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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十三章 闘武祭

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ガールズトーク

 シェミフィアー・アラミス。

 俺が子供の頃、初めてアドロード大陸に足を踏み入れた時に出会ったエルフの女性だ。
 希少な種族であるエルフなので、アホな冒険者達に毒を盛られ、攫われそうになったのを俺が助けたのである。

 エルフはプライドが高く他者を見下す傾向が多いそうだが、フィアは自分で自分を変わり者と言うくらいに気さくで付き合いやすい女性だった。
 彼女と一緒にいたのはたった一日で、俺の何に惹かれたのかわからないが、別れ際に俺が大人になったら自分を恋人ー……いや、愛人にしてほしいと言ってきたのだ。
 別に愛人にしたいわけじゃないが、友達となった俺達は再会を約束して別れた。

 フィアの故郷の掟により十年は故郷から出られないので、俺はそれに合わせてフィアの故郷へ向かうつもりだったのだが……。

「会いたかったわ、シリウス!」
「……フィア?」

 久しぶりに再会したフィアの姿はあの頃と変わっていない。
 流れるようなエメラルドグリーンの長髪に、モデルように美しく整った顔。あの頃は子供だったから綺麗なお姉さんで済んだが、青年となった今の俺にはかなりの破壊力である。
 変わった点と言えば、こちらの方が少しだけ身長が高くなったので、彼女が俺の胸にすっぽりと収まった点くらいだろうか?

 そんな魅力的なエルフに抱きつかれて嬉しいのだが、それと同時に困惑もしていた。

「わぁ……凄い美人……」
「エルフ? 珍しいわね……」

 弟子達は呆然と固まったままで、宿の従業員であるカチアとセシルさんの声で俺は現在の場所を思い出した。
 宿泊客が少ない宿とは言え、カウンター前では落ち着いて話ができないだろう。

「セシルさん、二人部屋の一つを三人部屋に変更で! そしてこの人の口止め料と宿代!」

 俺は金貨一枚をセシルさんの手元に弾き、フィアを引き剥がしてから横抱きに抱えた。

「ふふ、懐かしいわねこれ。昔は貴方が小さくてバランスが悪かったけど、今では立派な王子様とお姫様ね」
「わかったから、舌を噛むなよ」

 唯一ついてきたホクトと共に、俺はフィアを抱えたまま自分の部屋に向かって駆け出した。
 そしてホクトが扉を開けてくれたので、部屋に飛び込んでフィアをベッドの上に座らせた。

「あら、再会していきなりなんて積極的ね。求められるのは嫌いじゃないわ」
「別に何もしない。ちょっと落ち着いて話がしたいだけだ」
「私はかまわないのに。もしかしてあの二人が奥さんかしら? いきなり抱きついて悪い事しちゃったかな」
「確かに驚いたがフィアは悪くはないし、二人はまだ奥さんじゃないよ。後でしっかりと説明すれば大丈夫だろうし、まずはお互いの情報を交換しよう」
「そうね。シリウスに会えてちょっと舞い上がってたみたい。ごめんね騒がせちゃって」
「別にいいさ。それより、久しぶりフィア。俺も会いたかったよ」
「ふふ……さっきも言ったけど私もよ」

 彼女は部屋に入ってマントを脱いだが、その下は以前に会った時と同じ革製の胸当てに、スリットの入ったスカートにへそ丸出しの装備であった。
 つまり肌の露出が多く、そんな彼女が笑みを浮かべて再び抱きついてきた。男として嬉しいが、ちょっと今は勘弁してほしい。
 少し興奮している彼女を何とか宥めて引き剥がし、俺は一番気になっている点から聞いてみた。

「それで君はどうしてここへ? 十年経たないと、森から出られなかった筈だろう?」

 細かいずれはあるが、フィアと別れて十年までまだ半年近くある。それこそ時間の進みが歪まない限りはありえないが……答えはあっさりとしたものだった。

「出てきちゃった」
「……何?」
「だから抜け出てきたの。貴方に会いたくて、掟……破っちゃった」

 掟を破った罪悪感はあるらしく、フィアは苦笑しながら頭を掻いていた。対して俺は彼女の態度に違和感を覚えた。
 エルフの掟がどれだけ厳しいのかわからないが、破った以上はただでは済まないと思う。それだけ俺に会いたかったのか……と思うが、どうもきな臭いな。

「俺に会いたかったのは嬉しいけど、別の理由があるんじゃないか?」
「あー……やっぱりわかる? でもね、貴方に会いたかったのは本当よ」
「それは嬉しいよ。だけどこれから一緒に行くなら秘密は止めてほしい。話してくれよ」
「それが、お見合いをさせられたのよ」

 彼女は俺と別れて故郷へ戻り、家族と再会してから平和に過ごしていたそうだ。
 俺の教えた空の飛び方を練習したり改良を加えながら日々を過ごし、掟である十年を待ち続けたらしい。

「エルフからしたら十年なんて大した時間じゃないけど、シリウスと再会するまでの日々は長かったわ。けど半年前にお父さんがね……」

 突然父親に呼び出され、お見合いをしろと言われたそうだ。
 相手はエルフの始祖でもあるエルダーエルフらしく、森を歩いているフィアを偶然見つけて気にいったそうだ。
 エルダーエルフなんて初めて聞くが、彼女の説明だとフィアの故郷の森より更に奥深くに住む種族で、滅多に……というか絶対に森から出てこない種族らしい。

「私はシリウスがいるから断ったんだけど、エルフは基本的にエルダーエルフに逆らえないの。だから会うだけ会ってみたんだけど……」

 エルフより強くて偉いから逆らえない。つまり俺達で言えば王族と平民みたいなもので、エルダーエルフと結婚するのは王族へ嫁ぐようなものだ。
 彼女の気持ちを考えなければ聞こえは良いが、フィアは不機嫌になって拳を握っていた。

