店ぐるみとルフランの休日
「じゃあ次は店ぐるみについて教えるか! ルフラン、カリンに色かけるんだろ? あれは太客になりそうだからな、別に止めないぞ」
「……どうしようか迷ってますね。 カリンなら永久指名をもらえそうですし、さらにエースに育つかもです」
太客とかエースって何? ってアーニャに聞いたら、お金を沢山使うお客様の事を太客って言うらしい。 魔王様が商人のガレリーさんに言ってた太客って魔王様自身の事だったのか……。
そして太客の中で一番お金を使う人をエースって呼ぶらしい。 ものは言いようだな……。
「カリンは完全に色を求めてるだろ、色恋で行け! どこまでやるかはお前次第だ!」
「わかりました!」
「じゃあ他のナイトはだな、カリンがルフランとプライベートで会ったとか彼女になったとか言い出したら話を合わせろよ?
『実はルフランから聞いてます、他のお客さんには内緒ですよ?』とかって言うんだ!
人は秘密を抱えるのが好きだからな! あとはルフランの他の客にバレないようにカリンに口止めさせる意味もある。
こういう事は今後ほかのナイトでもあり得るからな、そういう客がいたら店ぐるみで話を合わせるんだ!」
「「「はいっ!」」」
ひえぇ……魔王様の戦略は怖いよぅ!
「あ、あとな、今後、複数で来てる指名客の伝票は一人ずつ分けるぞ。 伝票一緒だとナイト同士の売り上げが混ざるからな! 割り勘で飲む客だけ一緒の伝票にするから、来店前に客に聞いておいてコーディに念話しとけ」
「「「はい!」」」
「じゃあミーティング終わりな。 会計関係は臨機応変に対応するからなんかあったら俺かコーディに相談しろ。 解散!」
ふぅ終わった。 そういえばルルさんのお会計ってどうなってるのかな?
「ルルさんルルさん、毎日お店に来てますけどそんなにディルを持ってるんですか?」
「ああ、魔王様に両替してもらっているわ。 魔王様はヒュドラでディルを沢山持っているから」
「あ、ニーナ! 次の休みに50階層まで行ってみようぜ! 〈紅霧〉で魔法使い放題してみてくれよ!」
ぎゃぴっ! お兄ちゃんがヒュドラで思い出しちゃったよぅ!
「アラッ! 50階層まで行くならアタシも行くわぁ!」
「私も行くよ! 闇と邪龍クロウが血に飢えてるからね!」
やだやだと抵抗したけど、新しい魔物素材でガッポリ儲けよう! という3人の意見で私の声はかき消された……。
そういえばルフランさん、明後日のお休みはどうするんだろう……。
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正式オープンから6日を終えて、俺にはすでに指名客が10人いる。 でも永久指名をもらったのはミアだけだ。 俺も早く永久指名が欲しい……そのために今日は頑張ってみるか!
家にある鏡に写った自分の顔をじっと見る。 俺の金髪は恋物語に出て来る騎士の定番だし、顔はナンバーワンってアーニャちゃんからお墨付きをもらった。 俺は服飾店で下働きをしてたから服のセンスもある方だと思う。
お気に入りの私服に着替えて、休日だけど今からナイトに変身だ。
ディメンションの更衣室にあるピッカピカの鏡だったらもっとカッコイ俺が見れるんだけどな。 あの店にある物は何もかもが高級品だ。
最初アレンに面接に誘われた時は、魔王の経営する酒場なんてちょっとした事で首がはねられるんじゃないかと断固拒否した。 100万ディル稼げるってのも何かの罠だと思った。
でもアレンが、店は国王の許可が出てるし、魔王も思ったより気さくだって言うし、何よりアレンの弟や妹達のためにちょっとでもアレンの小遣い稼ぎを手伝ってやりたかったから、おっかなびっくり面接に行った。
面接の場にいたのは可愛い女の子と男の子の魔族、つまりアーニャちゃんとレイスターさんだった。 その時は、魔王じゃなくてガキが相手でよかったと心底思った。
面接で、恋物語の酒場は今までに無い店だから絶対に流行るって事はわかった。 それと同時に、女のワガママさと陰湿さを知っている俺は、なるほどそういう苦労があるから給料が高いのかと腑に落ちた。
つまり女が金を振りかざして俺にいう事を聞かせようとする訳だ。 そりゃ100万ディルくらいもらわなきゃ割に合わねぇ。
でも顔だけが取り柄の俺には天職かもしれないと思ったから働くことを決めた。 そして最終面接での代表の言葉は俺の心に深く打ち込まれた。
よし! やるからにはナンバーワン目指してカリンをエースに育てるぞ! 入った酒の値段が俺の価値だ! この身ひとつで成り上がってやるぜ!
「カリン、待たせてごめんな!」
待ち合わせはカリンの店のすぐそばにした。 カリンの店の子はみんな住み込みで働いてるからな。 ここなら他の客にも発見されにくい。
「ルフラン! おそーい! まずご飯食べないっ?」
カリンの言葉が砕けてきたのは俺に心を開いた証拠だ。 カリンは文句の言葉とは裏腹に笑顔で俺の腕にまとわりついてきた。
通行人に見られても恥ずかしくないから、こういう時はカリンが美人でよかったと思う。 まぁ俺の好みは清楚な子なんだけどな……カリンみたいなタイプはワガママな女が多い事を俺は経験で知っている。
カリンと近くの飯屋で昼食をとる。
「ねぇールフラン、この後私の部屋に来ない?」
あー来たよ。
「行きたいけどさ……ミミリンちゃんとマリンちゃん達もいるだろ? 店にバレるとマズイんだよね」
「えー! じゃあルフランの家は?」
これも想定内。
「俺の家はディメンションの2階の寮だよ、こっちもダメだ。 ごめんな? 買い物でも行かない?」
家に行きたいって言われたら店の寮に住んでるって言えって代表からアドバイスをもらった。 今は魔王ではなく代表として俺は全幅の信頼を置いている。 あの人はホストクラブに関してだけは信用できるし、プロの香りがする。 魔王なのに何でなのかな?
っと、カリンの話を聞いてなかった。
「私の服はいっぱいあるしー……あ! そうだ、ルフランの欲しい物買ってあげるよ!」
「俺が欲しいのはカリンの永久指名だよ。 俺だけのプリンセスになって」
カリンの指に俺の指を絡ませながら言った。
「もー! 休みの日までナイトにならないでよ!」
「あはは、ごめん、クセになってるのかもな。 でもカリンを俺だけのものにしたいのは本当だぜ? じゃなきゃ休みの日にまで会わないよ」
「私だけだよね⁉」
「っていうか……ナイトになってから初めての休日だからカリンだけなのは言うまでもないな」
「あははは! そうだった! ……じゃなくて! これからもって事!」
あーうーんそっちに来るよなーやっぱり。
「カリンが俺の特別になってくれるなら俺もカリンの特別になるよ」
「どういう意味~?」
「そういう意味! ご馳走様!」
とりあえずごまかして俺が飯代を払い、買い物に行ってカリンからネックレスを買ってもらった。
こうやって俺に首輪を着けたがる女は今までうんざりするほどいたからネックレスは嫌いなんだけどな。 カリンの前だけでは着けるしかないか。
カリンの仕事が数日休みって事はアレの日だ。 昨日も店に呼んだけど明日も呼ぼう。
にしても、そんな日でも男を連れ込もうとするんだな……ハァ。
さて、次は商家のご婦人とまたメシだ。 ナイトに休日は無いな……。




