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幕間 帰るべき場所

このお話は、エミリアが非常に……そして大変に暴走しております。

生暖かい目でご覧ください。

 ――― エミリア ―――




 冒険者ギルドに登録してから数日後、私達姉弟とリースは宿屋である『春風の止まり木』に集合していました。

 ここにいるのは私が二人に声をかけて誘ったからですが、私達のご主人様であるシリウス様には内緒の集まりなので、現在近くにいらっしゃいません。

 何故なら今から話す内容はシリウス様に秘密だからです。あの御方に秘密を作るのは心苦しいですが、どうしても喜んでいただきたいと、そう自分を納得させています。


「場所を貸していただき、ありがとうございますローラさん」

「別にかまわないけど、あんた達がシリウス君の隣に居ないのは珍しいねぇ」

「俺もそう思う。姉ちゃんが兄貴から離れるなんて珍しいよな」


 お茶を用意してくれた『春風の止まり木』の女将さんに礼を言っていると、レウスが驚いた様子で私に言ってきます。

 全く、失礼な弟ですね。確かに私はシリウス様が大好きですが、しつこく付き纏って主を困らせる女になるつもりはありません。シリウス様だって一人になりたい時があるのですから、私も空気を読んで離れることくらい簡単に出来ねばなりません。

 そう、あの御方の従者ならば離れる事くらい簡単に……簡単……に……会いたい!


「ね……姉ちゃん……くるひ……」

「ちょっとエミリア!? 何でレウスの首を絞めているのよ! 正気に戻りなさい!」

「はっ!?」


 いけないいけない、考えだすと会いたくなるので止めましょう。すでにシリウス様が恋しいですが、あの御方の従者として冷静に行動できねばなりません。レウスを解放し、頭を撫でて謝りました。


「ごほっ……何で姉ちゃんに勝てないんだろう俺?」

「姉だからです。さて、二人に集ってもらったのは他でもありません。実は常日頃からお世話になっているシリウス様にお礼をしようと思うのです」


 そう、私達は本当にシリウス様に守られている。食事一つだけ見ても、肉だけでなく野菜をしっかりと混ぜて私達の健康を気遣ってくださいますから本当に頭が上がりません。あの御方に私達はどう報えばいいのでしょうか? 

 その恩に報いたいと思い、私の初めてを捧げようとしていますが……中々受け取ってくださいません。エリナさんが『男性は一定の年齢で準備が出来るので積極的にアピールしろ』と言っていたのに……何がおかしいのでしょう? 満足させたくて胸だってこんなに大きくしたのに……。

 いえ、焦る事はありませんね。聞いた話では男性は今から女性に興味を持ち始める時期だそうですし、ここからが勝負です。

 体はいずれ捧げるとして、今は現状のお礼を考えるとしましょう。


「私達はギルドに登録してお金を得られるようになりました。なので、お金を稼いでシリウス様に何かプレゼントしようと思うんだけど……どうかしら?」

「いいなそれ! 俺頑張っちゃうよ!」

「そうね、シリウスさんには本当にお世話になっているし、何でもいいから恩返ししたいわ」


 反対するとは思っていませんでしたが、二人は賛成のようでなによりです。

 ちなみにシリウス様は現在ガルガン商会でザックさんと商談中です。詳しく聞いていませんが、卒業後に必要な物を注文していると言っていました。

 本日の私達は自由に過ごして良いと許可を頂いています。今は朝ですが、晩御飯までには帰れと言われましたので、夕方までにはお金を稼いでお礼の用意をしなければなりませんね。


「ねえエミリア、何でそんな口調になっているの? 昨日まで普通だったよね?」

「冒険者になりお金を稼げるということは大人の一歩ですから、あの御方の従者として引き締めていこうと思ってね。まずは口調から始めて、最終的には従者としての有り方を教えてくれたエリナさんを目指すの」

「エリナさんって凄かったもんな」

「貴方に従者の在り方を教えてくれた人だよね? そんなに凄かったの?」

「凄かったわ。短い間だったけど、私はあの人に様々なことを教わったもの」


 エリナさんは本当に従者の鏡だったと思う。

 シリウス様が作業をすると邪魔にならない位置を把握していて、必要な物があるならば口に出さなくてもすっと横に差し出す主人への気遣いが完璧でした。まだ私はそこまで辿り着いていないけど、あの御方の従者として相応しくありたい。

 だけど今はシリウス様のお礼が最優先です。


「まあ私の目標は置いておいて、早速行動に移りましょう。すでにギルドで依頼を二件ほど受けてきました」

「行動早いな姉ちゃん。別に今日じゃなくても、ゆっくり稼いでいけばいいんじゃないのか?」

「シリウス様から何度も離れたくありません」

「なるほど!」

「わかっちゃうんだ! いや……わからなくもないけど」


 シリウス様の身の回りの世話が私の生き甲斐なのです。そう何度も離れるなんて出来ません。

 とにかく二人が納得したところで私は依頼書を二枚取り出しテーブルに並べます。内容はゴブリンの巣の調査と、エリュシオンから少し離れた所の湖、ジャオ湖で採取できる水晶花の納品です。二人はそれを取って確認しますが、疑問がありそうな顔でこちらを見てきます。


