挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

十二章 銀狼族

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

84/179

防衛戦?

「距離……風……良し。『スナイプ』……発射」

 距離を目測で計算し、遠距離の相手を狙撃する『マグナム』の発展魔法『スナイプ』を放つと、魔物の頭部に魔力の弾丸が直撃し、頭が爆ぜると同時に地上へと落ちていく。
 途中で激しく動き回って狙いを絞らせないようにしてきたが、狙撃は常に冷静であれ……だ。落ち着いて動きを先読みし、一体ずつ確実に撃ち落していく。その動作を飛んでいる魔物の数だけ淡々と繰り返し、空の魔物は全て落としたのを確認して一息吐いた。

 およそ四十は飛んでいた魔物を全て撃ち落した頃には、地上を走ってくる魔物の姿が木々の間から見え始めていた。お馴染みのゴブリンに二足歩行の蜥蜴であるリザードマン等と、ここに来るまでに戦った魔物を含め多種多様だ。
 ダイナローディア程では無いが大型の魔物も数体混ざっていて、全て興奮した様子でこちらへと一心不乱に向かってきている。
 ホクトは俺の横で威圧を放っているが、魔物達は興奮しているようであまり効果が見られない。臆して帰るならば見逃してやるつもりだったが、向かってくるなら仕方あるまい。ホクトは唸り声を上げながら俺の指示を待っているが、お前の出番はもう少し後だ。

「次は小さいのを掃除……っと」

 イメージするのはガトリング砲。
 前世でも使った事がある、一分間に数千発の弾丸を発射すると言われるガトリング砲が俺の手に握られているのをイメージする。
 基本的にガトリング砲は重く、本来ならガンシップや乗り物に取り付けて使う物だが、魔法になると本体なんか存在しないので、両手に一つずつ用意なんて荒業も可能である。
 そして両手を広げ、引き金を引くように魔法を発動させた。

「『ガトリング』……掃射!」

 両手から魔力の弾丸が連続で発射され、手を向けた先の魔物は放たれた無数の弾丸によって次々と撃ち抜かれていく。両手を真横に広げた状態からゆっくりと前方へと戻し、周囲を薙ぎ払うように弾丸をばら撒いた。
 魔法なので弾丸が発射する音は聞こえず、ただ風を切る音だけが周囲に響き渡っているが、もし本物を使っていたら耳が一時的に使い物にならなくなる轟音を響かせ、無数の薬莢が足元に転がっている事だろう。
 弾丸の威力と命中率は最低限まで落としているので、硬い魔物にはあまり通じていないが、ゴブリンのような小さな魔物には絶大である。辺り一帯を薙ぎ払えば、小型の魔物はほぼ全滅となっていた。
 だが……消耗を抑えた魔力の弾丸だろうと、流石に数千発も放てば魔力が底を突きかけてしまい、『ガトリング』は俺の正面へ放つ前に中断せざるを得なかったった。
 攻撃が中断され、生き残っている魔物達が次々と迫ってくるが……。

「ホクト!」
「オン!」

 『ガトリング』を放てなかった俺の正面目掛け、号令と共にホクトは地を蹴って駆け出した。
 ホクトは僅か数歩で最高速へと達し、その状態から放たれたぶちかましは、肉の壁のように連なっていた小型と中型の魔物達をボーリングのピンの如く吹っ飛ばし、奥に立つ大型の魔物目掛けて一直線に駆け抜ける。
 狙った相手はサイクロプスと呼ばれる一つ目の巨人だ。俺より二倍以上の背丈に、大木すら薙ぎ倒せる力と頑丈さから上級冒険者でも苦戦すると言われる大きな魔物だが、ホクトは怯む事無く突撃する。
 サイクロプスが振り下ろす拳より速く懐へ飛び込んだホクトが爪を振るえば、魔物の脇腹が大きく抉られていた。しかし魔物の巨体ゆえに爪は奥深くまで届かず、倒れもしない様子から致命傷とは程遠いようだ。
 だがホクトの攻撃はまだ終わっていない。
 駆け抜けた先の木を蹴って戻り、再び背後から魔物に襲い掛かったのだ。魔物が振り向く前にホクトの牙が首を捉え、肉を裂き骨を砕く音が響き渡る。
 首を噛み砕かれたサイクロプスは絶命し、魔物が地面に崩れ落ちる前にホクトは次の魔物を狙って駆け出していた。
 リザードマンを爪で切り裂き、尻尾の一撃で魔物の首をへし折ったりと、ホクトは一箇所に止まる事無く戦場を縦横無尽に駆け回りながら魔物を殲滅していった。

