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修の語り

 ガキの頃からの俺の親友は変態だ。

 面白くて良い奴。

 顔だって文句無しのイケメン。

 だけど趣味が、女装なんだ。ぬいぐるみ作りとレース編みが好きで、あいつの部屋は乙女部屋。それを隠す事なく堂々としてて、そういう奴だって、友達連中みんな受け入れてる。


「田端くん、藤林くんと仲良いんだよね?」


 俺はよく、親友との仲を取り持てと求められた。

 逆恨みとかされるのも面倒だから、俺は適当にそれに応える。あいつもわかってるから、笑顔で受け入れて、だけど上手い具合に友達で止めるんだ。


「優さぁ、モテるんだから付き合ってみれば良いじゃん?」


 思春期の俺たち。そろそろそういう男女の付き合いにも興味が出る時期だ。まぁ俺も、まだ興味無いんだけど。


「女ってさ、めんどいんだよ」


 顔を顰めて応えた優の家は、上に姉が三人いる。俺もよく遊んでもらった。優の姉だけあって美人だけど、ちょい怖い人達。

 凛花さんはいつも笑顔で優しいけど、綺麗な薔薇には棘があるタイプ。

 なっちゃんは明るく元気で可愛いけど、乱暴者。プロレス好きで、安易に近付くと痛め付けられる。

 (しず)は、優が陰険眼鏡って呼ぶだけあって陰険だ。彼女に悪戯仕掛けたりすると、しばらくネチネチ報復される。


 俺らの中学時代はそこそこ楽しかった。

 優を好きだって寄って来た女の子は気付かない内に女友達にされたり、愛でるだけで満足するようになったりで、修羅場とかには特になんなくて平和。

 だけど一人、中途半端で諦めない子がいた。稲森結花。中三で同じクラスになって、高校まで、優を追い掛けて来た。

 本人、友達になろうと頑張ってるみたいなんだけどね。上手く出来てない。

 優の側には大体俺もいたから、自然、俺も結花と仲良くなった。

 中学でもちょいちょい俺は相談に乗ってて、高校も同じクラスになったから、結花とはよく一緒にいた。


 高校入って、優の馬鹿な冗談が長引いて、結花は怒ってた。


 そろそろ諦めたら良いのにって、いつも思ってた。

 結花がたくさん泣くだけの価値が優にあるの、俺も知ってる。きっとあいつは、好きになった子をとことん大事にする奴だと思う。

 だって、優のあの女装、きっかけは凛花さんの為。凛花さんの趣味。否定しないで受け止めて、優もハマった。元から素質があったんだな。

 ぬいぐるみ作りはなっちゃんだ。不器用ななっちゃんが欲しがったから、作った。そんでハマった。

 部屋が可愛いのは(しず)が好きだから。素直じゃない静は自分の部屋では出来ないから、優の乙女部屋で、こっそり楽しんでる。まぁ、優が可愛いの好きなのもほんと。

 ケーキだって、お菓子だって、あいつは食わないくせに姉達の為に文句言いながらも作ってる。

 おじさんの夢叶える為に一緒に空手だなんだに付き合って、おばさん労う為に夕飯作って、尽くし過ぎだろって感じ。

 だけどあいつが凄いのは、文句は言うけどちゃんと全部を好きになって、自分の意志でやってるって事だ。


 女だったら惚れるって。優だから惚れねぇけど。


 そんなあいつに本命が出来た。

 結花は泣いたけど、猪娘に感化されて、前に進む決心付けられたみたいだ。

 しかもすっげぇ仲良くなって、放課後は一組に迎えに行ってまで遊びに行くような仲になった。

 休みの日も、二人だったり、三橋さんや柚木さん含めた女子四人で遊んだりしてるみたいだ。そんな日は、優は俺らと遊ぶ。

 瀬尾ちゃんとどうもっちゃんと優と俺。いつの間にか固定メンバー。


「女子は今日買い物だってー。藤林、参加したかったんじゃねぇの?」


 手を動かしながら瀬尾っちが優を見る。二人とも腕や顔を黒く染めて、バイクの整備中。


「薫が来るなってさ。女子会なんだって」


 苦く笑った優は、なんだか嬉しそう。


「仲間外れされてんのに嬉しそうだな?なんで?」


 どうもっちゃんも同じ事思ったみたいで、首傾げてる。優は俺らの視線の先で、愛が溢れた笑顔。


「可愛い服買って、今度デートで着て来てくれるんだってさ。」


 あー、惚気ね。

 デレデレしやがってさ。

 優は猪娘が好きでたまんないらしい。

 弱くて蹲ってた女の子。だけど彼女は彼女で今、優を頼らず戦ってるみたいだ。結花からたまに、話聞く。

 多分今日のお出掛けもリハビリを兼ねてるから、優は参加が許されなかった。