「討伐じゃなくて調査と採取依頼なんだな。報酬は銅貨数枚か銀貨一枚だけかぁ」

「そうね。シリウスさんに何を用意するかわからないけど足りるのかしら? お礼はお金に物を言わせることじゃないと思うけど、できれば良い物を用意したいし」

「登録したての私達ではそれくらいしかありませんでした。ですが、この依頼は表向きに過ぎません」


 そう、あくまで依頼場所へ行くのが重要なのです。その為に色々と準備は済んであります。


「このゴブリンの巣を調査ですが、受付の方に聞いたところ襲われたら逃げろと言われましたが、倒すなとは言っていませんでした。また、依頼書にも倒すなと書いてありません」

「つまりどういう事だ姉ちゃん?」

「レウス、調査に託けて全滅させてきなさい。ついでに売却用の角も根こそぎ確保してくるのよ」

「わかった!」

「ええっ!? 危険……でもないか」


 リースが一瞬驚きましたが、レウスがゴブリンを軽く倒す現場を何度も目撃していますから問題無いと気づいたようです。

 ギルドに勝手な事をするなと怒られそうですが、相手は家畜を襲ったり女を孕ませる事しか考えないゴブリンです。女性の敵を倒すのですから、怒られはしても評価はされるでしょう。

 調査しようと巣を調べていたら、見つかって全滅させましたと報告すればいいでしょう。ついでにランクアップ出来るかもしれませんし、お金も稼げて一石二鳥です。


「巣を見つけたらうっかり突撃しなさい」

「そしてうっかり全滅させてくるんだな」

「それはもううっかりじゃないよ……」

「はい、これがお弁当と飲み物よ。終わったらここで合流しましょう」

「わかった姉ちゃん。早速行ってくるぜ」

「夕方までには帰ってくるのよ。行ってらっしゃい」

「い、行ってらっしゃい……」


 準備を整えレウスが出発しました。巣があると思われる場所へ普通に行けば昼前になりそうですが、レウスの足ならシリウス様の言う一時間くらいで着くでしょう。

 次は私達の番です。依頼内容は水晶花の納品と書いてありますが、もちろんそれだけではありません。


「ゴブリンの全滅なら、こっちも何かあるんだよね?」

「もちろんです。ジャオ湖には何が生息しているか知っていますよね?」

「ジャオラスネーク……だよね? ということは……」

「リースの想像通りよ。水晶花を採取するついでに、うっかりジャオラスネークを狩って素材を売ります」

「だからうっかりじゃないってそれ! ついでって言っているじゃない」


 うっかりじゃなければどう言えばいいのでしょうか? 私達のような冒険者成り立てが、中級冒険者でも苦戦する魔物を倒しに行くと言えば間違いなく止められるでしょうから堂々と言えないのです。


「でもさ、倒すのはいいけど……素材はどうやって持って帰るの? 牙や肉もほとんど売れるから、相当な重さになるよ?」

「その為にザックさんに頼んで馬車を用意していただきました。シリウス様の為と説明したら、後払いかつ格安で貸してくれましたよ」

「それってシリウスさんにばれているんじゃないかなぁ?」

「内緒にしてくださるそうですし、馬車の受け取りもガルガン商会ではないですから大丈夫よ。時間も惜しいし、早速行きましょうか」

「色々と気になる点があるけどわかったわ。シリウスさんへのお礼と思って細かい事は目を瞑りましょう」


 リースも覚悟を決めましたし、私達は早速ジャオ湖へ向かうことにしました。

 エリュシオンの入口近くにある馬車待機所へ赴き、ザックさんから頂いた札を渡して馬車を借り受けました。馬一頭に私達二人が寝れる程度の小さな幌付き馬車でしたが、長距離を移動するわけではないので十分です。流石はザックさん、良い選別をされてます。

 出発しようと私が御者台に座りますが、それを見たリースが首を傾げています。


「エミリアって馬の扱いが出来たの?」

「自分で扱うのは初めてだけど、やり方は知ってるわ」


 ここエリュシオンへ来る途中にザックさんから教わりました。その時は荷物を運ぶ為に二頭でしたが、今回は一頭ですし慎重にやれば何とかなるでしょう。


「御者も雇った方がいいんじゃないかしら?」

「そうしたらお金が余計にかかります。それに馬は一頭だから安心して」

「……何だか不安だけど、仕方ないかぁ」


 リースを納得させたところで私達は出発しました。

 エリュシオンを囲む防壁の入口に立つ門番に、ギルドカードと依頼書を見せて外へ出ます。

 そういえば、シリウス様がいらっしゃらない状態で街の外に出るのは初めてですね。昔ならば怖くて絶対にしなかったでしょうけど、今は全く怖いと思いません。これもシリウス様に鍛えられ、外で生き抜く術を教わった御蔭ですね。何としてもこの依頼に成功し、お金を沢山稼いで恩返しをしてさしあげねばなりません。

