20.女の子が自分の席に座っているとドキドキするよね?え、しない?・・・なんで?
うきうきと美人の誘いに乗った俺が連れていかれたのは魔術具店であった。
「ここって、魔法に関するものが売ってあるところですよね?」
少し落胆の色が見える声で俺は尋ねた。
「ええそうよ。
私の魔法杖もだいぶ使ったし、これから先もう少しいいのが欲しいなと思って。」
「そ、そうですか。」
美人との外出に少し期待していた俺は期待外れな場所に気を落としたが、考えようによっては悪くないのではないか。
そうだ。
今、俺は2日ほどではあるがナハナさんと狩りをしている。
それに宿も同じ。
さらに武器を選ぶのにも付き合うとなればもうこれは確実にパーティー路線を歩んでいるといっていいのではないだろうか。
少し言葉は強いときもあるが、ナハナさんはアリスさんにも引けを取らない美人である。
それにどちらかと言えば話しかけずらいアリスさんに比べて、ナハナさんとは会話も臆することなくできる。
杖を見ながらあれこれと悩んでいるナハナさんを見ながらそんなことを考えていた。
しばらくしてナハナさんは満足したようだが、結局何も買わなかった。
「買わなくてよかったんですか?」
「ええ、安いものだと今のものと性能が変わらないし、少し高いものを買うにはまだ余裕がなかったわ。
もう少しお預けね。」
「そうですか。
オーク狩り頑張りましょうね。」
「ああ、そうだな。
ところでセイタは武器はまだそれでいいのか?」
「ええ、俺はまだこいつで頑張ろうと思ってます。」
俺はいまだにゴードンさんに売ってもらった剣と盾を使っていた。
剣のほうは基本的に刃はついていないので砥ぎなおしなんかはいらないのだが、盾のほうは攻撃を受け続けているとガタが来るらしい。
ただオークの場合、今の能力でまともに盾で攻撃を受けると盾が壊れるかどうかよりも俺の身体が壊れてしまう。
そのため基本的に盾で攻撃を受けることはない。
そう言うこともありしばらくはこの剣と盾で冒険を続けるつもりなのだ。
それから俺たちは少し商店街によってお店を覗きながら帰ってきた。
果物屋の店先には見たこともない果物が売っていた。
「これなんて言う果物ですかね?」
「これはモーモだな。
私の村でも育てている人がいたな。
カリッとした食感でなかなかおいしいぞ」
ナハナさんがそう教えてくれたのは桃のような形をした果物であった。
日本で流通しているものよりは少し小さく、表面がつるっとしている。
「このモーモを一つください。」
「あいよ!
銅貨2枚だよ。」
銅貨2枚を支払ってモーモを一つもらった。
鼻に近づけてにおいをかいでみる。
まさしく桃のような香りがするが、日本のものと比べると少し青臭いだろうか。
「いただきます。」
そのままかぶりつくと皮がパリッとはじけて中から果汁が流れ出てくる。
「おいしいですね!」
「そうだろ。
そんなに安い果物ではないがおいしいだろ。」
「ナハナさんも食べますか?」
「え!?
わ、私はいいよ。
そ、それはお前が食べろよ。」
「い、いえ。
もう一個買おうかなと思ったのですが。」
「あ、そ、そう言うことかよ。
びっくりさせんな。」
顔を赤くしてそんなことを言うナハナさんに俺のほうがドキッとする。
俺だって食いかけのものを女性に食べさせるなんて勇気はない。
それもナハナさんのような美人となればなおさらだ。
そんなことができるような人生を歩んでいれば死んだときにもっと日本に未練が残っていたことだろう。
こちとら女の子が自分の席に座っているだけでドキドキしてるんだぞ。
ただし、このようなことで勘違いするほどの勇気も俺は持っていない。
ドキドキはするがそれはそれ。
こちとら免疫がないのだからあまり勘違いするような行動は慎んでいただきたいものだ。
ドキドキしすぎて心臓がおかしくなったらどうしてくれるんだ。
まったく。
それからは特に変わったことも起きずに宿まで帰った。
いや、変わったことが起きても困るのだが。
宿屋でご飯を食べて少しゆっくりとする。
お腹が落ち着いたら訓練所に出て素振りをする。
これからしばらくはオークとの戦いになるだろうからしっかりと練習をしておかないといけない。
疲労をためてもいけないが、身体の感覚を毎日把握しておかなければ、森に入って初めて体の不調に気づいたら万が一と言うこともある。
戦闘中はアドレナリンでごまかされていても街に戻ってみたら痛みが出るということもあるかもしれない。
「こんな時間に練習してるんですか?」
急に声を掛けられびっくりして振り向くとそこにはアリスさんがいた。
「あ、アリスさん、こんばんは。
はい、明日も狩りに行くので体の調子を見ようと思いまして。」
「そうですか。
真面目なんですね。」
「いえ、それほどでも。」
「それほどでもありますよ。
冒険者の中には稼げるようになると技術を磨かなくなる人もいますから。
そう言う人たちはいつのか自分の実力を見誤り、命を落とす。
そんなことも少なくないですから。
セイタさんは心配なさそうですね。」
「ありがとうございます。
ご期待にそえるように頑張ります。」
「それより、アリスさんはこんな時間にどうして訓練所に?」
「特に用事はないんです。
たまたまギルドから帰るときにセイタさんの姿が見えたので。」
「そうですか。」
「邪魔をしてしまいすみません。
練習続けてください。
私はもう少しここに座ってますから。」
「は、はあ。」
正直言ってアリスさんに見られていると緊張するのだが、とはいえ見ないでくださいとも言えない。
俺は緊張しつつも素振りを続け、アリスさんは素振りをする俺を何となしに眺めているだけであった。
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