「これが傲慢と我儘の塊なの! お前のその強い風の力は、私達に迫るから妻の一人にしてやるとか……偉そうな事を言って私を道具のようにしか見ていないのよ」
「それは嫌だな。強さに溺れているのか?」
「エルダーエルフは驕る程の強さを持っているわ。私が全力で精霊を出せば、一人だけなら何とかなるレベルね」
「フィアの全力で……か。相当な強さだな」

 風の精霊魔法が使えるフィアと同等な相手が百人近くいるらしい。数は少ないが少数精鋭に加え、エルフより森に詳しいエルダーエルフに逆らうのは自殺行為なわけだ。
 フィアが嫌がっているので父親は渋っていたが、エルダーエルフには逆らえなかった。しかしフィアは黙って従うような性格じゃない。

「それで逃げちゃったの。ううん、逃げさせてくれたと言うのかな? 逃げろと言わんばかりに用意があったから」

 エルダーエルフは森から出てこないので、当然こちらから森の奥へ行かなければならない。そして森の奥へ向かう前日の夜、逃げようとしたフィアの自室に置き手紙と旅道具が置かれていたそうだ。

「手紙には掟を破った罪人の扱いにして断るって書いてあったわ。プライドが高いから、罪人には絶対に手を出さないから諦めるだろうって」
「罪人って……フィアはそれでいいのかよ。それに家族は大丈夫なのか?」
「罪状は百年の追放だけど、たかが百年程度なら問題ないわよ。それに家族は大丈夫だと思う。私を迎えようとした一人の暴走らしいし、エルダーエルフは私達を見下していても蔑ろにしているわけじゃないしね」

 百年をたかがとは……流石は長命種であるエルフだな。
 そしてエルダーエルフはエルフを自分の住処への門番らしき役割であると認識しているので、酷い扱いはしないだろうとの事だ。
 その後が気になるが、最も気にすべき筈の彼女が朗らかに笑っているので気にすまい。フィアと再会したが、様子見も兼ねてエルフの森に向かう事は変わらなそうだ。

「そうか。とにかくフィアが無事で良かったよ」
「ええ、私は汚されてないわよ。だから貴方色に染めてくれると嬉しいわ」

 再び抱きつこうとしてきたので、俺はフィアの顔を手で押さえて止めた。向こうも本気ではなかったので、すぐに諦めてベッドに座りなおした。

「私の話はこんなところかな? 次はシリウスの番だけど、そこの狼はどちらさま?」
「俺の相棒でもあるホクトだ。人の言葉を完全に理解できる頼れる奴だよ」
「へぇ……賢いのね。でもシリウスの相棒だからそれくらい普通かも。私はフィアって言うの、よろしくねホクト」
「オン!」

 フィアはホクトの頭を撫でながら楽しそうにしていた。そしてホクトもフィアを敵ではないと認めたのか、撫でられて気持ち良さそうに目を閉じている。
 さて……ホクトとの関係は良好そうだが、問題は弟子達の方だな。俺は静かに廊下への扉に近寄り、勢いよく開け放った。

「「「わっ!?」」」

 部屋に雪崩れ込んできたのは当然ながら俺の弟子達だ。
 いつまで経っても部屋に入ってこないかと思ったら、扉の前で三人揃って聞き耳を立てていたわけである。気持ちはわからなくもないが、俺の弟子で家族なんだからこそこそせず堂々としていろと思う。
 愛想笑いを浮かべているが、どこか追及する目で俺を見上げてくる弟子達に溜息が漏れた。

「フィア、紹介するよ。この子達は俺の弟子だ」



 全員が部屋に揃ったので、まずはフィアに弟子達を紹介する事にした。
 ベッドに座るとすぐさま俺の両隣にエミリアとリースが座り、自分のものだと言わんばかりに俺の腕に抱きついてきた。しかしリースの方はかなり無理をしているのか、顔を真っ赤にしている。ちなみにフィアとレウスは俺の対面に座っていた。

「初めまして。私はシリウス様の従者であるエミリアです」
「シリウスさんの弟子のリースです」
「れ……レウス……です」

 エミリアは笑っているが、相手を威圧する恐ろしい笑みを浮かべていた。俺の母さんであるエリナが使っていた技だが、それを頻繁に受けていたレウスが怯えている。
 まるで姑のようだと思ったが、エミリアの威圧をものともせずフィアは笑っていた。

「ふふ、初めまして。私はシェミフィアーよ。そんなに警戒しなくても、貴方の恋人をとったりしないわ」
「私はシリウス様の従者です。恋人はこちらのリースですよ」
「えっ!? は、はい。恋人……です」

 主人の腕に恋人のように抱きつく従者なんていないと思う。何だか支離滅裂な気がするが、おそらくエミリアはフィアを試しているのだろう。
 昔、エリナは俺の異常な力が知られれば悪用しようとする者が現れると言っていた。なので俺の知り合いになった人物の話をすると、その相手は本気で信頼できるのかと必要以上に追及してきたものである。
 エミリアはそんなエリナの意思を引き継いだ後継者だ。フィアの感情を揺さぶって本心を知ろうとしているのかもしれない。実は嫉妬している可能性もありえるけどな。

「予想した通りね。シリウスなら恋人が一人や二人出来てもおかしくないと思っていたわ」
「狙ったわけじゃないぞ」
「兄貴だからな」

 俺は弟子達が健やかに育ってくれるだけで十分だったのだが、気付けばこの有り様だ。後悔はしていないけど。
 レウスがいつもの調子を取り戻し始めたところで、エミリアが俺の腕を軽く引っ張ってきた。どうでもいいけど、腕に二人の胸が当たっているんだが。