 ジャオ湖まで多少の距離がありますし、少しだけ速度を上げつつ馬車は進んでいきます。天気も快晴で、日向ぼっこしながら手綱を握っているとリースが私の隣にやってきました。


「馬の扱いは大丈夫かしら?」

「問題ないわ。大人しいし、命令を素直に聞いてくれる良い子よ」

「ただ乗ってるのもなんだし、私も扱い方を教えてくれないかな?」

「いいわよ。まずは手綱を引っ張ると……」


 それから馬の扱いを教えながら私達はジャオ湖を目指しました。



 一時間ほど御者を交代しながら馬車を走らせ、ようやくジャオ湖に着きました。

 水場というのは魔物が集まりやすいものですが、ジャオ湖はこの辺りで上位に君臨するジャオラスネークが生息していますので他の魔物が少ないのです。ですから馬が襲われる可能性が低いので、湖から少し離れた樹に括りつけて準備完了です。

 まずは本来の依頼である水晶花の採取から始めましょう。


「依頼の水晶花は二十本だったよね?」

「依頼書にはそう書いてありますが、あればあるだけ買い取るそうですよ」


 水晶花とは澄んだ水の中で咲く花ですね。花びらが水晶のように透き通っているのが特徴で、小さい花ですが熱冷ましや回復薬などに多様な活躍をみせる花です。浅い所にも生えるので、陸地からでも採取出来ます。

 そこまで貴重な物ではなく単価も安いですが、シリウス様の仰った塵も積もれば何とやらです。

 本来ならジャオラスネークが周辺に居ないのを確認してから探すのですが、私達はむしろ見つけてほしいので気にせず動きます。

 そのまま採取を続け、三十本目に突入したところで私達は異変に気づきました。


「あれ? 他の魔物がいないわね」


 リースの言葉通り、少し離れた位置で水を飲んでいた魔物が一匹も居なくなっていました。これはもしや……。


「どうやらお出ましのようですね」

「どう戦う?」

「今日は二人ですから、リースが撹乱させて私が仕留める方向で行きましょう」

「了解。湖だから精霊達も元気だし、準備万端よ」


 私達は採取を中断し、急いで水晶花を馬車に運びます。それが終わった頃に湖から大きな影が浮かび、水飛沫と共にジャオラスネークが現れました。

 全身が黄色い鱗に覆われ、口には無数の牙が並んでいる大きな蛇です。体長は五メートルくらいでしょうか? 大きい個体はその二倍はあるそうですし、この魔物は大人になる手前でしょうね。

 私達に気づいたのか鋭い目をこちらに向け、その大きな体を湖から出して私達へと近づいてきました。普通なら逃げるべきでしょうが……私とリースはその巨体から目を離せず唾を飲み込んでいました。


「ウナジュウ……」

「蒲焼も美味しかったなぁ……」


 『春風の止まり木』で初めてジャオラスネークの肉を食べた時、シリウス様はウナギみたいだと仰っていました。

 それからしばらくして、シリウス様はジャオラスネークの肉を入手して新しい料理を作ってくださったのです。黒くて濃い味のたれに付けて焼き上げ、コメと言っていた食材と組み合わせたウナジュウモドキと言う料理は絶品でした。

 また……食べたい。ジャオラスネークを見て私達は何がなんでも狩ろうと決めました。


「お肉って結構高値で売れるけど……」

「ちょっとだけ確保しておこうね」


 私達の心は一つになり、今はただ目前の獲物を狩る捕食者になりました。こちらに近づくジャオラスネークが一瞬怯んだ気がしますが気のせいでしょう。

 私は投げナイフを取り出し、リースは精霊に語りかけ魔法の準備に入ります。


「行きます!」

「お願いね! 『水柱アクアピラー』」



 戦闘はあっという間に終わりました。

 具体的にはリースの『水柱アクアピラー』を無数に発生させて動きを阻害し、私の『風斬エアスラッシュ』で首を切断して終了です。本来の『風斬エアスラッシュ』なら鱗で弾かれるでしょうが、私のは薄く鋭く、それこそ触れるだけで切れそうな鋭利な風をイメージしろとシリウス様から教わっています。

 完成したそれは非常に鋭く、綺麗な切断面を見せてくれます。もしこれが効かなかったらリースの『水刃アクアカッター』を試すつもりでしたが、必要なかったようです。


「さて、血が抜けるまで牙や鱗を剥ぎましょうか」

「そうだね。確か目玉が討伐確認部位で、高値で売れるんだったよね?」


 そう言ってリースは頭部に剥ぎ取り用のナイフを躊躇無く突き立てます。

 リースって人を傷つけたくないと考える優しい子だけど、魔物肉の調理や剥ぎ取り時にはあまり躊躇しないんですよね。おそらく冒険者だった母親の影響でしょうけど、目玉を抉り出す行為を全く苦にしていないようです。それどころか水晶に見えなくもない目玉を太陽に透かして満足気に頷いています。

