評定 中
1546年(天文15年) 4月中旬 那古野城評定の間 織田信長
評定が始まり、俺は今後の話を切り出した。先ずは戦力の強化だ。
「常備兵、ですか」
「うむ。もし今戦の準備をしようとすれば、雇うのは農民兵であろう?」
「それはそうでございます」
俺の話に平手の爺が返事を返す。一応円に座り誰でも平等に話せるようにはしているが、皆平手の爺をたてて爺が主に返事を返す様にしている様だ。内藤のおっさんはほとんど喋らないしな。
「しかしそれでは準備に時がかかり過ぎる。それに常備兵であれば、農繁期であっても戦がしかけられるからな。まぁ銭は大量に掛かるが」
「それはそうやもしれませぬが……いきなり常備兵などと言われましても、すぐに戦に必要なだけの人員を確保するのは難しゅうございましょう。それらを管理するものも必要になってきますし、銭も無限にある訳ではありませぬ」
俺の提案に、爺が難色を示す。まぁいきなり全部するのは無理だよな。俺の所だけ常備兵を揃えても、親父主体の戦であれば農繁期は今まで通り動け無いし。
「何もすぐに全て揃えようと言うのではない。将来的にワシがこの家を継いだ際にすぐに動けるよう、予め形を作っておきたいのだ。先ずはその先駆けとして、100程の精鋭隊を育成したい。城内で寝泊まりをさせ集団で行動させる。訓練も刻限ごとに予定を管理し、禄や食事、そして休みも与えるつもりだ」
「はぁ。休み、にございますか?」
「うむ、休みだ。隊をいくつかに分け、順に休みをとらせる」
「はぁ……」
爺の反応が鈍い。他の家臣たちも良く分からないと言った顔をしている。
この時代、休みという概念はあまり普通ではない。正月に休んだりすることはあるが、基本的に年中無休だ。その分夜が長いし、一日中ずっと働いていると言う訳ではないんだけどな。
だからこの時代、食事は一日二食だ。夜が早いから、晩御飯という概念が無いんだよな。俺は発光で夜が他人より短いから、三食食ってるけど。
鍛錬にしても、大人数で行う訳ではなく、皆各々で行っている。まぁ皆涼しい時間に行いたいから時間は自然と決まっては来るけど、軍譚の様に集団で何かすると言う事は少ない。
しかし俺はこれを変え、集団で集中的に訓練をさせたい。時には体をいじめていじめていじめ抜かせる。社や俺の≪回復≫も利用して、徹底的に鍛え上げた集団を作り上げたいんだ。
もちろん俺の能力もばらすことになるから、生活管理もこちらで行い、情報の規制を徹底させる。
「なるほど。若のおっしゃりたいことは分かりました。確かに将来を見据えて、試験的に行うと言う事であればよろしいかと。ただ、情報の規制が行き届くかが少々不安ではありますな」
「うぅむ……やはりそう思うか?」
「はい。集団で管理するとは言え、休みをとらせるのであれば、家族のもとに帰る者もおるでしょう。そう言った者たちが、親しさ故零してしまうことも十分に考えられるかと」
うーん、やっぱそうかなぁ。爺の言葉に、内藤のおっさんもしきりに頷いている。
このおっさんには、俺のもとに残るとわかった時に能力の事を教えておいた。天下を目指すことも伝えたら、不機嫌な顔が更に歪んでいたな。ただ青ポイントは少し上がっていたから、元々そういう顔なんだろう。損な顔だ。
俺の能力については、周りの寺社勢力の反応が予想できないからまだ大っぴらにはしたくないんだよなぁ。ちなみに親父にもまだ教えていない。親父は熱田神社と懇意にしているから、言い出しにくいんだよ。でもまぁ戦が始まればバレてしまうだろうから、早めに教えなくてはいけないんだけど……不安だ。
まぁそれよりも今は常備軍の事だ。情報規制、なんかいい方法は無いものか……
そうやって一人俺が唸っていると、長秀がふと口を開く。
「であればいっその事、若のあの集団をそのまま利用してはいかがでしょうか。戦働きが出来る年の者を集めるとすると少々人数は足りませぬが、そこは他の孤児や、手足を失くして食い扶持に苦労している若者を雇えばよろしいかと」
ふむ、吉法師軍団か。あれは元々、将来的に一廉の将に育てるために集めた集団だ。ただ現状、思ったほどのものには至っていない。訓練に並行して教育も行ってはいるが、所詮はガキの集団であるためか、訓練というより遊びの延長という印象が拭えないんだ。特に教育の方は全然ダメだな。昼飯は食わせてやっているけど、給料をやっているわけでも無いしな。
「なるほど。確かにあれらを使うのは悪くはない。時間管理もしてやれば、教育の方もまとまった時間が取れて捗るやもしれぬな」
「はい。あの者らは若の事を皆慕っております。若のお力の事をもらせば、若がどういう事態に陥ってしまうか。それをきちんと教え込んでやれば、そうそう漏らすことも無いでしょう」
ニッコリと微笑みながら話す長秀。こいつの『教え込む』が『洗脳』に聞こえるのは俺だけだろうか。
「ではワシの軍団は年で二つに分けるとしよう。11までは吉法隊と称し、今まで通り勝三郎たちに任せる。そして12より上の者たちを常備軍として雇い入れるとする。四書や五経をきちんと修めた者は家臣として召し抱えてやると伝えれば、学問の方にも身が入るであろう」
「はい。皆きっと喜んで打ち込むことでしょう」
嬉しそうにほほ笑む長秀。なんでだろう、こいつと話をしていると、悪だくみをしている気分になる。
「では数の足りない人員の確保は、八兵衛と半蔵に任せる。手足耳目の無い者や病を患い働けぬ者で、身内のおらぬ者を集めよ」
「「はっ」」
うん、これで常備兵の方はなんとかなるかな? 社の方は、お社様として出張して寮や訓練場にでも設置しておくとしよう。




