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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

五章 学校 入学編

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入学早々の洗礼

五章開始です。

御蔭様でお気に入り件数が100件突破しました。
ちょっとした目標だったので、素直に喜んでおります。
作者も頑張ってやっていきますので、これからもよろしくお願いします。

 入学式というのは校長の話を聞いたり、元卒業生だとか偉い人の話を聞くのが主であるが、こちらの世界でも大して変わりはないようだ。

 あれから二日後、俺達新入生は学校で一番大きい講堂に集められ、エリュシオン学園の入学式が行われた。 俺はすでに見たが(変装した姿だが)、ここで初めて新入生は学校長であるロードヴェルを見ることが出来る。
 ロードヴェルはエルフ特有の長耳に、真っ白い肌に金髪が煌く美丈夫だ。顔も完璧な作りを持つイケメンであり、とても四百を超えた者とは思えない。

 魔法を極めし者(マジックマスター)と呼ばれるロードヴェルは大陸随一の魔法士であり、火を除いた三つの得意属性を持つ三重トリプルでもある。
 嵐を起こし、洪水を呼び、地震で全てを崩壊させる凄まじい魔力量を持ち、更に唯一得意でもない火も上級まで極めた正に天才であろう。エルフの長寿を生かし、数百年経った今でも彼は驕る事無く己を磨き続けており、メリフェスト大陸において知らぬ者無しと呼ばれる最強の魔法士だ。
 実際彼に憧れて学校に入学する者が後を絶たず、壇上に立って演説している姿を見ながら新入生の一部が恍惚とした表情をしていた。

「君達はここエリュシオン学園で何を学ぶのか? それは各人によって様々だろう。だが、私が大いに学んでもらいたいのは、それらを正しい方向へ使う心だ。諸君が学んだ魔法と技術は様々な方面で役に立つだろうが、裏を返せば簡単に人を脅したり殺したり出来るものなのだ。それを常に忘れないでほしい」

 ふむ、どこの世界も校長の話ってのは長いものだな。
 ちなみに俺がロードヴェル実際の姿を見た感想は、やっぱりあの時の人かと改めて確信しただけだった。とんでもなく強いのだろうが、俺達の敵ってわけじゃないし、適度に付き合えればそれでいいと思っている。

「ふあっ……」
「珍しいな、エミリアが欠伸か」
「あ、その……ルームメイトの子とお話して夜更かししちゃいまして」

 小声で会話しながら、隣に立つエミリアは恥ずかしそうにしていた。
 どうやら彼女は同部屋のルームメイトと上手くやっていけてるようだ。話によると部屋は二人部屋で、相手は人族の女の子だが獣人を警戒せず、むしろ親しげに話してくる優しい娘だそうだ。

「リースと言いまして、青髪の綺麗な女の子なんです」
「もう友達が出来たのか。良かったな」
「はい! 私の友達です」

 憂いなく笑う彼女を見て、学生寮生活は順調のようだ。これだけでも学校に来た意味はあったと思う。
 そして反対側に視線を向けるとレウスが立ったまま寝ており、更に隣の狐族の少年が肩を叩いて起こそうとしていた。

「兄貴、流石に寝るのはまずいよ」
「ん? ああ、ごめんごめん」

 この狐族の少年は名前をロウと言い、本人曰くレウスの舎弟だそうだ。
 レウスの話によると、彼はルームメイトだったらしく、初めて学生寮の部屋に入ったらいきなり喧嘩を売られたので撃退したそうだ。

『この俺が全く敵わないなんて。舎弟にしてください!』

 自分の邪魔さえしなければ良いと約束させ、レウスは舎弟を受け入れた。初めて紹介された時は唖然としたものだが、彼は空気を読む男であり、必要な時以外は近寄ってこないのである。それは弟分としてどうなのだろうかと思ったが、レウスの邪魔するなという言葉を忠実に守っているとも言える。

『どうも、自分はロウと言います。素早さには自信があるので、よろしくお願いします兄貴!」
『兄貴を兄貴って呼んでいいのは俺だけだ!』
『ひぃっ! すいません、親分です! よろしくお願いします、親分!」