「シリウス様。シェミフィアーさんは、これから私達の旅に同行するという事でしょうか?」
「ああ、俺達の仲間になるんだ。勝手に決めて悪いな」
「いいえ、シリウス様の決めた事ですし、私達に反対する理由はございません」
「私もです。エルフが仲間になるなんて凄いよね」
「兄貴だからな!」

 エミリアはまだ若干警戒しているが、全員反対する気はないようなので安心した。
 晴れて仲間になったフィアに俺達の事を知ってもらう為、弟子達の出会いについて語った。
 フィアと別れてから姉弟と出会って弟子にして、学校へ行ってリースが俺の弟子になった経緯を大まかに説明する。念の為、リースが王族である事や、精霊が見える事については伏せた。
 途中で弟子達が補足するように口を挟んでくるが、どれも俺への称賛なのはいつも通りである。
 そんな風に説明を続ける間、フィアは優しい目で俺達を眺め続けていた。

「皆、シリウスの事が大好きなのね」
「当然です! 生涯お仕えする御方ですから」
「う、うん」
「兄貴だからな!」
「これは私も本気にならないと貴方達に失礼ね。今からちょっと魔法を使うけど、攻撃するわけじゃないから安心して。風よ……お願い」

 そしてフィアは歌うように一言呟くと、周囲の雰囲気が変わった。
 弟子達は困惑していたが、俺は何をしたのかすぐにわかった。過去に雑談した時、俺が戯れに教えた方法だし。

「大丈夫だ。これは周囲に声を漏らさない風の結界だよ。フィア、これを使うという事は……」
「こんなにも信頼されている貴方の仲間なら大丈夫そうだし、新入りの私から出せる信頼の証ね。見ての通り私の属性は風よ。そして私は……精霊が見えるの」

 精霊が見える……つまり精霊魔法が使える者は権力者に狙われる運命なので、基本的に死ぬまで隠し続けるものだ。しかしフィアはそれを自ら説明してきたので、それだけ彼女の本気度が窺えた。
 本来なら彼女の決意の強さに驚く場面だが、弟子達は揃って合点がいったように頷くだけだった。

「……あれ? 一大決心で言ったつもりなんだけど、反応が薄くないかしら? もしかしてシリウスー……」
「失敬な、俺は話していないぞ」
「そっか、精霊が見える人ってシェミフィアーさんの事だったんですね。私と一緒……」
「えっ!? もしかして貴方も?」
「はい。私は水の精霊が見えるんです」

 リースの告白にフィアは驚きながら立ち上がり、リースの手を取って笑みを浮かべていた。俺にはわかりそうにない、精霊が見える者だけが持つ寂しさがあったのかもしれない。

「私以外に精霊が見える人に会うのは初めてよ。何だろう……凄く嬉しいわ」
「シリウスさんが言っていた精霊が見える人って、シェミフィアーさんの事だったんですね。あの、実はお礼が言いたかったんです」
「よくわからないけどお礼なんていいわよ。それと私の事はフィアでいいわ。皆もそれでお願いね」

 過去にリースも精霊が見えると判明した時、俺はフィアから聞いた精霊の扱い方を説明した事がある。それが切っ掛けで精霊の扱いが上手く出来るようになったから礼も言いたくなるか。
 しばらく喜んでいたフィアがようやく落ち着き、声の漏洩を防ぐ魔法を消したところで扉をノックする音が響いた。

「……誰だ?」
「私。カチアだよ。食事ならいつでも食べられるから呼びに来たの」
「わかった。すぐに向かうよ」
「はーい」

 カチアの足音が遠ざかるのを確認したところで、レウスのお腹が鳴っていた。もうそんな時間か。
 お互いの事はほとんど説明したし、後は一緒に食事でもして仲良くなればいいか。そう思いながら全員で部屋を出ようとしたところでフィアの服装に気付いた。

「フィア、マントはいいのかい?」
「この宿は客が少ないから別にいいかなって。あ、そうだ。シリウスにお願いがあるんだけど」
「……嫌な予感がするが、聞くだけ聞こうか」
「エミリアとレウスが首に付けている物があるでしょ? それ、私も欲しいな」

 首に付ける……つまりチョーカーか。『コール』の魔法陣を描いた装飾品を作って渡すつもりだったが、チョーカーをリクエストされるとは思わなかったな。
 俺の個人的な見解だが、フィアにはチョーカーより腕輪か指輪の方が似合いそうな気がする。エミリアとリースも同じ意見なのか、揃ってフィアの言葉に首を傾げていた。

「別に構わないが、理由を聞いても?」
「ほら、首なら奴隷に見えなくもないでしょ? そうしたら面倒事が減るかもしれないし」
「おいおい、奴隷に見られるんだぞ?」

 確かに冒険者のエルフより、奴隷状態の方が狙われる可能性が減ると思う。
 しかし見た目だけとはいえ奴隷だぞ? 望んでなりたい奴がー……隣にいたか。
 姉弟の場合はかなり特殊で、奴隷扱いされても気にしなかったのもあるし、むしろ姉の方は奴隷扱いを喜んでいたけどな。
 奴隷に見られるというのに、フィアはそれがどうしたと言わんばかりにあっけらかんとしていた。

「別に誰にどう見られようと構わないわよ。それに、愛の奴隷ってのもいいと思わない?」
「それは私です!」
「あ、ごめんねエミリア。なら恋人は埋まっているし……やっぱり愛人かしら?」
「シリウス様の愛人も私です!」
「よしよし、ちょっと落ち着こうか」

 徐々に暴走し始めたので、俺は彼女の頭を撫でて一旦落ち着かせた。エミリアが尻尾を振りまわして俺の腕に頬を擦り寄せ始めたところで手を離し、フィアのリクエストに応じることにする。

