70.道中の出会い 5
翌日になって、俺は街を歩いて回る。サリエスさんの姿はない。……此処にくるまでの一件で、俺は少しだけ心細くなってしまっているらしい。サリエスさんに会いたい気持ちになる。俺とサリエスさんの関係性ってただの旅仲間でしかないのになぁ。
それなのにこんなにも話したくなっているなんて俺は情けないなってそんな気持ちにもなる。
いずれ、サリエスさんとも別れて一人旅にきっと戻るだろう。それは紛れもない事実であり、俺とサリエスさんは一時的に一緒に旅をしているだけにすぎない。
俺はサリエスさん自身について、自分から聞こうとはしていない。サリエスさんが特別な相手になることを恐れているからかもしれない。
だって仮に心から仲良くなって、俺が異世界人であることなどを教えて、それで関係性が変わるのも恐ろしいと思ってしまう。
――スキルを持ち合わせている俺達、異世界人は人に利用されやすい立場ではあるのだ。この世界は人の命が軽くて、人を裏切るような倫理観のない連中も沢山いて、そういうのを知ると余計に警戒しなければならないってそう思ってしまう。
誰かと親しくなった時に、その人から裏切られたりするのが怖いなって気持ちも当然ある。なんというか、この世界にやってきてから俺はあんまり人を信じすぎないようにしようってそうも思っていた。なるべく深い付き合いはせずに済むように。当たり障りのない冒険者生活をして、力をつけていければいいってそうも思っていた。
それでいいと思っていたはずなのに、やはり誰かと一緒にいる時間が長くなれば長くなるほどやっぱり情というものはわいてしまう。俺はサリエスさんと離れなければならないことを思うと寂しくも感じていた。
こんなことを急に考えているなんて、サリエスさんにも呆れられてしまうかもしれない。寧ろ気持ち悪いとか、そう言う感情を抱かれるかも。
……それは嫌だなぁ。
サリエスさんに嫌われたくないなとは確かに思ってしまっていた。この世界にやってきてから、あまり人と仲良くしすぎないように気を付けていたのにな。
……サリエスさんのことが、少なからず俺は大切になってしまっていて。
そのことで、どうしたらいいか分からない。どこかのタイミングでサリエスさんは一人旅に戻ろうとするだろう。こんな世界だから、そこで別れたらそのまま会えなくなる可能性も十分にある。
もちろん、きちんとした手筈を踏んでいれば会えはするだろうけれど……。どうしようか。いきなりサリエスさんに出来る限り一緒に旅をしようと申し出てみる?
寂しいからって。そんなことを男の俺が言っても気持ち悪いだけだろう。
そもそも俺はサリエスさんを大切には思ってはいるけれど、それがどういう感情なのかきちんと理解しているわけじゃない。
……この世界にやってきてから、初めてこれだけ一緒に過ごして、仲良くなった相手だからこそ俺は依存してしまっている面もあるのかもしれない。
街を歩きながら、思わずため息を吐く。
道行く人々は、何の悩みもなさそうに見える。これは俺が勝手に思っているだけなんだろうけれど。うん、何だか凄く考え込んでしまっている。
思春期特有の自分が一番悩んでいるようなそんな感覚。……ちゃんとわかっているはずだけど、それでも思考が巡る。
「お兄さん、どうしたんだい?」
俺がとぼとぼと歩いていると、年配の女性から話しかけられた。白髪交じりで、皺のある女性は全てを見透かすような視線を俺に向けている。
――俺の警戒するような視線に気づいているのだろう。
「そう、警戒するでない。取って食おうとはしていないのだから」
そう言っておばあさんは笑う。だけれども、真意がつかめなくて、やっぱり俺は警戒心を解くことなど出来ない。
特にこうして思い悩んでしまっている最中で近づいてくる存在なんて、ろくでもない人にしか見えない。って、そんな風な考え方をしている時点で、俺って自分が思っているよりもずっと参ってしまっているのかもしれない。
「……それで、何の用ですか?」
わざわざ暗い表情をして歩いている俺に話しかけてくる意味ってなんだろうか。無視してもいいだろうに、気になって話だけ振ってしまった。
「思い悩んだ顔をしているからね。気になっただけさ。そんな顔をして歩かれても辛気臭くなるだろう?」
そう言われる。
……そこまで顔に出ていただろうか。それだけ俺がサリエスさんのことを気にしてしまっている。
というかサリエスさんの方が俺よりもずっと年上で、きっと彼女は俺がこんなことで考え込んでしまっているとは思っていないだろうな。
「……人間関係で多少、悩んでいて」
俺が結局そんなことをおばあさんに口にしてしまったのは、誰かに聞いてほしいという思いもあったからなのかもしれない。俺って情けないなと落ち込んだ。




