第79話
フーローとライチがまた俺と遊び始めた事に気付いたエイスが、前足で転がして遊んでいたボールを慌てて咥えて走って戻ってくる。
ボールを受け取りエイスも頭をワシャワシャと撫でてあげると、エイスも目を細めて嬉しそうに撫でられている。
最後にポンポンと頭を叩くと目を開けるエイス。
ボールをエイスの目の前に差し出してから遠投すると、エイスも突っ走ってうなりをあげながら飛んで行くボールを全力で追い掛けて行った。
30分ほど繰り返すと満足そうな顔で喜んでいるエイスとフーローとライチ。
今日は朝御飯の後に出かける予定だからエイス達はお留守番。
いつものお留守番の時のように龍の森のどこかで遊び回っているだろう。
ブラックパールもだいぶ落ち着いてきたようなので、龍の森の住処に皆で転移魔法で帰還する。
朝御飯は住処のピザ釜でピザトーストを焼いて食べる。
美味しかったのでおかわりして焼いているとグレタもおかわりを希望してきた。
少し焦げたトーストの上にトロトロのチーズと薄切りの野菜。
チーズも野菜も少し焦げているのが最高の香りを撒き散らしている。
トーストで熱くなった口内を冷ますためにサラダを食べる。
食後はコーヒーでまったりした時間を過ごす。
エイス達は食べ終えるとどこかに走って行った。
向かった方向はバラバラなので今日の自由時間は、自分の好きな場所に行って遊ぶのだろう。
スラリンにもたれ掛かりウトウトと午前の微睡み。
10時になったのでグレタとブラックパールを連れてジャリストンの厩舎に転移。
ブラックパールを自身の馬房に入れるとブラックパールも寛ぎだした。
グレタと一緒にブラックパールを撫でてから、グレタを連れてアーリンドル王国首都フェリクスに転移。
転移した場所は王宮国王執務室の横にある俺専用の控室。
秘密暗号ノックをするとラーフィーから返事がすぐに返ってきた。
待機してくれていたみたいだ。
「ホープラー、入ってくれ。」
「ホープラーおはよう。」
「おはよう、ラーフィー、ミクリー……それとテオもおはよう。」
「ホープラー様とジャリストン子爵、おはようございます。」
皆で挨拶を交わす。
挨拶を終えるとラーフィーから書類を渡された。
昨日の事件の中間報告書。
彼ら4人は他国の上位貴族の私兵。
人間至上主義者が大半を占める国の中枢にいて、極めつけレベルの人間至上主義者の貴族のようだ。
奴隷を使ったテロ行為として……
ジャリストン内で龍の森の生物を殺害しようと目論んでいたが、まずは捕獲前に龍の森を偵察する為に盾代わりの奴隷を連れて森の近くまでやって来た。
パトロールに捕まらないよう慎重に行動していたのだが、時間を使いすぎたので森に近付いただけで奴隷紋の効果が切れて奴隷に逃走されてしまう。
彼は森に向かって一直線ではなくフェイントなんかも入れて逃走したので大声を出して追い始め、それが周囲をパトロールしていた警備隊に見つかって大捕物の騒動となり、最終的にはエイス達に制圧されて捕まったようだ。
なので……後の捜査で発見されたんだけど、彼らの住処にしていた宿には奴隷がもう1人隠されていたみたいだな。
無論、そちらの奴隷も既に確保されていた。
「ふむふむ。流石テオ。一晩でよく纏めたな。」
「ありがとうございます。それでホープラー様にお願いがあるのですが……後に発見された奴隷の隷属魔法の解除をお願いします。我々では少々手強い隷属魔法と魔道具が使用されていまして……解除を試みたアーリンドル王国宮廷魔導師から、何かしらのトラップが発動するリスクがゼロに出来ないと結論が出ましたので……」
「それは大丈夫。わかった。奴隷とされた人達の後のケアは頼むよ。」
「ホープラー、それは間違いなくアーリンドル王国として保証するよ。」
「あぁ、ラーフィー頼むよ。」
テオが執務室を出て隷属の首輪をされた人物を車椅子に乗せて連れてきた。
薬を嗅がされているのか少し前屈みになり、トロンとした目で見上げるようにこちらを見ている。
首筋ではなく右頬から右耳にかけて顔に奴隷紋が打たれているのは、通常の首筋では効果が薄くて打ち直されていたんだろう。
更に更に隷属の首輪で追加効果を足してようやく隷属できたほどの、鋼のような意思を持った武人の雰囲気を醸し出している女性だ。