「とにかくチョーカーだな? 少し待っていてくれ」
「楽しみにしているわ。ちなみに、あれを装備したらどこでも貴方と会話が出来るのよね?」
「伝えられるのは一言ぐらいだし、頻繁には使えないぞ。それにいざという時に使えなかったら困るから、趣味で使うのはなるべく止めてくれ」
「そう、残念ね。これを使えばこっそり貴方を誘えると思ったのに……」
「夕食のメニューや、おやつの催促してきたくだらない例もあるからな」
「「「…………」」」

 犯人である銀狼姉弟と食いしん坊聖女がそっと視線を逸らしていた。
 それにフィアならこっそりじゃなくて堂々と言ってくる性格だと思う。過去に好意は隠さない主義と言っていたが、全く変わっていないようで安心したよ。

「ほら、話の続きは食事しながらでいいだろう? 早く行くぞ」

 そして廊下へ出ようとしたが、俺の腕にしがみついたままのエミリアが動こうとしなかった。顔を覗きこめば、彼女は真剣な表情で俺を見据えているのである。

「シリウス様、不躾ながらお願いがあります。フィアさんと私達だけで話をさせていただきたいのです」
「ふむ……フィアが許可するならな」

 いくら主人でリーダーである俺の言葉だろうと、いきなりフィアを仲間になんて納得できない部分は必ずある筈だ。こうなるのは予想していたので、俺の方から却下する理由は特にない。
 お互いが遠慮し合う中途半端な関係になるくらいなら、本気でぶつかり合ってはっきりとした関係になってほしい。結果、戦う事になるとしてもだ。
 どちらにしろフィアの返答しだいだが、彼女は笑みを崩す事無く頷いていた。

「私は構わないわ。むしろ私の方から誘おうと思っていたし、こういうのは早い方が良いしね」
「ありがとうございます。では食後に少し時間をいただきますね」
「いや、今からしたらどうだ? 俺とレウスは外で食事をしてくるから、三人はここで食事をしながらやるといい」

 レウスはフィアの加入に関して文句は無さそうだし、どうせなら女性陣だけで話した方が良いだろう。
 許可するとエミリアは俺の腕から離れ、深々と頭を下げてきた。

「シリウス様、ありがとうございます」
「気にするな。喧嘩はしてもいいけど、宿を壊すのは止めてくれよ? ホクト、悪いけど彼女達を頼む」
「オン!」

 念の為にホクトにボディーガードを頼んでおいた。賊に襲われようとも、ホクトなら最適な判断をしてくれるので安心だ。

「心配しなくても大丈夫よ。今日中に二人の信頼を勝ち取ってくるわ」
「私は甘くないですよ」
「上等よ。私の本気、見せてあげるわ」
「えと……何かあればすぐに伝えますので」

 リースもいるし、二人に敵意は感じられないから大丈夫……と思う。
 若干不安を覚えつつも、女性陣を置いて俺とレウスは廊下に出て、カウンターで言付けをしてから外に出た。

 闘武祭が近いせいか、人が集まって賑わう夜の町をレウスと一緒に歩き続けた。
 そして食事処を見つけ、空いた席に座って注文をとったところでレウスが笑いながら呟いた。

「あのさ、俺と兄貴だけで食事するのって珍しいよな?」
「言われてみればそうだな。まあ偶には男同士ってのもいいものだろう?」
「へへ、確かにそうだな」

 何が嬉しいのかよくわからないが、レウスは笑みを浮かべながら運ばれた料理に齧りついていた。
 ふむ、レウスの意見を捻じ曲げそうなエミリアもいないし、ちょっとフィアについて聞いておくとしようか。

「なあレウス。お前はフィアについてどう思ってる?」
「ん? 綺麗な人だと思うよ。流石はエルー……むぐっ!」

 種族名を言いそうになったので肉を無理矢理詰めて黙らせた。エルフを欲しがる連中は多いし、会話に挙げるのは控えておきたい。宿内ならともかく、特にこの辺は人が多いからな。
 レウスは詰められた肉を齧っている間に気付いたらしく、少し考えてから肉を飲み込んだ。

「えーと……何か気持ちの良い人だよな。兄貴程じゃないけど頼りになりそうな姉ちゃんだと思うし、俺は好きだよ」
「好き……か。やっぱりお前も男で美人に弱いんだな。女に興味がないと思っていたが、ようやく人並みに……」
「その好きじゃなくて仲間としてだよ。許可してくれたらフィア姉って呼ぼうと思っているんだ。そもそもフィア姉は兄貴の女だろ?」
「やはりそっちか。で……お前はそれでいいのか? お前の姉を恋人にしておきながら、リースとフィアまで一緒にしているんだぞ?」
「姉ちゃんをあんなにも幸せにしてくれた兄貴に文句なんてあるわけないだろ? それにリース姉もフィア姉も兄貴なら好きになって当然だしな」

 甲斐性と実力があれば一夫多妻が普通に認められている世界だからだろうか、一体何が問題あるのかと言わんばかりに首を傾げられた。

「姉ちゃんが幸せだと俺も幸せだ。更に家族のリース姉も幸せにしてくれる兄貴は本当に凄いよ」
「気が早い言い方だな。まだ結婚すらしていないし、これからどうなるかわからないんだぞ?」
「俺達も支えるし、兄貴なら大丈夫さ。俺にとって兄貴は家族で先生で、そして目標なんだ。兄貴に拾ってもらえて本当に良かった。一生ついて行くぜ!」

 歯を見せる眩しい程の笑みでレウスは言いきった。真っ直ぐにぶつけられる好意に少し照れくさい。
 俺はレウスに自分の肉を分けながら、男同士でのんびりと過ごすのだった。