 何だろうな、入学早々自分の知らない所で手下が増えていた。

 そして俺の住処である建物だが、この二日で人が住むには十分なレベルまで片づけが済んだ。
 『春風の止まり木』からお金を渡して布団を分けてもらい、他に必要な物があれば随時予算と相談して買い揃えた。今では下手な民家より立派な住処となっており、空いた部屋等をどうするか検討中だ。その辺りは学校に通いつつ徐々に改造していこうと思う。

「――以上が私から言える事だ。続いて、我が学校の教育課程を説明しようと思う。まず一年目だがー……」

 学校長の話を纏めると、この学校の教育課程は五年だ。
 最初の二年は共学で勉強し、三年目からは各人の希望する専門分野を学ぶようになる。
 学校には四属性の魔法科を中心に様々な分野が存在し、レウスは剣術科、エミリアは魔法科、そして俺は魔道具を作る魔法陣専門の技師、魔法技師科に入る予定だ。

「それでは、新入生達に向けて各分野の先生から一言もらおうと思う。まずは土魔法のスペシャリストであるマグナ先生からお願いしよう」

 その後、風や剣術等の各分野のスペシャリストたる先生達が紹介されていく。そして赤と黄色の二色の線が入ったマントを付けた男が壇上に立つと講堂の空気が一変した。

「火と土の専門であるグレゴリだ。私は名誉貴族かつ二重ダブルの持ち主であり、我がクラスでは貴族と強い者を求めておる。獣人と違い、誇り高い貴族は我がクラスへと来るがいい。我が家名と二重ダブルの名を賭けて強くしてやろう。以上だ」

 その言葉に獣人達は眉を顰め、貴族の大半は嬉々として拍手をしていた。
 ただでさえ貴族や獣人とは溝があるというのに、あの男は一体何を考えているのだろうか? 無色である俺を毛嫌いしていたし、定型的な傲慢野郎か? 見れば学校長も呆れ顔で溜息をついている。あんなのでも雇わないといけないなんて、貴方も苦労しているんですね。

「……あの野郎が兄貴に嫌がらせした張本人か」
「面接の時も私達を嫌な目で見ていましたし、色々注意が必要な人のようですね」
「困った事にかなり上位の貴族だからな。下手に手を出そうとするんじゃないぞ?」

 今にも飛び掛りそうなレウスを宥めつつ、己を全く疑わないグレゴリの背中を眺め続けた。あの男の目……どこかで見た目だな。

「えー……とにかく以上で入学式は終りだ。外に置かれたクラス表を見て、それぞれの教室に向かいなさい」

 最後にしこりを残しつつ、こうして入学式は終えた。



 講堂を出ると、目の前に立つ大きな看板には新入生のクラス表が張られていた。
 だが新入生の行動は様々で、クラスを確認してすぐ向かう者、周りの生徒と談笑する者、そして遅れて出てきた先生に質問している者と多種多様である。
 俺はクラス表を確認しに行ったレウスを待ちながら、そんな光景をぼんやりと眺めていた。

「本当に様々な人達がいるんですね。集落やあの家にいたのではわからない事ばかりです」

 俺の隣に立つエミリアの服装は学校指定のローブだ。実技や特別な行事を除いて着用が義務化されており、ローブに付いているスカーフの色が学年の証になる。ちなみに一年の俺達は青色だ。
 簡単な作りに見えるが、希少な魔法の糸を原料とした特殊なローブであり、魔力を込めればナイフを通さない強靭な防具でもある。街中でも着用が許されているので、学生割りってわけじゃないが着ていれば店によってはサービスを受けられるようだ。

「……どうしたんですか? 私の姿が何か変でしょうか?」
「いや、メイド姿もいいが、それも似合っているなと思ってな。可愛いぞエミリア」
「本当ですか! 嬉しいです」

 長い銀髪を翻しながら彼女はくるっと回ってはにかんだ。うむ、弟子補正抜きで可愛いぞ。
 学校には沢山の女子生徒がいるが、その中でもエミリアはトップレベルの可愛さだと思う。元からの容姿に加えて光を反射し輝く銀髪に、年齢の割には発育の良い胸によって様々な人達の注目を集めていた。事実、何人かの男子生徒がこちらをチラ見しているし、女子生徒でさえ輝く銀髪に見とれていた。

