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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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32型テレビが異世界に繋がったせいで、世界を救って美少女ハーフエルフと結婚しました ~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~

 とある荒野、一台の軽トラが魔法の緑の粒子を撒き散らしながら疾走していた。

 日本の地方都市ならどこにでもある、少し錆びの浮いた中古の軽トラだ。なのに足元は石跳ねひとつ許さない魔法の膜で覆われ、マフラーからは排気ガスの代わりにきらきらした“マナの残滓”が噴き出している。


「リヴ~~! 地竜アース・ドラゴンがそこまで来てる! 尻尾がバックミラー占領してるって!」


 俺――直輝ナオキは汗だくでハンドルを握りしめ、アクセルを床まで踏み抜いていた。

 軽トラのくせに、エンジンが唸り方を間違えている。普通は“ブオォン”だろ。こいつ今、“ギィィィン”って言ったぞ。タービンでも積んだのか。積んでたわ。世界樹製の魔法回路と、美咲先輩の「盛れるなら盛る」精神が融合すると、軽トラが戦闘機になるらしい。知らん。


 助手席のリヴが、落ち着いた顔で首を傾げる。

 頭には、あの日の祝宴でラナが編んだ花冠。魔法で枯れないように加工されたやつだ。海風でも落ちないように、見えない糸がふわっと支えている。そういうところだけ妙に繊細なのが、うちの世界樹は腹立つ。


「ナオキ、大丈夫。……飛ぶ? テレポートする?」


 リヴの指先が、ダッシュボードに刻まれた世界樹特製の“空間跳躍陣”へ伸びる。

 助手席の前面に魔方陣って、冷静に考えると絵面がもうアウトだ。車検、通らない。


「待て待て! さっき飛んだばっかだろ! 魔力が空になったら、この軽トラ、ただの『重い鉄の箱』になって地竜のエサだ!」


「じゃあ……魔力、入れるね」


 リヴが俺の左手に自分の右手を重ねた。

 薬指同士、揃いの青い指輪が触れ合う。


 その瞬間――ドクン。


 神殿で感じた“熱”が、いまは爆発する力になって車体へ流れ込んだ。


「うおっ……過給圧が……! 吹け上がれ、俺の軽トラァ!」


 キィィィン、と軽トラからはおよそ想像できないタービン音が荒野に響く。

 緑の粒子がエメラルド色の火花へ変わり、俺たちは地竜の顎を紙一重でかわして地平線の向こうへ突き抜けた。


「ねえナオキ。あの子、まだ追ってくる?」


「追ってくる。たぶん今、目の前の丘を丸呑みしてる」


「丘、かわいそう」


「お前の心配の方向、優しいけどズレてる!」


 俺が叫んだ瞬間、背後で“ゴオオオオッ”と大地が唸った。

 砂煙が壁みたいに立ち上がり、地竜の影が一瞬だけ太陽を隠す。あのサイズ感で、よく走る気になるな。ドラゴンって基本、翼で飛ぶ生き物じゃなかったのか。地面派なの? マジでやめて?


「リヴ! 次の跳躍地点、あそこ! 岩場の影! あそこに――」


「うん。今、ちょうどいい距離」


 リヴが、ほんの少しだけ目を細める。

 怖い時の顔だ。淡々としてるのに、指先が俺の手を一回だけ強く握った。


「……ナオキ、手、離さないでね」


「離すか。離したら俺、今この場で土に還るわ」


「ふふ。じゃあ安心」


 安心の仕方が可愛すぎて、こっちの心臓が迷子になる。

 俺が余計なことを考える前に、軽トラがいきなり“ギュン”と跳ねた。


「うわぁ!?」


 足元の魔法膜が伸びて、まるで道ができたみたいに車体が滑る。砂利も段差も全部無視して、軽トラが「行ける」と判断した方向へ勝手に進む。こいつ、俺の運転技術を信用してない。正しい。