 ――― リース ―――




 シリウスさんとレウスがいなくなり、部屋には私達女性陣だけが残されました。
 仕方がないとはいえ、エミリアはシリウスさんを追い出してしまったように感じて自己嫌悪に陥っているみたい。
 私が励まそうとする前に、フィアさんは笑みを浮かべたままエミリアの肩を叩いていました。

「ほらほら、いつまでも悩んでいないで食事に行きましょ。お腹空いているでしょ?」
「……そうですね」
「行こう。私もお腹空いちゃった」

 そしてフィアさんを先頭に、私達は宿の食堂でもある酒場へと向かいました。
 廊下を歩く途中、ホクトに堂々と話しかけながら歩く姿を見て、改めてフィアさんの凄さを知った気がします。
 だってエミリアの笑ってるように見えて、威圧感を放つあれを笑って流せるんだから。

 学校にいた頃、学校長と戦って有名になったシリウスさんは急に女性から言い寄られる機会が増えました。
 姉様が自分の部下だと公言したけど、あの強さを狙って一部の貴族が娘や孫を差し向けて取り入ろうとしたせいだと思う。
 もちろん普通に好意を持つ人もいたけど、やましいことがある人達は全てあの笑みを向けられると逃げだしていたわ。一見すると教養溢れた従者らしい笑みなんだけど、やましい事があると何故か直視できなくなるのよね。一部で銀冷の笑み(シルバリオンスマイル)なんて言われたみたい。

 つまりあの笑みは一種の通過儀礼で、本気でシリウスさんを好いているのか見極める為らしいの。
 決してシリウスさんが取られない為だとか、嫉妬しているわけじゃない……と思う。

 そう考えると、フィアさんはエミリアの課した試練を突破した事になるのよね。
 会って間もないのに、ホクトへ楽しそうに話しかける姿は私の姉様みたいだと思う。エルフで精霊魔法士の先輩であるフィアさんは、本当に物怖じしない人ですね。

 酒場へ行くには受付のあるロビーを経由しなければならないのですが、現在カウンターにはセシルさんではなく大きな男性が立っていました。
 シリウスさんが勝手に運んだせいとはいえ、フィアさんはまだ受付を済ませていない事を思い出してカウンターへと近づきました。

「ごめんなさい、今日ここへ泊まる者なんだけど……」
「話は聞いている」

 そう言って見せてくれた宿帳には、すでにフィアさんの名前が書かれて受付が済まされていました。シリウスさんが外へ出る前にやってくれたみたいです。
 カウンターに立つ男性は一見無愛想に見えますが、私達に向ける目はとても優しいです。

「お客さんが何者だろうと気にしない。ゆっくり休んでほしい」
「セシルさんはどちらへ?」
「妻は酒場で食事の用意をしている。自慢の料理だから遠慮なく食べてくれ」

 この人がセシルさんの夫なんですね。
 それより自慢の料理がとても楽しみです。



 宿の一階にある酒場に着くと、宿泊客が少なくて空席が目立ちます。そして私達が入ると食事をしている宿泊客の視線が一斉にこちらへと向けられました。エルフのフィアさんやホクトがいますので、無理もないかもしれませんね。
 ホクトが止められるかと思いましたが、受付と同じく事前にシリウスさんが話を通していたらしく問題なく入る事ができました。
 そしてどこに座ろうかと悩んでいると、給仕を手伝っていたカチアちゃんが私達に気付き、可愛らしい笑みを浮かべて私達の前まで来ましたが、シリウスさんとレウスがいない事に首を傾げています。

「あれ……お兄ちゃん達は?」
「ちょっと理由があって外に行ったわ。今日は私達だけで食事をしようと思ってきたんだけど、どこかゆっくり話せる席はないかしら?」

 フィアさんが簡単に説明すると、カチアちゃんは壁際の隅にある席を勧めてきました。あそこなら入口から見えませんし、他の席から少し離れているのでちょうど良さそうです。
 他の宿泊客……特に男性が腰を浮かして私達に近づいてこようとしていましたが、ホクトが顔を向けた瞬間に元の位置に戻っていました。流石はシリウスさんの相棒です。

 席は私の隣にエミリアが座り、対面にフィアさんが座りました。そしてホクトは私達を守るように近くに座っています。
 しばらくするとカチアちゃんが注文をとりにきたので、私達はメニュー表を見ながら注文を済ませました。

「飲み物はこのワインとー……二人は何を飲むのかしら?」
「じゃあ果実水を」
「私も果実水でお願いします」

 他にも幾つか料理を頼んでから改めて私達は向かい合うと、エミリアがゆっくりと頭を下げました。

「突然このような場を開いて申し訳ありません」
「別に気にしていないわ。会って間もないし、お互いの本音をしっかりぶつけておいた方がいいものね。あと、言葉が固いわよ」
「すいません、今はこれでやらせてください」

 エミリアの口調が固いのは、まだフィアさんを完全に認めていないからだと思う。
 そもそも主でもあるシリウスさんが認めているのですから、従者であるエミリアに反対する事は出来ません。それでもエミリアは簡単に相手を信頼しないようにしています。
 例えそれが主に逆らう事になろうとも、自分が悪役になろうとも、シリウスさんを絶対裏切らないと確信できるまでは認めるわけにはいかない……と、過去にエミリアが語っていました。
 それが従者の師でもあるエリナさんから引き継いだ意思であり、そして自分のやるべき事だと決めているのです。

 とは言いましたが、私の予想だとエミリアはほとんどフィアさんを認めていると思います。
 時折ですが行動に地が出ていますし、本当にどうでもいいならもっと作り物めいた表情をするからね。
 そして飲み物と料理が運ばれてテーブルに並んだタイミングでコップを持ち上げました。

