11.秘匿の民
迎えにきたリザードと共にアルベルトとグラムは通い慣れた秘匿の村へと向かった。
長の家に着くと、さっそく4人は次の龍との対談に向けて、人間側の意見をまとめるために話し合いを始めた。
「では、ルーシィの意見を尊重した上で今後のルーシィの住居は本人に任せるということでいいかの?」
「そうだなー、ネーシィ達もそれで構わないって言ってたぜ」
「王国としても、ルーシィさんは秘匿の民に属する者ですから異論はないかと思います」
長、リザード、グラムの順に話し出す。
3人の意見に対し、アルベルトは頷いた。
「僕個人としてもルーシィが自由に過ごせるように手助け出来る範囲で手助けしていこうと思います」
「まぁ、問題はルーシィの存在が明るみになったときじゃ」
「そうなんだよなー」
「村として、その件で秘匿の民の存在が明るみに出るのはあまり好ましくない。今となっては王国側は辺境伯の助力を得ることは出来るが、反対側から助力を得るのは難しいのではないかと思う」
「そうですね、セラムと接するアイーダとホルンは、龍の帰還で一時的に戦争を中止していますが、もともと好戦国といっても良いほどですから、セラムを見守るためとはいえ、断崖を自由に行き来する一族の存在はあまり好ましく捉えられないでしょう。民の存在はアイーダとホルンにどこまで知れ渡っているのでしょうか?」
長、リザード、長、グラムの順に意見を述べる。
「そうだな、結論から言えばその2カ国の王族は我々の存在を知っている。龍の動向を見守り、侵入者を排除してきた我ら一族は、セラムと面する国にとっては龍の怒りを買わないために重宝され、なくてはならない存在だった。500年前の一件を広めるために各国王族に再度存在を主張した。その後100年程は2カ国も我らに好意的であった」
一区切りつけた長にすかさずグラムが質問した。
「あった、とは?」
「…今となっては代々存在を伝えられていたとしてもあまり重要視された存在ではねぇな。セラムが不在となって、龍の脅威を知らない代からしたら俺等なんてあえて気を遣って守るべき存在でもねぇってことよ」
黙り込んだ長の代わりにリザードが答えた。
「でも、セラムは復活しました」
そう返したグラムに次は長が答えた。
「もともと戦争が始まった800年前、龍の怒りを恐れ、アイーダ、ホルン、ジースは3つの国の中央付近で戦争を行っていた。だが、500年前の出来事からセラムがこの地を去ったあと、国境どの箇所でも関係なく戦争を繰り返すようになった。だから、この500年、民達が我らを知らない兵士から間者と勘違いされないように2カ国の面する断崖には必要最低限しか見回りもしてこなかった。その際、巻き込まれないようになるべく存在を隠しておったから、我らの存在は現王家にとっても古の民程度の存在としか把握されていない可能性がある」
黙って聞いていたアルベルトは深く考え込むと口を開いた。
「セラムが帰ってきた今、もし戦争を再開するとしても、場所はさすがに2カ国も考えることでしょう。現在は警戒態勢に入り断崖を注視している2カ国も、我が国とセラムの交流が広まり、セラムが以前のような存在に戻るとなってくると、過去を繰り返さないためにまずは我が国から辺境を収める者の大切さについて情報を発信していく必要があります。実際に制度を固め、人員を選出し、辺境の地を整備していくことはすぐにとは行かないでしょうがいずれは各国で辺境を収める者を出してもらいます。ですが、制度が整うまでは秘匿の民の者には見回りの回数を増やし危険をなるべく除いた状態で500年前のように2カ国側の断崖も見守って頂く必要が出てきます。そこで問題になってくるのはルーシィの存在、ですよね?」
黙って聞いていたお長とリザードは頷いた。
「古の存在だとしても、休戦時に2カ国に入り込んだ我が民の情報では少なくとも一般市民には広まっていない。だが、セラムが帰還したからと言って公にしていい存在でもない。いずれ龍に対し悪巧みをしてくる連中も必ず現れる。そのときに不届き者に奇襲をかけられ、我が民が根絶やしとなっては、それこそ龍達との約束を守れない」
「だから、ルーシィが龍と離れ、村で生きることを選択するなら問題はない。だがまずそれはないと考える。そうなってくるとルーシィの生い立ちを探られるわけにはいかない」
長とリザードの言葉にアルベルトとグラムは深く頷いた。
「…ルーシィさんの意見次第となりますが、ルーシィさんを守れる立場、そして龍との交流の架け橋として殿下とルーシィさんが婚約するのが一番良いように思います」
ポンッと手を叩いたグラムが明るい表情で言った。
「仮にもそうなったとして、第一王子の婚約者になるとすれば、ルーシィの立場や生い立ちは他の連中を納得させるだけのものである必要がある。更に探られるんじゃねぇか?」
呆れ顔でそう言ったリザードにグラムは続けた。
「それを利用するんですよ!変に隠すから探られるんですよ。まぁ、情報操作次第とは思いますが下地を準備してそれが本物かのように公表するんですよ。まぁ、その下地をどこに持っていくのかが問題になってきますがね」
得意げに話すグラムはいい笑顔でお茶を飲み始めた。
一気に緊張感が緩んだ4人は各々意見を言い合う。
「まぁ、それが一番かもしれぬな。ルーシィ次第じゃが」
「そうだなぁ〜、王国が味方となってくれるならルーシィはセラムと王国2カ国から守護される存在になるってんだ。そうなると叔父としても安心だがなぁ〜、ネーシィもルーカスもホッとするんじゃね?ルーシィ次第だけど」
最後はにやっとする2人に対し、アルベルトはルーシィの誕生日前日と当日の様子を思い出しながら耳を赤らめた。
「見てたの?」
じとーっと3人を見るアルベルトにくつろぎ始めた3人はまたにやっとして喋りだす。
「見てたって前に、ルーシィが公にしてるからなぁ〜態度で」
「わしは仲良しこよしで手を繋いで初初しい様子のアル坊なら見かけたけどのぉ、最近は耳が遠くて会話は聞こえん」
「まぁ、私も見かけはしましたが、泉まで距離はありますし聞こえはしませんでしたよ。その後ルーシィさんが着けていた髪ゴムにはすぐ気づきましたけど」
居心地悪い空気を一掃するようにはぁっとため息をついたアルベルトは強めの口調で話し始めた。
「とにかく、ルゥの意見次第で、場合によってはルゥの生い立ちについては叔父上と龍殿達と決めるってことで良いの?」
「よいよい〜」
「ネーシィ、ルーカスにも話しとくわなぁ〜」
「殿下…よかったですね!」
長はお茶を飲みながら、リザードは片手をひらひらしながら、そして眼鏡の奥で何故か満足そうに涙ぐむグラムの順に返事を返され、アルベルトは真っ赤な耳のまままた盛大に溜息をついた。
だが、居心地の悪さはもう消えていた。
それは、ルーシィの立場が変わった今でもルーシィとの関係を後押ししてくれている大人たちの暖かさに触れたからだ。
そう思うとアルベルトは思わず3人に深く頭を下げた。
感謝の気持ちを込めて。
すぐに顔を上げたアルベルトの目にはには優しそうに微笑む3人が居た。
アルベルトはこの優しい人達のためにしっかり自分の役割を果たしていこうと強く思うのだった。
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