護衛
1544年(天文13年) 6月中旬 那古野城 吉法師
俺の部屋で、平手親子、八兵衛、半蔵の五人でこれからのことについて話し合う。
まずは仲間に加わった服部一族とその配下の忍達についてだ。各地に散った者たちがここに集まるにはまだ時間がかかるらしいが、それまでに決めねばならないことがいくつかある。
「まずは住処からか。半蔵、お主の配下はどのくらいおるのだ」
「忍び働きが出来るものが60と少々、その他合わせますと150ほどになりまする」
150人か、意外と多いな。忍びと言ってもそりゃ家族持ちだっているか。
「そのものら全てをこの那古野城下に入れるのは流石に拙かろう。三河の方でも今頃騒ぎになっておるに違いない。爺よ、どこか良い場所はないか?」
「ふむ、いくつかございますが……そうですな、以前参られたあの村などはどうです? あそこは山村ですので余り人の出入りもありませんし、お社様の遣いの者が御用の為に住むと申せば庄屋も否とは言わんでしょう。家は新たに立てねばなりませぬが」
なるほど、あの村か。確かに少し入り込んだ場所にあったし、丁度いいかもしれない。あの病人たちが住んでいた辺りに家を建てさせよう。そして忍び働きが出来ない女たちには、石鹸作りでも手伝わせようか。
「よし。では爺よ、その方向で話を進めてくれ」
「畏まりました」
それからあとは……
「半蔵、ワシの護衛をお主たちに任せたい。お主自身は顔が割れておろうから傍には付けられぬが、二人ほどは常に傍に控えさせる。それ以外にも影の護衛の差配はお主にまかせるがよいか?」
「はっ、光栄にござります……が、よろしいので?」
半蔵は恐縮しつつ、爺たちの方をちらりと見る。
ん? あぁ、表に出す護衛はやっぱり武士の方が良いってことかな?
「爺よ、護衛はやはり武家から選んだ方が良いのか?」
俺の問いに困った顔をする爺。
「そうですなぁ。出来ればその方が要らぬ風評をたてずに済むのですが……今更ではありますなぁ」
うん、そうだよね。俺もそう思う。と思っていたが、久秀が何か言いたそうだ。
「どうした久秀。何かあるなら申してみよ」
「はっ。しからば、某も若のお傍にお仕えいたしたく」
「ふむ、お主はてっきり内向きの仕事の方が得意だと思っておったが……まぁ良いか。爺はよいのか?」
久秀は平手家の嫡男だ。色々やらねばならない仕事もあるだろう。話を振られた爺もちょっと困ってる。
「ふぅむ……まぁ良いでしょう。将来若の家臣としてすぐに動けるよう、今の内から若のあの集団にも顔を見せておくのも悪くはありますまい」
あぁなるほど、吉法師軍団ね。確かにあれらはちょっと癖が強いから、真面目な久秀とは早めにぶつけておいた方が良いかもしれない。
「わかった。では、久秀はこれからワシの傍につくように」
「はっ。ありがとうございまする」
さて、あとは給料か。
「あとは半蔵達の禄についてだが……」
「某たちは、生活さえできればいかほどでも構いませぬ」
「そういう訳にはいかぬ。とは言うものの、今はそこまで手元にないからのう……」
今すぐに金に出来るのは清み酒くらいか。
「八兵衛、清み酒の方は順調か?」
「はい。腐りにくいと聞いておりますので、順次酒蔵の方に保管しておりまする」
よしよし。
「ではそれを売っていこう。そうだな……まずは親父に献上してご機嫌でも窺ってみようか。そのついでに半蔵の事も報告してしまおう。酒好きの親父だ。きっと高値で買ってくれるだろう」
ぐふふ、親父はかなり金の持ちだからな。尾張守護代の一家臣でありながら親父があそこまで大きな顔をしているのは、熱田と津島という港を有し莫大な経済力を所持しているからだ。椎茸や石鹸なんかの軽いものは、半蔵達を使って関所抜けをさせて売った方が金になるだろうが、清酒は嵩張るからな。親父に売りつけて、がっぽがっぽと稼がせてもらうとしよう。




