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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

一章 誕生

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なぜなに魔法

 前世の俺は両親を知らなかった。

 物心ついた頃には施設に居て、その施設も犯罪テロによって壊された。

 一人生き残った俺は彷徨い、とある女性に拾われる。

 人が訪れない秘境とも言える山奥に住む変人で、異常に強い人だった。

 俺が六十年も生き延びれたのはこの女性、師匠に鍛えられたお陰だろう。

 言い方を変えれば、師匠が亡くなるまで生き地獄を味わい続けたとも言う。

 未だに顔すら見ない両親であるが、昔も今も両親についてはそこまで悲観していない。

 何だかんだで精神は六十過ぎのおっさんだし、ここにはエリナさんやノエルとディーもいるから別に寂しくない。

 とにかく、衣食住が揃っている今は少しでも早く体を鍛えるだけである。





 半年が経過した。

 今日も今日とてメイドさんの目を盗んでは、日課である運動を行う。
 運動とは言うが腕と足を振り上げたりする体操に近い。赤ん坊の体で無茶すれば、致命的な故障をするのは確実だしな。こう見えてちゃんと計画を持って行っている。
 考案者は師匠だ。

『お前を物心付く前に拾ってればなぁ。そうしたら私を超える戦士になってただろうなぁ』
『戦士になる前に、師匠に殺されるよね絶対』
『そこはほら、生かさず殺す。ちゃんと加減を考えてやるさ』
『だからそれ死んでるだろ!』

 『生誕から地獄トレーニング』と、センスの無い名前まで付けたプランを嬉々として語ってくれた。まさかそれを俺がやる事になるとは。内容は過酷かつ酷いものだが、理には適っていたので俺なりのアレンジを加えて仕上げていく。非常に辛いが、一日過ぎる度に成長していくのを実感出来るのは嬉しい。

 先日にはハイハイ出来るのをアピールしてあげた。
 ノエルがそれを目撃した瞬間、耳と尻尾を立ててエリナさんへ全力ダッシュ。全員の前で新たに披露してやると飛び跳ねんばかりに喜んでくれた。普段は酒を飲まないエリナさんだが、夕食では上機嫌に酔っ払っていたらしい。親バカレベルも日々上昇し続けているようです。





 生まれてから一年。

 俺の体は順調に成長中だ。日々の運動も今では腕立てや腹筋等の筋トレに変わっている。そろそろジョギングでスタミナも鍛えたいところだ。歩行のお披露目も近い。

「はいはーい、シリウス様。今日もご覧くださいねー」

 だが、ノエルのお調子っぷりは変わらない。
 火を使うのは危ないとエリナさんに止められたのに、何が楽しいのか魔法を見せにくるのだ。俺もいずれ魔法を使いたいから、見せてくれるのは助かるんだけどね。

「我は請う。火の理を読み解き、火神の使者を具現させたまえ。『フレイム!』」

 目を閉じ、魔法を放つ為に必要な言葉を終えると出現する火の玉。何度見ても不思議だ。原理だとか、何を燃料に燃えているとかさ。

「ふふー、これでお姉ちゃんの威厳も安泰ですね。これ以外うまく出来ないけど」

 ちょっとお嬢さん、色々漏れてますよ。ただお姉さんぶりたいだけかい。精神がおっさんからすれば一生懸命背伸びする子供みたいで可愛いものだ。
 その後、結局エリナさんに見つかって怒られたのは蛇足か。


 次の日、起床後に筋トレを済ませて魔法に挑戦してみた。教本でもあればいいのだが、そもそも本自体が周辺に全く見当たらないのだ。紙が貴重なのかどうかは後でわかるとして、魔法の情報はノエルが見せてくれた火の玉のみ。とりあえず同じ工程をなぞってみたが……何も起こらない。足りないのは集中力か、はたまた別の要素か。
 それからしばらく試行錯誤したが結局何も起こらなかった。仕方ない、会話が出来るようになってから聞くとしますか。才能がありません、何て言われたら嫌だな。


 昼食後、居間には全員が集まっていた。
 食後のまったりとした空気の中、エリナさんとノエルは編み物を。ディーはお茶の準備をしていた。絨毯の上に座って三人を眺めている俺は例の作戦を実行した。

「エリナさん、シリウス様がこちらを見てますよ?」
「そうね。編み物に興味があるのかしら」
「えりー」
「っ!?」

 エリナさんの手から編み物が落ちた。

「……シリウス様。もう一度。もう一度お願いします」
「えりなー」
「ああ……ああ……」

 感極まって泣き出した!

