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りんごは輸入だ

 

 ウーバは周囲を海に囲まれた小さな島国だ。

 近海で捕れるロブスターなんかは絶品である。

 一年を通じて温暖な気候の為、果物もおいしい。

 ただし、りんごは輸入だ。

 市場には食べ物だけではなく、いろいろなウーバの特産品が所狭しと並べられていた。


 国の豊かさを強調するかのように。


 そんな中一際目をひく、りんごを持った3人がいた。


「おい、クイン! 置いていくぞ!」


 僧侶のような出で立ちの男が、カメラで熱心に街の様子を撮っている男に声をかけた。


「いやん、待ってよ〜!」


 男である。喋り方は()()だが、クインは男である。


「あれ? ノオは? どこいったの?」


「寄る所があるから、先に行っててくれだと。あの……なんだ……? 妙な名前の店……」


「夜半の凱旋ね。っていうかオージ、”夜半の凱旋”知らないの?」


 オージと呼ばれた僧侶の男は、どこか気品のあるなかなかの色男だ。


「こんな小国の場末にあるラウンジの名前、俺が知るわけないだろう?」


 ただし、言動は少々鼻につく。


「違うわよ、そうじゃなくて……」


「温室育ちの坊ちゃんが、知るわけないだろ?」


 ジャケットの下にオレンジ色のつなぎを着たみすぼらしい男が皮肉っぽく言った。


「……ということは、低俗でくだらないことなんだろう? なぁダン?」


 オージが皮肉っぽく返す。


「まぁな」


 ダンと呼ばれる男が着ているのはどう見ても囚人服だ。


「だが、ノオは知っていたぞ」


「なに……!?」


 道の往来で3人が特に重要ではない話に花を咲かせていたそんな時、どこからともなく万歳を唱える声が聞こえてきた。


『万歳!』

『併合記念日万歳!』

『イューロピア帝国万歳!』


 すると通りにいた人たちが、その声に呼応するかのように、そこかしこで万歳を唱え始めた。

 辺りは異様な雰囲気に包まれる。


『万歳!』

『併合記念日万歳!』

『イューロピア帝国万歳!』


 その様子を3人は冷ややかに見ていた。


「そういえば、明後日がこの国の併合記念日だって言ってたわね」


 クインが言った。


「あぁ、しかも10年の節目だとかなんとかで併合式典に()()が来るらしい」


 オージが言った。


「それでこの異常な盛り上がりか……まったく、よくやるぜ」


 ダンが言った。


「行きましょう」


 3人はりんごをかじりながら、夜半の凱旋へと向かった。


『万歳!』

『併合記念日万歳!』

『イューロピア帝国万歳!』


 そこにはなんとも言えない不自然さがあった。


 ***



「遅い!」


 街はずれにある森の近くの小さな霊園で、高く凛とした女性の声が響き渡る。

 入り口横のガゼボに看護師服の女と車いすに乗った女がいた。


「すみません、ハナさん」


 約束の時間に遅刻してきたアーチーに、看護師服のハナさんが詰め寄る。


「10分の遅刻です! まったくヴィヴさんを待たせるなんて何考えて……って、なんですか! その変な柄のジャケットは! いったいどういう趣味をして……いや、別にいいんですけどね! あなたがどのような服を着ようと、私はどうでもいいんですけどね!」


 ハナさんは早口でまくしたてる。


「ですが、今日みたいな大切な日にはせめてもう少しまともな……血っ!? なんで血!? 生臭っ!? また危険なことをしているのですか!?」


「いや、これは仕事で……あ、ただの豚の血なんで危険なことではありません! 決して!」


 アーチーはハナさんをなだめるように弁明した。


「豚!? 豚の血ですって!? あなたの仕事は一体なんなのですか!?」


「それはその……」


 ”豚の血”は余計だった。


「いや、別にいいんですけどね! あなたが豚の血を浴びようが! あなたのことなんて、私はどうでもいいんですけどね! ただ……」


 アーチーのことなんてどうでもいいハナさんは、車いすの女性の方を振り返り気遣わしげに続けた。


「ただ、ヴィヴさんを悲しませるようなことだけはやめてください……絶対です」


「はい……」


 アーチーも車いすの女性、ヴィヴの方を見た。


「……ヴィヴはその……相変わらずですか?」


 ヴィヴは虚ろな目で、ただ一点を見つめている。


「えぇ……毎日話しかけてはいますが、お返事をいただいたことはありません」


「そうですか……」


 アーチーの切なげな横顔を見たハナさんはたまらず言った。


「そんな顔をするくらいなら、もっと会いに来てあげたらいいじゃないですか! 1年に1回この日だけじゃなくて、もっと頻繁に!」


 アーチーは少し困ったように微笑んだ。


「1時間ほどで戻ります」


「~っ! もう!」


 煮え切らないアーチーの態度にハナさんは苛立った。



 霊園の並木道をアーチーとヴィヴは、心地よい風を感じながら歩いた。

 聞こえるのは少しの葉のざわめきだけ。

 とても静かだった。


 目的の墓は、霊園の一番奥にあった。

 墓には何も書かれていない。

 アーチーは持ってきた酒をかけた。


「10年……経ったんだね……」


 一言だけそう呟くと、2人はしばらくの間墓の前に立っていた。


 聞こえるのはやはり、少しの葉のざわめきだけ。

 静かな時間が流れた――

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