 その間に魔力を回復させた俺は、洞窟へ迫ってくる魔物達を両手で『マグナム』を放ちながら次々と撃ち抜いていった。今の俺は洞窟前に立つ固定砲台みたいなものである。
 中型や大型の魔物はホクトが主に担当してくれるので、俺は小型の魔物を優先して仕留めていく。

「右だ!」
「オン!」

 そして俺は全体を見ながらホクトへ細かく指示を飛ばしていた。ホクトが暴れている位置以外を俺が『マグナム』で対応するのを基本として動き、着実に魔物の数を減らしていく。
 その途中、高いジャンプ力を持つ兎の魔物が数体同時に跳躍して襲ってきたので即座に撃ち落としたが、その隙を突いて一体のゴブリンが俺の目前まで接近していた。
 奇声を発しながら持っていた武器を振りかぶってくるが、俺はすぐさま右手の武器を切り替え、人差し指と中指を立ててゴブリンへと向けた。

「『ショットガン』」

 魔力の散弾を至近距離で受けたゴブリンは上半身が綺麗さっぱりに吹っ飛ばされ、後は物言わぬ下半身が残されるだけだった。
 再び『マグナム』に戻し、次を狙おうとしたところで俺に向かって石や槍が無数に飛んできたので、『インパクト』を放って叩き落しながらホクトへの指示を変更する。

「左! 射手を優先!」

 飛び道具を放ってきたのは、二足歩行する豚の魔物であるオークだ。ゴブリンと違って頭が良いので人と同じ武器を使う中型サイズの魔物だが、俺があっさりと武器を叩き落したのを見て一瞬だが動きを止めていた。その間にホクトが群れに飛び込み、飛び道具を持っているオークを優先的に狙って仕留めていく。
 ホクトがいなくなった方角から更に魔物が現れたので、俺は事前に仕掛けておいた罠を発動させた。

「『クレイモア』作動!」

 名前の通り、起爆すれば内部に仕込まれた無数の鉄球が扇状の範囲に発射される、『クレイモア地雷』をイメージしている魔法だ。
 発動させると本物と同じように魔力の散弾が指定した方向へ扇状にばら撒かれ、広範囲に亘って相手を蜂の巣にする。ちなみに魔力を球体状にして地面に設置し、『ストリング』で繋いで任意で起爆させて使う。
 それを事前に複数仕掛けて同時に発動すれば、防御手段を持たない小型の魔物が轟音と共に吹き飛んだ。
 ホクトが戦っている部分を除き、煙が晴れた先は木々や魔物が広範囲に亘って薙ぎ倒されている惨状と化していた。

「……ちょっとやり過ぎたか? まあ、見通しが良くなったから別にいいか」

 景色がかなり変わってしまったが、魔物が見えやすくなったので良しとする。
 中型や大型の魔物は『クレイモア』に耐えたようだが、こいつは魔力の散弾だけでなく衝撃波も放つのでかなり後方へ吹っ飛ばされて倒れていた。
 倒れた魔物に『マグナム』を放って急所を撃ち抜いていると、ホクトが大きく吼えたので顔を向けてみれば、馬並の体躯を持つ猪型の魔物が二体ほどこちらに向かって突進してきたのである。
 ホクトが前足を叩き付けて一体仕留めたが、残り一体は間に合わず俺に迫ってきていた。すぐさま『マグナム』を放ったが、頭部を狙った魔力の弾丸は弾かれ突進は止められなかった。