「シリウス様! 私も、私もお願いします! ノエル! ノ・エ・ル!」

 顔近いわ。
 ボケてディーと言ったら面白そうだが、本気で凹みそうなので呼んであげるか。

「のえるー」
「きゃー! シリウス様、次はお姉ちゃんでお願いしますー!」

 どさくさに紛れて何を言い出すんだこの娘は。というわけでスルー。
 振り返ればディーも近くまで来ていて、俺は? と言わんばかりに自分を指していた。

「でぃー」
「……はい」

 相変わらず表情に変化がないが、余韻に浸っているように目を閉じていた。だが俺のターンはまだ終っていない。足に力を込めて立ち上がる。涙を拭っているエリナさんへ向かい、俺はゆっくりと一歩を踏み出した。

「し、シリウス様!? もしやそれは」
「歩いていますよ! シリウス様歩いてます!」

 いきなりスタスタ歩いたら不気味だし、たまによろける演技を入れつつ前進する。たった五歩分だが、手を広げて待つエリナさんの元まで無事に辿り着くと速攻で二人に挟まれた。

「素晴らしい出来でしたよシリウス様。エリナは誇らしいです!」
「天才ですよ! この御方は間違いなく天才ですね!」

 狂喜乱舞する二人に揉みくちゃにされてちょっと痛い。止めてくれそうなディーもご馳走だなと、晩飯の支度に消えていた。ちょっとやり過ぎたかもしれん。

 この日、ワインをがぶ飲みするエリナさんを(赤ん坊らしく)止めるのに苦労した。



 次の日には更に歩行距離を伸ばしてやった。この人達なら異常な成長を親バカ補正でスルーしそうな気がしたからだ。ジョギング開始は一ヶ月後じゃなくて半月でも問題なさそう。
 問題は魔法である。こっちは前世で一切なかったものだからどう着手したらいいかさっぱりわからん。片言だが言語を解禁したので、ノエルから何とか聞き出してやろう。

「今日は別の魔法を見せてあげますよ。えーと、確か……これなら危なくないよね」

 今日もやってきたノエルだが、その手には一冊の本が握られていた。ナイスだノエル。俺はそれを待っていたんだ。隠れて見てるつもりだろうがバレバレだから、早くその本を俺に見せなさい。
 本を指差し、見せろとばかりに全力アピール。

「え、これに興味あるの? うーん、ちょっと待っててくださいね」

 おそらくエリナさんの許可を取りに行ったのだろう。以前なら許可なんか気にせず見せてくれただろうが、少しは成長したって事かな?
 彼女の成長にちょっと感動してる間に、許可を得てノエルは帰ってきた。
 一緒に読むのだろう、柔らかい膝の上に乗せられ待ち望んだ『初級魔法教本』と教えてくれた本が遂に開かれた。そして目の前で開かれた本を見たが……文字が読めない事に今更気付いてしまった。
 仕方ないのでノエルの音読を待つ。

「えーと、魔法は原初の理である。未だに解明されてない現象であるが、全ての者に恵みをもたらす万能たる存在……ですって。さっぱりわかりませんね」

 満面の笑みで応えましたよ、この小娘は。
 文字すら理解出来てない俺が言うのもなんだけど、一応その魔法使っているんだから理解する努力はしろよ。理解出来なくとも、ノエルは続きを読み聞かせてくれた。著者の文法は非常に回りくどく、文字も読めないので理解するのに苦労した。
 俺なりにわかった事を纏めてみようと思う。


 魔法は、世界中に満ち溢れる魔力を使って起こす現象だ。
 魔力は目に見えないが、どこにでも存在し、俺達人間も魔力を宿し生きている。その体内にある魔力を消費し、ノエルのように火の玉を発動させるのが一般的な魔法。

 魔法陣を描き、自身の魔力を流して発動させる事も出来るそうだ。これは夜間の明かりや、料理の火を起こす魔道具と呼ばれる物に使われている。描くのは非常に繊細で、魔法陣を通して発動させるせいか威力が弱い。一度描けば磨耗しない限り繰り返し使用できるので、日常生活品に落ち着いている。

 他にも、精霊の力を借りて発動させる『精霊魔法』もあるとか。
 精霊……中二病が好きそうな言葉だ。ただ、精霊に好かれるのが最大の問題であり、使い手は極稀らしい。精霊は見えず触れることさえ出来ぬ存在だから、精霊からのアプローチを待つしかないのだ。好かれる条件は未だに解明されていない。

 謎が多い精霊は置いといて、魔法の発動には詠唱が必要だ。口を動かし詠唱をする事によって、体内の魔力が集まり魔法が発動。特定のキーワードがあれば発動するらしく、例としてノエルが使った『フレイム』を挙げてみる。
 『火という概念を知り、自身が火を生み出すように願う』……というのが伝わるキーワードがあれば発動するのだ。研究者は少しでも詠唱を短縮する為に日夜研究してるとか。『フレイム』は初歩の火属性魔法で、ノエルが唱えた詠唱もこの本に載っていたそのままだ。

