40.人間の身体って不思議だなあ。
俺はナーニャさんから光魔法の教本を受け取った。
見た目通りずしりと重いその本はかなりの厚みがあり、読むのにはなかなか苦労しそうである。
「光魔法を適切に使えるようになるにはかなり時間がかかると思います。
私も子供の頃に光魔法の適性があるとわかってから使えるようになるには3年ほどかかりました。」
「そうですか。」
「でも、大人になってから勉強を始めて使えるようになる人もたくさんいらっしゃるので、焦らず頑張っていきましょう。」
この世界の魔法は意外と現実的らしい。
異世界に来てまで勉強することになるなんて・・・
今までの火と水の魔法はそれなりに簡単に使うことができたため、光魔法も何となくで使うことができるのかと思ったがそうではないらしい。
まあ、確かに火炎放射器の機構は分からないまでも火が出ているのはイメージできる。
火が燃えているのは見たことあるし、何ならガスバーナーなんかを使ったこともある。
そのイメージから魔力を燃料のようにしてそこに火の要素を付け足すことで火魔法になっているのだと思う。
でも、自分の身体がどんな感じになっているか、臓器がどんな形で、どこについているかは分からない。
お医者さんが手術をしているのを見たことはないし、解剖図鑑を眺めたこともない。
そんなあやふやなイメージで魔法を発動してしまうと、身体に悪影響が出てしまうこともあるらしい。
とはいえ、人の身体に影響を及ぼすほどの光魔法を使えるようになるためにはかなり訓練する必要があり、魔法を悪用するのは難しいらしい。
「頑張って覚えれば光魔法はかなり需要のある魔法ですから、ご飯には困ることはなくなりますよ。」
ナーニャさんはそんなことを言っていた。
「今日はありがとうございました。」
「いえ、光魔法使いの育成も教会の仕事ですので。
分からないところがあればいつでも聞きに来てください。
私で良ければ教えますので。」
「いいんですか?」
「はい、一緒に頑張っていきましょう。」
ナーニャさんは微笑みを浮かべながらそう言った。
短い髪の毛が揺れて、いいにおいが静かに漂う。
まさにシスター然とした雰囲気だ。
「よ、よろしくお願いします。」
美人のふとした仕草に緊張した俺は引きつった顔でそう答えるのであった。
教会を出ると外の畑でまだ子供たちが作業をしていた。
「お兄さん光魔法使えるの?」
俺が手に持った教本を見た子供たちはそう言ってきた。
「えーと、まだ使えないんだよ。
これから勉強しようと思って。」
「そうなんだ。
頑張ってね。」
子供たちはナーニャさんを見つけるとそちらの方に走って行ってしまった。
俺はナーニャさんと子供たちに挨拶をして、教会を後にした。
昼食には少し早い時間だったので、一度家に帰り剣を取って光魔法の教本を持ったまま訓練所に向かった。
お昼まで訓練所で剣を振り、練習をした。
最近はかなりの時間を街の外で過ごしており、街に帰ってきてもそのまま家に帰ってしまうことも多いのでなかなか訓練所で練習をする時間が取れていない。
毎日モンスター相手に剣を振っているとはいえしっかりと確認しながら修正していかないと、いつの間にか変な癖がついていたりするかもしれない。
スマホがあれば動画を撮って自分の動きを確認することができるのだが、今はゆっくりと動いてみたり、動いた後の足の位置、手の位置を確認していくことしかできない。
ゴードンさんに時間があるときに見てもらった方が良いのかもしれない。
少し汗を流した俺は久しぶりに宿屋の近くの井戸で汗を流すとギルドに向かった。
ギルドの食堂に向かい、ランチを注文する。
ここのランチは冒険者向けの料理が多く、量も多いものがたくさんある。
今日は午後からも森に向かう予定はないので大盛のランチを頼んだ。
お腹いっぱいになった俺がしばらく座って休憩しているとナハナさんが入ってきた。
「なはなさん!」
「おお、セイタもここにきてたのか。」
昼食を別々に食べようといったのに結局ナハナさんも一緒の席に座ってランチを食べた。
「光魔法はどうだったんだ?」
ランチを食べ終えたナハナさんが小声でそう聞いてきた。
「適性はあるみたいです。
ただ、光魔法を使うためにはかなり勉強する必要があるみたいです。」
「そう言えばそうだな。
光魔法は他の魔法に比べて圧倒的に知識量が求められる。
その分習得までに時間がかかるって聞いたことあるな。」
「教本を買ってきたので、頑張って勉強します。」
「そうだな、頑張ってくれ。」
俺が光魔法の適性があることがうれしかったのか、ナハナさんは機嫌よさそうにそう言った。
「どうしてさっきから小声なんですか?」
「いや、光魔法の適性持ちの冒険者は中々いないからな。
他の冒険者に聞かれたら、セイタがとられるかもしれないだろ。」
な、なんて可愛いことを言う人なんだ。
「僕はたとえ他の人から誘われてもナハナさんとパーティーを組みますよ。」
「そうか。
それはよかった。」
約半年とはいえ、異世界で初めての仲間だし、一緒の家に暮らせるほど信頼もしている。
男女としてそれでいいのかということは置いておいて、ナハナさんは大切な仲間だ。
ナハナさんが俺をいらないと言わない限り、俺はナハナさんと冒険したい。
なんだか少し気恥しそうなナハナさんを見てそう思いなおしたのであった。
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