「硬い? いや、受け流したか……」

 魔物の頭部は硬い皮膚で覆われているだけでなく、丸みを帯びているので受け流されてしまうようだ。正面からでは効果が薄そうなので、俺は前へ飛び出して魔物の頭上を飛び越えるように大きく跳躍した。
 己の頭部が地面に向くように飛んだ俺は、魔物の頭上に差し掛かった時に両手を真下に向けて『ショットガン』を連続で放った。
 真上から放たれた『ショットガン』の連射により、背中をズタズタにされた魔物は体を地面にめり込ませながら絶命していた。予想通り、硬いのは正面だけだったようだな。

 しかし、そのせいで俺は洞窟前から大きく離れたどころか、前方に大きく跳躍したせいで魔物の群れの中に飛び込もうとしていた。落下地点にはオークが槍や剣を突き出して待ち構えていたので、魔法で吹き飛ばそうと手を向けたが……その必要は無さそうだった。

「アオオォォ――ンッ!」

 ホクトがその地点に割り込み、立っていたオークを全て体当たりで吹き飛ばしてくれたからである。俺は空中で体勢を整え、そのまま待機していたホクトの背中に降り立った。
 俺が背中に乗ったのを確認したホクトはすぐさま駆け出し、戦場を一回りするように走らせてから洞窟前に戻ってきた。戦場を一回りしたのは、遠距離では仕留めにくい魔物を俺が撃つ為である。
 遠距離攻撃を持つ魔物や厄介な相手を撃ち抜いて倒し終え、洞窟前に戻って俺を降ろしたホクトは再び前線に飛び出して暴れ始めた。

 そんな風に時折俺も前へ出て、ホクトに乗って戻るのを繰り返す内に魔物の数も減り、後は大型の魔物を数体残すだけとなっていた。
 残った魔物はサイクロプスが四体。
 前線に出ているホクトはその内の三体を相手にしているが、魔物はホクトの素早さに付いていけず見事に翻弄されていた。隙を見ては爪の一撃を食らわせているので、あそこは放っておいても決着は付くだろう。
 一方……俺を狙っている一体は若干賢く、頭部を腕で守りながらゆっくりと前進してくるのである。『マグナム』ではサイクロプスの皮膚と筋肉を貫けないようで、何発か撃ちこんだものの堪える様子が全く見られなかった。
 『アンチマテリアル』で腕ごと撃ち抜くのも考えたが、今回の俺は魔法ばかりで近接戦闘をほとんど行っていない事に気づいた。

「何事も経験はしておくべきだな」

 魔物はほぼ倒されたので、洞窟前を陣取る必要はすでに無い。
 直接戦おうと俺が駆け出すと、魔法が止まったのに気付いたサイクロプスは防御を解いて俺に向かって右拳を振るってきた。
 ホクトの場合は拳より早く相手の懐へ飛び込んでいたが、俺の場合は歩幅を調整して走る速度を瞬間的に落としてタイミングをずらし、魔物の右拳は俺の目前の地面を砕くだけだった。
 俺はその腕を足場にしてサイクロプスの体を駆け上がり、サイクロプスの急所である目に向かって剣を突き出した。しかし魔物は左手を使って目を防御してきたので、俺は攻撃を中断して仕掛けを施しながら肩を蹴って大きく飛び上がり、サイクロプスの頭上を飛び越えた。
 そのまま地面に着地するとサイクロプスはゆっくりと振り返ってくるが、魔物は自分の身に起こった違和感に動揺していた。

「左腕と首の筋肉……どっちが丈夫だろうな?」

 頭上を飛び越える前に『ストリング』を輪にして左手と首を繋いだので、左手を動かそうとすれば首が絞まるわけである。
 片腕が塞がれて動揺している隙に懐へ飛び込み、頑丈そうな腹筋目掛けて俺は魔力を込めた拳を放った。

「『インパクト・ゼロ』」

 拳が当たると同時に『インパクト』を放つ、ガーヴの『ウルフファング』を真似た技だ。俺の力と魔法の一撃が合わさるので威力は数倍になるどころか、鎧を貫通して衝撃を与えるので堅い敵にも有効なのだ。
 腹筋を貫通して襲う衝撃にサイクロプスは堪えきれず悶えていたが、俺はその隙に飛び上がって魔物の頭に着地していた。