「お前らよく語り合ってるけどさ、バイクって楽しいの?」


 あー、どうもっちゃん、それ聞いたらダメだって。

 優は昔からバイクが好き。

 俺はよくわかんない。中学の友達にも好きな奴はいなかった。でも聞くといつも、キラキラした顔で語り出すんだ。

 フォルムが、エンジンが、マフラーがどうのって。今は瀬尾ちゃんもいるもんだから、二人で顔を輝かせて魅力を説明してる。

 どうもっちゃんは必死について行こうとしてるけど、話が専門的過ぎてわかんないみたい。俺もわかんない。


 そんな俺らの休日は、今日も平和。


 フルメンバーは八人の俺ら。

 だけどバイトだ部活だで、遊ぶ日によっては人数が減る。野球部のどうもっちゃんは自然、一番参加が少なくなるから寂しそう。

 女タラシ瀬尾ちゃんは大抵いる。

 彼女放置で良いのか優が聞くと、曖昧に笑う。


「なんかさ、藤林と薫見てたら、虚しくなった。」


 どうやら優には恥ずかしくて言えないらしく、何故か俺に暴露された。


「健全になるチャンス?良いんじゃん?」


 俺らの視線の先にはデレデレの優と、顔を赤くしつつも嬉しそうなのぐっちゃん。結花がその隣にいて、呆れ顔でツッコミ入れてる。

 三橋さんと柚木さんは御手洗い。


「で?田端はどうなんだよ?」

「何が?」

「とぼけんな。稲森、好きだろ?」

「なんで?」

「なんとなく。勘」


 女タラシの勘らしい。


「んー、どうだろね?」


 俺はへらっと笑う。

 なんでも恋愛に持って行くのはよくない。男と女の友情だって有りだろって言う俺に、瀬尾ちゃんはまぁ確かにって納得してた。


 嘘吐いてごめんね?


 だってまだ、警戒されたら困るんだ。

 今は猪娘に夢中の結花。

 じわじわ囲い込み中だから、まだ誰にも、教えない。でも多分、優は前から知ってる。だからこそ余計に、あいつは困ってた。


 一途で、不器用で、素直じゃなくて、でも友達を大事にする君が好き。


 いつ、言おうかな。


 チャンスが来たのは春休み。

 のぐっちゃんが電車に乗れるようになったっていう報告で、結花と俺の二人で会った。優にはのぐっちゃんが自分で言うから、俺には結花が報告。瀬尾ちゃんとどうもっちゃんには、柚木さんと三橋さんが連絡するんだって。


「あの子頑張ったから、ほんと、良かった」


 ぽろぽろ泣く結花の泣き顔、俺はよく見てた。

 優が好きって、でも友達にしかなれないって泣いてた。そんな君の心に、今は誰がいる?

 友達の、のぐっちゃんだけ?

 俺は君の心にいないのかな?なんて…俺、負ける勝負は嫌いなんだよね。


「結花、こっち向いて?」


 素直に俺を見たから、キスをした。


「な…なんで……?」


 真っ赤でぽかんとして、涙は止まったみたいだ。結花の表情から、嫌悪は感じない。


「好きだから。俺ら、付き合おっか?」

「好きって…い、いつから?」

「さぁ?いつからだと思う?」

「わ…わかんないよ……」


 真っ赤で涙目、俯いて。男にそんな顔、見せたらダメだって。


「結花が好き。結花も俺を好きでしょ?」


 にっこり笑ったら殴られた。

 素直じゃない君の照れ隠し。だって抱き寄せたら、俺の腕の中に素直におさまるじゃん。


「わ、私…あんたにダメなとこしか、見せてない……」

「そだね。そこも好き」

「あんたの親友、ずっとしつこく想い続けてた女だよ?なんでそんな……」

「だって、優への気持ち、途中からただの意地だったじゃん。」

「……わかってて、付き合ってくれてたの?なんで?」


 不安気に揺れる結花の瞳。

 見上げられて、俺はにっこり笑う。


「だって、好きだったから。側にいたんだ。」

「修って…バカ」

「そ?ならさ、バカな俺にもわかるように答えてよ。…俺の事、好きでしょ?」


 ずっと側にいたから、手に取るようにわかる表情変化。

 真っ赤な顔で悔しそう。


「言ってよ?言わないとまた、キスしちゃう」

「なんでよ!同意を得てからしなさいよ!」

「同意してよ。ずっと結花を抱き締めたかった。キスしたかった。俺に、捕まっちゃいな?」

「修って」


 ーー"バカ"。

 口の中に、結花の言葉は飲み込んだ。

 重なる唇。

 縋り付くように俺に掴まった細い両腕。

 ねぇ、言っちゃいなって。


「言えって。好きだろ?」

「〜っ、好きよ!バカ!」


 ほらね。捕まえた。

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