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龍と生きる  作者: RyuRi
9/13

9.帰還



太陽が真上に昇る頃、目の覚めた民は次々にリザードの家に集まり始めており、酔っ払って外で寝ていた男達も少しずつだが目を覚まし起き上がり始めていた。


その時だった。


ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!


辺り一体に地響きのようにこだました声は、水面を揺らし草をなびかせ、草木を踊らせた。


寝ていたものは慌てて飛び起き、起きていたものは強い風に思わず目を強く瞑る。


目が開けられるくらいに風が収まった頃、人々の前には鬣の毛先部分に少し赤色が混じった緑龍の金目の龍が現れた。


泉の浅瀬に上に着水した龍はゆっくりと翼を閉じ、陸へと歩いてくる。


その様子をただただ茫然と見つめるだけだった人々は息を呑んだ。


家から飛び出してきた人々も驚きから思わず目を見開き、動きが停止する。


その中にルーシィも居た。


アルベルトは我に帰った瞬間、思わず隣にいたルーシィを見る。


ルーシィの見開かれた目には涙が溜まっており、両手を胸の前で握り込み、心なしか震えているように感じた。


「ル「…よかった」」


アルベルトとルーシィが声を発したのはほぼ同時だった。


その直後ルーシィが金目の緑龍に向かって走り出した。


それを思わず止めそうになったアルベルトの手は宙を切る。


泉の陸際で歩くのをやめた緑龍はルーシィが走り寄ってくるのを見て、ルーシィに高さを合わせるように首を下ろした。


緑龍の近くまでたどり着いたルーシィは次の瞬間、その鼻先に躊躇なく抱きついた。


その様子にゴクっと唾を飲み込んだ人々は茫然と見守る。


「あの時の子…だよね?」


太陽の光でキラキラ光る泉の前で緑色の龍と金色の女の子。


とても神秘的な光景に一同は目を離せない。


人々には少女の声は聞こえないが、緑龍に何かを問うたのはわかった。


ギャオオオ


その問いに反応するように龍が小さく鳴いた。


心なしか龍も嬉しそうに見える。


1人と1匹はその後は互いに言葉を発さず、長い日々のあとの再会を喜ぶかのように額を突き合わせ目を瞑り合っていた。


どのくらい時が経っただろうか。


人々が動き始めるのをわかっていたかのように目を開いた金目の緑龍はじーっとアヴェル、リザード、長、アルベルトへ順に視線を移した。


動き始めた緑龍の視線に対しハッとした民達は各々が膝を降り、首を垂れる。


その中には勿論アヴェルとアルベルトも居た。


“人間国の者よ”


重低音の声が響いた。


その声に歓喜か、恐ろしさなのか武者震いのような震えをするものが続出する。


だが、その視線を受けて真剣に龍の目を見つめ返した者が4人居た。


それは緑龍が見つめた4人だった。


ルーシィは先程よりも明らかに大人びた表情で左手は緑龍の前足に当て、緑龍の隣に立っていた。



“時は来た。我らがこの大陸へと戻ってくる時がやって来た”


その言葉に対し、4人は深く頷いた。


“我が命を救いし姫が戻ってきた”


そう言った龍は慈しみを込めて姫を見た。


“我が龍国も時とともに代が代わった。だが、いくら時が代わろうともかつての龍達の記憶は今も受け継がれ、我が知識となり今を統べる者達の糧となっている”


再び視線を4人に向けた緑龍はゆっくりと言葉を紡いでいく。


“かつての絆を復興し、我ら龍の一族が姫の力となる時がやってきた”


力強い緑龍の声に姫は強く頷いた。


そこに居るのは確かにルーシィなのだが、かつて龍と共に生きた姫の人物像を思わせるような貫禄があった。


“姫を慈しみ、育ててくれた者たちよ。礼を言う”


そう言ってネーシィとルーカスに視線を向けた緑龍に2人は目にうっすらと涙を浮かべ、決して溢れないように覚悟の決まったような顔つきで深々と礼をした。


「ルーシィ、行くのか?」


その様子を見ていたリザードが思わずルーシィに問いかけた。


「はい、龍のお導きのままに」


そう告げたルーシィはやはりルーシィっぽくなくて思わずアルベルトは聞いてしまった。


「それはルゥの意思なの?それともかつてのお姫様の?」


その問いにルーシィはひとつも悩む様子がなく告げた。


「両方のだよ。アル、ありがとう」


ルーシィのことを心配して出た質問だったことにルーシィも気づいたのだ。


ルーシィは屈託のない笑顔で笑った。


それを見た緑龍は深く頷いた後、言葉を続けた。


“我が龍族は、国家間の交流を避けてきた。龍と人とでは過ごす時や考え方が異なるからだ。戻ってきた今、姫がいるからとすぐにその姿勢がかわるわけではない”


そう断言した緑龍に反応したのはアヴェルだった。


「なぜ?」


緑龍はアヴェルに目を向けた後、その真剣な瞳を見て言葉を続けた。


”龍の中でも各色を統べる長の龍にしか人間と言葉を交わす術がないからだ”


