第5話
ガキとはヴァルダルアシュート侯爵家の三男
『イガルタ・フォン・ヴァルダルアシュート』
長男、次男はまともで実直な人間で周囲からの評価も高く、次男は跡継ぎのいない子爵家へ婿入りも決定してる。
三男の評価は……『残念な男』だとさ。
長く続く歴史ある貴族特有のイケメン。
運動神経も良く学生時代はモテまくった。
ただ、残念なのが……評価が『飛び抜けた能力が無い全部が平均的でチャラい男』なんだと。
器用貧乏というか、何でもある程度はそつなくこなせるが……その程度であって真面目でもないので能力が伸びるまで訓練すらしない。
上っ面だけのチャラい男ってのが王家からの評価。
ヴァルダルアシュート侯爵家のお荷物。
ただ、血統だけは良いので地方都市の代官に就任して好き勝手やってる。
多少のオイタもヴァルダルアシュート侯爵家の周囲の人が金を遣って揉み消しちゃってるんで本人が調子にのってる。
このイガルタが主犯。
計画・実行が取り巻きのいわゆる『悪い友達』ってヤツラ。
フルプレートアーマーを着ていた5人の実行犯は悪い友達の手下と半グレの愉快な仲間達なんだと。
『なぜ自爆テロをさせようと思ったのか?』
世間で自分の評価があまりにも低いので見返してやろうと思ったのが発端。
エッシェンバッハ辺境伯家の正騎士団の鎧をコピーして森の子供の死体の横にあれば、ジャリストンはドラゴンによって消滅させられる。
全責任を追わせて取り潰せる事が可能だろう。
辺境伯の後釜に自分が入り込んで更なる権力を得ようと計画していた。
もし森のドラゴンの動きが遅れたら……
正騎士団の鎧を着けさせたチンピラを殺害する。
その仲間からの知らせを最優先で自分が受け取ってジャリストンに乗り込み、エッシェンバッハ辺境伯家の罪を声高に叫んで首都に乗り込めば悲劇を未然に防いだ『英雄』になれるんじゃないか……と2段構えの計画。
地味で暗い長男次男の2人よりも多大な成果を見せて、エッシェンバッハ辺境伯家だけでなくヴァルダルアシュート侯爵家も裏から掌握しようとしていたようだ。
んー、頭が痛くなってきた。
薄っぺらい計画を聞いて頭痛がするな。
まだ今回の事件は終了してなくて……責任を取らせるところがある。
古龍の長老達に魔法で報告して事件のあらましを説明すると、引き続き俺の自由にして良いらしい。
ただ……甘いのはダメで辛口で頼むと言われたよ。
……めんどくせ。
報酬は弾むと言われたので、ドラゴン特製の酒が樽で貰えそう。
めちゃくちゃ旨いんだよなアレ。
めんどくさくても頑張る価値はある。
少しテンション上がったわ。
《日本ではお酒は二十歳になってから》
難しいのは、辛口の加減だろう。
両家取り潰しで首都壊滅なんてのは望んでなさそう。
それだったら首都フェリクスに乗り込むのは俺じゃない。
龍王を含む古龍の長老達が集団でフェリクスに乗り込んで罰を与えてるだろうし。
過去の龍王との雑談でいくつかの前例を教えてもらってるんで……それがヒントになってるんだろう。
自爆テロ未遂事件の報告書をグレタ男爵から受け取った。
「報告ありがとう。事件の主犯はイガルタ・フォン・ヴァルダルアシュートと断定。主犯と取り巻きなども共謀としての罪がありますね。全関係者は現在どこにいますか?」
「私が遠距離通信魔道具を使って連絡後に対策チームが発足しました。捜査はアーリンドル王国王宮正騎士団が担当して捜索を開始。アーリンドル王国首都『フェリクス』近くの村で全員を発見してから全員確保。現在フェリクスに移動させて尋問中です。彼らの尋問の結果はまだこちらには届いてません。」
「首都? 村? どっかの地方都市の代官してるって言ってなかったっけ?」
「ドラゴンの動きがなかったのでジャリストンに乗り込もうと、勝手に地方都市から首都フェリクス、さらにジャリストンへと移動しようとしてたようです。」
「じゃ、僕もフェリクスまで行かないといけないですね。今から乗り込みに飛んで行きますんで……1時間後に到着すると関係者各位に伝えておいてください。事件の捜索と審判を見守る必要がありますし、もしかしたら……森側の意見を言う可能性もありますからね。」
「え? あ、はい。わかりました。伝えておきます。」
