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ワールド・ティーチャー -異世界式教育エージェント- 作者:ネコ光一

二十章 経験

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育てる大変さと楽しさ



 カレンが放った魔法は確かに『マグナム』だったが、俺の掌を貫通出来なかった点から大分威力は劣っているようだ。
 例えるなら、俺のは現代における遠距離用のライフルで、カレンのは砲身に火薬と丸い弾丸を直接詰めて放つ火縄銃みたいなところといったところか?
 そんなわけで射程距離は短いが、近距離ならば魔力で強化した肉体を抉る程の威力を持っているので、急所を狙えば人を容易く仕留められるだろう。
 魔物相手なら別だが、人にはなるべく使わせたくはないと思うので、俺は膝を突いてカレンと目線を合わせてから質問をしていた。

「カレン。お前はこの魔法をいつ覚えたんだ?」
「えっと……うぅ……」

 しかし己の魔法で怪我を負わせた事がショックだったのか、カレンは涙目で怯えるだけで答えてくれなかった。
 まずはその罪悪感を何とかするべきか。

「これは俺が自ら飛び込んで負った傷だ。カレンのせいじゃないから気にするな」
「でも、カレンの魔法で……」
「心配はいりません。こうして止血しておけばもう平気ですし、後でリースが治療してくれますから」

 再生活性によって止血は出来ているが、痛みは消えたわけじゃない。
 それでも安心させるように笑いかけてやれば、エミリアも俺に合わせながら傷口に布を巻いてくれた。

「それにカレンは友達を守ろうと必死だったんだろう?」
「だって、イルアちゃんは私の友達……だから」
「そうだ。あの時逃げる事も出来たのに、お前は友達の為に残って戦ったんだ。それは誇るべき行為と思うぞ」

 褒めながらカレンの頭を優しく撫でてやれば少しだけ表情が柔らかくなったので、改めて質問をするとしよう。
 不完全とはいえ、カレンが『マグナム』を使えると判明したのなら色々と言い聞かせなければならないからだ。

 『マグナム』は魔物相手には心強い魔法だろうが、遠距離から狙撃が出来ると周囲に知られてしまえば、危険視されたり、手の内に加えようと企む連中から狙われる可能性が高い。
 それゆえに人を殺める本当の意味と、自衛が出来るようになるまでは教えるつもりはなかったのだが、カレンは自ら辿り着いてしまったのだ。
 無理矢理止めさせるのもカレンの素質を殺してしまう気もするし、放っておいて変な癖が付いても困る。
 なので覚悟を決めた俺は本格的に『マグナム』を教える事を決めたわけだが、カレンがどのようにして、そしていつから使えるようになったのか気になるわけだ。

「改めて聞くが、カレンはいつからこの魔法を使えるようになったんだ?」
「さっきのが初めてだよ? お父さんがメジア様と戦っていた時に使っていた魔法を真似してみたの」
「真似って……あの時は遠く離れていただろう?」
「うん、よく見えなかった。でもお父さんが使ってた魔法は『インパクト』とは何か違う気がしたの。それで戦いが終わった後の地面に小さい穴が沢山あったから、お父さんは小さくした魔力を放っているのかなって……」

 まさか僅かな違和感と、戦闘の跡だけで辿り着くとはな。
 鋭い観察力と柔軟な思考、そしてそれを実戦でしっかりと発揮出来る才能は見事としか言いようがない。本当に驚かされる子だ。

 本来ならその才能を褒めてやりたいところであるが、そのせいで『マグナム』を安易に使用するようになっても困る。これは俺の我儘だが、カレンには人を撃ち殺しても平然と出来る大人になってほしくない。
 それにカレンには指摘するべき点が沢山あったので、俺は少しだけ真剣な表情をカレンに向けていた。

「一つ気になったんだが、カレンはどうしてその魔法を使おうと思ったんだ? あの男たちが相手なら、いつもの『インパクト』で十分だった筈だろう?」
「だ、だって、あのおじちゃんたちはイルアちゃんに酷い事をしたし、フィアお姉ちゃんにも酷い事をしようとしてたから!」
「大切な人の為に怒るのは構わないが、よく考えてみなさい。もし魔法がイルアに当たっていたら……どうする? お前も見た筈だ、あの魔法の威力を」