「そういえばリース……だっけ? 一度会ってみたいんだが、彼女はどこにいるんだ?」
「それが家の方で呼ばれたそうで、今日は学校へ来れなかったそうです」
「入学式に来れないって、相当な問題なのか?」
「それが私もよくわからないんです。ですが本人は大丈夫と笑ってましたし、学校へ許可は取ってあると言っていました」
「本人が大丈夫と言うなら特に問題は―……」
「ああ、ここにいましたか」

 主人として一度会っておきたかったリースの話をしていると、背後から声をかけられたので振り向いた。そこには入学試験時に俺を合格させた先生……改め、変装したロードヴェルが柔和な笑みを浮かべて立っていた。

「面接の時以来ですね。貴方達が無事入学できて嬉しいですよ」
「無事かどうかあれですが、これからよろしくお願いします。で…………何をやっているんですか学校長?」

 とりあえず相手の意図を考慮し、小さく周りに聞こえない声で話した。

「やはり気付いてましたか。この姿での私は一人の先生、ヴィルでお願いします」

 そりゃあわざわざ変装しているんだ。お忍びってやつだろうし、エミリアは気付いていない様子なので合わせるとしよう。

「実は貴方に用がありましてね、私は謝罪しにきたのですよ」
「謝罪? 俺としては合格にしてくれたし、ヴィル先生に不満はありませんよ?」
「いえ、寮の件です。私がいない間にあの男がシリウス君の住む場所を勝手に決定した事です」

 あの男とはグレゴリの事だろう。獣人と平民を嫌う男だが、無色に過剰の嫌悪感を抱いていたからな。俺への嫌がらせであそこへ飛ばしたんだろうが、校長の目を盗んでまでやるとは性格悪いなぁ。

「私の確認ミスでもあります。すぐに命令を撤回し、空いた寮の部屋に戻しましょう」
「いえ、もう結構ですよ」
「ですが、あそこは学校から距離がありますし、廃墟と化した建物しかありませんよ?」
「実はすでに住みやすい環境を整えました。屋根とか腐っていたのでやり替えたのですが、問題はありますか?」
「問題はありませんが、僅か三日でやったと?」
「ええ、建築技術を多少持っていたので、素人ながらやれるだけやってみました。謝罪にきたのなら一つお願いがあるのですが、聞いてもらっていいですか?」
「え、ええ……私が出来る範囲であれば」
「あそこの建物を自由に弄る許可を頂きたいのです。後になって、学校の所有建物を改造するなって文句言われても困るので」

 おそらく何もしなければ大丈夫だろうが、あれの性格から見て関わらないのは無理っぽい気がする。更に目をつけられ、建物を不法改造だとか適当な理由をでっちあげて追い出しかねないしな。せっかく整えた環境を壊されたくないので、学校長からお墨付きを貰っておきたい。

「わかりました、いずれ処分する建物でしたから貴方の住処として好きになさってください。学校からは不干渉だと命令書を回しておきましょう」
「助かります」
「いえいえ、私としては貴方が何をやるか興味深いですからね。ただ、警備や責任までは我々もあまり手が出せません。そこは了承してもらえますか?」
「問題ありません。色々仕掛ける予定ですし、そもそも平民だから盗られて困る物とかあまりないですからね」
「学校内で盗難があれば問題でしょうが、その時はしっかり報告をお願いします。ですが、あまりやり過ぎないでほしいものですが」
「善処します」

 傍から見れば生徒と先生が仲良く話してる光景だろうが、内容はそれなりに黒い話ばかりだ。
 結論から言えば、あそこは俺の場所だから、アホな奴らが襲ってきても遠慮なく撃退しても問題無いですね? と、約束を取り付けたわけだな。
 早速今日から色々仕掛けてみようかね。死なない程度の罠って面倒だけど、計画的に設置するのは結構好きだからな。

「シリウス様の住処となる建物には名前があるのでしょうか?」
「いえ、特にありませんね。名前が無いと不便でしょうし、シリウス君が名づけられますか?」
「じゃあ……ダイア荘でお願いします」
「ほう? その名前の由来はあるのですか?」
「ダイアモンドは無色ですが、価値のある宝石です。私もそれに肖りたいという単純な考えですよ」
「悪くありませんね。ですが私はダイアなんか比較にならない程の価値をシリウス君は持っていると思っていますけどね。ではそのように申請しておきましょう。そうそう、貴方の担任は私の直属であるマグナ先生です。何かあれば彼を通じて私にお知らせください、それでは」