「世界樹……お前、軽トラに意志を入れたな……?」


 答えはない。

 代わりに、エンジンルームから「ぷしゅっ」と得意げな吐息が漏れた。生き物じゃねえって言ってんだろ。


 岩場の影に滑り込んだ瞬間、リヴの指先が魔方陣に触れる。

 視界が、白く弾けた。


 次の瞬間――地竜の咆哮は遠くなり、空だけが静かに青かった。


「……よし。生きた」


 俺はハンドルに額を押し付けて、全身の力を抜いた。

 汗が目に落ちて、しょっぱい。喉がカラカラで、呼吸が追いつかない。


 リヴがそっと俺の背中を撫でた。

 あの日から変わったのは、こういう時の彼女の手が、迷わなくなったことだ。躊躇わずに触れてくる。怖い時ほど、確かめるみたいに。


「ナオキ、頑張った。すごく格好よかった」


「格好よくねえよ。情けない声、三回出たわ」


「ううん。ハンドル握ってる時のナオキ、かっこいい」


 褒め方が真っ直ぐすぎて、俺の心が照れる前に折れそうになる。

 俺は顔を上げて、乾いた笑いを漏らした。


「「リヴが魔力くれなきゃ、今ごろ俺たち地竜の胃袋で新婚旅行だったよ」


「……胃袋の中って、息できるの?」


「そこ心配するとこ!? いや、できないから! だから逃げたんだよ!」


「むずかしい」


「俺も難しい」


 苦笑した俺を、リヴがじっと見つめた。

 視線は俺の指輪へ落ちる。


 青い石が、まだ微かに脈を打っていた。熱いというより、余韻みたいな温度が残ってる。地竜に追われてるのに、妙に安心する温かさなのが腹立つ。


「ナオキ。この指輪ね、ときどき……ナオキの気持ちが聞こえる」


「……え、マジで? どんな?」


「“リヴ、かわいい”とか。“リヴ、好き”とか……あと、“怖いけど行く”」


 俺は顔から火が出そうになった。

 いや、火じゃない。地竜のブレスより熱い。なんだそれ。


「世界樹……そういう機能は黙って実装しないでくれ……!」


 俺が天を仰ぐと、リヴはくすっと笑った。

 笑ってるくせに、俺の手を離さない。逃げ道を塞ぐタイプの優しさ。


「嫌?」


「嫌じゃない。恥ずかしいだけだ」


「じゃあ、いい」


「いいのかよ!」


「うん。ぜんぶ、うれしい」


 その言い方がやわらかくて、俺は言い返せなくなった。

 地竜三体分くらい回復する、って本気で思ったのが悔しい。


「……さて、気を取り直して。先輩の『伝説の白い砂浜』まで、あと少しのはずなんだけど」


 俺はアイテムボックスから、先輩手書きの『異世界ハネムーン・ガイド(※妄想含む)』を取り出した。

 表紙にでかでかと書かれている。


【ハネムーン進行台本・極】


 やめろ。極をここで使うな。結婚式で見たわ、それ。


「……『地竜の谷を抜けたら、そこは真っ青な海。そこでナオキくん、リヴちゃんに片膝ついて愛の言葉を! シャッターチャンスを逃すな(自撮り棒推奨)』」


「片膝つくの?」


「知らん。俺、そんな段取り聞いてない」


「でも、ちょっと見たい」


「お前まで味方すんな! 俺の膝のHPがない!」


 リヴが小さく笑って、鞄から最新式の防水カメラを出した。

 いつの間に入ってたんだ、そのレベルの文明。


「ミサキがくれた。“ナオキの変な顔をたくさん撮ってね。弱みは一生の宝”って」


「宝にするな。燃やせ。いや、燃やすな、証拠が残るとまずい。……って違う! それ犯罪者の思考だ!」


 俺が突っ込むと、リヴは肩を揺らして笑った。

 笑い声が小さな鈴みたいで、岩場の影がやけに平和に感じる。


「でも、撮る。ナオキの顔、好き」


「そこまで言われたら止められないの悔しいな!?」


 俺たちは再び軽トラに乗り込んだ。