「それじゃあ、乾杯しましょうか。音頭はどうする?」
「では私がしましょう。フィアさんとの出会いに……」
「「「乾杯」」」

 軽くコップを打ちつけ合って乾杯しました。
 フィアさんはワインを一気に飲み干し、軽く息を吐きながら満足そうにしていました。それにしても……凄く色っぽいです。行動一つ一つが艶めかしいと言いますか、私達より少し年上の外見なのに大人の女性って感じです。エルフって皆こうなのかな?
 それに負けじとエミリアも一気に果実水を飲み干し、少し強めにコップをテーブルに置いて目を鋭くしていました。

「フィアさんはシリウス様をどう思っているのでしょうか?」

 見事な程に、真正面からぶつかっています。
 考えてみれば私達より遥かに長生きしていますし、子供の私達が搦め手で攻めてもあっさり流されそうだから悪くない選択かも。
 そしてエミリアの質問に、フィアさんは迷うことなく即答してきました。

「大好きよ。私の人生を捧げてもいいくらいにね」
「で、ではシリウス様のどこを好きになったんですか?」

 どうしよう……フィアさんの真っ直ぐな言葉に、私だけでなくエミリアも真っ赤になっています。
 エミリアは動揺しつつも質問の方向性を変えています。これの意味はきっと、シリウスさんを能力や名声で見ているかどうか判断していると思う。
 この質問にはフィアさんも少し迷っていましたが、容器ごと持ってきてもらったワインをコップに注いでから答えました。

「最初は背中……かな? 私がシリウスに助けられたのはさっき話したわよね?」
「野蛮な冒険者に襲われたんですよね?」
「あの時の私は貞操だけじゃなく、色んなものを失うところだったわ。だけど、突然飛び出してきて私を守るように立つシリウスの背中に……私は無性に惹かれたの」

 わかる気がします。私も学校にいた頃、迷宮で殺人鬼達に襲われた時……助けに来てくれたシリウスさんに私は惹かれてた。
 私はあの頃からシリウスさんを一人の男性として意識し始めたのかもしれません。そして決め手となったのは、私を攫ってくれたあの時ですね。

「当時は子供なのによ? 子供は好きだけど、シリウスは何か違っていたわ」
「わかります! シリウス様は凄く大人で、何でも知ってて、私達を見守ってくださっています!」

 妙に大人なのは同意します。
 私も最初は父親のような人だと思っていましたし、エミリアやレウスの面倒を見ている姿は親にしか見えませんから。
 従者がいるのに毎日美味しいご飯を用意してくれますし、私の一つ下とは思えません。

「シリウスと会うまで十年くらい旅をしていたけど、心から気を許せる人がいなかったのよ。エルフだと知られると獣のように襲ってきたり、面倒を避けたくて逃げるかだったしね。それに比べてシリウスは、エルフが珍しいから友達になろう……よ? 色んな意味で衝撃的だったわね」
「シリウス様らしいです。でも、フィアさんの美貌なら襲われて仕方ないかもしれませんね」
「ふふ、ありがと。それで空を飛ぶ方法とか色々教わっている内に急速に惹かれていくのがわかったわ」

 そして飛ぶ練習で何度もお姫様だっこされたと嬉しそうに語っていますが、エミリアが凄く羨ましそうにしています。私も……羨ましい。

「たった一日の出会いだったけど、私は本気で恋をしたの。それでシリウスが大きくなったらどんな大人になるかなと思って再会を約束したけど、会ってびっくりね。予想以上の男になっているわ」
「驚くのは早いです! シリウス様の素晴らしさはまだこんなものではありませんよ!」
「ええ、よくわかるわ。だってさり気なく場を整えてくれるし、ホクトだって私達を守る為に残してくれているんだから」

 ホクトを残すだけでなく、宿の受付や食事代まで払ってくれていますからね。
 厨房にいたセシルさんから、私達がよく食べるからって余分に支払ってから出たと聞きました。ちょっと恥ずかしいけど……私達を理解しているんだと嬉しくもあります。
 そこまで話したフィアさんはワインを再び飲み干し、機嫌良さそうにお代わりを注いでいます。

「つまり、私は包容力がある人が好きなのよ。だからシリウスに惹かれたわけね。さて、次は貴方達の番よ」
「いいでしょう。シリウス様の素晴らしさ……語り尽くしてあげます!」

 別に勝負をしているわけじゃないけど、そこからエミリアの反撃が始まりました。私は聞きなれていますので、時折補足しながら料理に手をつけています。

「――それで、私が不安と絶望に押し潰されそうだった時、あの御方は私を抱きしめて慰めてくれたんです」
「あー……それは惹かれて当然ねぇ」

 エミリアの熱弁をフィアさんは笑いながら同意しています。決して流しているのではなく、好きな人の様子を知りたいからだと思う。本当にシリウスさんが好きなんだなぁ。
 あ……この鶏肉、柔らかくて美味しいな。

「シリウス様が危険な時に颯爽と駆けつけてくれたのは、フィアさんだけじゃありませんよ! 私達も過去に襲われて、絶体絶命の状況で助けに来てくれたのですから! 相手は四人でしたが、本気で怒ったシリウス様はたった一人でー……」
「そうね。あの時のシリウスさんはちょっと怖かったけど、本当に凄かったわ」
「それだけ貴方達が大切だったのね。ますます良いじゃない」

 このスープ、何のスパイスが使われているんだろう? 後で聞いてみよう。

「そして両親の仇を自ら取らせるために、シリウス様はあえて私を突き放してくれました。あの時は絶望しましたが、私を思ってしてくださったのです。そして遂に……私はシリウス様に情けをいただいたのでしゅ!」

 ……あれ? 何かエミリアの口調がおかしくなってきた気がする。
 それと妙に大胆になってきたような……。

「もうエミリアは抱かれているのね? 私も早くしてほしいけど……リースはどうなの?」
「え!? その……私はまだ……」
「そうなんでしゅよ! リースも早くシリウス様に情けをいただくべきなんでしゅ! あの御方は紳士ですから優しく扱ってくださいましゅし!」

 そしてエミリアはコップの中身を飲み干していました。
 明らかに様子がおかしいと思っていると、フィアさんは持っていた容器の中身をエミリアのコップに注いでいました。
 あれ……ワインだよね?