 ほとんど適当に名づけたのに、妙に感心されてあっさりと決定した。伝えるべきことを伝え、ヴィル先生は優雅に手を振って去るが、隣のエミリアはニコニコと笑って機嫌が良さそうだった。

「どうしたんだ? 嬉しい話じゃなかったと思うんだが」
「いいえ、シリウス様をわかってらっしゃる御方がいるんだなと思いまして。ですが私からすれば、シリウス様に比べたらダイアなんか塵芥同然ですね」

 お前の中で俺はどんな存在なんだ? と、聞いてみたくもあるが、わかりきった答えが返ってきそうなのでやめておく。
 その後しばらく待っていると、人混みの中からレウスが飛び出し、満面の笑みで俺達に叫んでいた。

「兄貴ーっ! 姉ちゃーんっ! 俺達皆一緒だよーっ!」

 それはよかった。しかし担任を知ってた点といい、この振り分けには学校長の指示があった気もするが、まあ三人一緒なら文句はあるまい。
 飛び跳ねて喜ぶレウスを宥め、俺達は指定されたクラスへと向かうのだった。


 新入生は偉人の名前で名づけられた幾つかのクラスに分かれ、大体一クラスが三十人くらいで構成されている。俺達のクラス名はカラリスと言い、通称カラリス組と呼ばれるそうだ。
 教室は扇状の形をしており、奥の机ほど段差が高くなる前世の大学のような作りだ。すでに大半の人は教室入りしてるようで、廊下からでも騒がしい声が聞こえてくる。
 だが俺達が教室に入ると急に静かになった。いや、俺達というか俺だな。

「へぇ……結構広い部屋なんだな。俺達はどこに座ればいいんだ姉ちゃん?」
「どこでも良い筈よ。シリウス様、あの席が空いてますよ」

 静かになったのは一瞬だったので、二人は気にしないようして席へと向かう。
 周囲の生徒は小声で話しているが、耳に届くのは無色だとか無能だとか俺に関する事ばかりだ。おそらく俺と一緒に受けた貴族から漏れたと思うが、いずればれる事だろうし気にすることはない。
 他にも身の程だとか、何故学校へ来たのかとか、俺が学校を堂々と歩くのに疑問が尽きないようだ。だが、俺が気にせずとも二人はそうはいかない。

「兄貴、ぶっ飛ばしてもいい?」
「一度思い上がりというのをわからせた方がよろしいかと」
「はいはい、落ち着きなさいって。俺が気にしてないんだから、お前達も気にしなくてもいいんだよ」

 大体何で無色というだけで小さく収まってなきゃならんのだ。魔法が使えないわけじゃないんだから、普通に胸張っていればいい。
 適当に空いた席に座ると、渋々とだが俺の隣に座る姉弟。いつも何気なくやっているが俺を挟む場合は、右はレウスで左はエミリアと姉弟の絶対的な決まりがあるらしい。
 俺達が座ると周囲の生徒達も談笑しながら座り始め、そろそろ規定の人数が揃いつつあった。

 割合から見て人と獣人が半々といったところか? 貴族らしき人もあまり見当たらないし、平民寄りの生徒を集めたクラスなのだろうか?
 男女も半々だなと肘をついて担任の先生を待っていると、俺達の前に三人の男が現れた。正確に言えばエミリアの方で、中心にいる男がにこやかに話しかけてきたのだ。

「失礼するが、そこの銀髪のお嬢さん。君の名前は何ていうのかな?」
「姉ちゃんに何のようだ?」
「黙れ獣人が! 今はこちらのマーク様が話しておられるのだぞ!」

 本人より早くレウスが噛み付くが、従者のような男に一喝されていた。
 言い返そうとするレウスを宥めつつ男達を観察してみると、三人は俺達と同年代に近い男達である。だが中心の赤髪の男はイケメンで気品があり、おそらくどこかの貴族に違いあるまい。しかし赤髪の男は落ち着きを払っているが、背後に控える従者二人は完全に俺達を見下した態度である。