 これなら冒険者をやっていけそうですね。そう思いながら私は牙や鱗を剥ぎ取っていきます。


「両方の目玉確保したよ」

「牙も鱗も積めるだけ積んでおいたわ。後は肉だけど、血抜きが不十分かもしれないけど確保しちゃいましょう」


 本当はぶら下げて血抜きしたかったけど、力担当のレウスもいませんから無理ですね。それにあまり時間を掛けすぎると血の匂いに釣られて他の魔物が現れますからね。売却用と『春風の止まり木』へのお裾分け分。そして私達の食べる分を確保して馬車に載せました。

 シリウス様のお礼のために狩ったのに肉を渡して調理してもらうのも変な話ですが、シリウス様の作る料理が一番ですし……こればかりは別と考えましょう。


 それから馬車に積めるだけ積んで私達は街へと帰りました。

 防壁の審査や冒険者ギルドで驚かれましたが、何とか素材を買い取ってもらい、水晶花の依頼も達成報告しました。

 ついでにジャオラスネークも狩ったせいか、私とリースのギルドランクが上がりました。登録してから僅か数日で昇格なんてありえないでしょうが、実力を知るリード教官の口添えもあり、私たちは十級から八級へとなりました。

 馬車を返却し、再び『春風の止まり木』へ帰ってきた時にはすでに夕方前でした。移動に一番時間がかかりましたから仕方がありませんが、急いだ御蔭で暗くなる前に帰ってこれましたね。


「あら、おかえり。無事に帰ってきたわね」

「ただいま戻りました。ところでレウスは帰ってきていますか?」

「まだ帰ってきていないねぇ。いたらすぐわかるから見過ごしたとは思わないね」

「そうですか。あ、こちらの肉はお裾分けです。場所を借りた礼として受け取ってください」


 確保していた数十キロの肉をローラさんに渡しました。加工すらしていない肉の塊ですが、『春風の止まり木』のメイン料理で使っている肉にすぐ気づいたようですね。


「これは……こんなにいいのかい? 買おうとしたら金貨一枚くらいなるよ?」

「構いませんよ。すでに自分達の分は確保して大部分は売ってきてますから。今返されても、また売りに行く方が手間になります」

「そうかい? だけどお裾分けじゃなくてちゃんと買い取ることにするよ。お金を用意するから食堂のテーブルで待っていておくれ」


 そう言われ、朝に会議をしたテーブルに戻ってきました。

 レウスが帰ってくるまで暇なので、お金の計算と何を買うかリースと話し合うとしましょうか。


「うーんと……全部で金貨三枚と銀貨十二枚ね。何が買えるでしょうか?」

「一日でこんなにも稼げるなんて信じられないわ。これだけあれば色々と買えそうね」

「こらあんた達、こんな所でお金を広げるんじゃないよ!」


 考えているとローラさんがお金を手に怒ってきました。そうですね、そろそろ夕食の時間帯ですから人が増えてくる時間帯ですし、子供の私達が大金を持っている姿を見たら、不埒な考えを持つ相手が出てくる可能性が高いでしょう。


「ごめんなさい。少し油断していました」

「わかっているならいいんだよ。はいこれ、お肉の代金ね。ところで夕飯食べていくかい?」

「いいえ、帰ってシリウス様と一緒にいただきますので」

「そうかい? レウスが帰ってくるまで待つのは構わないけど、せめて飲み物くらい用意させておくれ。肉の在庫が少なかったから本当に助かったからね」


 ローラさんに果物を搾ったジュースを用意してもらい、私達は再び何を買うか話し合いながらレウスを待ち続けました。


 それから一時間後……そろそろ帰り始めないととまずい時間になってようやくレウスは帰ってきました。体のあちこちに血が付いていますが、満足気に笑っていますし全てゴブリンの返り血でしょう。


「ただいま姉ちゃん! リース姉!」

「おかえりレウス。妙に遅かったけど大丈夫かしら?」

「おかえり。血が付いているけど、怪我はないよね?」

「おう! 俺は怪我一つしていないから大丈夫。それと色々あって遅れちゃったけど、お金はしっかり稼いできたよ」


 レウスは無造作にテーブルの上に袋を置きましたが、妙に膨らみが大きく沢山詰まっているようです。依頼達成や素材の売却で銀貨が数枚あればよいかと思っていましたが、量から見るに相当大きなゴブリンの巣だったのでしょう、レウスも頑張ったものね。

 席に着いたレウスに私のジュースをあげて、袋の中身を確認してみました。中身は石貨や銅貨が数枚に金貨が――……えっ!?


