閑話 急な呼び出し(グウェン視点)
アーヴァイン公爵家訪問後、王宮から呼び出しを受けたグウェンのお話です。
ご要望をいただいたので、急遽書き下ろしました。
お楽しみいただけますと幸いです。
私は王宮からの急な呼び出しにより、後ろ髪を引かれまくる思いでアーヴァイン公爵家を後にし、王宮へと向かっていた。
王宮からの呼び出し……
呼出状には誰からの呼び出しかは書かれていなかったが、これはきっと兄上に違いない。
私が今日アーヴァイン公爵家を訪問していることは、私の従者であるジェラルドと兄上しか知らないはずだ。
それに、なにより私を王宮へ気軽に呼び出せるような人間は、もう兄上しか居ないのだから……。
それにしても、なぜこのタイミングで呼び出すのか。
兄上は私に協力してくれるのではなかったのか?
思うことはたくさんあったが、ひとまず従っておかなければ後々面倒なことになると判断し、大事なキリアとの時間を切り上げた。
もしこれが、くだらない用事だったら兄上であっても許すつもりはないが……。
一体何の用事だろうか?
私が獣人であることもあり、近隣諸国との関係は、ほとんどがこちらにとって優位な状況になっていて、特に今さら大きな問題が起きそうなことはない。
国内に関しても同様だ。
兄上の政治手腕は素晴らしく、貴族からも平民からも大変慕われている。
以前はよく王宮に呼び出されることがあったが、それは私の結婚に関する話で、それもキリアの出現によって解決されたはずだ。
では一体……急ぎで呼び出す用など、何があるというのだ?
――それからしばらくして王宮へ到着すると、既に馬車回には従者たちが待ち構えていた。
その中には、ジェラルドの姿もあった。
相変わらず長い髪を指でクルクルしながら何か考え事でもしていたのか、他の従者たちより一足遅れて私の姿に気がつくと、慌てて近づいてくる。
「殿下! 国王陛下がお呼びです。謁見室までお願いします」
「何の用か聞いているか?」
「いえ、それは何も。ただ、とにかく急ぎとしか……」
「わかった。すぐ向かおう」
王宮内に入り移動していると、キャーキャーと騒ぐ女たちの甲高い声が聞こえてきた。
今日はキリアに会うため、祝典や儀式でもないのに――まあ私にとってはどんな祝いよりも喜ばしい日なのだが――完全正装しているせいか、どうやら侍女たちが私を見て騒いでいるようだ。
私は思わず眉間に皺を寄せ、素知らぬ顔で通り過ぎていく。
すると、そんな私の様子に気づいたジェラルドが急に腕を小突いてきた。
「殿下がそんな恰好しているからですよ。普段でも騒がれるのに、その恰好は……そりゃ女性たちも騒ぎたくなりますって」
「愛しの女性に会いに行くのだ。正装するのは当然だろう!」
不器用にそう答えると、ジェラルドが大笑いする。
「今まで色恋沙汰をあんなに嫌がっておられた殿下がそんな風になるだなんて……アーヴァインの妖精姫はよほど素敵な方なんですね~」
「そんなの当たり前だ。この世にキリア以上の女性など存在しないからな……彼女に出会えて私は幸せだ」
そう無意識に笑顔で答える私の言葉に、面を食らったジェラルドは笑うのをやめ、静かになる。
そして、そっと私の腕を「ポンポン」と叩くと、従者としてではなく、友としての言葉をかけてくれた。
「良かったな。グウェン」
「ああ、ありがとう」
親友の思いに心が温かくなるのを感じた。
◇ ◇ ◇
謁見室に到着すると、予想外にも、今にも泣きそうな顔をした国王陛下が待っていた。
「国王陛下、お呼び出しに応じ、急ぎ参――」
「グウェン~~~~~!!!! どうだった!? どうだったんだい??」
「へ、陛下?」
扉を開けて挨拶しようとした途端、玉座に座っているはずの国王陛下が私に向かってダイブしてきた。
従者たちが止めるのも聞かず、陛下は全力で私に縋りつく。
縋りつきながら「ちゃんと口説けたのかい? キリア嬢は何と??」とグイグイ聞いてくる。
どうやら陛下の様子が落ち着かなさすぎて仕事にならず、見かねた側近が呼出状を提案したらしい。
「お前が心配で心配でいてもたってもいられなくて……」
そう言う陛下の目の下には、魔法でも治しきれなかったのか、隈がうっすらと浮かんでいる。
くだらない用で呼び出されたのであれば、ただではおかないと思っていたのに、必死に私の心配をしてくれていたのかと思うと、なんだか身体の力が抜けてしまった。
私は縋りつく陛下をそっと引きはがし、「大丈夫でしたよ」とだけ告げる。
すると陛下はゆっくりとその言葉を噛み締めると嬉しそうに微笑んだ。
――とまあ、ここまでは良かった。
番の契約や血の誓約など、話自体は全く前進していないことがわかると、再び縋りつく勢いで「なぜだ!? どうしてだ?」と物凄い形相で責め立ててきた。
その言葉に思わず、言ってしまったのだ。
「なぜだも何も、陛下、あなたが呼び出したから、話を途中で切り上げることになったんですよ!」
「!?」
驚いた陛下は一瞬言葉を失い、我に返るとすぐに再び私に縋り付いてきた。
「すまん! 私が悪かった! 許してくれ、グウェン!!」
そう全力で、臣下たちも大勢いる前で平謝りをする陛下。
とはいえ、これもよくある光景なので、特に誰も気にしないし、止める人もいない。
なんなら王妃である義姉上は、後ろの方でめちゃめちゃ楽しそうに笑って見ている。
きっと「いつもの兄弟喧嘩」くらいに思われているのだろう。
正直いうと、陛下からの呼び出しがなくても、あそこで切り上げになっていたのではないかと思っている。
だからこれは、単なる八つ当たり。
せっかくの二人きりの時間を邪魔されたことへの八つ当たりだ。
――謝り続ける陛下を私が許したのは、それから十分以上経ってからだった。
しかもそのあと、陛下は一人反省会と称して、私室に立てこもってしまったから大変で……。
おかげで陛下の代わりに私が働かされる羽目になり、書類仕事に追われて、今日のキリアの余韻に浸る時間がなくなってしまった。
この日、私が公爵邸へ帰宅できたのは日付が変わってからだった。
本当に面倒な、だけどとても弟想いの優しい兄上である……。
お読みいただきありがとうございます。
次から新章です。
キリアに危機が迫ります。
次回もお楽しみいただけますと幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




