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第四章 王弟殿下の来訪 ⑦反省会と兄様

 ──グウェン様が帰った後、私は部屋で一人、今日のことを振り返りながら、ジェイシス様に言われた言葉を思い出していた。


 なぜグウェン様に話せなかったのか……

 ジェイシス様の話だと『当事者には話せる』制約魔術のはずなのに。


 もしかして、彼は当事者ではないのかしら?


 私を異世界に転生させた当時の筆頭宮廷魔導士と、弟子としてそれを手伝っていたジェイシス様、それに入れ替えられた本人である私は間違いなく当事者だけど、グウェン様的には番いを異世界に飛ばされはしたものの、自分自身は関係者であっても当事者ではないのでは……?


 ああ……きっとそういうことなのね!


 番いらしいし、実害を被る人だから当事者だとばかり思っていたけれど、彼自身が直接何かをされたわけではない。

 話せなかったのはきっとこのせいだろう。

 ……ということは、グウェン様には何も話せないということ?


「う〜ん……一体どうしたら良いの? もし本当に番いになるなら、事情を話せないのは結構不便よね……なんとかして話せないものかしら?」


 ふと口に出して考えて、我に返って思わず顔が熱を持つ。


 番いになるのだとしたらって……え!? 私もう普通にそう考えちゃってる!?


 まあ実際グウェン様は凄く優しい方だったし、私のことをとても大切にしてくださるとは思うけど……

 獣人なだけならまだしも、王弟殿下というのがどうにも重い。

 しかも十一も歳が離れている。

 

 私はまだ未成年だし、転生したばかりでこの国のこともよくわかっていない。

 元のキリアの記憶があるにはあるけど、あまり外出とか外との交流をしてこなかったみたいなのよね。

 それがいきなり王弟殿下の婚約者なんて、いくらなんでも急展開すぎるでしょ……。


 王族との婚姻なんて、絶対面倒な人間関係が待ち受けているに違いない。

 公爵家の娘である現状でさえ、元々箱入り娘な上に病み上がりで未成年ということで、割と免除されているところがあるけれど、それでもお茶会だなんだと招待状の数に辟易しているのだ。