「今度こそもらうよ」

 そして頭上からサイクロプスの目に剣を突き立てると、魔物は背中から倒れて絶命していた。このくらいなら……レウス一人でも十分に倒せそうだな。

「アオオォォ――ンッ!」

 そしてホクトを見れば、積み重なった魔物の上で高らかに勝ち鬨をあげているところだった。

 しかしホクトの背後に倒れているサイクロプスの一体はまだ生きているらしく、ホクトを握り潰そうと手を伸ばしていた。
 ホクトはすぐに気づいたので大丈夫そうだが、ついでなので俺は『アンチマテリアル』を放ち、魔物の頭部を吹き飛ばして止めを刺しておいた。

「油断大敵だぞ」
「クゥーン……」

 ホクトは力無く鳴き、尻尾が垂れた状態で悔しそうに俺の元まで歩いてきた。
 最後はちょっと油断したかもしれないが、お前の御蔭で魔物を容易く全滅させる事が出来たんだ。俺は感謝の気持ちを込めて、ホクトの頭を丹念に撫でてやった。

「だが、良くやったぞホクト。お前は本当に頼りになるな」
「…………オン!」

 撫でられている内に機嫌が良くなったのか、尻尾を振り回しながら俺の胸元に顔を擦り付けようとしたが……口元が魔物の血だらけに気づいてそれを止めていた。

「何を遠慮しているんだ。こないならこっちからやるぞ?」
「……クゥーン」

 だが俺はホクトの頭を抱え込むように抱きつき、念入りに撫で回してやる。血なんて後で洗えば良いし、褒める時にはしっかりと褒めてやらないとな。

「本当ならお前のブラッシングをしてやりたいところだが、まだ内部では戦いが続いているようだ。行くぞホクト」
「オン!」

 もはや戦争が起こったとしか思えない洞窟前を後にし、再び洞窟内部へと入った。
 奥へ向かう途中、俺は洞窟内の川で戦闘服に付いた血を軽く拭き取り、ホクトは川に飛び込んでから一泳ぎし、川から上がって体を振るえば血は綺麗さっぱりと落ちていた。便利な毛だと思う。

「さてと……エミリアの成長を見せてもらうとするか」
「オン!」

 すでに『サーチ』によってエミリアが立ち上がり、ダイナローディアと戦い始めているのは判明している。
 彼女の精神的障害トラウマを乗り越える現場を見届ける為に、俺とホクトはエミリア達の元へ向かうのだった。






 ――― エミリア ―――


 シリウス様のコートを羽織り、力が溢れる私とリースが洞窟の奥へ戻った時、レウスとお爺ちゃんの戦いは厳しい状況に陥っていました。

「爺ちゃん! そっち向いたぞ!」
「ぬぅ!?」

 二人は五体満足でしたが、体のあちこちに浅い傷が走って動きが鈍くなっていました。致命傷ではないので安心しましたが、二人は明らかに疲労しているらしく、動きに切れがありません。
 私はリースと目を合わせて頷き、同時に魔法を放ちました。

「『風衝撃エアインパクト』」
「『水柱アクアピラー』」

 私の『風衝撃エアインパクト』によってダイナローディアの顎が跳ね上がり、更にリースの魔法によって魔物の足元から水柱が噴出して転ばしていました。

「姉ちゃん!? リース姉!」
「……来たのか?」

 慌てて私達の元へ二人は戻ってきましたが、私は静かに頷き魔物へ向かって一歩踏み出しました。
 正直に言えばまだ……怖い。
 今にも足と手が震えそうで、体に力を込めて無理矢理震えを抑えている状態です。
 ただ……それ以上に怖いものを知り、シリウス様のコートから感じる暖かさが私を支えてくれます。
 大丈夫。私は……戦える。

「心配かけてごめんなさい。でも、もう大丈夫。私も一緒に……戦うわ」
「だがお前は……」
「姉ちゃん、やれるんだな?」
「当然よ!」

 リースが二人の傷を癒している間に、私は魔物を観察しながら作戦を考えます。
 レウスが斬ったのか手や足の指が幾つか切断されていますが、平然と巨体を起こして唸っている点から致命傷には程遠いようですね。それに私とリースの魔法でも全く堪えていませんし、衝撃に関しては本当に効果が薄いようです。
 二人の治療を終え、魔力を高めたままのリースが私の隣に並びます。