「落ち着け、僕の従者たるもの気品は忘れるな。それでお嬢さん、名前を教えていただけないかな?」

 エミリアはこちらを伺ってきたので、俺は好きにしろと頷いておいた。

「私の名前はエミリアと申します。失礼ですがどちら様でしょうか?」
「貴様ぁ! マーク様を知らぬとは不届きな!」
「落ち着け。僕の名前はマーク・ホルティア。誇りあるホルティア家の次男で、いずれ名誉貴族となる者だ」

 マークと名乗った男は優雅に一礼した。ふむ、従者はともかくこの男は礼節を重んじているようだ。今まで出会った貴族はほぼ驕る連中ばかりだったから、こういう相手は珍しい。

「そのマーク様が私に何用でしょう?」
「エミリア……とても可愛らしい名前だな。そしてその輝く銀髪、君はとても美しい。よければ僕の従者になってもらえないだろうか?」
「お断りします」
「獣人如きがマーク様直々に勧誘ー……何だと?」
「ですから、お断りします」

 従者達が言い終わる前に、エミリアは見事な営業スマイルで即断していた。

「調子に乗りおって。マーク様、ここは無理矢理でも立場というのを思い知らせてやりましょう」
「ふぅ……君達は黙っていたまえ。簡単にいかないとは思っていたが、理由を聞いてもいいかな?」
「私はすでに生涯お仕えする御方がいらっしゃいます。ですのでお断りしました」
「君の主人は……隣にいる彼のことかい?」
「はい、その通りです。私のご主人様であらせられるシリウス様です」

 両手で崇め立てるように俺を呼ぶエミリアに、マークは探るような目つきでこちらを見るので軽く会釈しておいた。

「君が彼女の主人なのかい? 失礼だがどこの貴族か教えていただけると嬉しいのだが」
「私は貴族ではありません。彼女は自主的に私を主と呼び慕ってくれているのです」
「平民のくせに主人気取りだと? ふざけた事をぬかしてないで、早くこの娘へ命令してマーク様に献上するのだ!」
「待て、よく考えたらこいつ、噂の無色じゃないか?」

 その言葉に周囲がざわめいた。俺が噂の無色か聞きたくても、初対面ゆえに周囲の人達も聞くに聞けなかったのだろう。正にこの従者の質問は教室の総意だったに違いあるまい。教室中の視線と耳がこちらへと集まっているのがわかった。

「そうですね、噂かどうか知りませんが、私は無色ですが何か?」
「はん、マーク様はすでに『火槍フレイムランス』を習得なされているのだぞ。初級すら満足に出来ぬ無能が何故このような場所にいるのだ!」
「大方袖の下を握らせたのだろう。いや、そのような金など持っておらぬか」

 俺の両隣から殺気が溢れ出しているが、目の前の従者達はまったく気付く様子が無い。二人の頭を押さえつけながら、俺は目の前の従者達を蔑むように見た。

「そちらのマーク様に言われるならともかく、従者である君達に言われる筋合いは無いと思うんだが?」
「何だと貴様! 我々は従者であるが、貴族でもあるのだぞ?」
「『火槍フレイムランス』が使えないと入学できないわけじゃあるまいし、それに使えるのは君達じゃなくて自分達の主人だろう?」
「従者が主の素晴らしさを語って何が悪い。我々はマーク様の絶対たる従者なのだぞ!」
「その絶対たる従者様が、主の命令を聞けないってどういう事だ? さっきマーク様は言っていたよな、君達は黙っていたまえ……と」

 俺の言葉に従者二人は反論できず、憎らしそうに睨んでくるだけだった。

「そこまでだ。彼の言う通り、君達は従者以前に貴族の何たるかを理解していないようだ」
「ですがマーク様、このような下郎にここまで言われて黙っていられませぬ」
「僕から見てもお前達の言動は酷すぎるし、彼が怒るのは当然であろう。父親の命令とはいえ僕の従者となったのだ。これ以上の醜態を晒すのはやめたまえ」

 流石に主人にそう言われては何も言えないようで、二人は渋々後ろに下がった。
 ふむ、身内だろうと公平に判断し叱りつけるとは、礼節だけではなくしっかりした人格者のようだ。今回は明らかにあいつらの言い方が悪かったのもあるが。