 エンジンルームが「行くぞ」とでも言いたげに“ぷしゅぅ”と息を吐く。お前、もう喋るな。怖いから。


 岩場を抜けて、丘を越える。

 地竜の影はもう遠い。たぶん別の丘を食って満足したんだろう。胃袋どうなってんだ。


 坂道を登り切ったところで――景色が開けた。


 青い。

 地球の海より透明で、空の色をそのまま飲み込んだみたいな水面が、どこまでも続いている。

 波が白く砕けて、光がきらきらして、潮の匂いが胸いっぱいに入ってくる。


「……わぁ」


 リヴが車を降りて、砂浜へ走り出した。

 砂に足を取られそうになっても止まらない。花冠が揺れて、波の音に笑いが溶ける。

 俺はその背中を見ながら、一瞬だけ息を忘れた。


 結婚式の時もそうだった。

 白いドレスで歩いてきた時、綺麗だって言葉が追いつかなくて、ただ胸が痛くなった。

 今は、砂浜を走るただの後ろ姿なのに――同じように、目が熱くなる。


「……来たな」


 誰に言うでもなく呟いた声は、波の音に吸われていった。


 俺はアイテムボックスから折りたたみ椅子と、なぜかキンキンに冷えたメロンソーダを取り出した。

 ヴァルターの氷魔法、こういう時だけ仕事が早い。あいつ絶対、俺に「冷やしておいたぞ」って顔をする。


 ついでにクーラーボックス、ビーチマット、簡易テント、そして――美咲先輩が詰め込んだ「映え小物セット」を出した瞬間、俺は真顔になった。


「……なんで浮き輪がハート型なんだよ」


 しかも二つ。

 しかも“夫婦”って刺繍がしてある。


 俺はそっと、砂に埋めた。見なかったことにする。


「ナオキ!」


 波打ち際でリヴが振り向く。

 濡れた髪が頬に張りついて、太陽の光がそのまま笑顔に落ちてるみたいだった。


「これ、すごい。冷たい。気持ちいい」


「そりゃ海だからな」


「海、やさしい」


「地竜よりはな」


「うん。地竜、こわい」


 言いながらリヴが戻ってきて、俺の隣に座る。

 肩が触れる距離で、俺の指先が自然に彼女の手を探した。


「リヴ。これが“海”だ」


 俺が言うと、リヴは目を細めた。

 遠くの水平線が、まっすぐで、どこまでも続いてる。


「きれい……。ナオキ、ここ……私たちの家まで、つながってる?」


「ああ。世界中どこへでも、つながってる」


 俺はリヴの隣へ行って、その手を取った。

 指輪が、温かい。


 神殿で誓った言葉が、胸の奥で静かに形を変える。


 逃げない。置いていかない。

 ……じゃない。


 ――この手を、放さない。


「ナオキ」


「ん?」


「私、しあわせ。これが……新婚旅行?」


「ああ。最高の新婚旅行だ」


 リヴは小さく頷いて、肩の力を抜いた。

 その“抜け方”が、俺の胸の奥に残ってた緊張をほどいていく。


「ねえ。ナオキ、座って」


「ん?」


 リヴが俺の手を引いた。

 俺が砂に座ると、リヴはその隣にちょこんと座って、俺の腕にそっと寄りかかる。

 あまりに自然で、俺の方が慌てて息を整えた。


「……どうした」


「近いと、安心する」


 それだけ。

 それだけなのに、俺は返す言葉を一回飲み込む羽目になった。


「……ずるいな」


「ずるい?」


「うん。俺が嬉しくなって、どうしていいか分からなくなる」


「分からなくなったら、ぎゅってして」


 リヴが当たり前みたいに言って、俺の指を一回握る。

 指輪が、ふわっと熱を増した。痛い熱じゃない。生きてるって分かる熱。


「……はいはい、もう。可愛すぎる」


「今、聞こえた」


「聞くな!」


「聞こえちゃう」


