エタフォ
「アタシ達と戦いたい魔物は全力で来てちょうだぁい! イクわよっ!」
「「「うおぉおおおおお!」」」
オーガさん達は戦闘狂なのかものすごい数で向かってきた! ひぇ! 逃げよう! 〈結界〉!
「ルルさん助けてぇ」
「あら戦わないの?」
「オーガさんの顔が怖いしむさくるしいよぅ! それに〈紅霧〉の実験で来たのにその前にバテます!」
「そういえばまだお昼にもなってないわね……」
「こんなに早く45階層まで来るとは思いませんでしたよぉ」
「ニーナー! 数が多いよ! 戦って!」
アーニャがクロウでオーガさんのアキレス腱を切って走り回りながら言った。 そしてそのオーガさんをラウンツさんとお兄ちゃんで首をはねていってる……ひぃ!
隣にいたメイリアさんが何かをビャッ! と広範囲に撒いたらオーガさん達にツタが巻き付いて身動きが取れなくなった。
「メイリアさん何したの?」
「……リスリスの種で拘束した……ニーナ、一思いに……」
「うわーん! わかったよぅ! 〈氷結〉! 〈氷結〉! 〈氷結〉! ────めんどくさい! 〈ダイヤモンドダスト〉!」
広範囲氷魔法でオーガさんを氷漬けにしたらお兄ちゃん達が片っ端からオーガさんを砕いていった。 お兄ちゃんとアーニャにも魔法を浴びせたけどむしろ涼しいみたい……ちぇっ。
「ニーナいいぞー!」
「ニーナちゃんっ助かるわぁ!」
オーガさん達は戦うのが楽しいのかトロールさん達とは違って全滅するまで向かってきた。 メイリアさんの拘束のツタを引きちぎって来る猛者までいて怖かったよぅ! 全部〈ダイヤモンドダスト〉で凍らせたけど。
「はぁ……はぁ……疲れたよぅ!」
「フッ……私の邪龍クロウもやっとおさまったよ!」
「お兄ちゃん、〈紅霧〉の実験で来たんだよね? まだお昼くらいだよぅ……」
「そうだなー、ここで休むか!」
「アタシが作ったお弁当食べましょっ!」
マグマのない地面を氷魔法で冷やしてのんびりお弁当を食べてたらオーガさん達が復活して来た……2回戦はやめてぇ!
「「「すいやせんっしたぁあああ!」」」
オーガさん達がトロールさんみたいにザザッと左右に2列に並んで道を空けだした……。 まさか……。
「姉御! すいやせんっした! ささ、50階層までお通りくだせぇ!」
オーガさんが一斉に私を見てそう言った。
「……ニーナちゃん……また尊敬されてるわよ? よかったわね……」
「ルルさん! だから違うんです! 私はお兄ちゃんとアーニャから汚名を払しょくしたいんですぅ!」
「あはははは! じゃあボスはニーナに譲るよ! 私たちはいつでも来れるからね!」
「おう! 夕方までに50階層に行ってニーナ1人でボスを討伐したらへっぽこは撤回してやる!」
「約束だよ⁉」
「うんうん! あ、そういえばさっきの〈ダイヤモンドダスト〉って魔王様に教えてもらったカッコイイ魔法だよね⁉ なんで短縮詠唱したの?」
「全詠唱したらアーニャが喜ぶから……」
「ボスでは全詠唱でよろしくね!」
くっ……魔王様が全詠唱しないと効果が弱まるって言ってたからボスでは覚悟しなければ……! エタフォを使う前にも使用必須だし……あぁああああああ! 恥ずかしいよぅ!
あ! そうだ、魔王様にエタフォの使用許可を!
『魔王様魔王様、今よろしいですか?』
『あん? なんだ』
『ディアブロ50階層で究極魔法エタフォの使用許可をください! 私の名誉がかかってるんです!』
『何のことか知らんが好きにしろ。 じゃあ俺は寝る』
ブツッと念話を切られた。 まぁいいや、許可はもらった!
「よし! じゃぁ50階層まで行って夕方になるの待とうぜ!」
お兄ちゃんの声で移動することになった。 もちろんオーガさんの作った花道を通って……。
ついに50階層への階段を下りる……ドキドキ。
あ、火竜さんだ。 龍より弱いけどワイバーンより強い。
「ガァァァアアアアアアアア‼ よくぞ来たな人間よ! 我を倒せばこの世界の半分をやろう! ……あっ! 魔族さん……」
火竜さんが立派な尾翼をはためかせ、火の粉を舞い上がらせながらそう言った。
倒したら世界の半分をくれるらしい。 2回倒せば世界征服できるのかな?