 あの時のカレンは怒っていたので、純粋な威力を求めて相手を倒す事だけしか頭になかったのだろう。
 幼い子が感情で動くのは仕方がない事だが、一歩間違えていれば友達を撃つという、生涯残りかねない心の傷を負っていたのかもしれない。
 しかし『インパクト』ならば、今のカレンでも接近される前に何発かは放つ事が出来ただろうし、万が一イルアに当たっても危険度はかなり減った筈だ。
 だからこそ俺は、この件を有耶無耶にする事なくはっきりと告げる。

「いいかい。カレンにはあの魔法の怖さを知ってもらいたいんだ」

 『マグナム』という自衛だけでなく人殺しに特化した魔法を知ってしまった以上、それを持つ意味と重さ……そして恐怖をしっかりと理解してほしい。
 前世とは違う異世界であろうと、人を殺めさせる事はなるべく避けたいのである。

「魔法を使うなとは言わない。だが当たり所が悪ければ相手に大怪我を負わせる魔法だから、よく考えて使うんだぞ」
「……うん」
「後はー……」
「兄貴ーっ!」

 最後に大事な事を告げようとしたところで、俺とホクトの放った殺気に気付いたのか、レウスを先頭にリースとフィアがやってきた。
 真っ先に俺の傷に気付いたリースの視線が突き刺さる中で状況を説明すれば、皆は何とも言えない表情をしていた。

「兄貴なら飛んでくる矢でも掴めるのに……それ以上の魔法だったのか?」
「咄嗟だったからな。だがこうでもしなければ、止められそうにない威力だった」
「もう、無茶し過ぎだよ。すぐに治療するから動かないでね」
「なら私はこの子を親の所へ連れて行くわ。事情を説明しないとね」
「じゃあ俺がイルアを運ぶよ」
「カ、カレンも行く!」
「あ、待ちなさいカレン。まだ俺の話は終わってー……」

 呼び止めたものの、カレンは立ち止まらずにフィアとレウスと一緒に行ってしまった。
 イルアを心配しての行動だろうが、まだ俺の小言が続くと思って逃げたとも言えるかもしれない。
 まだ伝えていない事があるのだが……。

「……後にするか。やはり年頃の子は難しいな」
「難しさなら、シリウスさんも負けていないと思うよ」
「申し訳ありませんが、私もリースと同じ意見です。どうしようもない状況だったのはわかりますが、シリウス様は皆の事になると自分を蔑ろにし過ぎですから」
「オン!」
「……すまん」

 エミリアとフィアだけでなくホクトからもジト目を向けられ、俺は素直に謝るのだった。





 ――― シェミフィアー ―――





「……そのような事が。とにかくこの子が無事でよかったです」
「私たちのせいでこの子を巻き込んでしまったの。本当にごめんなさい」
「いえ、どこにでもそういう方はいますし、貴方のように目立ってしまう方なら仕方がない事かと。こちらこそ、娘を助けてくれてありがとうございます」

 シリウスたちと別れた私たちは宿へと戻り、イルアの父親に事情を説明しながら、案内された部屋のベッドにイルアを寝かせていた。
 悪いのは絡んできた冒険者たちだけど、そもそも私たちがいなければこんな事にはならなかったし、最悪宿から追い出される可能性も考えていた。
 それでも彼は私たちを許し、娘を救ってくれた事で感謝までしてくれた。こういう人こそ良い仲でいたいものね。
 けれど、今回一番頑張ったのは……。

「お礼ならこの子に……カレンへ言ってあげてほしいわ。イルアちゃんを助けようと、大人が相手でも一歩も引かなかったもの」
「そうですね。娘を助けてくれてありがとう、カレンちゃん」
「……うん」

 薬で眠らされただけらしいから、後は彼に任せておけば大丈夫でしょう。
 そして部屋を出た私たちがシリウスの下へ戻ろうとしたところで、カレンが私の裾を掴んで引き止めようとしている事に気づいた。

「どうしたの、カレン?」
「また……怒られる」
「何だ? 兄貴に怒られるのが嫌だから戻りたくないのか?」
「…………」
「図星のようね」

 でもあれは怒っているというか、大切な事だから強く言い聞かせているだけなのよね。
 確かにシリウスは真剣な表情をしていたけど、本当はカレンの才能を褒めてあげたくて仕方がない感情が所々見られ、私からすれば可愛いと思ったくらいだし。
 それなのにカレンが怒られていると感じているのは、シリウスを傷つけた罪悪感に加え、カレン自身が怒られた経験が少ないからだと思う。有翼人の集落で過ごしたあの半月で、カレンが家族から怒られている光景を見た事がないもの。
 だから戻りたくない気持ちはわからなくもないけど、シリウスはまだ伝えたい事が残っているようだし、どうやって説得するか悩んでいると、笑みを浮かべたレウスがカレンの頭をポンポンと優しく叩いていた。