「どうしたのエミリア? そんなに入っていたの?」

「……少なく見ても金貨が二十はあると思う」

「ええっ!?」


 ……一体私の弟は何をしたのでしょう? こんな大金、どれだけのゴブリンを倒せば手に入るというのでしょうか? いえ、ゴブリンの角は安く一本あたり石貨程度にしかなりませんし、半日かけて剥ぎ取り続けてもこの金額に届かないでしょう。

 という事は、何か別の要素があったとみるべきですね。


「レウス」

「何だ姉ちゃん? そんな怖い顔してさ」

「ここを出発してから何があったのか話しなさい。隠すと為にならないわよ」

「お、おう! えーと、俺が街を出てからだけど……」


 重りを背負って毎日走り続けているレウスですから、巣がある場所まで休むことなく走り続けていたそうです。そしてそろそろ目的の森が見え始めた頃に、街道を急いで走る一台の馬車を見つけたそうです。


「妙に焦っているかと思ったら盗賊に襲われていてさ、敵だと確認してから全員ぶっ飛ばしたんだ。でさ、その馬車には貴族の夫妻が乗っていたんだけど、妙に慌てて話にならないから護衛の綺麗なお姉ちゃんから事情を聞いたんだ」


 レウスはあまりお世辞を言いませんから、綺麗と言うからには相当綺麗な女性だったのでしょうね。事情を聞くと少し前にゴブリンの群れに突如襲われ何とか逃げ延びたものの、貴族の一人娘と護衛剣士の妹が攫われたそうです。

 そのゴブリンはおそらく依頼にあった巣から来たのでしょう。急いで救出する為に慌てて街に帰ろうとしたところで盗賊に襲われ、そこにレウスが介入したそうです。二度も襲われるとは、何とも運の無い人たちですね。

 貴族夫妻と護衛の女性はレウスに救出を頼んだそうですが、シリウス様の為にお金稼ぎを優先したレウスはあっさり断ったそうです。


「俺は今からそのゴブリンの巣にうっかり入らないといけないから無理だな……と言って断ったんだよ」

「うっかりって言ったら駄目じゃない」

「そういう問題じゃないって。でも……それ断ったと言えるのかな?」


 少なくともレウスは断ったつもりなんでしょうね。これって、知らない人から見れば相当格好良いのでは? レウスが本で見た物語の主人公みたいですね。

 それからすぐに巣は見つかったそうですが、見張りがほとんどいなかったので不思議に思っていると女性の叫び声が聞こえたそうです。


「声は巣から聞こえたから突撃したんだけどさ、奥でお姉さん二人がゴブリンに囲まれて押さえつけられていたんだよ。これって兄貴が言っていた繁殖の為に攫ったんだと思ってさ、とりあえずお姉さんに近い奴から片っ端に斬ったんだ」


 一応女性二人の安全を考えていたようでなによりですね。その後レウスはゴブリンの巣で暴れに暴れ、あっという間にゴブリンを全滅させたそうです。


「ねえレウス、ゴブリンは一体何匹いたのかしら?」

「ん〜……五十から先は覚えてないや」


 今のレウスなら百は軽いでしょうが、あまり数が多いと斬ってる間に女性が襲われてたかもしれないから良かったわね。

 そして首尾よく全滅させたレウスはゴブリンの死体から角を剥ぎまわっていたそうです。

 ……女性二人を放置して。


「……襲われる寸前だった女性を放置するなんて、貴方は一体何をやっているのかしら?」


 私は拳を握りレウスの肩を掴みました。女性を蔑ろにするとは、この子は調教――……もとい教育する必要があるようですね。


「だ、だって! 何度声を掛けても反応が無いし、時間が勿体無いと思ってさ」

「それでも落ち着くまで傍にいてあげるのが男の子よ。シリウスさんを目指すなら、そういう細かい気配りも必要ね」

「わ、わかったぜ!」


 しばらくすると女性二人も落ち着いたのか、レウスにお礼がしたいと言って来たそうですが、レウスは角の剥ぎ取りを手伝ってほしいと言い放ったそうです。その瞬間、何かがへし折れた気がします。

 その後レウスを追いかけてきた馬車が合流し、娘と妹が無事なのを大いに感謝されたそうです。


「それで何か礼をしたいって言ってきてさ、娘も好いているのでどうだ? とか言われたんだけど、お金をくださいって言ったんだ」


 ……再び何かがへし折れた気がします。今度は完璧に折れたかと。

 貴族から金貨を貰い、街に近い街道まで付き添ったところで夕方が近いと気づき、馬車を置いて走って帰ってきたそうです。

 帰ってきてすぐにギルドで依頼達成の報告をしたそうですが、巣を調査どころか全滅させたと報告したので相当に揉めたそうです。最終的には持って帰ってきた大量の角と、私達と一緒でリード教官の口添えもあって依頼達成の扱いになり、臨時ボーナスを貰えた上にランクが一段階上がったそうです。


「というわけなんだ。今のところお金使う予定ないし、全部姉ちゃんに預けるよ」

「……ええ、ありがとう」


 こうして素材の売却も含めたのが、目の前の袋というわけですね。

 僅か半日でこれほど稼いできたのを褒めてやりたいところですが……素直に褒められないのは何故でしょうか?

