第68話 お土産と言う名の自前の品①
メセの街での生活の開始です。
「あ、そうだ!リガルトさん。実は、王都でこの街で見掛けなかった食材を見つけたんです。
それで、王都のお土産になるかなと思って、お菓子を製作してみたんです」
超越調達で購入した、器も蓋も木で出来たお菓子入れに入れたチョコレートを取り出した。
「これは…なんだね?黒い板の様だが…」
リガルトさんは、取り出したチョコレートを不思議そうに眺めた。
「あれ?サヘラさんからの手紙に書いてありませんでした?」
「あの人は必要な事しか手紙には書かない人だ」
てっきり自慢気に書いているものと思っていたのだけれど、そうではなかったらしい。
すると、それを見たミルカードさんが突然大声を上げた。
「それ!『カッカルチップ』じゃないんですか?『ストーンダル男爵の美食探訪』に乗ってた謎のデザート!」
ミルカードさんの言葉に、僕は物凄く驚いた。
僕が聞いた話だと、『ストーンダル男爵の美食探訪』は、王族や貴族には転写したものが献上、または販売されるが、庶民は王都の商業ギルドに貼られたものしか見ることが出来ないはずだ。
「あれってこっちにはありませんでしたよね?」
それを改めて確認したところ、
「総集編が出版されたのをきっかけに、大きな都市でも発表されることになって、書籍になってないバックナンバーも送ってくれたの。それに書いてあったのよ!」
まったくもって初耳な話が返ってきてしまった。
「つまり、制作者は君というわけか…。ならば、カッカルチップは無闇に振る舞わない方がいい。いずれは知られるだろうが、それは出来るだけ遅い方がいいだろう」
「わかりました。気をつけます」
イザベラさんやカタリナさんに渡すつもりだったから、忠告してもらって助かった。
「それにしても、君はつくづく、衝撃を与えてくれるな…」
リガルトさんはあきれながら菓子入れを仕舞おうとしたが、ミルカードさんがそれを止めた。
「リガルトギルド長。独り占めはいけませんよ?」
「私にとくれたものなのだが?無闇に広めるのは良くない」
「商業ギルド内なら問題ありませんよ?」
その瞬間、2人の雰囲気が一触即発のものに変わった。
「ミルカードさん達受付の人達のは別に用意してますよ…」
なので、用意しておいた対応策を即座に実行した。
商業ギルドをあとにした僕は、暖炉亭に向かった。
「こんにちは」
「ヤムじゃないか!いつ王都から帰ったんだい?」
中に入ると、カタリナさんがいつもの様子で出迎えてくれた。
「昼過ぎです。商業ギルドに手紙の配達が終わってからきました。お部屋はあいてますか?」
「ああ、いつもの部屋を使いな」
「ありがとうございます。そうそう。これ、お土産です」
部屋の鍵を受け取ってから、僕は神様のバッグから、ベットのシーツに使えるサイズの綺麗な綿布を何枚も取り出した。
カタリナさんにアクセサリーをと考えたのだけど、良く考えたら、そういうのは旦那さんのデニスさんが買ってあげた方がいいと思い、こっちにしてみたのだ。
「こんな上等なノツメ布がよく手に入ったね?」
「はい。偶然にですが」
すみません。大嘘です。
実際に綺麗な綿布=ノツメ布を売っている露店商や商店はあったのだけれど、シーツに使えるのを売っていた店は、ことごとく足元を見てきたり、貧乏人は帰れという態度だったので、手に入らなかったのだ。
そういうことをしない店は、品切れだったり品物自体がなかった。
メリックさんのお店にも無かったのは残念だった。
なのでこの綿布=ノツメ布は、超越調達で購入した木綿だったりする。
「こんないい土産を貰ったら、しばらく宿賃はタダにしないといけないねぇ♪」
「シーツを換えれるだけ換えるか?」
「そうだねぇ…でも服も作りたくなるよ♪」
カタリナさんとデニスさんは、僕が渡した絹布の使い方をあれこれと考え始めた。
それを見ると、綿布にして良かったと改めて思った。
でもそのあとで、家を買うことを報告したら、物凄く喜んでくれてから、ちょっぴり残念そうにしていた。
お土産は、選んでいる時と渡すときが一番楽しいですよね。
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