犬系の獣人特有の耳をしているけど、流石に細かいところまではわからない。
「ホープラー、すまない。発見されたのはこの状態だったから、我々も通常ではないと判断して宮廷魔導師に調べさせたが、全くもって太刀打ち出来なかったんだ。」
「うーん……ミクリー、これは人間だけじゃ無理な仕業だな。エルフが絡んでいる可能性がある。」
とはいえハイエルフから見れば……『たかがエルフ』なんだけど。
人差し指でちょんと隷属の首輪に触れただけで、首輪はポトンと地面に落ちた。
ついでに奴隷の顔にフッと息を吹き掛けるだけで、右顔面を覆っていた醜い奴隷紋は消滅する。
その瞬間に犬獣人の瞳に光が戻り、一瞬で意識を取り戻した。
車椅子から降りて片膝をついて最敬礼をする。
「誠にありがとうございます。ようやく、ようやく……」
「お疲れ様。そして助け出すのが遅れて済まない。」
「いえ、いえ……ようやく戻ってこれました。」
ここで俺の鑑定魔眼が発動。
「あれ、君はジョルの弟子なの?」
「は、はい。ジョルジーヌ・ブランケイハイマー師匠には幼き時からお世話になっております。……すみません、まずは自己紹介からですね。私、白狼獣人の『バネッサ・クーランパルッテ』と申します。バニーとお呼びくださいませ。」
「やぁ、バニー。俺はホープラー。見ての通りの調停者で龍の森の王だ。」
それからグレタやラーフィー、ミクリーとテオまで全員で自己紹介。
自己紹介している間に俺はジョルの元に転移魔法で移動して、執務室に戻って来た時にはジョルを連れてきた。
ジョルは泣きながらバニーに抱きつく。
「バニー、やっと会えた。探したんだよ。」
「師匠、ようやく戻ってこれました。」
抱き合いながら泣いている2人の事をラーフィー達に簡単に説明した。
ジョル本人にバニーの事を知っているのか、直接確認しにラハティカンナス獣人公国へ行ったところ、ジョルは10年以上もバニーの消息を探していたと聞いて、すぐに会いたいとの事だったので連れてきた。
2人と落ち着いて話ができるまで待つしかなく、執務室に執事を呼んで皆で少し雑談しながらのんびりする。
テオによるとやはり副長の3人が勘違いなのに、俺からの依頼だとかなり張り切っていたらしくて、予想通りだとグレタと顔を合わせて笑いあう。
ただ、これも予想通りなのだが……
あっさりと犯人達は口を割り全て真実をさらけ出している。
「何一つ詰まる事なく捜査は滞りなく進んで調書もすんなり終了しました。しかし、うちの副長どもがあまりの手応えの無さに『チッ』と舌打ちしたり、テーブルを指でトントン叩いたりと苛立ちを見せ始め、それにビビった犯人達が聞かれてもいない事まで話し始めて……」
あまりにも素直なため『チッ』と舌打ちしたり、指でテーブルをトントン叩いたりする副長トリオが簡単に想像できて更に笑う。
俺とグレタの笑いにラーフィーとミクリーも加わる。
テオの三色はテオと同じエルフで、百年以上アーリンドル王国の森聖騎士団団長のテオに仕えている愛弟子。
ラーフィーやミクリーは子供の頃から知っている人達。
「ったく、あいつらときたら……」
「まぁまぁテオドール卿。忠実に任務をこなし……ほんのちょっと頑張り過ぎただけですよ。」
「ジャリストン子爵……いえ、グレタ夫人、その『ほんのちょっと』が問題なんです。しかもホープラー様を呼び捨てに呼ぶなんて、エルフにあるまじき行為まで。」
「いや、テオ。それは俺が望んだんだから三色を責めないで欲しい。」
「いえ、それはなりませぬ。ホープラー様は我らエルフの父たるハイエルフ様。その他の種族は別にしてもエルフの我々にはホープラー様を呼び捨てにするなどしてはならない事なのです。」
「エルフの父?」
「ハイエルフ様の子供は全てエルフとなりますので、今いる全てのエルフはハイエルフ様達の子孫なのです。」
「じゃあ……俺とグレタの子供って人間とのハーフエルフになるのではなくて、エルフになるの?」
「はい。人間の特性をあわせ持ったエルフとなりますね。ホープラー様の子供とエルフ以外のパートナーとの子供がハーフエルフとなります。」
「そうなんだ。それは初めて知ったよ。」
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