「長にしか話せない?」


その言葉にゆっくり頷いた緑龍は“先代の意図を汲み、姫を守りし民だからこそ伝えることとする”と前置いた。


その言葉に秘匿の民一族はハッとして、すぐに頷き合う。


それを金色の目でしっかりと見つめた緑龍はルーシィがしっかり頷いたのを確認した後告げた。


“かつて始まりの王龍、金龍が最初の人間と言葉を交わすために神の力を借りて受けた紋章が多種族との会話を可能にするというものだった。金龍が天寿を全うする直前、今後を懸念し、一族の中でも特に知識のずば抜けていた5色の長へと紋章の力を五等分にして移した。5色が道を違えず知恵を絞り合うためだ”


「赤、青、黒、白、緑の5色のことか?」


緑龍がゆっくり話してくれるため、アヴェルは思わず確認の意味もあり、疑問を口にした。


”そうだ。我らは金龍程優れてはいない。知識量もだが、同色の者にしか指示が通らない。だから5色で話し合い、統率を図る。各色の長となる者が体色の色が1番濃く、目の色も濃い同色か王龍に近い者の中で知識量も含め、先代の長に選ばれた者だ。だから、色の濃い者と比べたら色の薄い者から知識は劣っている。だが、知識が劣るからといって人間の言葉を理解できないわけではない。ただ、伝わったとしても伝える術はない。だから、現段階では長以外は人間と会話することは出来ない”


ゆっくりした口調で緑龍は語った。


かつて龍と交流した人間は遥か昔に亡き者となっている。


金龍が亡くなった後、龍と交流したのは姫くらいだった。


知らなかった新事実に辺りにいた一同は衝撃を受けた。


それと同時に長や辺境伯からの勧告があるまで、絶対に他言はしないと緑龍からの信頼を胸に各々が心の中で誓う。


「では、緑龍の長よ。貴殿らは何を望む?」


動揺からすぐに持ち直したアヴェルは緑龍に問う。


“我らは先代が課した、人間が我が龍の領域を脅かす存在かそうではないかを見定めようと思っている。それがどのくらいの期間になるかはわからない。しかし、姫の件で先代の予言を信じ、守ろうとしてくれる民に心を打たれ、寄り添いたいとも考える”


そう言った緑龍はルーシィとその両親をみた。


その視線に気付いたルーシィは緑龍を見上げて優しく笑った。


“当面の間は定期的にそちらの代表と会談をする場を設けようと思う”


その言葉にアヴェルとリザード、長、アルベルトは深く深く頭を下げた。


その直後だった。


ゴオオオオオオ!!!!


地鳴りと共に大地が少しだけ振動した。


建物が倒れるような振動ではないが、辺り一面に激しく音が響く。


それに驚いた民たちはお互いを庇いながら伏せる。


中にはつい声を上げてしまう子供や大人も居た。


その瞬間だった。


ギュアアアアアアアア!!!!


金目の緑龍が人一倍大きな声で嘶いた。


ハッとした民が緑龍が見上げる上空を仰ぎ見た。


すると、上空には様々な大量の龍達が居たのだ。


圧巻な光景に人々は言葉を失う。


“大地の魔術が解けたのだ。今回は我が牽制し、各長が共鳴したが、龍は叫び声を聞くと対象物を狩る習性がある。下位の龍は我慢できない”


そう言った緑龍に「気をつけよう」とアヴェルは頷くと感謝の意を込めて礼をした。


「我々人間は貴殿らのことを知らない。少しずつでいい。教えてもらえたら有難い」


そのままの姿勢で告げたアヴェルに対し、緑龍はリザードと長を見ながら言った。


“代々我らを見守りし一族よ。そなたらに伝わるものを書き出してみよ。それをもとに我らの話をしようぞ”


その言葉を受けたリザードと長は「「御意に」」と片手を手を胸に当てた。


“我らは目立つ。次の階段は3日後の日付がかわる前。場所は…”


そう言うと緑龍は悩んだのか言葉を止めた。


それに対しルーシィが「アル、あの場所で」と付け加えた。


戸惑いつつもアルベルトが頷いたのを確認した緑龍は身を屈めるとその背中にルーシィが慣れたように飛び乗った。


その様子を唖然と見ていたアルベルトは思わずルーシィに強く視線を向ける。


「アル!また3日後ね」


そう笑顔で言ったルーシィはそのままネーシィとルーカスをみた。


「ママ!パパ!行ってきます!」


そんなルーシィの様子を見てもう迷いはないかのような晴れやかな笑顔で両親は頷くと行ってらっしゃいの意を込めてルーシィに対して手を振った。


その時には緑龍は羽ばたき始めており一瞬で上空へと舞い上がる。


次の瞬間、何事もなかったかのように秘匿の村に静寂が訪れた。


上空にも大地にももう龍の痕跡はない。


ただ、高々に龍が叫ぶ声だけは遥か彼方からこだました。


そのただ一つの小さな痕跡に一同は今までの出来事が御伽話のような感覚に襲われて、脳が現実だと判断するまでに少し時間を要した。


アルベルトはルーシィの消えて言った空を茫然と見つめていたが、すぐに覚悟を決めた表情でアヴェルとリザードと長と頷き合っていた。









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