71.道中の出会い 6
そう、俺が悩んでいるのは人間関係についてだ。
サリエスさんと、どう付き合っていけばいいか分からない。嫌われたくないと、特別に感じてしまったと、そういう感情を抱いてしまったから。
「人間関係ねぇ。若いうちはそう深く悩むことなどせずに、当たって砕ければそれでいいと思うが」
「そうもいきませんよ」
そんな風に割り切れたのならば、良かったんだろう。でも俺はどうしても考え込んでしまうのだ。
サリエスさんのことを大切に思ったからといって、それであたって砕けるのは流石に躊躇してしまう。
それは俺がもっとサリエスさんと一緒に旅をしたいと望んでいるからかもしれない。サリエスさんはエルフで、人間である俺とはそもそも考え方が根本的に違う。
いつも旅をしているというのもあって、特定の人と深い仲になることはあまりなかっただろう。渡り人である俺は普通の人間よりは長生きするらしいとは知っている。だからサリエスさんが嫌がらなければ一緒に旅を続けることは出来る気がする。
……ただ俺も今は旅をしたいと思っているけれど、この先の未来はどこかに落ち着こうとはするかもしれない。
どうなんだろう? サリエスさんはずっと旅をしたいのかな。
俺はサリエスさんのことをそこまで詳しく知らない。俺が聞かなかったから。自分の事情を語りたくないのもあって、互いのことを話さずに済む関係がとても楽だった。
でもそれって、逃げでもあるのだ。
旅をするのが一時的なものだったならばそれでいいのかもしれないけれど、俺がサリエスさんのことを特別に思ってしまった今は――俺がただ人付き合いを億劫に思ってしまって近づかないようにしていただけだ。
俺が異世界から来たことなどを告げたら、サリエスさんはなんというだろうか。こういった情報を告げないようにしていたのは、渡り人であることや自身のスキルのことも含めて知られたら大変だろうと分かっていたからだ。
俺のスキルはそこまで強いものではない。少しずつ練習をして使いこなせるようになっているけれど、他のクラスメイト達ほど有用なものでもない。それでも異世界の知識などを利用しようとする人は居るだろう。
俺とサリエスさんの関係は、旅を一緒にしているとはいえ希薄だ。そう言う風に俺がしてきたから。だけど俺はサリエスさんを失いたくないと思ってしまっているし、突然彼女が居なくなってしまったりしたらとてもショックを受けてしまうことだろう。
「ははっ、若いのに考え込みすぎだよ。人間関係なんていうのは複雑に見えて単純なんだ。深く考えずに行動を起こした方が上手くいくことだってきっとあるだろう」
軽い調子でそう言われて、俺は黙り込んでしまう。
確かに言う通りなのかもしれないとは思わなくもない。ただなんていうかやっぱり難しいのだ。これまで俺とサリエスさんは互いのことを語ることなく生きていたのだから。
そう、この距離感だからこそ俺達は上手くいっていた。
例えば俺がサリエスさんに話しかけ続けたり、その生い立ちなどを探ろうとしたり、接し方が違えばサリエスさんは俺と一緒に旅なんてしてくれなかった。
俺とサリエスさんの関係は、何らかのきっかけがあればこじれて、そして終わってしまうもの。
安心感がないからこそ、自分の素直な気持ちを告げることに不安を感じているのだろう。情けない話だけど、俺は失うことを怖がっているだけなのだ。
「人はぶつかり合ってこそその仲を含めることが出来るものだよ。当たり障りのない言動を続けていたところで本当の意味で仲良くなることなどまず不可能だろう。それで終わってもいいならそのまま進むといいが、結局のところきちんとぶつかり合ってくれないものなど信用に値しない」
その女性は見透かすかのようにそう言った。俺がサリエスさんに本音を口にしていないことなど、すぐに分かったのかもしれない。
「……俺の本音は、その人を不快な気持ちにさせる可能性がありますよ」
「ははっ、そんなことを言って口を閉ざしていれば今後誰とも仲良くすることは難しいだろうね」
はっきりとそう言われて、どうしたものかとやっぱり悩む。
頭では分かってはいる。俺がこのまま本音を話さずに当たり障りのない言動をして旅を続ければ、いつか近いうちに終わりは来るだろうと。サリエスさんと俺の目的地が一致して居なかったら、サリエスさんが俺を置いてどこかに行くことを決めたらそれで終わる。
結局別れが早いか遅いかの違いでしかない。
それならばどうしようか?
「まぁ、なんにせようじうじ悩むよりも行動を起こした方がいいってことさ」
最後にそう言って送り出される。
俺はその女性に詳しい事情は話さなかったし、会話なんてそこで終わりだった。
――だけど、こうして赤の他人から意見をもらったことで俺は余計に思い悩むことになってしまった。