「うん……これで良しっと。それでエミリア、何か浮かんだかしら?」
「そうね、やはりレウスの一撃に頼るしかなさそうだけど、その前に私とリースの魔法が通じるか試してみたいわ」
「リース姉も戦うのか!?」
「そうよ。リースは私達の仲間で家族なのよ? 参加させないなんてありえません」

 家族の仇ですから私達だけの手で倒したい思いは確かにあります。ですがリースの優しさを無下にしたくありませんし、私達だけで倒すのに拘って、負わなくてもいい怪我をするなんて嫌なんです。
 今は全員の力を合わせ、全力であの魔物を倒す……それだけです。

「……わかったよ姉ちゃん。リース姉、ごめん。一緒に戦ってくれるか?」
「初めからそのつもりよ。援護と回復は任せて」
「お爺ちゃん、リースも一緒でいいですよね?」
「……勝手にしろ」

 不貞腐れ気味ですが、どうやら了承してくれたようです。お爺ちゃんは私より前に出て拳を構えてくれているので、魔物を再び引きつけてくれるようです。
 レウスもそれに続き、二人は左右に分かれて魔物へ向かって駆け出すと、魔物は大きく吼えて怒りを露にしました。
 その咆哮を聞いた瞬間、私の呼吸が荒くなり過去の光景が蘇りました。
 あの魔物にお母さんとお父さんが食べられ、そして今度はレウスとお爺ちゃんがー……。

「違う!」

 絶対に違う!
 そんな事は絶対にさせない!
 私が……させない!
 自分の頬を叩いて恐れを振り払い、魔法を使うために魔力を集中させます。そして恐れを踏みつけながら一歩踏み出し、魔物へと魔法を放ちました。

「『風斬エアスラッシュ』」

 まずは魔物を切り刻もうと風の刃を無数に放ちましたが、全て皮膚を切り裂くだけで大したダメージにはなりませんでした。
 傷を付けられて怒ったのか、魔物は私に襲い掛かってきましたが、レウスが横面を剣で殴りつけて足を止めてくれました。

「今度は……これです!」

 放ったのは同じ『風斬エアスラッシュ』ですが、今度は無数ではなく数を減らして威力を強めた風の刃です。直撃した部分を切り裂きますが、やはり体の奥まで届かないようです。風の刃ですから、武器が抜けないなんて事がないのが強みですね。ですが、これも効果が薄そうです。

「こっちだ! そっちに行く事は許さん!」

 お爺ちゃんが魔物の顎を殴って気を引いてくれます。
 続いて『風散弾エアショットガン』を連続で放って魔物の体に撃ち込んでみますが、やはりこれも大したダメージになっていないようです。
 やはりシリウス様みたいな貫通に特化した魔法か、魔物が気づかない程の速度で斬るしかー……斬る?

「防御にもこういう使い方があるんだから! 『水壁アクアウォール』」

 こちらに向かって突進してきたので、リースは水の壁を何枚も生み出して魔物を受け止めました。しかし水の壁は厚みが足らず、魔物がぶつかればあっさりと通り抜けられそうです。
 ですが、何枚もぶつかって通り抜けている内に突進の勢いは失われ、最後の壁を抜けた時には歩くような速度になっていました。

「あっちに行きなさい! 『水柱アクアピラー』」

 勢いが殺されたところに再びリースの『水柱アクアピラー』が足元から放たれ、魔物は壁際まで吹っ飛ばされていました。
 水の精霊が活性化していると言っていましたが、凄まじい威力です。いえ、精霊使いが本気を出したらこれくらいは出来て当然なのでしょう。リースが私達の友達で家族で本当に良かった。
 ともあれ、リースの御蔭で時間ができました。私は前に出ている二人を呼び戻し、魔物を見据えながら先程思いついた作戦を伝えました。