 何かわけのわからないモヤモヤ感が残っているので、シリウス様に報告しておきましょう。



 そして集めたお金を持った私達は、街で有名な高級装飾店へと足を運びました。

 最低でも金貨十枚は必要なアクセサリーが並ぶ店で、私とリースはシリウス様に合うアクセサリーを探しました。ちなみにレウスは返り血で汚れているので外に待機させてます。

 しばらく悩み、ようやく決定して購入する頃には外が暗くなり始めていて、私達三人のお腹が鳴りました。いつもなら御飯の準備をしている時間帯ですから当然でしょう。それより急いで帰らないと、晩御飯までに帰って来いというシリウス様のお言葉に逆らう事になります。いえ、言葉以前に私が早くシリウス様に会いたいだけですけど。


 急いで帰ろうと路地を曲がったその時……怪しい気配を感じました。

 二人も感づいたのか、戦闘態勢を取ったところで目の前に三人の男が立ち塞がり、背後にも二人ほど現れ囲まれてしまいました。


「話には聞いていたが、今回の新人は中々上玉だな」

「だな。こりゃあ高値がつきそうだ」

「……私達に何か用でしょうか?」


 気持ち悪く笑う男達に不快感を覚えますが、まずは会話から試みるのが礼儀です。気配の隠し方が下手なので実力も知れてますが、油断せず不意を突かれないように気をつけましょうか。


「なあに、ちょっと冒険者の新人を保護しにきただけさ」

「俺達は冒険者成り立ての新人に仕事を与えるためにきたんだよ」

「結構です。私達は急いでいますので、そこを通してもらえますか?」

「そうだ、さっさとどけよ」


 急いでいるのかレウスも徐々に不機嫌になっていきます。ですが、それ以上に私が不機嫌です。貴方達に構っている間に、シリウス様の元へ帰るのが遅れるのですから。


「まあ待てよ。俺達の仕事をやれば大金が得られるんだぜ?」

「そうそう、まあほとんど俺達が回収するんだけどな。ほら、奴隷には金が必要ないだろ?」

「……そうですか。貴方達が犯人でしたか」


 冒険者ギルドに登録したあの日、受付の女性が言っていた言葉を思い出しました。



『あと……個人的な忠告ですが、最近新人の方が無理をして帰ってこない話をよく聞きます。貴方達も気をつけてくださいね』



 詳しく聞くと若い新人ほど行方不明になる可能性が高いそうです。冒険者の大半は帰るべき場所が無い人が多いと聞きますし、更に新人という事で外の魔物にやられたと思い調査が甘いのでしょう。

 その話を聞いた時から何か引っかかっていましたが、こうして目の前に現れた男達の言葉から推測できました。


「どういう事だ姉ちゃん?」

「冒険者の新人が帰ってこないって話は聞いてるでしょ? それはこいつらに攫われて奴隷として売られているせいなのよ」

「何だとっ!?」


 奴隷と聞いてレウスの怒りが頂点に達します。もちろん私もですが、万が一で違う可能性もあります。私は魔力を高めつつ待機し、目で待てとレウスに指示を飛ばしておきます。


「この時点で気づいた奴は何人かいたが、お嬢ちゃんが一番早かったな」

「知ってしまったら断る事は無理だな。大人しくすれば無駄な怪我をせずに済むぜ?」

「奴隷なんてなりたくもありませんし、お金に困ってませんのでお断りします」

「ああっ!? 困ってないわけないだろうが。お前らのような若い奴が冒険者になるってのはな、生活に苦しんでいるか帰るべき場所が無い奴ばかりだろうが!」

「だから俺達がそれを解消してやろうってんだ。お前らは奴隷と言う安定した仕事を得て、俺達は金を得るんだよ。こいつはお互い得する話なんだよ」


 ……あまりにも一方的な条件で話になりませんね。とにかく言質は取りましたので、完全に敵と認識していいでしょう。

 戦う前にリースの様子を見ましたが、彼女にしては珍しく怒っているようです。昔なら怯えていたでしょうが、本当に強くなったものですね。


「リース、今から血を見るけど……目を瞑っていることをお勧めするわ」

「ううん、大丈夫だよ。私も慣れないといけないし、何よりこんな人達は許せないから」

「そう、頼もしいわリース。じゃあ後ろをお願いね」

「任せて」


 シリウス様の元で一緒に訓練してきた私達は一言……その気になれば目だけで大体の意思疎通が可能です。すでに誰がどの相手を狙うかは打ち合わせ済みです。


「何をごちゃごちゃ話してんだ? こりゃあ調教してから売る必要もありそうだな」

「レウス」

「何だ姉ちゃん?」

「やりなさい」

「おう!」


 レウスが一歩踏み込み剣を振るうと、男の腕が空中に舞いました。

 続いて私の『風斬エアスラッシュ』が二人の男の腕を切り落とし、リースの『水弾アクアバレット』が背後の二人を襲います。

 叫び声をあげる男達に私はとある言葉をかけてあげました。シリウス様、貴方の仰った名言の一つを使わせていただきますね。


「狩る者が狩られる側になった気分は如何でしょうか?」




 私達は男達を殺さず、縛り上げて冒険者ギルドに引き渡しました。

 腕が一本無くなってたり、お腹に食事が食べられないほどの一撃をもらった者もいますが、こちらとしては正当防衛ですから問題ありませんね。

 新人を攫っていた事件の尋問はギルドに任せるとして、私達は男達から聞いた内容をそのまま伝えればお役御免です。様々な人から感謝の言葉を貰う中、私達の登録を担当した受付の人が笑みを浮かべながら私達に話しかけてきました。


「ありがとう。貴方達の御蔭で事件が一つ解決したわ。御蔭で私達の心労も減って本当に助かったわ」

「ただの成り行きですから」

「ふふ……謙虚なのね。それよりお腹空いていないかしら? ギルドの経費で食事代くらい出しても構わないと言われたから何でも食べさせてあげるわよ」

「俺もう腹ペコだよ」

「私も。もう外は真っ暗だし当然ね」

「そうね、私もお腹が――……」


 ……お腹が空いた私達にシリウス様の晩御飯。

 そして外は完全な夜。

 …………という事は?