 魔法を使えば魔力が減り、それだけ疲労を感じる。全身を襲う脱力感から始まり、最終的には気絶し、下手すれば命も落とすらしい。
 そんな体内の魔力量だが、生まれの時点で差が大きく出るらしく、伸ばそうにも成長率は非常に低いらしい。成長は魔力を限界まで使って回復させるを繰り返すだけなのだが、魔力の回復は非常に遅いのだ。教本に載った例では一年かけてようやく一回分増えた程度とか。
 使えば使うほど増えるってのは筋トレと一緒なのだが、効率の悪さから片手間でやっていく方がいいかもしれない。

 というか、自身の魔力が少なかったら外部に頼ればいいのでは?
 魔力は大気中に漂っているんだから、それを使えば楽に強くて大量に使える筈だろうに。そう思っていると、教本には無意味と書かれていた。
 自身の魔力と漂う魔力は質が違うせいらしい。
 例えるなら人間が使うのが黒色の魔力としたら、大気中の魔力は白色の魔力だ。白から黒に変換させるのに魔力を使うので、大量に集めてもその分マイナスされるので大した威力にならない。そりゃ無意味と書かれるわ。

 自身の魔力量と同様に重要なのが『属性』だ。
 これも生まれた時に決められるらしく、属性は一生変わらない。ノエルは『フレイム』を使ったから、当然適性は火である。
 火の属性は火の魔法に優れ、水の属性は水の魔法に優れると、属性がわかれば魔法の方針も自ずと決まるわけだ。
 一応、他の属性も使えないわけじゃないが威力は格段に落ちるとか。


 属性の部分を読み終えたところでノエルは本を閉じた。
 夢中で聞いていたせいか、結構な時間が過ぎている。

「ふぅー、今日はこの辺でやめておきましょうね。私も朗読疲れましたし」
「お疲れ様。お茶を入れておきましたから一息つきなさいな」
「わ! エリナさん、何時の間に」

 振り返れば、柔らかい笑みを浮かべたエリナさんが紅茶を淹れていた。

「ついさっきね。それより喉が渇いたでしょう? シリウス様は私が預かるわ」
「ありがとうございます」

 抱き抱えられてエリナさんの膝へ移動させられる。
 若いノエルの膝も気持ちいいけど、エリナさんはやはり別格だ。すごい安心感がある。エリナさんは俺の頭を優しく撫でながら本を手に取った。

「とても勉強熱心でしたね。シリウス様ならすぐに魔法を使ってしまいそう」
「あはは、それは無いですよ。私だって初級ですごく苦労したんですし、そもそも文字だって読めないんですよ?」
「そうね。だけど、シリウス様ならって思っちゃうのよね」
「うーん、完全に否定できない私がいる。それでも数年は先ですよ」

 そうして二人は笑いながらお茶を飲んでいた。
 ふむ、俺なら……か。期待されているなら期待に応えねばなるまい。まずは文字を読めるようになるところから始めないとな。

「属性かぁ。ところで、シリウス様の属性って何でしょう?」

 それは俺も思った。
 属性の拘りは特にないが、火とか水だったら便利そうだと思う。

「調べてみましょうか。私の部屋に判定道具があるわ」
「あれですね。ちょっと取ってきます」

 ノエルが持ってきた属性判定道具は、小さな風呂敷の中央に丸い水晶が置かれた、見た目は簡単な作りをした物だった。しかし風呂敷には複雑な紋様が描かれ、これが本に書かれていた魔法陣なのだろう。
 基本属性である『火』『水』『風』『土』の四属性を描いた魔法陣であり、そこに手を置くと水晶が触れた人の属性色に輝く仕組みらしい。

「えーと、魔力を流して起動……と。準備完了ですよ」
「ではシリウス様。こちらに手を置いてくださいね」
「あい」

 ちょっとワクワクしつつ、俺は手を置いた。
 変化は一瞬で、水晶は眩い光を放ち俺はとっさに目を閉じた。至近距離で見つめていたものだから、遅れていたらやばかった。思わず手を離してしまったせいで目を開けた頃には光は消えていた。何色かわかる前に消えてしまったな。

「エリナ様、今のは」
「ええ、強い光。だけど……」

 あれ? 何か二人の表情と言葉が硬いぞ。止める様子がないのでもう一度やってみるか。
 今度は反対の手で目を庇いながら、水晶の色を確認する。
 そして水晶が放つ光の色は。

「やっぱり、無色……ですね」
「そんな……」

 あれ? どうして二人はそんなに悲しそうな表情をするの?
 結構強い光だったと思うんだけど、これ駄目なパターンすか? 本気で才能無いとか、そんなオチですか?
 少し困惑してる俺をエリナさんは今にも泣きそうな顔で優しく抱きしめてくれた。

「神は……残酷です。シリウス様。私が……私が必ずお守りいたします」
「私もですー」

 何故に俺は哀れみの目を向けられているのか。頼むから説明してくれよ。思いは届くはずもなく、二人はいつも以上に俺を構いだすのだった。

 しかし『無色』……か。
 嫌な予感がしますな。
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