「どうする姉ちゃん? やっぱり俺が斬ってみるか?」
「だが剣では肉に止められてしまうぞ。何か他に案はないのか?」
「……あります。先程とほとんど同じですが、合図したら私に魔物を近づけさせないようにしてください。そして……」

 私はレウスに視線を向けて告げました。

「貴方は変身しなさい」
「えっ!? でも姉ちゃんそれはー……」

 私の指示にレウスは驚いていますが、真剣な目で訴えればレウスは納得して力強く頷きました。私が言いたい事は伝わったようです。
 リースも驚いていますが、私達を信頼してくれているのか何も言わず見守ってくれています。

「変身? 一体何をー……」
「うおおおおぉぉぉぉ――っ!」

 唯一状況を理解できないお爺ちゃんが呟いている間に、レウスは叫びながら変身を完了させます。
 筋肉が盛り上がり、体中から毛が生えて狼のような顔になったレウスが、魔物に負けない程の咆哮を放ちました。この状態ならば剣を振る速度が上がっていますので肉を斬り裂けるでしょう。
 ですが……変身したレウスを見たお爺ちゃんは信じられないような顔をしていました。

「馬鹿……な。お前が……呪い子だと?」

 銀狼族には呪い子と呼ばれる者が現れたら……殺さなければならない掟があります。

 エアリーさんから聞きましたが、過去にお爺ちゃんは呪い子になった仲間を手にかけた事があるそうです。そしてお父さんもまた、私の目の前で呪い子になった仲間を手にかけました。
 なので掟によってレウスは殺さなければいけません。身内を殺さなければならないという現実を見せられ、お爺ちゃんの信じられない気持ちもわかります。
 だって、過去の私もそうでしたから。
 何も無かったあの頃の私は殺す事も別れる事も選べず、ただ泣く事しか出来ませんでした。どちらを選ぼうと、私達は離れ離れになる結末しかなかったのです。

「お爺ちゃん、呪い子を殺す掟なんて……」
「爺ちゃん、呪い子を殺す掟なんか……」

 けれど……シリウス様の掛けてくれた一言で全てが覆りました。


「「くだらない!」」


 呪い子の掟なんてくだらないと、シリウス様は鼻で笑いながら、別れる筈だった私達を結び付けてくださいました。
 そのような大きな御方だからこそ、私達は生涯を共にするとあの月に誓ったのです。
 だからシリウス様がくだらないと言うならば、私達も同じなのです。
 それに呪い子だろうと何だろうと、レウスはレウス。こうして私達と一緒に歩み、悩み、笑い合えるのならば問題なんかないんですから。

「く、くだらない……だと? お、掟をくだらないと言うのかお前達は?」
「その通りです。お爺ちゃんが悩んでいるのは私達にとってくだらない事なんです。そんな事よりあの魔物を倒す方が重要ですね」
「姉ちゃんの言う通りだぜ! くだらない事を言うくらいなら、そこで黙って見ていろ爺ちゃん!」
「お母さんとお父さんの仇は私達でとりますので安心してください。それでは……」

 未だにショックが抜けず呆然としているので、私達はお爺ちゃんを置いて前に出ました。
 魔物がこちらへと走ってきていますが、作戦の説明がまだ済んでいないので、獰猛に笑いながら剣を振っているレウスの肩を叩いて振り向かせました。

「私は魔法を試すから、合図するまでは自由に戦っていなさい。それで合図したら……」
「姉ちゃんに近づけさせない……だな。任せとけ!」
「ちょっと追加するけど、魔物が私から離れすぎても駄目よ。上手く戦いなさい」
「えっ!? そんな難しい事を急に言うなよ! でも、わかった!」
「お願いねレウス。そして、隙を逃しちゃ駄目よ」

 打ち合わせが終わり、前に飛び出したレウスは正面から魔物に突撃していました。
 そんな獲物を噛み砕こうと魔物は口を向けますが、変身したレウスの速度は遥かに増しているので、魔物が口を開く前にレウスは懐へ飛び込んでいました。
 そして全力で振られた剣は魔物の肉を裂き、体内で止まる事なく振り切れたのです。

