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第3話 幹部登用制度で一気にキャリアアップ

 翌日。

 魔王アレスの執務室の前。

 決済や謁見を待つ者のための椅子に座るヴィズ。


 小走りにやってきたイルファが声をかける。

「おお、ヴィズ。ここにいたのか。なあ、聞いてくれよ。今度いつもトレーニングに使ってる山行ってジャイアントボアでも仕留めてこようと思ってさ、せっかくだから前の広場でBBQでもやろうと思って事務に申請しようとしたんだ。


 そしたらアレスのやつが四天王選抜水着オーディションやるって先に場所をおさえてたんだよ」


「そうでしたか。そういう業務に関係ない催しは全てこちらで却下しておきます」


「うん。よろしく頼むぞ――――ところでヴィズは部屋の前で何やってんだ? 入らないの?」


「昨日アレス様がおっしゃってたご年配の四天王候補をお連れしまして、いま面談中なんです」


「ええー。ヴィズまでアレスと同じノリになっちゃダメだろ。っていうかそんな四天王務まるような強いじいさんなんているのか?」


「はい。女性ですが魔法の名手です。なんて、ホントはアレス様のおふざけを叱っていただこうと思ってお呼びしたんですけど。ああ、そういえばイルファ様も面識がある方ですよ」


「へえ、アレスより強くて私も知ってるって誰だ?」


「アレス様ご幼少の頃の家庭教師を務めていらした――――」

「なあっ!? まさか!」


 そこへ執務室のドアがかちゃりと音を立てて開きだす。同時に通路の窓が破れる音。


 中から出てきたのは一人の女性。


 褐色肌に銀髪のダークエルフの老女。

 顔にはシワが寄り、髪もよく見れば薄っすらと白髪が交じる。


 長命種族の老体である。となれば、その身にどれほどの経験を重ねているか。

 ピンと伸びた背とその眼差しからは、まさに風格とよべるものが滲み出ていた。

 

「ヴィズ。待たせたわね。アレス坊ちゃまとの面談は終了しました」

「御守様、ありがとうございました」

 ヴィズは老女を尊称で呼び、頭を下げた。


「いいのよ、坊ちゃまの不出来は教育係を務めた私の不始末よ。またおいたをするようなら呼びなさい」

 滑舌良く言いつけた老女は、ふと横の割れた窓を見て一度ため息をつくと足取りたしかに歩き去った。


「お帰りになりましたよ」

 しばらくしてヴィズが窓から外に声をかけると、ひょいとイルファが顔を出した。

 窓の小さな破片が顔に刺さったまま、羽根を広げて空に浮かびながら。


「えーと、ヴィズ……さんって 婆ちゃんと知り合いだったの? ですか?」


「何でいきなり敬語なんですか? あの方は私達の一族の長老格ですから。私も小さな頃から可愛がっていただいています」

「そうだったんでございますですか」


 イルファは先の老女がまた戻ってこないか通路の先まで確認すると、執務室のドアを開けた。


「おーい、アレス、生きてるー?」


 二人が執務室に入れば。

「はい、ぼくは立派な魔王になるために、ガンバリマス」


 部屋の真ん中で正座をしているアレス。


「うわあ、懐かしい姿だな。はははっ、アレス。お前何歳(いくつ)だよ。子供のときと変わんないじゃん」

「あっ、イルファ様。まだガラスがくっついてますよ」

 髪の毛の間に紛れたガラス片を取り除いてあげるヴィズ。


 アレスがそんなヴィズを恐る恐る見上げる。

「あの、ヴィズさんって先生と仲がよろしいんでしょうか」


「何でいきなり敬語なんですか? 御守様は私の遠縁でもありますし、昔教えを受けていたこともありますよ。ちなみにまた水着オーディションだとか子供を盾にするようなことをしたら、すぐにお呼びするように言いつかっております」


「ははは、ヴィズさん。ちょっとしたおふざけじゃないですか。ぼくが本気でそんな不埒な真似するわけないじゃないですか…………つーか、先生は卑怯でしょ!」


 パシン。

 無表情にどこからか取り出したムチをうならせたヴィズ。


 その音にビクッと身体を反応させたアレスとイルファ。


「あの……ヴィズさん、それは? 先生が持ってた教鞭用のムチによく似ているような」


「御守様からこれを持っているように渡されました」

 

「ああ、やっぱり。…………いや、でも正直ぼくってこれからもきっとおいたしちゃうと思うんですよね。そういう時はまずそれで警告していただけると! あの、ほんとお願いします。ぼくももう魔王やってるんで、次に先生呼ばれたらお尻ペンペンとかほんとありえないんですよね!」


 もはや恥も外聞もなし、ヴィズにすがりつくアレス。

 親より恐れる相手を呼ばれるくらいなら、どうか気ままに自分を鞭打てとまで言った。


「すごいな、ヴィズはアレスの生殺与奪の力もってるようなもんだろ。言ったら魔王殺しって感じ。何かこれって強者っぽくない? もうヴィズが四天王に昇格しちゃえよ」


 そんなイルファの冗談にアレスは考える。


(ヴィズがこのまま監視役やってるとまた先生を呼ばれかねん。いっそ幹部に昇格させてコチラ側に取り込んでしまうのは名案かもしれん)


「うん、実際どうかなヴィズ。名前だけ貸すくらいの気軽な気持ちで四天王になるのは。今の魔王軍なら別に四天王が兵を率いる必要はないわけだからさ。個人戦の力量があれば即採用OKだ」


「個人戦? ヴィズって魔法とか使えんの?」

「ヴィズは補助魔法の特級持ちだぞ」


「ええっ、なんでアレスの秘書やってんの?」


「補助魔法って基本サポート役ですから、下手な部署にいくとそこで便利扱いされてキャリアがその部署で止まるんですよ。ですから魔王軍に入る際にはスキルは隠してました。アレス様にはすぐバレましたけど」


「なっ、だから資格としては問題ないわけだ。現在の魔王軍の最優先事項は対勇者の任務だからな。これに対応する力があれば昇格には文句は言わせない。っていうか言ったらそいつを勇者の前に送り込んでやる。どうだ、ヴィズ」


「うう……ん」

 ヴィズが案外マジメに検討し…………


「半年くらいでしたら、まあお受けしても構いませんが」


「何で半年?」

「そこまでいくとボーナスの基準額が跳ね上がりますので」

「ああ」


 かくして。自分以外の生贄を求めるアレスとイルファと、実はトップクラスの補助魔法を会得しながら、給与額だけでこの職についていたヴィズの思惑が合致。ここに四天王【智】のヴィズが誕生した。


 ステータス

名前:ヴィズ・ウィルサーク

種族:ダークエルフ


所有スキル

 秘書検定 1級

 ソロバン 2級

 補助魔法 特級


 実はセクシー幹部服が着れる

 対魔王専用武器装備

 特殊攻撃『せんせいをよぶ』

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