 王弟殿下と結婚なんてことになれば……今以上の招待状の山は確実だろう。


 もう本当に厄介だわ……。

 グウェン様が獣人でも普通の貴族ならよかったのに。


 頭を抱えながらソファで考え込んでいると、「コンコン」と部屋の扉がノックされた。


「キリア、今少し良いかい?」

「キース兄様?」


 扉を開けると、そこにはキース兄様とカイン兄様の姿があった。


「どうかなさったのですか?」


 兄様たちは決まり悪そうに苦笑した後、「今少し話せないか? 今日の殿下との話が聞きたいんだ」と切り出した。


 どうやら、気になり過ぎて、夕食の時間まで待てなかったらしい。

 二人を室内へ促し、ソファで向かい合って座った途端、キース兄様が不思議そうな顔をして、私を凝視した。


「私の顔に何か付いているのでしょうか?」

「いや、顔には何も付いていないが……キリア、殿下と何かあったか?」

「え!? それはどういう意味ですか?」


 聞かれると予想はしていたけれど、あまりに直球な質問に思わず先ほどのことを思い出し、顔が赤くなってしまう。

 そしてそれを見た二人は泣き出しそうな顔になる。

 特にカイン兄様は、泣きそうな顔になりながらも、「王弟め……」などと何やら不穏な呟きをしているのが怖い。


「ほんの少しだが、魂が変化して色を帯びている……」

「え? 真っ白じゃなくなっているのですか!?」


 嬉しさに思わず、ソファから身を乗り出して聞いてしまい、慌てて座り直す。


「ああ。今はほんのりとだが金色の光のようなものを帯びている」

「金色の光……?」

「そうだ。色を帯びたのは嬉しいことだが、金色でしかも光っているというのが……私は金色の魂も見たことがない。キリア、何か心当たりはあるか?」


 ん〜心当たり……。

 金色の光なんて、さっきのグウェン様の光くらいしか……やっぱりきっとあれなんだろうな。


「うん……あのですね、キースお兄様。さきほど私、グウェン様にたす──」

「「グウェン様!?」」

「ファーストネームを呼ぶ仲になったということは、キリア、お前、王弟を受け入れたのか!?」

「え!?」


 急に問い詰められ、驚きのあまり頭がフリーズしてしまう。

 とりあえず、必死に首を横にブンブン振る。

 私の呼び方に驚いただけかと思いきや、どうやらカイン兄様は私が婚姻の話を受け入れたと思ったらしい。


「おい、カイン! 少し落ち着け! キリアが怖がっているだろう」


 慌ててキース兄様が止めに入るが、どうやらキース兄様自身もかなり気になっているようで、カイン兄様を押さえながら、ソワソワとした様子で私に尋ねてきた。


「で、キリア、何があったんだ?」

「……私、さっき二人きりでしたので、その、緊張し過ぎてしまって。それで、呼吸が上手くできなくなってしまったところをグウェン様が魔法で助けてくださったんです……」


 本当は制約魔術を解こうとしたせいだけど、そんな話をしたらさらに面倒なことになってしまうのが目に見えているので、そこについては誤魔化しておく。


「グウェン様か……そうか。王弟殿下が魔法で助けてくださったと……」


 ……なんだか思った以上に名前呼びに引っかかっているみたいね。


「その時のグウェン様の魔法が凄く綺麗な金色の光を放っていらして……だから、もしかしたらグウェン様の影響なのかと思いまして……」


 私が少し困ったように答えると、キース兄様は少しホッとしたのか肩を撫で下ろした。


「キリア、良かったな。金色でも魔力を帯びている……前とは違うかもしれないが、そのうち魔法も使える状態になると思うぞ」

「え!? 本当ですか、キース兄様!」


「ああ。まあまだ少し色を帯びている程度だから、今すぐは難しいかもしれないが、近いうちには可能になるはずだ。ただ……」


 喜ぶ私とは対照的に、物凄く嫌そうな顔をしながら言葉に詰まる。


「……ただ?」


「金色の魔力なんて見たことがないから、何の属性なのかがわからない。それに魔力はあるとしても、その金色の魔力をキリアが使えるのかどうかも、少し疑問だ。王弟殿下に詳しく伺う必要があるだろうな」

「それは……もしや、獣人に関係するかもしれないということか!?」


 キース兄様に押さえ込まれながら黙って聞いていたカイン兄様が急に勢いよく口を挟む。


「ああ……そういうことだろう」


 キース兄様の肯定の言葉に、カイン兄様は愕然としすると、二人とも黙り込んでしまった。

 二人の空気が重い……。


 私的には魔法が使えるようになると言われて、飛び上がりたいほど嬉しいのに、この二人の前ではさすがに大喜びする勇気はない。


 でもそっか……魔法、使えるようになるのね。

 ついに私も本格的に異世界転生を謳歌できるわ!


 抑えきれない喜びが顔から滲み出ていたのか、私の様子を伺い、今なら話しても大丈夫だろうかと、どこか切り出しづらそうに、キース兄様が尋ねる。


「ちなみにキリア……その、殿下と番いの契約を結んだわけではないんだよな?」

「番いの契約?」

「ああ、血の契約や……その、き、絆の誓約とか……」


「!? そ、そんなことするわけないじゃない! まだ婚約のお話でさえ保留の状態なのに!」


 あまりに驚き過ぎてうっかり素のままで喋ってしまった……危ない危ない。

 で、でも、そんな絆の誓約なんて……接吻なんてするはずないじゃない!


「キース兄様のバカ……! 破廉恥です!」


 思わず恥ずかしくなって、真っ赤になりながらキース兄様を責めてしまう。

 睨まれた上に罵られた兄様は、落ち込みつつもなんだかちょっと嬉しそうだ。

 普段私があんまり感情をぶつけることがないからかもしれないけれど、なんか隣のカイン兄様までちょっと嬉しそうだ。


「キリア……その、すまない」

「破廉恥って……キリアが言うとなんか良いな」


 素直に謝るキース兄様の隣で、ボソっと危ない発言をしている人が……。


「カイン兄様!」

「ごめんなさい……」


 とにかく、そんなことするわけないんだから、そこはきちんと話しておかないと。

 それに私はまだグウェン様と番いになるって決めたわけじゃないんだから。


 それより、兄様たちの反応を見るに、二人とも番いの契約の内容を知っていたのね。

 だから、今まであれだけ騒いでいたのか……。


 この世界では常識的なことなのかしら?


「私はまだ番いになると決めたわけではありませんし、グウェン様についてもまだよくわかりません。良い人なのだろうということはわかりましたけれど、まだなんとも言えません」


「そ、そうだな。それはそうだ。早合点してしまってすまなかった。キリアはまだ未成年なのだし、焦る必要もない。ゆっっっくり、思う存分考えなさい。別に番いになんてならなくても、嫁になんて行かなくても構わないのだから」

「そうだぞ、キリア。ゆーっくり考えれば良いんだからな」


 なんか二人とも「ゆっくり」に物凄く力が入っているような……。


「はい。ありがとうございます。キース兄様、カイン兄様」


「それはそうと……王弟殿下と魔塔に行く約束をしたんだって?」

「はい。色々とジェイシス様に伺いたいことがあって……獣人のこともですし、私の魔力についても、色々教えていただこうと思っています」

「そうか。ちょうど良いから、この金色の魔力についても聞いてくるといい。きっとジェイシス様なら何かご存じだろう」

「そうですね。グウェン様と一緒に聞いてきます!」


 私が嬉しそうにそう答えると、二人は大きくため息を吐いた。

 カイン兄様に至っては、ちょっと泣きそうな顔をしながら、食らいついてくる。


「グウェン様と一緒にって……俺はまだ認めてないぞ! キリア、今からでも遅くない! 兄様と一緒に逃げよう! そのほうがきっと──」


 勢いのついたカイン兄様の口がキース兄様によって塞がれる。


 カイン兄様の口を塞いだまま、「じゃあ、気をつけて行ってくるんだよ」と爽やかに言って、キース兄様はモゴモゴ何か喋っているカイン兄様を引きずりながら、部屋を出て行った。


 キース兄様の後ろに母様の影が見えた気がした……。


お読みいただきありがとうございます。


これでようやくこの章は終わりです。

次は……約束を果たしに王宮の魔塔へ向かうキリアに危険が迫ります!

(と、書いていたのですが、ご要望をいただいたので、この後王宮に呼び出されたグウェン視点の閑話を挟んでから新章を投稿いたします【追記】)


次回もお楽しみいただけますと幸いです。

引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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