最終話 万馬券の行方
数か月後。
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『¡Entrega!』
(お届け物です。)
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木村は静かに立ち上がり、玄関の扉を開けた。
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スーツケースを受け取る。
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重さを確かめるように持ち上げ、そのまま部屋へ運ぶ。
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部屋の隅には、同じスーツケースが整然と積まれていた。
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木村は最後の一つを静かに並べる。
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机へ向かう。
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ノートを取り出しページを捲る。
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擦り切れたノートには何枚もにわたり書き直した計画。
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最後のページの一覧、最後の段に線を引く。
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「これで最後だ。」
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木村は金庫を開け書類の束を取り出した。
そまま郵便局へ向かう。
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局員へ封書を渡し
「日本まで。」
と短く告げた。
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受領証を財布にしまい外に出る。
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「……終わった。」
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*
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日本。
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山あいの小さな町。
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古びたアパート。
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インターホンが鳴る。
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設楽が扉を開けた。
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そこに立っていたのは、一人の少年だった。
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「駆さん……。」
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設楽は思わず呟く。
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駆は少し照れくさそうに笑う。
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「三番から預かった封筒に、この住所が書いてあった。」
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設楽は静かに頷く。
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「来てくれたんですね。」
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二人は部屋へ入る。
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しばらく沈黙が続いた。
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先に口を開いたのは駆だった。
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「お父さん。」
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「全部終わったら、いなくなっちゃった。」
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「家族も置いて。」
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「今、僕は施設で暮らしてる。」
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設楽は黙って聞いていた。
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それが、大河原の選んだ結末だった。
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駆は少し笑う。
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「設楽さん。」
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「たまに遊びに来てもいい?」
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設楽の目が少し潤む。
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「もちろんです。」
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「いつでも来てください。」
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「駆さんのために、色々準備をして、お待ちしています。」
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駆は嬉しそうに頷いた。
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その日から。
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設楽は誰にも知られることなく。
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駆を陰ながら支え続ける人生を選んだ。
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数年後。
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木村はノートパソコンの前に座っていた。
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静かな部屋。
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『タタタ、タン』
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指が止まる。
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少し考える。
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『タタタタ、タン』
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画面を見つめる。
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また止まる。
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そして。
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『タタタ、タン』
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あの日と変わらない。
考えながら刻む、木村だけのリズム。
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初めて最後まで書き上げた小説は、書籍になった。
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今は、書くことが楽しい。
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今日が発売日だった。
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木村は小さく息を吐く。
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保存。
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ノートパソコンを閉じた。
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都内。
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大型書店。
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平台には、新刊が平積みされている。
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『万馬券の身代金』
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一人の青年が一冊を手に取る。
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ページをめくる。
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最後のページ。
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献辞。
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四番へ。
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青年の手が止まる。
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静かに本を閉じる。
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もう一度、表紙を見る。
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そのままレジへ向かって歩き出した。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
少し手直ししました。
予想以上の方々が読んでいた事に驚いています。
少しでも面白かったと思ってもらえましたら評価やコメントをお願いいたします。