「「「ああああぁぁぁぁ――――っ!?」」」




 私達は全力で走っていました。それはもう訓練とは比べ物にならない速さで、死に物狂いに走っています。

 すでに外は真っ暗で、晩御飯の時間なんてとっくに過ぎています。事件に巻き込まれたからとはいえ、シリウス様のお言葉を守れなかった現実に胸が締め付けられそうです。

 ですが嘆いている暇はありません。今はただ少しでも早く帰り、シリウス様に謝らなければ。


「見えたぞ姉ちゃん!」

「そう……ね……流石にそろそろ限界……よ」

「頑張ってリース。もう少しだから……」


 ダイア荘の外見が見え、私達は徐々に速度を落としました。呼吸を整え、シリウス様にどう顔を合わせたらいいか考えていましたが、それも無駄に終わりました。

 だって……シリウス様は玄関前に立って私達を待っていたのですから。


「その……ただいま戻りました……シリウス様」

「…………」


 玄関で腕を組んで立つシリウス様の前に私達は並びます。ですがシリウス様は何も仰らず、無表情で私達を静かに眺めているだけでした。

 シリウス様のこのような表情は見たことありません。怒っているのかさえわからず、思わず泣きたくなります。


「あの……シリウス様?」

「……何だ?」

「怒っているんですよね? こんなに遅くなった私達に……」

「……理由を聞こうか」


 私は今日の話を包み隠さず説明しました。シリウス様の為にお金を稼ぎ、外へ魔物を狩りに出かけ、最後に新人狙いの男達を成敗した話など全て語ります。

 途中でリースとレウスが補足しながらも話し終え、私達はシリウス様の言葉を待ちました。


「……ふん!」

「「「痛っ!」」」


 シリウス様の返答は拳骨でした。拳は一つなのに、三人ほぼ同時に頭へ拳骨を落としています。唖然とする私達とは反対にシリウス様の表情が崩れ、いつもの私達を見守る優しい笑みを浮かべてくれたのです。


「全く、困った弟子達だな」

「怒って……いないのですか?」

「怒る? 俺の為に頑張るお前等を何故怒らなければならない? 今の一撃は俺を心配させた罰だ」

「心配してくれるのか兄貴?」

「当たり前だろうが! もう一時間して『サーチ』で感じれなかったら探しに行くところだったぞ」

「そうか、心配して……くれんだな」


 先程のシリウス様の拳骨はかなり痛かったです。だけど……嬉しい。まるでお母さんやお父さんみたいに、真剣な顔で叱ってくれるシリウス様の想いが嬉しいのです。

 隣の二人も同じ思いでしょう。痛みに耐えつつも、表情は嬉しそうにしていました。私もきっと同じ表情を浮かべています。


「……叱っているのに何でお前達は笑っているんだ?」

「何でもありません。それよりシリウス様、心配させてごめんなさい」

「兄貴、ごめんなさい!」

「ごめんなさい、シリウスさん」

「わかってくれたならもういい。それによく考えたら、お前達も冒険者になって一人前になったんだ。俺の近くにいるだけじゃ駄目なのも事実だな」

「いいえ 私達はシリウス様のお傍から離れません!」

「俺もだぞ兄貴!」

「一人前でも……近くにいたいです」


 これからどんなに大きくなろうと、私が一人でやっていける強さになってもシリウス様のお傍を離れるつもりはございません。寂しいとかそういう意味でなく、私はシリウス様を支え続けると月に誓ったのですから。

 私達の言葉を受けたシリウス様は苦笑しつつ、背中を向けてダイア荘の玄関を開けました。


「とにかく晩御飯にしようか。お腹空いてるだろ?」

「うん、腹減ったよ」

「俺もだ。今日はちょっと手の込んだシチューを作ってみたんだ。すぐに暖めなおしてやるぞ」

「あの……もしかしてシリウスさんも晩御飯は食べていないのですか?」

「そりゃあそうだ。帰ってこないとわかるならともかく、お前達を置いて先に食べてどうする?」


 当然とばかりにシリウス様は言い放ち、ダイア荘に入って私達を手招きします。


「ほら、いつまでもそこに立ってないで入りなさい。そろそろ寒くなる時期だからな」


 あの男達の言ったように、若い者が冒険者になるのは帰るべき場所が無い者が大半ですから間違ってはいません。

 私とレウスは故郷を魔物に滅ぼされ、お母さんとお父さんも亡くなってしまいましたから私もそれに当てはまるでしょう。

 でも……今の私達にはちゃんと帰るべき場所があります。

 私の帰る場所はシリウス様の隣ですから。


「「「ただいま」」」

「おかえり」






 夕御飯を終え、リースと一緒に片づけを済ませた私はテーブルに座って一息ついていました。

 思い出すのはあのシチュー。シリウス様の作る料理はどれも美味しいですが、本日作られた濃い目のシチューも大変美味しかったです。

 濃厚な味にパンを付けて食べる美味しさと言ったらもう……また新しい味に出会ってしまいました。ああ……ますますあの御方無しでは生きていけないように調教されている気がします。いえ、嫌なわけではなくむしろドンとこいって感じですが。