「よっしゃ! これなら行けるぞ」

 レウスは喜んでいますが、相手が巨体過ぎて致命傷に至っていません。やはりあれを使うしかありません。
 私は一度立ち止まり、呼吸を整え精神を集中させます。
 今から放つのは、ただ唯一の風の刃。
 先程のようなものと違い、細く……鋭く……速く放つ必殺の刃です。

「……『風斬エアスラッシュ』」

 放たれた風の刃は、魔物の腹を切り裂き大量の血を噴出させました。
 魔力を濃縮し、限界まで風の刃を薄くさせた分だけ深く切り裂き、魔物は痛みに悶えながら吼えています。この一撃はかなり効果があったようですが、今の魔法はまだ本物には程遠いです。
 ですが今ので感覚は掴めました。次こそは本気で放とうと思ったのですが、予想以上に私は魔力を消耗してしまい、体の不調に耐え切れず膝を突きながら崩れ落ちてしまいました。

「姉ちゃん!」
「あ……」

 今の一撃を脅威と見た魔物がこちらに迫ってきたのですが、私は魔法を届かせる為に近づき、更に疲労で膝を突いていたせいで対応が遅れてしまいました。
 獲物を食らおうと開かれる魔物の顎を呆然と見上げる事しか出来ず、その牙が私を捉えようとしたその時ー……。


「私のは……やらせんぞぉぉ――っ!」

 横から割り込んできたお爺ちゃんがウルフファングで魔物を殴り飛ばし、私は危機を脱しました。
 お爺ちゃんの必殺技で殴られた魔物は地面を転がり、壁に激突して動きを止めています。その間にお爺ちゃんは手を差し伸べてくれたので、私はその手を握って立ち上がりました。

「お爺ちゃん……ありがとう」
「礼なぞいらん。私が愚かでなければ、お前を危険な真似に遭わせずに済んだのかもしれんのだ」
「でも助けてくれました。それに孫だって……」
「あれはー……と、とにかく! お前達の言う通り、呪い子の掟なぞ今はどうでもよい。私はあの仇を倒す事だけを考えれば良かったのだ。全く、お前達は良き師もいて、良き仲間もいるのだな」

 見ればお爺ちゃんの左頬が赤くなっています。すぐに思い当たり、リースに視線を向けてみれば右手を振りながら満足気に頷いていました。私だけでなくお爺ちゃんまで……何だかリースが絶好調です。
 その間に魔物が再び動き出して私達に迫ってきましたが、お爺ちゃんはレウスに向かって大声で叫びました。

「私が隙を作る! お前の剣で奴の尻尾を地に縫いつけてやれ!」
「っ!? わかった爺ちゃん!」

 お爺ちゃんは大きく跳躍し、魔物の頭上より高く飛びあがりました。しかし空中で無防備な獲物を魔物が狙わないわけがありません。大きく口を開き、お爺ちゃんが落ちてくるのを待っている魔物の足元にリースの『水柱アクアピラー』によって大量の水が噴出しました。
 水によって魔物はバランスを崩し、無防備になった背中をお爺ちゃんが真下に向かって殴り飛ばせば、地響きを起こしながら魔物は地面に叩きつけられました。
 地面に叩きつけられたという事は、魔物の尻尾も地面に接するわけです。その隙を逃さず、レウスは尻尾の根元を狙って剣を突き立て、魔物を地面に縫い付けました。

「姉ちゃん!」
「押さえるのは任せて!」
「ありがとう、行くわよ!」

 魔物は暴れて剣を抜こうとしますが、レウスは渾身の力で押さえつけています。かなり体格差がありますが、変身したレウスの力だからこそ出来るのでしょう。
 更にリースとお爺ちゃんが魔物を攻撃しているので、魔物は完全にその場に押さえ込まれています。
 私は残った魔力を確認しながら、ゆっくりと魔物に近づきました。