 笑ってるのに、俺の心臓だけが忙しい。

 俺は誤魔化すみたいにカメラを構えた。


「よし。海のリヴ、撮るぞ」


「え、今?」


「今が一番いい顔してる」


「……じゃあ、ちゃんと笑う」


 ちゃんと笑う、って言い方が可愛い。

 リヴが少し背筋を伸ばして、花冠を軽く整える。照れてるのに、逃げない。


 シャッターを切った瞬間、波の音の中にリヴの笑い声が弾けた。


「……あ、ナオキ」


 リヴが鞄を探って、紙を一枚取り出した。

 封筒には、見覚えのある丸文字。


「ミサキから手紙、もう一枚あった」


「え、なに?」


 リヴが広げた紙には、大きな文字でこう書かれていた。


『追伸:ガソリン代わりの魔力供給、イチャイチャしすぎるとエンジンが爆発するから気をつけてね! ラブパワーはほどほどに!』


「……あの先輩、本当にぶっ飛ばしていいかな」


 俺の叫びが、穏やかな波音に溶けていく。

 リヴが鈴みたいに笑って、俺もつられて笑った。


「爆発、だめ」


「だめだな。軽トラは大事にしないと」


「うん。だって、次も行く」


「次?」


「次の景色。ナオキと一緒に見たい」


 簡単に言われて、胸の奥がまた熱くなる。

 俺は砂浜に寝転んで、空を見た。青すぎて眩しい。


「……贅沢だな」


「贅沢?」


「うん。こんなに綺麗で、こんなに平和で、お前が隣にいる」


「それ、普通がいい」


「普通がいいって言えるようになったの、すげぇな」


 俺が言うと、リヴは少しだけ困った顔をして、それから笑った。


「ナオキが、いつも隣にいるから」


 もう言い返せない。

 俺はメロンソーダを一口飲んで、口の中の甘さで誤魔化した。


 その後、俺たちは普通に遊んだ。

 普通、って言うと嘘だな。異世界の海で、魔改造軽トラと、花冠の嫁と、32型テレビに人生狂わされた元手取り15万が、メロンソーダを飲んでる時点で、普通じゃない。


「ナオキ、これ、つくる」


 リヴが砂を集めて、山を作り始めた。

 手が器用で、あっという間に城っぽいものができる。波が来たら一瞬で終わる儚さも含めて、妙に綺麗だ。


「城?」


「うん。ここ、家」


「家、砂で作るな」


「だって、楽しい」


 俺が笑ってると、リヴが俺の方を見て、真剣な顔で言った。


「ナオキも、作って」


「俺、下手だぞ」


「下手でもいい。一緒がいい」


 それが最強の命令だった。

 俺は黙って砂を掴んだ。結果、俺の城は城じゃなくて、潰れたパンみたいになった。


「……ナオキ、それ、なに」


「城だよ!」


「城、かわいそう」


「お前さっき丘心配してたのに、城も心配するのかよ!」


 リヴが笑って、俺の肩に額をこつんと当てる。

 甘える仕草が増えた。たぶん、もう怖くないんだ。怖いことはあるけど、逃げなくていいって分かってる。


 しばらくして、俺はアイテムボックスから例のハート型浮き輪を掘り起こした。

 使うかどうか迷ったが、リヴが興味津々で見てる。


「それ、なに?」


「先輩の呪い」


「呪い、かわいい」


「かわいいって言うな! 呪いが育つ!」


 俺が膨れた声を出すと、リヴは笑いながら浮き輪を受け取った。


「これ、浮く?」


「浮く。たぶん」


「たぶん?」


「俺も海は久々なんだよ……」


 リヴは浮き輪を抱えて波打ち際に行って、そっと足を入れた。

 冷たさに肩が跳ねるのが可愛い。


「冷たい!」


「だろ」


「でも、気持ちいい」


「ほら、無理すんな。深いとこは――」


「ナオキ、手」


 言われて、俺は手を伸ばした。

 指先が触れた瞬間、指輪がふわっと温まって、俺の心臓も勝手に落ち着く。