「エミリア……エミリア!」

「はっ!? な、何かしらリース?」

「シチューが美味しかったのはわかるけど、凄ーく……わかるけど。あれを渡そうよ」


 いけません、今日の主旨を忘れるところでした。

 リースもシチューに嵌っているみたいですが、私より冷静みたいです。正気に戻った私は買ってきたプレゼントを用意し、ソファーで本を読んでいるシリウス様の前に三人で並びました。


「シリウス様、少しよろしいですか?」

「ん、どうした?」

「先程話してしまいましたが、これは私達からのプレゼントです。受け取ってください」

「兄貴の為に、頑張って稼いで買った物だよ」

「日頃からずっとお世話になっている私達からのささやかなお礼です」

「お前ら……ありがたくいただくよ」


 すでにばれていますが、シリウス様は笑みを浮かべて受け取ってくださいました。

 中身は青色の魔石が装飾されたペンダントです。シリウス様はシンプルで実用性がある物を好んで身に付けるので、それに合った物を選びました。

 この魔石には回復魔法の魔法陣が刻まれているので、魔力を流せば治療魔法が発動する仕組みになっています。シリウス様には必要ない気がしますが、安全でいてほしいと私達の願いを込めてあります。

 ペンダントを取り出しシリウス様は早速着けてくださり、私達の頭を撫でてくれました。


「ありがとうな。大切に扱うよ」


 その笑顔だけで全てが報われた気がします。大変でしたけど、やってよかったと心から思いました。


「そうだ、俺からもお前達に渡す物があるんだ」


 そう言ってシリウス様は小さな箱を持ってきました。中には魔石が装飾された妙に短いネックレスが二つ入っています。その一つである緑色のネックレスを取り出し、シリウス様は私に差し出してくれました。


「以前に首輪が欲しいと言っていただろ? 流石に首輪はあれだけど、これなら似ていると思って作ったんだ。これはチョーカーと言って短いネックレスみたいな物だな」


 以前どころか何度も言ってしまいましたが……考えててくださったんですね。

 レウスには赤いチョーカーを、リースには魔石が付いたイヤリングを渡してくださります。


「お前達に渡したその魔石には『コール』の魔法陣が刻まれているんだ。だから魔力を流して発動させれば俺に声を届かせる事ができるぞ」

「すげぇ兄貴! ついに完成したんだな!」

「いや、実はまだ改良が必要なんだ。大気中から自然と魔力を取り込んで溜める仕様だが、非常に時間がかかる上に会話できる時間も短いんだ。でもまあ、無いよりかはましと思ってな。今回みたいに、帰りが遅くなるなら一言伝えられるだろう?」


 魔力を取り込んで溜める魔法陣は学校の結界を参考にしたと色々説明されていますが、私はほとんど耳に入らず頂いたチョーカーから目が離せませんでした。


「シリウス様……お願いがあるのですが」

「エミリアにしては珍しいな。何だ?」

「このチョーカーをシリウス様の手で私に着けていただいてもよろしいでしょうか?」

「ふむ……いいだろう」


 自分の後ろ髪を持ち上げると、シリウス様の腕が私の首に回されます。それだけでも嬉しいのですが、パチリと音を立ててチョーカーを着けていただいた瞬間、私の心は歓喜に打ち震えました。


「苦しくないか? サイズは調整出来るぞ」

「いえ……これで満足でございます」


 首輪とは違いますが、これで私もシリウス様の奴隷ですね。そう言っても否定されるでしょうが、私の中ではすでに決定しています。


「兄貴、兄貴! 俺も!」

「わ、私もお願いします!」

「はいはい、順番な」


 レウスとリースもシリウス様にいただいた物を着けていただいて喜んでいます。


「うん、全員似合っているぞ。作った甲斐があったな」

「ありがとうございます……うふふ……」

「姉ちゃん大丈夫か? しっかりしろよ」

「駄目ね、完全に逝っちゃっているわ」


 ああ……幸せでございます。




予想以上にボリュームが増えて悲鳴をあげそうになりました。

そして、シリウスがエミリア達の師匠ではなくオカンにしか見えない話でした。

次は閑話の予定で、変態ライオルの話です。

ちょっと気になる点があるので、今日中に活動報告をあげようかと思います。



おまけ


レウスがライオルから受け継いだもの。

・剛破一刀流

・変態性(本人の天然もあり、師匠であるシリウスを大変に悩ませている)

・フラグクラッシャー

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