 イメージするのは……過去にシリウス様が見せてくださった技術です。

 過去にエリュシオンの学校へ通っていた頃、シリウス様は鍛冶師のグラントさんにアドバイスをして、とある武器を作ってもらいました。
 カタナ……と呼ばれる剣ですが、レウスが使っているような剣に比べて細く、武器として使うには心許ない剣でした。
 ですがカタナを鞘に仕舞い、シリウス様の技術で振るえば……まるで風の刃の如く物が切れたのです。その綺麗な切断面は凄まじいと思いましたが、数回振るとカタナは折れてしまいました。
 タマハガネという物が無いので強度が弱いらしく、結局カタナを作るのは断念したそうですが、私はこの技を風で再現できるかもと思い、シリウス様に色々と質問してから試してみました。が……満足の行く結果になりませんでした。当時はまだ私の実力が足りなかったのだと思います。
 ですが、今の私なら……。

 魔物に近づいた私は腰を落とし、シリウス様がカタナを振るった時に見せてくださった同じ構えをとりました。数年前ですが、シリウス様の姿なら私はすぐに思い出せます。
 残った魔力を全て右手に集中させ、風の刃を飛ばすのではなく……ナイフの様に振るって切り裂くのを深くイメージします。
 今、私の右手には先程のより細く……薄く……あのカタナのように鋭い刃が握られているのです。

「今だエミリアッ!」

 そしてお爺ちゃんが魔物の顎を拳で打ち上げ、晒された無防備な腹に目掛け……私は腰に当てていた右手を解き放ちました。

 シリウス様が教えてくださったその技術の名は抜刀術と言うそうです。
 そして私が放つのはカタナではなく風の刃。

 したがって、その二つの点を合わせ持つこの魔法の名前は……。

「抜刀・風刃!」

※話に出てくる銃火器や抜刀術に関して。
 これらは作者が適当に調べ、自分にとってわかりやすく表現しているだけなので、詳しい人や好きな人にとっては物足りないかもしれません。そして、間違っていたらすいません。
 そしてシリウスが使う近代兵器魔法ですが、近代兵器の威力と魔法の不思議パワーが重なっているので、元を遥かに凌駕している威力を持っています。




 今日のホクト


 本日のホクト君は、いつにも増して滾っているようです。

 まずは戦闘が始まると同時に、ご主人様がガトリング砲を模した魔法で魔物を次々と始末していました。
 ホクト君は自分の出番が無くなるんじゃないかと思いましたが、魔物はまだ沢山残っていたので一安心です。

 そしてようやくご主人様の命令が飛ばされ、ホクト君は溜めに溜めていた力を解放させました。
 ホクト君にとって、ゴブリンやオークの壁なんて紙切れ同然です。紙切れなんかあっさりと吹っ飛ばし、奥にいたサイクロプスを狙って爪を振るいました。
 しかし相手は自分より大きく爪が効きづらいので、ホクト君は魔物の首に噛み付いて骨を砕きました。あまり牙は使いたくないのですが、急いで倒さなければいけないので我慢します。
 そして大きいのを優先的に狙って倒していると、途中でご主人様が魔物の群れの中に飛び込もうとしていました。
 ご主人様なら問題ないと思っているホクト君ですが、魔物の上に着地するくらいなら自分に乗ってほしいと思い、邪魔だった魔物を吹っ飛ばしてご主人様を背中に乗せる事が出来ました。
 背中に感じるご主人様の重みが嬉しく、ホクト君は上機嫌で戦場を駆け回りました。

 その後……魔物を全て倒したホクト君は高らかに吼えて勝利を喜んでいました。
 ですが、最後の一体を仕留め損なっていて、本来なら自分が助ける立場なのに、ご主人様に助けられてしまいました。
 ホクト君は激しく落ち込みましたが、ご主人様は良くやったとホクト君を沢山褒めてくれました。
 丹念に撫でられている内に嬉しくなり、ホクト君は自分の顔をご主人様の胸に押し付けて甘えようとしたのですが、今回は牙を使って口周りが血だらけになってしまったので泣く泣く諦めたのですが……ご主人様は全く気にせず抱きしめてくれます。
 こんなご主人様だから、ホクト君はどこまでもお供したくなるのです。

 最後はちょっと失敗してしまいましたが、ホクト君はご主人様の役に立てた喜びを噛み締めながら、満足気に撫で撫でを堪能するのでした。



 次の更新は六日後か……七日になるかもしれません。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