「……ほんと、ズルい」


「ズルくない。普通」


「普通って言葉、お前の口から出ると強い」


「強くない。……ナオキが、強い」


 俺は言い返せなくなって、浮き輪を押した。

 リヴが海に浮かんで、目を丸くする。


「わ……浮いた」


「浮くんだよ」


「すごい。海、すごい。浮き輪、すごい」


「最後のやつ、褒める必要ある?」


「うん。だって、ナオキが持ってきた」


 俺の胸が、また勝手に軽くなる。

 こういう時、人生って案外単純でいいって思う。笑って、手を繋いで、景色を見て、それでいい。


 ――だからこそ、ふと思った。


「なあ、リヴ」


「ん?」


「もしさ。俺があの時、32型テレビの前でビビって、逃げてたら……どうなってたと思う?」


 海の音が、少しだけ大きくなった気がした。

 リヴは浮き輪に掴まりながら、俺を見上げる。


「逃げたら……会えなかった」


「……だよな」


「でも、逃げなかった。だから今」


 リヴが言って、ゆっくり笑う。

 その笑顔が、波より優しくて、俺は目を逸らした。逸らした先の水平線が、眩しすぎた。


「……ありがとう」


「ううん。こちらこそ」


 短い会話で十分だった。

 俺たちは、もう答え合わせを終えてる。


 夕方になって、海が少しだけ赤く染まった。

 軽トラの荷台に載せたプランターの花が、風に揺れて、緑の粒子がきらきら光る。魔改造がこんなところで映えるの、腹立つけど綺麗だ。


 俺は椅子に座って、リヴの写真を何枚も撮った。

 リヴは最初照れてたけど、途中から「もっと撮って」と言うようになった。自分の笑顔を残したいと思えるようになったのなら、それだけで俺は泣きそうだ。


「ねえ、ナオキ」


 リヴが隣に座って、俺を見上げた。

 頬に夕陽が当たって、花冠の影が柔らかい。


「私たちの物語に、タイトルをつけるなら……どんなの?」


 急にメタいな、と思ったのに、妙に胸に刺さる。

 ここまで来たからこそ、言葉にして残したくなるんだろう。


「タイトル? 急にメタいな」


「だって、ミサキが“作品はタイトルが命”って言ってた」


「言いそう……」


 俺は砂浜に座り込み、カメラを膝に乗せた。

 潮の匂いが胸いっぱいに入ってきて、ようやく本当に――終わったんだって思える。


「じゃあ……これだ」


 俺は咳払いして、わざとらしく胸を張る。


「『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』」


 リヴが一拍止まって、次の瞬間、声を出して笑った。


「なにそれ! 途中で切れてる! “略”ってなに!」


「だよな」


「それじゃ、どんな話か分からないよ」


「分かってる。……だから“略さない版”も言う」


 俺は息を吸って、逃げ道のない勢いで一気に吐き出した。


「『32型テレビが異世界に繋がったので、世界を救って美少女ハーフエルフを嫁にしました

 ~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』」


 言い切った瞬間、喉がカラカラになった。

 俺、今、過去最大に早口だったと思う。


 リヴは目をぱちぱちさせて、次に、ふにゃっと笑う。


「……長い。でも、全部入ってる」


「だろ。真ん中がないとダメなんだよ。

 “32型テレビが繋がった”だけだと、何が起きたか分からないし」


「うん。“世界を救って”も必要。……“嫁にしました”も必要」


 そこ、真顔で言うんだ。反則だろ。


「……必要ですか」


「必要。だって、私……なったから」