「実は私初めてだから、それは嬉しい情報だわ。そっかぁ……優しくしてくれるのね」
「女である喜びを心から教えてくださりましゅよ! 優しいだけでなく激しい時もありましゅし、私はあまりの幸せに気絶してしまいましゅた!」

 私達はもう飲んでもいい年齢ですが、お酒をまだ飲んだ事がありませんでした。私は何となくですが、エミリアはシリウスさんの世話をする為に、集中力が乱れそうなお酒を飲まないようにしているからです。
 なのでこれが初めてのお酒なのですが、まさかエミリアが飲むとこうなるなんて……。

「次こそ私がシリウス様を満足させるのでしゅ! シリウスしゃまの為に育てたこの胸や体を使って精一杯のー……」
「その前に私の番が欲しいわ。胸じゃあエミリアに勝てなさそうだけど、私は長寿と技術で勝負よ」
「私だって負けませんでしゅ!」

 ああ……エミリアが暴走して恥ずかしい言葉ばかり言い出しています。他の宿泊客はいなくなっていますが、まだセシルさんが残っているので恥ずかしい。
 ですが、よく見れば先ほどフィアさんが使った魔法が使われていて、私達の声は周囲に漏れていないようです。
 そのさり気ない気配りは素晴らしいと思いますが、この状況を作ったのもフィアさんなので素直に称賛できないかも。

 それからしばらくエミリアの暴走は続き、十杯目を飲んだ辺りで眠ってしまいました。
 初めてでここまで飲めるなんて才能あるわね……と呟いているフィアさんはすでに二十杯目ですが、ペースを変えることなく飲み続けています。

「それにしても一生懸命で可愛い子ね。シリウスが大切にするのがよくわかるわ」
「そうですね、私も大好きですよ。ところで……フィアさんはそんなに飲んで大丈夫ですか?」
「お酒には強いから平気よ。特に今日は嬉しい事もあったし、エミリアの話が面白かったからワインが進むわね」

 そしてお代わりを注いだところで、フィアさんは少しだけ真面目な顔になって私に視線を向けてきました。

「これでエミリアと仲良くなれたらいいんだけど、どう思うかしら?」
「大丈夫だと思います。エミリアが知りたかったのは、シリウスさんを本気で想っているかどうかでしたから」
「そう、良かったわ。じゃあリースはどうなのかしら? 貴方の本音をあまり聞いていない気がするわ」
「私はフィアさんが仲間になるのは賛成ですよ。私と同じなのもありますけど、フィアさんがいればもっと楽しくなりそうですから」

 私達の中心であるシリウスさんが信頼している人ですし、こうやって話をして良い人だとわかりましたから反対する理由なんてありません。
 それになにより……。

「それに……私達は同じ人を好きになった同士です。だからきっと私達は仲良くなれると思っています」
「ふふ……流石はシリウスの恋人ねぇ。でもちょっと聞きたいんだけど、シリウスを独占したいとは思わなかったのかしら?」
「無い……とは言い切れませんが、私はエミリアも好きなんです。だからフィアさんも同じようになれたらなー……なんて」
「……くっ! 何なのよこの可愛さは!」

 何故かフィアさんが悶え始めました。
 しばらく悶え続け、ようやく立ち直ったフィアさんはワインを飲み干して満面の笑みを浮かべました。

「はぁ……明日からの日々が本当に楽しみだわ。シリウスもだけど、貴方達と出会えて最高よ」
「私もですよ。あ、そういえばケーキってお菓子を食べた事ありますか? シリウスさんが作って広めたお菓子なんですけど、凄く美味しいんですよ」
「本当? じゃあ明日頼んでみようかしら。ところで……リースはまだシリウスに初めてを捧げてないのよね?」
「ぶっ!?」

 突然の話題変化に、思わず口に含んだ果実水を吹き出してしまいました。
 噎せながらどう答えようかと考えますが、結局私は素直に頷いていました。ああ……頬が熱い。

「うん、素直な子は好きよ。じゃあ今日はー……」
「あれ? まだやっていたのか?」

 フィアさんが真面目な顔で口を開いたその時、シリウスさんとレウスが帰ってきて私達の前にやってきました。

「あ……シリウスしゅま……」
「おっと……何だ? 酒を飲んだのか?」
「そうですぅ。シリウスしゃまのにおいー……」

 もはや本能なのでしょうか? 突然エミリアは起き上がり、近づいてきたシリウスさんの胸に飛び込んで甘えています。
 シリウスさんは若干呆れつつも親のような目で頭を撫でています。するとエミリアは再び寝息を立て始めたので、シリウスさんはゆっくりと抱き抱えました。

「ごめんねシリウス。ちょっと飲ませてみたら、予想以上に飲んじゃったみたい」
「悪いとは言わないが程々にな。じゃあ俺はエミリアを部屋に運んでくるから、二人もそろそろ切り上げろよ」
「わかっているわ。あ、その前にちょっとレウス君を借りてもいい? 少し話をしておきたいから」
「レウスに聞いてくれ。それじゃあ、先に失礼するぞ」
「はい、エミリアをお願いしますね」