「実行犯も全員フェリクスまで連れていくんで、今からもらいに行きますね。」
「あ、はい。」
挙動不審になってあたふたするグレタを尻目に、執事に呼ばれて駆けつけてきた騎士の誘導で領主の館の地下にある牢屋に行く。
あたふたしてたグレタは執事のフォローを受けながら、首都フェリクスの王宮に俺が向かうって報告してるだろう。
15人の賊を魔法で意識を奪った後、蔦で縛り全員を浮かせて運ぶ。
使い勝手良いね、魔法。
超便利過ぎて楽できて良いわ。
俺も浮いたまま建物を出て首都フェリクスまで、空で行く1時間の旅の始まり。
転移魔法を使えば一瞬で到着するけど、人間側に準備する時間が必要だと思って空で行く事にした。
天気も良いし空の旅は気持ち良いからな。
時速200キロ以上出しても、俺も含めて16名全員を結界で包んであるので物凄く快適。
飛行日和ですね。
・・・グレタ男爵目線・・・
ジャリストンの領主執務室に門を守る警備隊からの凶報が入ってきたのは午前の休憩時間の10時半を過ぎた時だった。
龍の森の調停者がジャリストンに調査にやってきたと。
若いハイエルフ様がクンクンしながらやってきたようで、何かの被害があり何かの香りを追っているのではないかとの最初の報告。
領主の館にいる全員に今の仕事を停止させて、最優先でハイエルフ様のサポートにまわるよう指示。
まずは四方に人を飛ばしてハイエルフ様の居場所を確認させる。
警備隊も応援にまわれるように領主代行として指令。
焦って思わず自分も飛び出そうとするが……
『司令官は本部に居てもらわないとかえって混乱する』
と執事に注意されて我にかえる。
ヤバいな。
一番落ち着かなければいけない自分が浮き足立ってる。
騎士になってからずっと戦場で生きてきた自分。
館の中が戦場に似た……緊張して少しピリついた空気を感じて、かえって落ち着いた。
先月から領主代行に任命されて赴任してきたばかり。
軍指令部からは『経験をつんでこい』と言われて異動となった。
長い期間、あちこちの戦場を転戦していて休養代わりで2年程の赴任期間だぞと言われた。
慣れない仕事の慣れない毎日に神経が疲労し、全然休養になってないと嘆く毎日にうんざりしていた時の凶報。
磨り減った神経が戦場に似たピリついた空気に触発されて、かえって精神が甦ってくる感覚がある。
街に放った人員から続々と情報が集まってくる。
解決したという情報がもたらされた時が一番ピリついた。
龍の森のロックライガーの子供を誘拐してジャリストンに連れ込んでいたバカがいたようだ。
幸い子供にケガは無く、ハイエルフ様からも今後の捜索はこちらに任せると仰っていただいて、犯人全員を引き渡してくれたので領主執務室の全員でホッと胸を撫で下ろした。
街滅亡という最悪の状況からは逃れられたようだ。
しかもジャリストン冒険者ギルドに行ってくれた。
ジャリストンに森の恵みをもたらしてくれるという事から、ジャリストンにそこまで嫌悪感は抱いてない様子。
更に追加の情報がきて……ジャリストンの街をぶらついて楽しんでくれているようだ。
フー、と全員で今度は息をついた。
まずは捜索。
そしてハイエルフ様に報告書を提出という流れだろう。
部下達に指示を出して犯人グループ全員を領主の館に連れてこさせて尋問開始。
尋問に『正誤の魔道具』を使ったが誰1人として、事件について自分自身が知る限りの事を嘘無く詳細に語っているようだ。
ハイエルフ様が犯人グループに
『森の裁判に連れてくぞ?』
って言われたようで……
全力で脅されてるみたい。
森の裁判は魔法で全てを自白させられて、その場で生きたまま燃やされるという伝説がある。
精神が死ぬまでずーっと燃やされ続けるという噂もあるし。
今回は時間が短縮できるんでありがたい。
私は尋問でもたらされる情報を元にハイエルフ様に提出する報告書を作成する。
後で執事に聞いたのは……このハイエルフ様に提出した報告書は、軍指令部に提出する形式になってたみたいで……王宮に提出するには書き直しが必要らしい。
ごめんなさい。
書き慣れた書き方しちゃいました。
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