 リヴが言って、俺の袖を軽く引く。

 その仕草が、結婚式の時と同じで、胸の奥がじわっと熱くなった。


「それに“手取り15万”って、ちょっとかわいい」


「かわいくない。しんどかった」


「しんどいのに、ナオキ、がんばった」


 リヴは笑いながら、でも目だけは真剣だった。

 波音の中で、俺の胸の奥に残ってた“怖かった日々”が、やっと柔らかくほどけていく。


「……ああ。がんばった。

 怖いけど行く、って何回も思った。お前がいたから行けた」


「私も。ナオキがいたから、歩けた」


 それだけで十分なのに、リヴはもう一つ、言葉を足す。


「だから、略さないで。ちゃんと言って」


 胸の奥が、きゅっと鳴った。

 俺は誤魔化せなくなって、笑って頷く。


「分かった。ちゃんと言う。

 ――俺たちの話は、そういう話だ」


 リヴが満足そうに笑って、俺の手を取る。

 指輪が温かい。もう怖い熱じゃない。帰る場所の熱だ。


 俺はカメラを構えた。


「よし。じゃあ“略してない版”の表紙絵、撮るぞ」


「表紙絵?」


「うん。世界で一番かわいい嫁と、世界で一番変な軽トラと、世界で一番青い海」


「なにそれ。……でも、うれしい」


 シャッターを切る。

 波の音の中に、リヴの笑い声が弾けた。


 その瞬間、軽トラのエンジンが「ぷしゅぅ……」と、妙に切なそうな息を吐いた。

 俺はカメラを下げて、荷台の方を見た。


「……おい。お前、今泣いた?」


 返事はない。

 代わりに、マフラーから緑の粒子が一段キラキラした。気のせいだろ。そういうことにしとけ。


 リヴが俺の袖を引く。


「ナオキ。行こう」


「どこに?」


「次の景色」


 簡単に言われて、俺は笑って頷いた。

 海が綺麗で、夕陽が綺麗で、目の前の彼女が綺麗で――それだけで十分だと思える日が、ここにある。


 アイテムボックスには思い出を。

 助手席には、最愛の家族を。


 俺たちはまた、緑の粒子を撒き散らしながら、次の絶景へアクセルを踏み込んだ。


「ねえナオキ」


「ん?」


「さっきの手紙。爆発するって……本当?」


「先輩だから、半分本当で半分冗談」


「じゃあ、ほどほど?」


「……ほどほど」


 そう言ったのに、リヴが笑いながら俺の手を握り直した。

 指輪が、ふわっと熱を増す。


 軽トラが、嫌なタイミングで“ぷしゅっ”と息を吐いた。


「……やめろ。今じゃない。耐えろ、俺の軽トラ」


 リヴがきょとんとする。


「軽トラ、がんばってる?」


「がんばってる。たぶん俺たちよりがんばってる」


「じゃあ……いい子」


 リヴが軽トラのダッシュボードをぽん、と撫でた。

 次の瞬間、エンジンが一瞬だけ安定した気がした。マジで生き物じゃねえか。


 俺は笑って、アクセルを踏み込む。

 緑の粒子が夜風に踊って、星の光みたいに散っていく。


 俺達の物語は――まだ始まったばかりだ。


 完

最後まで読んでくださってありがとうございました。


最終回は「逃げる」から「海」へ――生き延びた先のご褒美を全部詰めました。

ナオキのツッコミとリヴの「手を離さない」が、最後までこの物語の芯です。


そしてこの物語の“成り上がり”は、金や名声じゃなく――手取り15万の元社畜が、守るべき人と帰る場所を手に入れたことでした。


彼らの軽トラの音や、潮の香りが少しでも皆様に届いていれば幸いです。


ここまで付き合ってくれて本当に感謝。次の景色でまた会えますように。

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