「僕の従者が申し訳なかったねシリウス君。言い訳するわけではないが、彼等は従者として最近来たばかりなのだ。大目に見てやってほしい」
「問題ありませんよ。ただ、私はともかくこの二人は止まらない可能性があるので、気をつけていただきたいですね」

 会話中もずっと頭を撫でていたので、二人はすでに怒りを忘れて嬉しそうに尻尾を振っていた。こんな緩い顔した二人が、ほんの数秒前まで殺気を出していたとは思うまい。

「善処させてもらう。それではそろそろ先生が来るようなので失礼するよ」
「エミリアはもうよろしいのですか?」
「すでに心を誓った主がいる従者を無理矢理とは僕の誇りが許さん。いずれ有名になり、君以上に魅了できたらまた勧誘させてもらうさ」

 イケメンは言動も行動も格好良いな。ローブをマントのように翻し、少し離れた席に優雅に座ると、従者達も倣うように隣に座っている。去り際に従者達は俺を睨んでいたが、あれは後で主人に説教受けそうだな。

「私はシリウス様以外に魅了なんかされませんよ〜」
「俺も兄貴についていくよ〜」

 しまった、撫で過ぎて言動までフニャフニャになっていた。とりあえず他所で見せる顔じゃないので、頭を軽く叩いて再起動させたと同時に、教室のドアが開いて担任の先生が現れた。

「皆さん揃っておられるようですね。私がこのカラリス組の担任になるマグナです。よろしくお願いします」

 面接の時にも見たが、彼は茶髪で学校指定のローブに黄色い線の入ったマントを身に付ける四十代の男性だった。学校長程ではないが、年季が入った雰囲気を醸し出しており、熟練であると思わせる威圧感を放ちつつ教室へ入ってきた。

「私の事はいずれ語るとして、まずは長く付き合うとなるクラスメイトの紹介からするべきだろうね。そこの一番前にいる猫の獣人君、君から名前と種族や簡単な紹介をお願いするよ」
「は、はい!」

 それから一人一人、順番に自己紹介が始まった。
 様々な種族や学校へ来た理由、それこそ多種多様な話が聞けて面白かった。そして俺達の順番が回ってくる。

「レウスです。種族は銀狼族で、隣にいるシリウス様の従者をやっています。特技は剣で属性は炎です。よろしくお願いします」

 何を言うか心配だったが、先に話した人のを参考に無難な紹介で済ませたようだ。
 俺はシリウス様の従者だから、馬鹿にしたら斬るからな! ……とか言い出しそうで怖かった。まばらながら拍手が起きて、それなりに歓迎はされているようだ。続いて俺だ。

「シリウスです。種族は人族で、皆さんが知っての通り私の属性は無属性です。将来の専攻は魔法陣を研究し、魔法技師の分野に進みたいと思っています」

 そこで一礼すると、周囲の反応はどうするべきか悩んでいる様子だった。そこにマグナ先生が手を叩き、全員の注目を己に集めた。

「彼については私から補足があります。私は彼の面接を審査した一人ですが、実際に見て学校に相応しい実力を持っていると我々は判断しました。初級魔法も出来ますし、属性に拘らず彼を見てあげてほしいですね」

 そして手を差し出し、自己紹介の続きを促した。ありがたいんだが注目されると何か恥ずかしいな。とりあえず俺の紹介は終ったので、エミリアの番となった。
 彼女は優雅に立ち上がり一礼して微笑むと、周囲の男女が魅了されたように釘付けとなっていた。相変わらず見事な作法だ。母さんの教育を受けた彼女なら安心して見ていられるよ。

「エミリアと申します。属性は風で、弟のレウスと共にシリウス様の従者をしております。ご主人様には身も心も捧げておりますので、皆様、ご了承くださいませ」

 まさかのエミリアによる爆弾!?
 周囲がざわざわと動揺する中、彼女だけは笑みを浮かべて誇らしげに立っていた。
 何故こんな発言をしたのか? そうか、これはきっと彼女なりの牽制なのだ。無色の俺だけじゃなく、自分も注目されることにより俺への負担を減らそうとしているのだ。何と健気な忠誠心。俺は素晴らしい従者を持ったものだ。

