸だったら……。気が狂ってしまうんじゃないか……。
背筋に冷たいものが走る。自然と準備の手が早くなっていた。玄関にあったサンダルをつっかけて、小走りに家を出ていった。
形容し難い不安感に襲われながら、陸の友人宅へ進む足は、無意識のうちに早くなっていった。
<つづく>