 エミリアを抱え、シリウスさんは私達の部屋に戻って行きました。
 フィアさんはレウスを座らせると、改めて簡単な自己紹介を済ませています。

「なあ、フィアさんは兄貴の女になるんだろ? だったら、フィア姉って呼んでもいいか?」
「全く問題ないわよ。じゃあ私もレウスって呼ぶわね。余りのおつまみだけど、食べるかしら?」
「おう! ありがとうフィア姉!」

 レウスの天然もありますが、この順応の早さは流石だなぁ。
 二人の会話に感心していると、フィアさんはレウスの頭を撫でながら笑っています。

「ねえレウス、今日は私達の部屋で寝てくれないかしら?」
「それは別にいいけど、三人部屋だからベッドが足りないぜ? まあ床でも寝れるけどさ」
「大丈夫よ。今日のリースはシリウスの部屋で寝るからベッドは空くわ。ゆっくり休めるわよ」
「そっか、じゃあ大丈夫だな」
「…………は?」

 え……え?
 何が……大丈夫なの?
 私がシリウスさんの部屋で……えっ?

「まだエミリアを介抱してるかもしれないから、もうちょっと経ってから行くといいわ。流石にあの状態のエミリアを抱くとは思えないし」
「あの、私がシリウスさんの部屋に行って……何を?」
「何ってあれよ。大丈夫、エミリアは優しくしてくれるって散々説明してたでしょ? シリウスは待ってくれているようだし、あとは貴方の勇気だけよ」

 何だか勝手に話が進んでいます。
 私は混乱し始めていますが、残った料理を摘んでいるレウスが目に入りました。

「れ、レウス? シリウスさんと一緒の部屋じゃないと嫌よね?」
「嫌だけど、リース姉なら全然構わないよ。そうそう、姉ちゃんがあんなに幸せになったんだ。リース姉も幸せになってくれよ!」
「あ……ああ……」

 レウスは完全に理解しているようです。
 満面の笑みで……それが私の幸せであると信じて疑わない目が眩しすぎます。
 ま、間違ってないんですけど……あうう……。



 ※※※※※



「…………」

 そうして気づけば、私はシリウスさんの部屋の前まで来ちゃっていました。
 何度もドアに手を伸ばしては戻すのを繰り返して、私は未だに迷い続けています。
 ここへ来る前のフィアさんの言葉が頭に残って離れないからです。


『私は明日から攻めるから、今日はリースに譲ってあげるわね。チャンスは無駄にしちゃ駄目よ?』


 十年経ってようやく再会して、本当なら自分が行きたい筈なのに……フィアさんは私の為に引いてくれたのです。
 私が臆病なせいでエミリアがよく背中を押してくれますが、今日はフィアさんが押してくれました。

 フィアさんがシリウスさんへの本音を語った時は、その想いの深さに圧倒された。
 けれど……私だってフィアさんに負けないくらいシリウスさんが好きだもの。
 私を攫って、あの月明かりの下から始まった胸の鼓動は今も続いたまま……。

 あの人は、私を受け入れると口にしてくれているのだから、怖がる必要なんてない。

 後は……私の勇気だけ。
 私は決心し、ドアをノックしました。

「ん……リースか。どうしたんだ?」
「シリウスさん。今日は……一緒に……」


おまけその一



 夜……エリュシオン城にて。


「こんな時間にどこへ行くつもりですか陛下! おい、もっと人を集めろ! とにかく止めるんだ!」
「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉっ! 放せ! 私は、私は行かねばならんのだ!」
「だからどこへですか!」
「わからん! だが、私は行かなければならん気がするのだああぁぁぁっ!」


「眠り薬をぶちまけておきなさい。ふふ……」
「機嫌良さそうですね、リーフェル様」
「そうね。何だかよくわからないけど、こう……誰かを褒めてあげたい気分よ」





おまけその二



 男同士での会話を一部抜粋。


「俺の父ちゃんは母ちゃん一筋だったけど、優れた雄は雌を何人も増やすって前に聞いたんだ。だから兄貴は変じゃないって」
「子孫繁栄を考えるとわからなくもないが、誰から聞いたんだ?」
「学校通っていた時、一人で町を歩いている時に教えてもらったんだ。裸に近い服を着た人だったよ」
「……それは、路地裏とかに立っていなかったか?」
「そうだよ。ちょっと近道しようとしたら話しかけられてさ、休憩しないかとか言われたんだ。ちょっと腹減ってたし、御馳走してくれるって言うから店に入ったんだ」
「……続けなさい」
「兄貴程じゃないけど、結構美味しいご飯くれたな。何か頻りに青い果実だとか言って舌舐めずりしててさ、食べ終わったら部屋に行こうって言われたけど、時間がやばかったから帰ったんだ」
「お前……それは娼婦っていうんだぞ。あまり近づくなって言っていただろ?」
「え? 娼婦じゃなかったぜ兄貴? だってそいつ女の服や髪をしてたけど、男だったし」
「…………」


 その後、シリウスによって再教育されたのは言うまでもない。




※作者急病(時間が足りず)により、今日のホクトはお休みです。





 というわけでフィアが登場し、女性同士での会話でやりたい放題やってみた結果……かなり文が増えて疲れました。

 純粋で初心? な彼女達ですが、それが今回の話で上手く伝えられたか……ちょっと不安です。

 そんな彼女達からモテモテなシリウス君に爆発しろと言いたい気持ちはわかります。
 あまり描写していませんが、彼は弟子達(子供達)の面倒を見て、陰で気を回したりこそこそ動いている苦労人です。
 多少は気に留めておいてほしいかと。


 今回も活動報告を挙げようと思います。
 内容は二章の一部の変更ですが……詳しくは報告にて。

 次の更新は六日後です。
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