「ふふ……これで私はシリウス様の物だと公言できましたね」

 そうだと思ったよ!
 まあ最初から変に取り繕うより、曝け出していた方が変な輩も寄ってこないだろう……多分。
 それからエミリア以上の爆弾発言は無く、クラス全体の自己紹介は無難に終えた。その頃には休憩時間となり、マグナ先生が教室を出ると同時に俺達の元へ数人の男女が集まっていた。

「ねえねえ、貴方無色って本当なの?」
「適性が無いって大変だったんだろ? どんな修練していたんだよ」
「エミリアの銀髪綺麗ね。肌も綺麗だし、女として羨ましいわ」
「さっきの身も心もってどういう事!? 奴隷なの?」
「お前剣が得意なんだろ? 今度実習があったら俺と勝負してくれよ」

 平民が多いせいか、好奇心が強い子が多いようだ。一部の貴族や、遠巻きに眺めている人もいるが、何だかんだで注目されている俺達は次々と浴びせられる質問を適当に答えていった。
 どうやら俺は無色なのに血の滲むような修練を重ね、ようやく学校に入学できた努力の人と思われたようだ。まあ血の滲む訓練はしてたから間違いではないけどね。


 今日は初日なので授業は行われず、マグナ先生による学校の細かい教育課程や施設の説明だけで終った。もう少し経てば夕方の鐘が鳴る時間だろうか? 先生が教室を出ると皆緊張を解いて、食事をどうするかと話しながら各人思い思いの行動をとっていた。
 ちなみに朝と昼御飯は学校の食堂で食べるが、夕御飯は食堂だけでなく学生寮に戻って自炊するなり、町に出て食べるなりと比較的に自由である。

「シリウス様、本日の予定はどうされるのですか?」
「そうだねぇ。片付いていない部屋の掃除と施設の充実かな?」

 自分の部屋と台所は問題無いが、空いた部屋の利用法やお風呂も作りたいと思っているのでやる事は多い。当然エミリアも付いてくると思うのだが、彼女は申し訳無さそうに頭を下げてきた。

「申し訳ありません。一度部屋に戻って荷物とリースがいるか確認したいので、少し遅れると思います」
「気にするな。先に行ってレウスとのんびりやるさ、なあ?」
「兄貴! すまねえ!」

 声をかけた瞬間、レウスは思い切り蚊を叩き潰すかのように合掌し謝ってきた。ふむ、土下座しなかっただけマシか。

「どうしたレウス?」
「俺もすぐ行きたいんだけど、あいつらが誘ってきたから断りきれなかったんだ」

 レウスを呼ぶ声に視線を向ければ、数人の獣人が木剣を片手に手を振っていた。レウスの謝罪と状況から見るに彼は模擬戦に誘われたようだ。良い傾向じゃないか。

「俺以外じゃなくて他の人達との交流も大切だからな。気にせず行って来い」
「わかったよ兄貴。全員秒殺してすぐ向かうから!」
「いや、そんなに急がなくてものんびりやってこい。あと、手加減忘れるなよ」
「わかったぜ!」

 本当にわかっているのかね? 待っている獣人達と合流し、楽しそうに談笑しながらレウスは教室を出て行く。エミリアも急ぎ足で続き、俺が一人になると帰ろうとするマークに声をかけられた。二人の従者が居ないようだが、俺と一緒ですな。

「シリウス君も帰るのかい?」
「マーク様? ええ、その通りですよ」
「はは、貴族とはいえここでは平等な筈だろう? 先ほどは言い損ねたが、普通に話してくれると嬉しい」
「わかった。ところでマーク様、あの従者達はどうしたんだ?」
「様もいらぬよ。緊急の用事があるらしく先に帰ったのだ。何とも怪しかったが、後で問い詰めておこうと思う」
「何と言うか、大変なんだなマークも。失礼かもしれないが、どうしてあんな連中を従者にしているんだ?」

 絶対たる従者だとか言っていたが、台詞と行動がちぐはぐ過ぎる。偉そうなだけでとても従者に見えないあいつらを、何故引き連れているのだろうか?