「火竜だ! カッケェ!」
「クッ……闇の出番が来たか⁉ だがまだだ! ……抑えろ!」
「火竜ちゃんっ! 夕方になったらこの子と戦ってちょうだぁい☆」
「あっ、はい、わかりました。 ちなみに世界の半分というのはですね、ちょっとしたジョークで……一度言ってみたかっただけなんです……」
なんだ冗談か。 火竜さんは恥ずかしそうにモジモジしている。
夕方まで時間があるので先に宝箱を調べたけど、やっぱり中は空だった。 ルルさんが宝箱の中に転送の魔術式と、適当な地面に転移陣を描いてくれた。
ラウンツさん達前衛3人が、メイリアさんのリスリスの拘束から自力で抜け出す訓練をしているのをボーッと見ながら夕方になるのを待った。
火竜さんはソワソワと私達を見ていた。 うん、ボスとして口上を述べたのに待たされるって威厳が失われるよね……ごめんなさい。
「あ、ニーナ! 陽が落ちてきたぞ! まずは空に向かって魔法打ち放題してみてくれよ!」
ボス部屋というかこのエリアには火山が遠くに見える。 ダンジョン内なのになぜかある空に浮かぶ謎の光球が火山に隠れようとしていた。
「わかったよぅ。 〈紅霧〉……〈氷結〉! 〈氷結〉! 〈氷結〉! 〈氷結〉! 〈氷結〉! ────」
……詠唱で声を出す方が疲れるんだけどっ⁉ 100発くらい撃ったところでやめた。
「ねぇ、もういいかな? 声がガラガラだよぅ」
「ニーナすげぇな! 夕方なら無敵だぜ!」
「……ニーナ、魔力は減ってない?……」
「うん、減ってないよメイリアさん」
「じゃぁニーナ! 次は火竜と戦って! 倒したら汚名返上だよ!」
アーニャの言葉に、私の固定砲台っぷりをポカンと見ていた火竜さんがビクッ! となった。
「フ、フハハハハハハ! 我を倒すなど笑止千万! ……ホントに戦うんですか?」
「火竜さんごめんなさい! 私の名誉のためにお願いします!」
ザッ! とみんなから一歩前へ出る。 覚悟を決めよう! これが終わったら私、素材を持ち帰って魔王様に褒めてもらうんだ!
「ゴクリ……ではこちらも全力で行きますよ!」
「はいっ! 〈結界〉!」
私がお兄ちゃんとアーニャ以外に結界を張ると、火竜さんは飛び上がった。 結界の無い二人が文句を言ってるけど早く詠唱しなきゃ! 二段階詠唱だから時間がかかるんだよぅ!
「漆黒より舞い上がりし雪の華よ! この世の全てを凍てつかせ! 〈ダイヤモンドダスト〉!」
氷の結晶がキラキラと輝き、火竜さんを中心に辺り一面へ広がる。
「これが全詠唱かー」
「キャー! キターーー!」
アーニャが興奮してる! 恥ずかしいよぅ!
そして二人は〈ダイヤモンドダスト〉を防いだみたい、全詠唱したのにぃくそぅ。
「なっ⁉ 何だこれはっ!」
さすがに火竜さんを凍らせるまでには至らなかった。 でも突如現れた氷の世界に飛ぶのが辛くなったようで、地上へ降りつつ口から炎を吐いてきた。
結界があるけど念のため〈影移動〉で岩陰を次々と移動しながら二段階目の詠唱を開始! 魔王様に叩き込まれた詠唱を必死に思い出す……!
「死の冷気を纏いし我が身を喰らいて力と為せ…… 顕現せよ! 今ここに憤怒の吹雪を巻き起こせ! 暗黒の氷の刃が全てを呑み込む!」
空中に展開された〈ダイヤモンドダスト〉の結晶が吹雪きだし、大量の氷の刃へと変貌。 そしてその全ての切っ先がキラリと火竜さんへ向く。
「えっ⁉ ちょ、まっ! 死────」
「〈エターナルフォースブリザード〉!!!!!」
「ギャァァァアアアアアアアアアアア!!!!!」
「雪の蓮華は……二度、咲く……」
魔王様に「ここまで言わないとダメだ! 気を抜くな!」と口酸っぱく言われてたから必死に勇気を振り絞って言った。
究極魔法エターナルフォースブリザード、相手は死ぬ。
そして厨二病全開の二段階詠唱で私の精神も死んだ。
ニーナ、無事フラグを回収。