「大丈夫だって。兄貴は怒ってなんかねえよ」
「でも、お父さんのあんな顔……初めて見た」
「いやいや、兄貴が怒っていたらあんなもんじゃないぞ? 昔さ、俺が兄貴を怒らせたら……」
「……怒らせたら?」
「あれはー……いや、とにかく凄かったんだ。俺が本気で泣くくらいに」

 シリウスとは幼い頃から一緒だったから、中々重みがある言葉ね。
 過去を思い出して体を震わせていたレウスだけど、すぐに正気を取り戻して再びカレンへ視線を向けていた。

「と、とにかく兄貴は本気で怒ってるわけじゃないから安心しろって事さ。だから平気だって」
「でも……」

 そうは言っても、まだ躊躇しちゃうようね。
 実際シリウスは怒っているわけじゃないから、もう一度話をすれば怒られているんじゃないって理解出来ると思う。
 何とかシリウスの本音が聞ければー……ああ、あれがあったわね。

「カレン、ちょっとだけ静かにしていてね」
「え? うん」

 不思議そうに首を傾げていたカレンが頷いていたの確認してから、私が風の精霊にある事を頼めば……。

『……ふう、こんな感じでどうかな?』
『良い感じだ。痛みも消えたし、動かすのに支障はない』

 精霊が風を操り、離れた場所にいるシリウスたちの会話を私たちに届けてくれた。
 声を拡散させて周囲に響かせる『コール』を応用した魔法で、シリウスの案を元に作った私オリジナルの魔法だ。この魔法を初めて見たシリウスは、まるでシューオンマイクみたいだな……とか呟いていたわね。
 とにかく突然聞こえてきた声にカレンは戸惑いを見せていたけど、私は口元に人差し指を添えながら片目を閉じていた。

「フィアお姉ちゃん、これ……」
「よく聞いておきなさい。カレンが怖がる必要はないって事がすぐにわかるから」

 これが魔法だと気付いたカレンは、頷いてシリウスの言葉を聞き逃さないように目を閉じていた。
 魔法を使っているのが知られたら文句を言われそうだけど、精霊ならシリウスでも集中しないと感知し辛いからばれないと思う。それにばれたところで怒るような旦那さんじゃないから、その時はその時で……と、考えてもいる。

『シリウス様。僅かとはいえ、どうして傷痕を残す治療を? リースなら綺麗に治せる筈ですが……』
『これでいいんだよ。経験させる為とはいえ、カレンを危険な目に遭わせてしまった報いと戒めだ。それに……弟子の成長を見誤るだけじゃなく、それを完全に受け止められなかった自分が悪い傷でもあるからな』
『そんな事を言って、顔がにやけているよ?』
『む? いかんな……油断するとつい顔が緩んでしまう。カレンが戻ってくるまでに気を引き締めておかないと』
『ふふ、でもお気持ちはわかります。カレンの将来が楽しみで仕方がないのですよね?』
『ああ。僅かな情報であそこまで『マグナム』を再現出来たカレンなら、教えれば使いこなすどころか新しい魔法さえも作ってしまうかもしれない。本当に将来が楽しみな子だよ』

 声だけしか聞こえないけど、シリウスたちが楽しそうにしているのがよくわかる。
 先程とは明らかに違う雰囲気にカレンは呆然と立ち尽くしていたので、私はカレンの手を包み込むように握ってあげた。

「どう? 戻る気になったかしら?」
「……うん」
「じゃあ行こうか。先に言っておくけど、今の話を聞いていたのは……」
「内緒……だね」
「そういう事。もちろんレウスも何も聞かなかったということで」
「おう!」

 気分が楽になったのか、ようやく笑顔を浮かべたカレンと一緒に歩き出したところで、シリウスたちの声が再び私たちの耳に届いた。

『戻ってきたら、『マグナム』の仕組みから教えてやらないと。まずは手本を見せてから、弾丸を鋭く回転させる事だな」
『シリウス様。また口元が……』
『ねえ、もしカレンが魔法を怖がって覚えたくないって言ったらどうするの?』
『カレンが自ら選んだ事ならそれを尊重するだけの話だ。実際『マグナム』は危険な魔法だし、他にも覚えるべき魔法は沢山あるからな。だがあれだけ好奇心が旺盛で、友を大切に出来る優しい子だ。きっと魔法の怖さに負けないー……』