「彼等は我がホルティア家に連なる貴族だが、階級はかなり下なので長男に次ぐ跡継ぎである私に取り入ろうとしたのだろう。親から言われて渋々私の従者をやっているのさ」
「おいおい、聞いた俺が言うのもなんだが、そんな身内話を平民である俺にしていいのかよ?」
「構わぬよ。あのような品性の無い者に慈悲など与えぬ。目をつけられたようだが、何かあったらすぐに報告してくれ。然るべき処置を下す」
「わかった、そうさせてもらうよ。それじゃあ、また明日な」
「ああ、また明日」

 彼とは良い友人になれそうだ。手を振って見送り、俺も立ち上がって住処であるダイア荘に向かって歩き出した。



 ダイア荘まで少し距離がある。
 一気に走り抜けてもいいんだが、二人は遅れるようだし、急ぐ理由もないのでのんびりと歩いていた。
 最近一人になる事が多いが、あいつらにとっては良い傾向なんだ。少し寂しさを覚えつつも歩いて学生寮を抜けた直後、俺は違和感を覚えて立ち止まっていた。

「そこで止まれ、無能」

 道から外れた一本の木から二人の男が現れて立ち塞がった。どこのどいつかと思えば、マークの従者である二人じゃないか?

「何か用? 俺今から帰るんだけど?」
「ちょっと用があってな。向こうに人通りが少ない場所があるんだが、ついて来い!」

 わお……凄く偉そうな上に命令口調だ。
 何々? 人通り少ない所に引っ張ってカツアゲですか? 俺ジャンプしてもお金の音なんかしませんよ?

「面倒だなぁ……」
「黙れ無能が! さっさと来るんだ!」

 早くも怒り気味なので、とりあえず大人しく二人の後に続いた。
 そこは木々に囲まれた場所だが、数人が動けるくらいの空間があった。道から逸れてそれほど距離はないが、覗こうと思わなければ人は訪れない場所だろう。

「それで、ここまで来て何なのさ?」
「お前のせいで俺達はマークの野郎に怒られたんだよ! 従者だとか貴族のあり方とか長々と語りやがって!」
「俺達は貴族なんだ! いくら上とはいえ、同じ年齢のあいつに頭を下げるなんて嫌なんだよ!」

 それを俺に言われても困る。こいつら妙に芝居臭いとは思っていたが、優れた従者を演じていただけなのか。内心はマークへの反発で埋め尽くされているわけね。

「そういうのは本人に言え。俺は関係ないだろ」
「大有りだ。お前からあの獣人をマークの所に行くように命令しろ!」
「あいつが獣人に興味を持つのは珍しいからな。無能だが、機嫌取りくらい出来るだろ?」

 てっきり腹いせで殴りたいだけかと思いきや、そういう訳か。だけど、お前らの命令なんか聞く耳すらもたんよ。

「お断りだ。彼女が選んだ道を俺の都合で曲げたくないね」
「はん、無理矢理でも聞いてもらうぜ」

 背後の木から二人増員された。ふむ、見た目からして目の前の二人と同じレベルの貴族か従っている平民だろうか? それなりに鍛えている体つきで、手には木剣を握っており、多人数で囲んでいるというのに全く罪悪感を感じず笑う姿からこいつらと同類ってのはわかる。

「どうだ? 今すぐ謝って、あの亜人をマークの野郎へ連れて行くと約束すれば殴るだけで済ませるぜ?」
「ふーん……」

 あの子を亜人と……そう呼んだなお前?

「さあどうする……って、何をやってんだ?」
「見てわからんか? 準備運動だ」

 そもそも無理矢理脅迫するなら、話してないでまず殴るなりして行動不能にしろと思う。準備運動をぼんやりと眺めている時点で、彼等は戦闘経験が皆無と判断できる。

「おい、まさかやりあう気じゃねえだろうな?」
「たった一人でやるってのか? いや、流石は無能だな。考える事が違うねぇ」

 貴族を敵に回すと後になって色々問題になるから関わりたくなかったが、こいつらはすでにマークも見限っているっぽいし、倒しても大した問題になるまい。

「そんじゃま、遠慮なくやらせていただきますか」

 低俗な笑いを浮かべる男達を眺めつつ、俺は静かに拳を握った。


この話の没タイトル
『入学早々のマッハパンチ』
何となく浮かんだので意味は自分ですらわかっていません。
+注意+
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