 ……不味ったわね。もう魔力は断っていたのに、気まぐれなあの子たちが余分な言葉まで拾ってきちゃったわ。
 本人の自主性に任せるとは口にしたけど、今の言葉はカレンが答えを出してから聞かせるべき内容だったもの。先に聞いた事によってカレン自身の意思が流されなければいいけど。
 何かあればシリウスに謝ろうと考えていると、予想通りカレンは不安気な表情で私を見上げてきた。

「カレンは……お父さんの魔法を覚えた方がいいのかな?」
「シリウスも言っていたように、それはカレンが決める事よ。でもどっちを選んだとしても私たちは貴方の傍にいるから、好きな方を選びなさい」
「じゃあ……覚えてみたい。でも上手く使えなかったら、今度こそお父さんに怒られる……よね?」

 皆の為なら平然と手を汚すシリウスだけど、弟子にはそうなってほしくないと願っている甘さを持つ人だから、不用意に魔法を使えば間違いなく怒るでしょうね。そして表面上は怒っていても、心の中で深く悲しむと思う。
 ここは慎重に答えなければと悩む私に、先ほどから黙っていたレウスが突然口を開いた

「怒られるなら、使わなければいいだろ?」
「え!?」
「そう……ね。教えてもらったからって、使わないと駄目なわけじゃないし」
「あとさ、上手く使う方法なんて兄貴と一緒にいれば自然と覚えていくぜ? 俺もそんな感じだったし」
「そうなんだ!?」

 そんな自信満々に答えるレウスの言葉にカレンは目を輝かせ始めていた。
 時折だけど、この子って唐突に核心を突いてくるから、エミリアが不思議がるのも納得だわ。
 知識を得るだけ……たったそれだけで心が随分と軽くなったのか、カレンは早く戻ろうと訴えるように、ローブに隠された翼をパタパタと動かしていた。
 実際はそんなに簡単な事でもないんだけど、これから徐々に慣れていけばいいわよね。

「よしカレン、兄貴の所まで競争だ!」
「あ、待って!」

 私にとってカレンは妹のような存在だけど、心のどこかでは娘のように思っている部分がある。
 だからこうやって一緒に悩んだり、教えたりする事で子供を育てているみたいなものだけど……。

「中々難しいものね。でもまあ、それが楽しいというか……」

 少しだけシリウスの気持ちがわかるなと思いながら、私は走り出した二人の後を追いかけた。




 そしてシリウスの下へ戻ったカレンは……。

「お父さん! カレンに『マグナム』って魔法を教えてほしい!」

 確かに盗み聞きをしていた事は話していないけど、それはもう話しているようなものでしょうが!

「……ああ」

 ほら、すぐに察したシリウスが私を見て苦笑しているじゃない。
 怒ってはいないし、仕方がなさそうに笑ってくれているから良いけど……シリウスの視線がちょっとだけ痛かった。


 おまけ NGシーン


「よしカレン、兄貴の所まで競争だ!」
「あ、待って!」

 そう言いながら駆け出した両者だが、当然ながら大人であるレウスの方が遥かに速い。
 基本的に全力なレウスは手加減もせず走り、あっという間に置いて行かれてしまったカレンは……。

「『インパクト』」
「うおわっ!?」

 背中からの衝撃によってレウスは縦に回転しながら転がり続け、近くの壁にぶつかって止まった。
 後にそれを知ったシリウスたちだが……。

「……まあ、レウス相手ならいいか」
「そうですね」
「全力で相手をするのはいいけど、子供相手には加減しないと駄目だよ」
「ホクトさんのパンチに比べれば軽いもんだぜ!」

 傍からすれば相当な惨事に見えるが、屈強である彼等は大して気にしていないようだった。






 短く済ませようと考えていたのですが、忘れているネタを思い出したり、色々手を加えている内に結構な量と時間がかかってしまいました。申し訳ない。
 前回の話を挙げた時は、今回の半分程度の文字量と考えていたのに……最近は予想と現実が全く噛み合わなかったり。これが老いか。



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